Welcome トゥ (K)NoW_NAME|立花綾香とNIKIIEが語るカオスの裏側

ボーカリスト、音楽クリエイター、イラストレーターといったさまざまなメンバーが集結し、アニメーション作品の主題歌、挿入歌、劇伴などを総合的に手がけるクリエイティブユニット、(K)NoW_NAME(ノウネイム)。彼らが林田球の人気マンガを原作にしたテレビアニメ「ドロヘドロ」の音楽プロデュースを担当した。

2018年に18年間に及ぶ原作の連載が終了した「ドロヘドロ」は、魔法によって顔をトカゲに変えられた記憶喪失の男・カイマンが、自身の本当の顔と記憶を取り戻すため、相棒のニカイドウと一緒に自分に魔法をかけた魔法使いを探す物語。(K)NoW_NAMEはアニメの音楽プロデュースを担当し、オープニングテーマ、エンディングテーマ、劇伴を手がけている。

今回は3人のボーカリストのうち、立花綾香とNIKIIEの2人に「ドロヘドロ」の作品自体に感じた魅力や、音楽の制作について話を聞いた。

取材・文 / 杉山仁 撮影 / 斎藤大嗣

隠さない魅力

──お二人は主題歌や挿入歌、劇伴までを担当することで作品に深く関わる活動をされていますが、「ドロヘドロ」にはどんな魅力を感じましたか?

左から立花綾香、NIKIIE。

立花綾香 表現は難しいんですが、原作を読ませていただいたときに、ほかに類のない作品と言いますか、「これだけはじけられるんだ!? こんなことまでしていいんだ!?」と新鮮な作品でした。懐かしさと同時に新しさも感じるような、不思議な作品で。今回のアニメ化でも原作の世界観が大切に表現されていて、ブレーキを踏まずに振りきっている印象でした。

──原作で印象的なスプラッター的な表現も、見事に再現されていますよね。

NIKIIE 善悪がはっきりしない、誰かを殺したからといってそれが悪だとも取られないカオスな世界観なので、「アニメではちょっと抑えて表現するのかな」と思っていたら、第1話から全然そんなことはなくて。私はグロい表現が苦手なのですが、読んでいくうちに世界観にどっぷりハマっていきました。アニメで初めて観る人には、最初のインパクトからどんどん入り込んでいってほしいなと思います。

──「ドロヘドロ」は暴力的な表現もたくさん出てくる作品ですが、だんだん登場人物や作品の世界観自体に愛着が湧いてくるような魅力のある作品ですよね。

NIKIIE それがとても不思議なんですよね。例えばゴキブリみたいなキャラクター(ジョンソン)でも……。

立花 だんだん可愛く思えてくるんですよね(笑)。主人公のカイマンにも不思議と愛着を感じます。その一方で、魔法使いと人間との格差社会が描かれていたりもしますし、退廃的な世界の中でも登場人物にはそれぞれの生活があって、上下関係もあって……作品を通して深いテーマが描かれていて。いろいろな立場の人にぜひ観てほしい作品だと思いました。

NIKIIE 実はちゃんと内面を描いているというか、そういうものを隠さない魅力がある作品でもありますよね。私はそういうことって、逆に大事でもあると思うので。スパっと人が死んでしまったり、生死については淡白に描かれている部分もありますけど、それがある意味爽快に描かれているからこそ、私みたいにグロい表現が苦手な人でも観られるし、そこから感じられるものがあると思うんです。

NIKIIE

──ちなみに、お二人が好きな登場人物といいますと?

NIKIIE 私は心(シン)が大好きですね。カッコいい! 立ち姿から好きなんですよ。

立花 しかもマスクを取ったときに「メガネをかけてる!」って。

NIKIIE そうそう! 肩幅も広くて「こんなにカッコいいんだ!」って。細谷佳正さんが担当された声もキュンとする声で、すごく好きになりました。

立花 物語が進むにつれて彼らの過去の話も出てきますけど、過去にどんなに酷いことがあっても、それがあって今の強い信念があるんだということが感じられて、そのブレないところがすごくうらやましいなと思います。私の場合は、心の相方の能井(ノイ)が好きです。あんなに強い女性ってそうそういないですし、同じ女性としてもすごく頼もしいです。ニカイドウもそうですけど、カッコいい女性ですよね。

NIKIIE 能井さんは最初はすごく男勝りな雰囲気で登場しますけど、そこから母性や優しさがあふれ出てくるような魅力を感じて……いいギャップを感じるキャラクターです。

立花 小林ゆうさんの声もボーイッシュで、すごく魅力的ですよね。2人とも主人公のカイマンを選んでいないですけど……(笑)。

NIKIIE あはは(笑)。

──カイマンにはどんな魅力を感じますか?

NIKIIE カイマンは常に童心を持っている人だなと思います。シンプルに自分の目的のために生きている姿が、子供のまま大きくなった人のような雰囲気で、大人になると忘れてしまいそうなことをちゃんと持っている人かなって。

立花 こういう人が身内にいたら救われるでしょうね。自分の記憶がないのに、あっけらかんと「まあいいか!」というふうにいられるのって、すごくうらやましいです。

カオスは作ろうと思って作れない

──(K)NoW_NAMEは今回、オープニングテーマとエンディングテーマ、劇伴を含む音楽プロデュースを担当されています。制作を始めた頃のことを思い出していただけますか?

立花 最初にオープニング曲「Welcome トゥ 混沌(カオス)」の歌詞を書かせていただいたときに、プロデューサーから「なるべく作品に使われている言葉を使ってほしい」「カオスな曲にしたい」というテーマをもらったんです。私の場合はカイマンの本当の自分を探していく姿や、仲間をテーマに書いていったんですけど、そうしたら「全然違う」と言われてしまって(笑)。

NIKIIE そうなんですよ(笑)。作品の内容を汲み取りすぎてしまったんですね。

立花綾香

立花 「登場人物たちの未来を見据えた、いい歌詞を書こう!」と思って臨んだら「求めているのはそれじゃない」と。そのときに言葉遊びを主体とした、「歌でもカオスが表現できるものにしてほしい」と言われました。そこから自分の概念を崩していく作業です。カオスって本来は作ろうと思ってできるものではないと思うので、それを作っていく作業が、まずは難しかったですね。

NIKIIE 私も最初は「歌はテーマがあって書かれるものだ」という先入観があって、何か伝えたいことを紐解いていった結果カオスになるものを考えていったら、「それは違う」という話になって。そこで改めて原作を読み直してみたら、読めば読むほど、例えば誰かを殺すシーンがあったとしても、それが凶暴なのかどうかもわからなくなる感覚になったんです。それが「悪でもないし、善でもない」という物差しがまったくない世界なので、そこがわからなくなってしまって。でも、そのときに「あっ、これがカオスか!」と気付いたんです。そこからもう一度、歌詞を書き直していきました。

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救世主・妹