K:ream|矛盾、理不尽、葛藤……本物の「ロック」を求め続ける2人

目標は世界から、あえて日本へ

──4曲入りの作品「asymmetry」の全体像に関しては、事前に考えていたコンセプトなどはありましたか?

K:ream

鶴田 「asymmetry」はコンセプトから作った作品ではなくて、今までレコーディングしてきた曲の中から選んで収録したんです。「asymmetry」、つまり「非対称」というタイトルはさっきお話しした、いびつさから生まれる芸術を絶やしたくないなと思って名付けました。あとはK:reamのことを表す言葉でもありますね。価値観が違う僕と内川が全力でぶつかり合いながら、K:reamにしか作れない、へんてこなものを産み出そうとしている。「asymmetry」は本当にごちゃ混ぜな、聴きづらい作品だと思うんです。でも、それが紛れもない自分たちなんです。

内川 いびつで気持ち悪くて、耳なじみがいいわけではないんだけど、なぜか細胞が覚えて、グッとくるような……まったく新しいものに出会ったのにそんな感じがしない、みたいなバランスを目指して作りました。

──昨年4月に発表した「samsara」から大きく変化しましたよね。前作はいかにお二人の脳内世界を顕在化するか、ということに向き合っているような印象で、サウンドはコラージュ的であったり、トラックメイク的な要素も入っていたと思うんですけど、「asymmetry」は肉弾戦というか(笑)。

鶴田 わかります(笑)。トラックメイク的な印象を抱いていただいたというのは、単純に、地元に僕らと同じ熱量を持った人がいなかったから、2人で追求していくしかなかった……だからだと思います。

内川 仲間がいなかったんだよね(笑)。ルール無用で「俺たちの好きなものを作る」というところにエネルギーを注ぎ尽くしたのが「samsara」でした。まったくノービジョンだったけど、2人きりで制作を続けていくうちにすごいミラクルが起きて、その現象をとにかく凝縮したかったんです。「See The Light」なんて、サビはウーウー言っているだけの曲だけど、すごく僕好みな1曲です。

──それに対して「asymmetry」は「どう世界とぶつかっていくか?」ということに向かった作品という印象がありました。サポートプレイヤーとしてドラマー福田洋子さん、ベーシスト佐藤征史さん、キーボーディスト高野勲さんが参加されていますね。

鶴田 素晴らしいプレイヤーの方々をレーベルの方に紹介していただいて、新しい発見ばかりでした。大変な部分もあったけど、今回のレコーディングで成長できたと思うし、元から自分たちが持っていた、いい部分にも気付くことができたし。

内川 「samsara」のときはやみくもに「世界で売れたい」と思っていたけど、「asymmetry」はもっと明確な意志を持って作った感じがします。しっかりと「日本一を獲りにいこう。そのうえで、自分がカッコいいと思えるものを作ろう」という姿勢になって。そこは大きな変化だったかもしれない。だからこそ、言葉は大事な武器になると思ったし、より自分に向き合う時間も増えて、歌詞を大事にするようになりました。

矛盾に対して素直であり続けることが一番の武器

──「See The Light」のような歌詞のあり方を1つの理想形とした場合、言葉数をどんどん少なくして、もはや叫びに近くなっていくことの美しさも、きっと内川さんの中には理想としてあるのかもしれないですよね。

内川 はい。

──それでも、ちゃんと言葉にすることで伝わることもある。そこには葛藤もあるんじゃないかと思うんですけど、内川さんにとって歌詞を書くことの難しさは、どういったところにありますか?

K:ream

内川 歌詞を書くことは爽快感があるわけではないし、完成した直後はその歌詞がいいか悪いかもわからず、「とにかくできたわ」ってハフハフしていることが多いし……めちゃくちゃ大変なんです。自分にとって作詞は、自傷行為に近い感覚なんですよ。自分の心の中をどんどん掘っていく。それは本当に限りがないんだけど、どれだけ掘っていけるかをずっと試している。それに掘った先できれいな石を見つけても、それを持って外に出てくるのもまたひと苦労で。ただ、そのきれいな石を持って外に出てきたとき、「みんなもきれいと思ってくれるんじゃないか?」という気持ちになれるんです。

──それは、共感のようなものなんですかね?

内川 うーん……共感ではないですね。わかりやすく言うと、「みんなも何かを間違えたら、こう思ってしまうのかな?」みたいな感覚ですかね。歌詞を書いていると、たまに「俺って故障しているのかな?」と思うんですよ。でも、誰しもが僕と同じように故障してしまう可能性がある。そこに対する不穏さや不安を感じることはみんなもあるだろうなと思うんです。特に今はコロナ禍で病んじゃう人も増えているし、だからこそ、こういうことを書き留めておくことに価値があるというか。別に自分の歌詞で誰かを救いたいわけではないし、「こんな曲が響いちゃったらおしまいだぜ」と思う部分もあるんです。だって、壊れちゃっているから。ただ、その一方で「でもね……」って思ってしまう部分もある。完成させることに精一杯なので、書いている最中はこんなこと考えないですけどね。

──「生きたい」と「死にたい」がぐるぐると巡っている感じや、ピュアなものを求めながら、そのピュアさに殺されそうにもなる感じがあって、内川さんの書く歌詞は本当にリアルだなと思います。鶴田さんから見て、内川さんの歌詞はどうですか?

鶴田 「なんだ、この人?」と思いますよね(笑)。

──(笑)。

鶴田 でも、そんなふうに感じさせてくれるのは素晴らしいと思います。共感できるときもあれば、いまだに意味がわからないときもあるんですけど、僕が共感できないからといってその歌詞が不出来ということではなくて。基本的には「なんだ、この人?」と興味を沸かせる要素があれば、僕としてはいい歌詞だなと。

内川 僕より歌がうまい人なんて腐るほどいるし、いい詞を書く作詞家もたくさんいるんですけど、「じゃあ、僕に何が残るんだろう?」と考えたら、結局は自分であることしかないんですよね。みっともなかろうが、カッコ悪かろうが、ちゃんと自分であることを証明できたらカッコいいし。自分を殺したいくらい憎いときと、最高にカッコいいと思うときを繰り返している、その矛盾に対して素直に、ありのままでい続けること。それが歌詞にも出ているし、僕の一番の武器なんだと思います。

「ガワ」はなんでもいい。ロックなものがロックだ

──「asymmetry」から「Blue」が先行配信されたのは、何かきっかけがあったんですか?

内川 僕は「Blue」が大好きなんですよ。「asymmetry」に収められている4曲の中で一番素直な曲だと思うんです。それに「Blue」よりいい歌詞は今後書けないんじゃないかと思うくらい、手応えがあったんですよね。もう別の人が書いたみたいで。「君の目に浮かぶ 永遠を生きていたい」の部分をずっと歌っていたい(笑)。

──この歌詞が生まれたシチュエーションはどんなものだったんですか?

内川 まさに「その目が見る景色の中にずっといたい」と思うぐらい、ある人の目がすごく印象的で、その感覚を歌詞にしただけなんです。めちゃくちゃ変な体験だったんですけど、それゆえに特別な曲ですね。あと、僕は「青」という言葉をよく歌詞に使うんですけど、楽曲に「Blue」というタイトルを付けることができたのは象徴的なことで。「Blue」は自分のすべてが詰まった曲と言えるかもしれないです。

──Shin Sakiuraさんによる「See The Light」、Kan Sanoさんによる「Clown -道化-」のリミックス版もリリースされていますけど、こうしたクラブミュージック的なアプローチに柔軟であることもK:reamの強みですよね。

鶴田 リミックスは可能なら全曲、何通りでもやっていただきたいくらいですね(笑)。ドラム、ベース、ひずんだギター、そのどれかが欠けたらロックバンドではない、という発想は自分たちにはないんですよ。リミックスは「そういう形式的な要素だけがロックじゃないよ」ということを、聴いている人たちに理解させるのにうってつけのものだなと思います。K:reamにとって「ガワ」はなんでもいいんです。今の僕らには音楽性、ジャンルに対してのこだわりはないんですよ。「ロックなものがロックだ」というだけで。

内川 特に海外では、ロックバンドでもクラブミュージックやヒップホップの要素を取り入れている人たちは多いじゃないですか。そういうサウンドが世界のロックのスタンダードになって、僕らも「これが王道か!」と思っているので。だからリミックス版を制作してもらうことを含め、王道をやっている感覚なんですよね。

──そして4月に配信リリースされる新作「hologram」の収録曲「re:birth」も聴かせていただいたんですけど、「asymmetry」の世界観とはまったく違う、開けた曲ですよね。

内川 「re:birth」の歌詞はめちゃくちゃ早く完成しました。スタジオで全然寝ないで作業して、めちゃくちゃハイテンションになったときにサッと書いたんです。そのあと、気分が落ち込んだときに読み返したら「なんだ、これ?」みたいな(笑)。

──ははは(笑)。

K:ream

内川 それでも自分の本音として出てきたものだったので、いいんですけどね。「とにかく幸せなんだ!」ということを歌ってます。

鶴田 僕も一緒にスタジオにいたんですけど、一度家に帰って眠って、戻ってきたらこの曲ができていたんですよ。頭おかしいよ(笑)。

内川 何に対して幸せだったのかも曖昧なんだけど、「俺はめっちゃ幸せだ!」っていう感覚にとり憑かれたんです。疲れすぎてハイになっていたんでしょうね。

──(笑)。この「re:birth」がこの先、K:reamにとってどんな立ち位置の曲になるのか楽しみです。さっき聞きそびれたので最後に伺いたいんですけど、なぜ内川さんは「青」に惹かれるんですかね?

内川 「青」が象徴するものって、すごくいいんですよ。海も好きだし、空も好きだし、「青春時代」という言葉にも「青」という字が入っているし……。この世の物事は全部青色で表現できるんじゃないかと思うくらい、広く解釈できる色なんです。だから「青」が好きですね。