ナタリー PowerPush - 小南泰葉

初めて人に捧げた「12月12日」秘話

戸高さんに「やっと出番ですよー(笑)」

──「12月12日」以外の曲もいいですね。1曲目を飾る「視聴覚教室」はイントロから心を奪われました。

この曲はART-SCHOOLの戸高さんにアレンジをしていただいたんです。戸高さんとは初めてバンド編成でワンマンライブをしたときに、サポートをしてもらったのをきっかけに出会って。この曲を聴いたときに、NIRVANAやFOO FIGHTERSのようなグランジテイストのアレンジをしたいって言ってくれたんですよ。それが1年前だったので、今回のレコーディングでやっとお願いできた感じだったんですよね。戸高さんに「やっと出番ですよー(笑)」ってこの曲のアレンジをお願いしたんです。

──資料の解説には「希少な恋の歌」と書いてありますが、小南さん、恋の歌は結構歌ってると思うんですが……。

小南泰葉

あ、そんなこと書いてあります?(笑) 確かに誰かを思って歌った曲は多くありますね。ただ月9のようなストレートな恋の歌を書かないだけで(笑)。私が書くのは愛の裏に憎があって、ナイフをいつも隠し持っているようなタイプの曲。そして裏切られた瞬間に、シャキーンとナイフを出すという……。だからこういった素直なラブソングは珍しいですね。

──あはは(笑)。わかるような気がします。1曲目のグランジサウンドから一転して2曲目の「お蜜会 / 小南泰葉“秘蜜の花薗”蜜」はアコースティックサウンドで。この曲はレーベルメイトの蜜とコラボしています。

私、今みたいに本格的に音楽活動を始める前から蜜が大好きで! 大阪のライブハウスで(木村)ウニちゃんがステージではっちゃけているのを観て、「こんな人たちがいるんだ!」って感動したんですよ。それからずっと蜜の背中を追い続けていて。そうこうしているうちに対バンするようになり、仲良くなったんですよね。

──この曲はどういうふうに作ったんですか?

私が、蜜が歌ったら楽しいだろうなと思って勝手に書き下ろしたんですよ。できあがったときに、ウニちゃんに「蜜にピッタリな曲を書いたんだけど」と伝えたら「聴く!」ってなって。あれよあれよという間に一緒に歌うことになったんです。

──蜜の普段のかわいらしい雰囲気とは違ってテーマが不倫という……。

そうです(笑)。でもね、蜜はいい意味で結構ダークなんですよ。だからウニのハスキーな声がぴったりハマって。想像していた以上の声を出してくれたんですよね。あとは歌詞の中に「猫の仮面」というフレーズが出てくるので、来年のツアーで「猫の仮面」を物販で売ろうと思ってるんです。

──それは楽しそうですね。

でしょ? このミニアルバムは「表裏一体」「相対するもの」をテーマにしてて、ツアーもいろいろひっくり返していこうと思っているんです。チケットをもぎるんじゃなくて半券をくっつけたり、アンコールから始めたり、内容も面白おかしくしようと思っているんです。小南ってドロドロしたイメージがあると思うんですけど、馬鹿なところもあるんだよというのを感じてもらいたいんです。

喉にマンドラゴラを飼ってる

──3曲目の「『善悪の彼岸』」は、小南泰葉の王道とも言えるナンバーですね。

はい。自分の音楽が誰かにとっての薬であり、毒であり、人を傷付けながらも、誰かを救うものであってほしいという気持ちはずっとあって。誰かの犠牲があって、人の幸せが成り立ってるところってあると思うんです。あと善悪って状況によって変わるものだし。エジソンは電気を発明して世界から崇められているけど、その発明が電気椅子を作る手助けになってしまっていたり。そんな状況によって異なる「善悪の価値観」をこの曲では歌ってます。

──この曲はサウンドがすごくロックですが、ベースを黒夢の人時さんが弾いてるんですね。

小南泰葉

もう、私が一番ビックリしました! 人時さんにベースをお願いするって聞いたときは本当に驚きました。

──黒夢のファンなんですか?

もう大好きですよ! 全く公言はしてなかったんですけど(笑)。レコーディング中もプレイに見とれてしまいました。話していく中で、お互い共通の知り合いがいて、同じように大変な目に遭ったことが発覚して。同じ敵を見つけたときのように共鳴してましたね。

──世間は狭いですからね(笑)。4曲目の「絶望に棲むキダルト達へ」はいつ頃作られた曲なんですか?

この曲は1年前にレコーディングしたんですよね。そのせいかこの曲だけすごく声がピュアなんです。

──今は違う?

はい。私、この1年、喉にマンドラゴラを飼っていて(笑)。マンドラゴラって根っこが人型の顔をしている植物なんですが、神話の中では土から引っこ抜くとすごい叫び声をあげて、その声を聴いた人は死んでしまうっていう植物なんですね。神話なので私は聴いたことはないんですが(笑)、そんな力のある声が出したいなと思ってて。この1年、ずっと研究していたんです。今はそのイメージに近付いたんだけど「絶望に棲むキダルト達へ」を録っていたときはまだ声が澄んでて。

──すごい例えですね(笑)。

あとこの曲はイントロにいろんな音を仕込んでいるんです。一緒に作ってたディレクターさんと決めた曲のテーマが「6畳間から宇宙へ」で(笑)。当時私が住んでいた6畳間の水道の音や生活音を録って曲に入れたんです。かなり細かいんで聴いてる人は全然気付かないと思うんですけど(笑)。でも私には1年前のリアルな音が聴こえてきて、いろいろ思い出してちょっと恥ずかしいんですよね。

ミニアルバム「121212」 / 2012年12月12日発売 / EMI Music Japan TOCT-22323
ミニアルバム「121212」
収録曲
  1. 視聴覚教室
  2. お蜜会 / 小南泰葉“秘蜜の花薗”蜜
  3. 「善悪の彼岸」
  4. 絶望に棲むキダルト達へ
  5. 12月12日
  • iTunesからダウンロード
  • EMI Music Japan Shop
LIVE TOUR2013 “コペルニクス的転回”

2013年2月10日(日)
大阪府 心斎橋JANUS
OPEN 17:30 / START 18:00

2013年2月12日(火)
愛知県 名古屋APOLLO THEATER
OPEN 18:30 / START 19:00

2013年2月16日(土)
東京都 新宿LOFT
OPEN 17:15 / START 18:00

小南泰葉(こみなみやすは)

プロフィール画像

関西出身の女性シンガーソングライター。10代から音楽活動を始めるも、20歳になったときに活動を中断。その後、約5年にわたり音楽から離れていたが、2008年より活動を再開する。2010年6月に1stミニアルバム「UNHAPPY BIRTHDAY」をリリースし、毒のある歌詞とポップなサウンドで注目を集める。2011年には「FUJI ROCK FESTIVAL'11」に初出演。2012年5月にミニアルバム「嘘憑キズム」でメジャーデビュー。同年6月に行った東阪名での初ワンマンツアーは、全公演完売と注目度の高さを伺わせる。9月に映画「アシュラ」の主題歌「Trash」をメジャー1stシングルとしてリリースし、12月には2012年2作目となるミニアルバム「121212」を発表した。