出演交渉成立!
山寺 「ラフィングライブ」でのお客さんの笑い、すごくなかった?
高垣 「あ、これクセになっちゃうかも」と思いました。「ドッ!」という、笑いが起こる瞬間が最高に心地よくて。
山寺 2人に初めて出てもらった「Run for Your Wife」の会場って、今はなきZeppブルーシアター六本木だったじゃない。大きすぎてコメディに合わないんじゃないか、声が回っちゃうんじゃないかという懸念もあった中、思いきってそこでやったんだけど、俺は最初、音響さんが笑い声のSEを流しているのかと思ったもんね。そう勘違いするぐらい、大会場で笑い声がうねっていたから。
寿 あんなに笑いを浴びられて、幸せでした。
高垣 「こんな笑い声に包まれることってある!?」っていう。
山寺 もちろんそれは「Run for Your Wife」を書いたレイ・クーニーという作家の力でもあるんだけど、間違いなくみんながんばって稽古したからでもある。でもね、スフィアのコンサートのお客さんの歓声はそんなもんじゃなかったです。すごかった。
高垣 よくライブにも来てくださっていますよね。お忙しい中、ありがとうございます。
山寺 彩陽が投げたサインボールをなぜか俺がキャッチしちゃったこともあったよね。キャッチした瞬間「おおー!」ってブチ上がったけど、ファンの方に差し上げました。
高垣 優しい(笑)。
山寺 音楽の活動もあんなにがんばっているんだもんね。俺も音楽であんな歓声を聞いてみたい(笑)。
高垣 山寺さんと大塚明夫さんが共演されたライブ(2025年3月に開催された「山寺宏一presents VOICE BE AMBITIOUS LIVE Vol.5 ~待たせたな!ついに明夫さん来ちゃうよ!~」)、めちゃくちゃ素敵でしたよ! 私は音大時代に声楽の先生から“演唱”という言葉を教わりまして。要は「演じて歌いなさい」と。例えばオペラはお芝居をしながら歌唱する表現であって、自分の演じる役の喜びや苦悩、いろんな感情を歌で伝えなきゃいけない。お二人はまさに演唱をなさっていて、感激しました。
山寺 好きな歌を歌っているだけだよ? いや、バンドは素晴らしいんだよ。ギタリストの佐橋佳幸さんをはじめ、ほぼ山下達郎さんのバンドだから。ちなみに明夫さんは、あとで配信された映像を観て「音を外してて恥ずかしい。もう二度と歌いたくない」と言ってたのに、自分のイベントでまたすぐ歌ってたけどね。まあ、うまいヘタじゃないのかもしれない。楽しんだもん勝ちなので。もしよかったら2人にもぜひ出てほしいんだけど……。
寿・高垣 ぜひぜひ! お願いします!
山寺 マジで? ライブハウスだよ? お酒を飲みながら観てもらうのが好きだから、そういう箱でやっているんだけど。
高垣 目黒のBLUES ALLEY JAPANですよね。実は昔、美菜子と一緒に行った思い出の場所なんです。
寿 そう。だから私も一緒に行きたかったんです。
山寺 老舗でね、マイルス・デイヴィスがこけら落としをやった、本当に素晴らしいライブハウスなの。それなのに、なぜか今は俺の等身大の看板が入り口に置いてあるっていう。
高垣 あれ、ずっとあるんですか?
山寺 俺が置いていったら、それ以来ずっとある。「老舗なのに大丈夫ですか?」と言っているのに。でも、ありがたい。
高垣 私、その山寺さんの看板と一緒に写真撮りましたよ(笑)。
山寺 じゃあ、出演交渉成立ということで! レーベルに話を通さず勝手に進めちゃってるけど。
高垣 そしたら「Beyond Days」も歌わせてください!
寿 3人バージョンにしましょう!
私たちって、ファイターだよね
山寺 その「Beyond Days」の歌詞を、さっきもちょっと言っていたけど、2人で書いたんでしょ?
高垣 2人で歌詞を書くことは最初から決めていて、曲がフルで来る前に「どういう方向性にしようか?」という話はしていたんです。でも曲が来た瞬間、美菜子が譜面を見ながら「ここは私、ここは彩陽ね」と作詞の振り分けを決めて、いつまでにどこまで仕上げるかというスケジュールも立ててくれたんですよ。
寿 マネージャーみたい(笑)。
高垣 その日の夜、「私はこのあたりを書くのかー」とかぼんやり思いながら床に就いて、夜中にふと目覚めてスマホを見たら、美菜子から「イントロとサビ、書いてみたよ」と連絡が来ていて。もう、曲がフルで来たその日のうちにイントロとサビができあがっていたという。
山寺 さすがブッキー、仕事早いね。
高垣 そこからブラッシュアップもしていったんですけど、サビと、イントロの「届け 光を この夜の向こう 君へと」はほぼ美菜子が最初に書いたまま。だからありがたいことに、私が作詞に手をつける前に「ここから始まって、ここへ向かえばいいんだ」という筋道ができていました。
山寺 揉めなかった?
寿 全然揉めるとかはなく、お互いに何パターンか出して「どっちがいいと思う?」みたいな意見交換を繰り返していった感じです。一応、ワンコーラスできあがるたびにディレクターの菅原拓さんに投げてチェックしてもらって、1カ月ぐらいかけて完成させたのかな?
高垣 やっぱりお互いに言葉のハメ方も全然違っていて。私は基本、1音に1語なんですけど、美菜子はリズム感がいいから、1音に2語、3語と乗せられるんですよ。
寿 そっちのほうが歌いやすかったり、「これ、歌えちゃうかも」と思ってハメてみたり、そういうところは彩陽と違うかも。スフィアとしては15年以上一緒に活動していても、2人で歌詞を書くのは初めてだったのですごく新鮮でした。
高垣 言葉のチョイスも違うからね。
寿 「このワード、彩陽っぽいなあ」とか、そういう発見もあった。
山寺 サビは2人一緒に歌っているけど、Aメロ、Bメロはそれぞれ交互に歌っているじゃない。自分1人で歌っているパートが、自分で歌詞を書いたパートということ?
高垣 そうなんです。基本的には。
山寺 今の話を踏まえて、帰ってから聴き直してみる。ラップパートの「痛むほど Reflect 高まってくRespect 離れても We connect」も、おしゃれに韻を踏んでいるなと思って。
寿 そこは、彩陽が書いてくれたんですよ。
高垣 でも、3行目の「離れても We connect」は美菜子が考えてくれました。
寿 そこだけ私が「こういうのはどう?」と案を出させてもらって。だから合作になるんですけど、最初にいい感じの韻を踏んでくれたのは彩陽なんです。もともとラップパートを入れたいという要望は、打ち合わせのときに作曲家の藤田淳平(Elements Garden)さんに彩陽が提案してくれていたんです。「美菜子はラップもできるから」と。でも、いざ歌うとなったとき、どういうテンションで臨めばいいのかすごく悩みまして。私たちは当初、もうちょっとカッコよく歌うつもりで……。
高垣 (ものすごいダミ声で)痛むほど Reflect!
山寺 それおかしいでしょ(笑)。
寿 低音を効かせて、カッコよくね(笑)。でも、藤田さんと拓さんのイメージははしゃぐようにシャウトする感じだったので、思っていたよりかわいくなりました。
山寺 いや、十分カッコよかったよ。ちゃんと気持ちが乗った結果、ああいうノリになったんだと俺には聞こえた。
高垣 ありがとうございます。15周年コラボシングルの制作が決まって、最初に2人でどういう曲にしたいか話し合ったとき、美菜子が「私たちって、ファイターだよね」と言ってくれたんです。先ほどお話しした「ラフィングライブ」も含めて、私たちはずっとあがいて挑戦し、戦い続けているって。それが「Beyond Days」のテーマになっているので、「15周年ありがとう!」と感謝を伝える曲というよりは「これからも戦い続ける!」と覚悟を決めた、決意表明の曲になりました。
寿 きっと、この曲はライブでお客さんと一緒に盛り上がれる。11月30日にツーマンライブ(「LAWSON presents 寿美菜子×高垣彩陽 15th Anniversary Live 2025 “With”」)があるので、もしご都合が合えば山寺さんもぜひ。
山寺 あ、もうすぐじゃん。行きたい行きたい。
高垣 ぜひいらしてください! これは美菜子のアイデアなんですが、私たちにとって初めてのツーマンライブということもあり、とあることに挑んでみようと今準備しています。
寿 「With」というタイトルを冠したライブなので、おそらくは2人で一緒に。「まだまだ行くよ!」という覚悟をライブでもお見せしたいです。
高垣 いやー……本当に、今日の「声優口演」を拝見して、私も「まだまだ行かなきゃ!」って……。
寿 ふりだしに戻りましたね(笑)。
ピンチヒッターが務まる役者になりたい
山寺 俺はさ、「やれ」と言われたことをやっている……と言ったら聞こえが悪いけど、「声優口演」も20年前に羽佐間さんに声をかけてもらって、そういう場を与えられただけに過ぎないんだよね。「ラフィングライブ」も主催の1人ではあるけれども、そもそもは水島裕さんと野坂実さんの2人から「一緒にやりませんか?」と誘ってもらって、3人でやることになったの。もちろん、与えられた役割は全力で果たそうとしているんだよ。でも、能動的に何かをやることはあまりないから、2人の自分から挑んでいく、戦っていく姿勢は素晴らしいし、俺も「まだまだ行かなきゃ!」と思った。
高垣 活躍の場を与えてもらえるというのは、信頼されている証でもあるじゃないですか。私が初めてステージで山寺さんとご一緒したのは2014年、藤沢文翁さんの音楽朗読劇、SUPER SOUND THEATRE(「Valkyrie ~Story from RHINE GOLD~(ワルキューレ~ラインの黄金)」)で。出演予定だった井上和彦さんが、公演前日に体調を崩されて……。
山寺 そうか、あのときか。俺が和彦さんのピンチヒッターを仰せつかって。
高垣 あのとき文翁さんが「ここは山寺さんしかいない」と即オファーして、なんとかスケジュールを整えて、山寺さんは本番当日のリハだけで、ステージに出られたという。そこでほぼ初対面の山寺さんに「吹き替えとかに向いていそうな芝居と声だね」と言っていただいて。
山寺 それが彩陽との最初の出会いだったか。
高垣 そのあとしばらくして、文翁さんから「山寺さんから高垣さんに舞台のお話があるそうだから、つないでいいですか?」と連絡がきて、そこで「ラフィングライブ」のオファーをいただいたんです。
寿 ええー!? そんな背景があったんだ?
山寺 そうでしたそうでした。
高垣 覚えていてくださっていたこともすごくありがたかったですし、そのとき「私もピンチヒッターが務まる役者になりたい」と思ったんです。そのためには絶対的な信頼が必要で、その信頼は積み重ねていくしかない。あのときの文翁さんも、きっと羽佐間さんも、山寺さんの積み重ねを見ていらっしゃったんだと思います。
山寺 たまたま俺は藤沢文翁作品に、最初期からたくさん出させてもらっていたから。代役としても、和彦さんは俺より先輩だから、若手よりも、ある程度歳が近い人のほうがいいという判断もあったんじゃないかな。でもピンチヒッターって、なんかいいのよ。だって、ダメでもともとみたいなところがあるじゃん?
寿・高垣 (笑)。
山寺 半分は冗談だけどね。何がご縁になるかわからないし、そうやって声をかけてもらえるのは本当にうれしいです。
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俺、みんなに喜んでほしいんだよ



