K:ream|矛盾、理不尽、葛藤……本物の「ロック」を求め続ける2人

内川祐(Vo, Piano)と鶴田龍之介(G, Vo)の2人組ロックバンドとして名古屋で結成されたK:ream。2019年秋の配信シングル曲「See The Light」がラジオオンエアをきっかけに話題を呼び、彼らは結成からおよそ2年でZepp Nagoyaでのワンマンライブを実現させた。その後ユニバーサルシグマからメジャーデビューし、今年2月には4曲入り作品「asymmetry」をリリース。さらにShin SakiuraやKan Sanoによるリミックス版も発表するなど、K:reamは2021年に入ってから怒涛の勢いを見せている。音楽ナタリーではそんな彼らにインタビューを行い、2人の出会いやバックグラウンド、K:reamが目指す音楽性について聞いた。

取材・文 / 天野史彬 撮影 / 斎藤大嗣

彼となら、ロックスターのいるバンドができる

──そもそもK:ream結成前、鶴田さんはバンド、内川さんはシンガーソングライターと、別々で音楽活動を行っていたんですよね?

K:ream

鶴田龍之介(G, Vo) そうですね。内川とはその頃から面識はあったし、仲もよかったんです。僕は前のバンドではボーカルを担当していたんですけど、インスト音楽に歌を乗せているだけっていう感じがして、しっくりこなくなってしまって。「自分がやっていることはニセモノだ」と思うようになってしまった。それで前のバンドが終了したタイミングで、内川と一緒にロックバンドをやろうと。僕はずっとロックスターに憧れていて、死ぬほど大きい音で声を届ける人がロックスターだと思っているんですけど、内川には「声自体に不思議な魅力があるな」と感じていたんです。「彼とならロックスターのいるバンドができるんじゃないか」という直感がありました。

──それによって、本物の表現ができると。

鶴田 今K:reamでやっていることは、僕と内川の中から出てくるものを、どれだけそのまま美しく表現できるか……ということなので、僕にとってはまがいものではないですね。

──鶴田さんが内川さんに感じる“自分にない力”とは、どんなものですか?

鶴田 「僕ではないこと」、それ自体じゃないですかね。信念を持って、人生を懸けて音楽を作るパートナーとして共通する部分があるのは前提として、「自分ではない人間であること」がすごく刺激になるし、それを非常に面白く思っているんです。その面白さを何倍にも大きくして、音楽として形にしたいという欲求も生まれるし、自分自身も面白くあり続けたいと思う。K:reamは、僕と内川で闘いながらやっている感じなんですよ。

──鶴田さんから内川さんを誘った、という形だったんですか?

鶴田 そう……だったかなあ? 僕から誘ったような気もするけど、「バンドに入れてくれ」って内川に懇願されたような気もする。

内川祐(Vo, Piano) 鶴田さんは「内川から告白してよ」っていう空気を完全に作り上げていたんですよ。なので、「一緒にやろう」と言ったのは僕です。中華料理屋で鶴田さんが僕に言わせたんです。

──(笑)。内川さんとしては、鶴田さんと一緒に活動していくことに対してどんな気持ちがあったんですか?

内川 僕は自分の面倒を見てくれる人が欲しかったんです。僕1人じゃ歌うことしかできないから。そういう相談を鶴田さんにしたら、「内川をしかるべき方向に舵取りしてくれる人がいてくれたらいいのにな」と言ってくれて、その3日後くらいに彼はバンドを解散したんです。僕としては「仲間を集めるなら、自分くらいカッコいい人がいいな」と思っていたし、鶴田さんはそれをクリアしていた数少ない人だったので「じゃあ、一緒にやろうや」と話しました。

ロック出身の鶴田、歌謡曲出身の内川が生み出す化学反応

──内川さんはシンガーソングライター時代、どのような音楽を演奏していたんですか?

内川 今とは全然違って、歌謡曲をやっていました。歌詞もパーソナルで限定的なものが多かったですね。幼稚な言葉しか出てこないこともあったし。でも、それをめちゃくちゃ一生懸命歌っているような感じで。

鶴田 不思議でしたね。当時の内川の歌は確かに幼稚というか「なんてことを歌っているんだ」と思うこともありましたけど(笑)、そう感じさせてくれるのは人の心を動かしている証拠だし、僕自身、内川の歌を聴くとわけがわからないままに感動したし。当時から「ええっ、何これ?」と興味を惹かせる不思議な力を持っていました。ただ、K:reamを結成したとき、内川はロックバンドというものをまったくといっていいほど知らなかったんですよ。なので、まずはOasisを聴かせるところから始めました。今では内川が持っている歌謡曲的な部分も、いい意味でK:reamの武器になっていますけどね。曲作りのとき、僕が洋楽的なアプローチで作っていると、内川は突然あさっての方向から歌謡曲的なメロディを持ってきたりする。そういう面白みが今のK:reamにはあると思います。

──もっとさかのぼると、お二人はなぜ音楽の道に進まれたのでしょうか?

鶴田龍之介(G, Vo)

鶴田 僕は3歳の頃から12、3年間バイオリンとピアノを習っていました。家族みんなが音楽をやっていた環境だったので「自分は音楽の道に進む人生なんだ」と、幼少期からおのずと感じていたのかもしれないです。その後中学生の頃にThe Beatlesをはじめとしたロックンロールに出会ったんです。家に古いレコードがあったので聴き始めたんですけど、それをきっかけにクラシックは辞めちゃって。代わりにギターを弾き始めて、とにかく夢中になりました。

──ロックに出会ったときの感覚は覚えていますか?

鶴田 なんだったんですかね……? 覚えているのは、とにかく猛烈な好奇心を掻き立てられたっていうこと。今でもあの日の感覚はかすかに残っているんですよ。The Beatlesの「Abbey Road」のレコードを聴いて、押し入れにあった親父のフォークギターを引っ張り出して……あのときなぜThe Beatlesを聴こうとしたのか、そのきっかけは思い出せないんですけど、猛烈なエネルギーが沸いてきたことは覚えています。

──内川さんが音楽の道に進んだきっかけは?

内川 鶴田さんのあとに自分のことを話すのは恥ずかしいんですけど、僕は変声期の前から歌うことが大好きで、家族とカラオケに行って、いきものがかりさんの曲とかをキンキンな声で歌っていて。でも、あるとき声変わりで歌えなくなったんです。そのときに「すべてが終わった」という感覚になって。別に歌手を目指していたわけではないんですけど、好きだった歌が取り上げられたような感覚で、絶望してしまった。それから中学生になって、周りでEXILEが流行り始めると、同級生とカラオケに行ってまた歌いまくるようになったんですけど、「俺、確実に歌がうまいなあ」ってわかったんです(笑)。

──(笑)。

内川 周りの人間とは確実に何かが違う(笑)。声が低くなっても歌えることにも気付いたし、そのときから歌うことを意識し始めましたね。あと、それまでは歌はカッコつけて歌うものだと思っていたんですけど、コブクロさんのライブDVDを観たとき、お二人がすごく楽しそうに歌っていたのが衝撃的で。それから「絶対に自分も歌をやろう」と決めて、駅前で弾き語りをするためにギターを練習して、中学を卒業する頃にはオリジナル曲も作っていました。

僕らは「自分である」ことにこだわり続ける

──今の内川さんにとっては、「歌」とはどういうものですか?

内川祐(Vo, Piano)

内川 その質問に答えるのはすごく難しいんですよね……。「近くにあるもの」というレベルではないんですよ。もはや「自分の内側にあるもの」というか。単純に「歌うの楽しい!」とも違うし。「顔も見たくないわ」っていう日もあるけど、それでも顔を合わせなくちゃいけない、目を開けたらすぐそこにある……今の僕にとって「歌」はそういうものなんですね。めちゃくちゃ歌いたい日もあれば、自分の声を聴くだけでしんどいときもあるし、自分の歌を「いいなあ」と思えるときもある。朝目覚めるたびに歌に対する感じ方は違うし、下手したら1分1秒で変化してしまう。「鶏が先か、卵が先か」みたいな話と同じで、だんだんわからなくなってくる。「歌ってなんだろう?」となっちゃいます。

──答えが出ないんですね。

内川 でも、1つ確かなのは、「歌」は僕自身なんだということですね。なのでめちゃくちゃ振り回されますよ。

──例えば「Clown -道化-」には「流行曲は実に無力だ あなたは影で泣いてる」という歌詞がありますけど、この曲ににじむのは、音楽という存在に対する疑いだと思うんです。僕はこの曲を聴いて「疑うくらい、音楽に対して本気なんだ」と感じたんですよ。疑いは、対象の奥底までのぞき込もうとしているからこそ生まれるものでもあると思うので。

内川 本当にそうですね。疑うことは素敵なことだと思う。僕は自分のことはめちゃくちゃ信じているし、根拠はなくても必ず成功すると感じているんですよ。だけど、そこに対して疑いの矢を投げ続けているのも自分自身なんです。「本当に大丈夫なのか?」と自問自答し続けている。でも「絶対に大丈夫」という実態のない矛盾が自分のなかにずっとあって、それが音楽だけでなく生きること、今の日本に対して向いたりすることもある。常に両方が存在することが多いんですよね。

──表も裏も見える。

内川 結局、ウソも真実もないような気がするんです。もし「Clown -道化-」で歌っていることと真逆の考えが頭に浮かんだら、それを歌ったっていいと思う。そのくらいわがままでいいし、例え矛盾していたとしても、自分が思ったことがすべてだから、それでいい。その理不尽さが自分にとってはロックなのかもしれない。だから今、自分がやっていることは天職だと思えるんです。

鶴田 僕らは自分たちに正直でありたいし、ロックバンドでありたいんです。それを2人とも強く追求している。「ロックってなんだろう?」という疑問の答えをつかみたいし、それを体現していきたい。そのためには自分というものを、ただただ表現していくべきで。僕は「その人」じゃないものには価値を見出せないんですよ。その人だからこそ生まれるものに何より価値があるし、魅せられてきたんです。なので「自分である」ということにすごくこだわるんですよね。「まがいもの」じゃないものを、美しく表現していく。今の自分たちはそこに美意識を感じているからこそ、「Clown -道化-」のような歌詞が生まれたんだと思います。