次世代バンドKlang Rulerの司令塔yonkeyインタビュー|初のアナログリリースから見えてくる“今”の音楽とは (2/2)

この時代にしか出せない音がある

──収録曲の「タイミング ~Timing~」は、1996年から2002年まで日本テレビ系で放送されていたバラエティ番組「ウッチャンナンチャンのウリナリ!!」から生まれたブラックビスケッツの大ヒット曲です。Klang Rulerはこの曲を、名曲をカバーする企画「MIDNIGHT SESSION」でカバーして、昨年12月に配信リリースしました(参照:ブラックビスケッツ「タイミング」をKlang Rulerがカバー)。その音源は今年の2月、Local CampioneがTikTokに投稿したダンス動画の影響で、多くの方々に知れ渡ることになりましたね。

ある朝起きるとスマートフォンに数えきれない数の通知があって……最初は目の前の状況がまったく理解できず、とにかくびっくりしたというのが正直な感想です。もともとバズらせることを狙って作ったわけではありませんでしたが、数々の昔の楽曲がTikTok上でリバイバルヒットしている状況がありますよね。そんな中であのカバーを発表できたことも、僕らにとって大きかったのかなと思います。

yonkey(Vo)

yonkey(Vo)

──「タイミング ~Timing~」は1998年に発売された曲なので、97年生まれのyonkeyさんにとって“世代の音楽”ではないと思います。この曲をカバーした理由は?

僕は1980~90年代の楽曲が好きで、Apple MusicやSpotifyの年代別プレイリストをよく聴いているんです。この楽曲に関しては、曲そのものの魅力はもちろんですが、番組の企画で作られたという背景や、曲が誕生するまでのさまざまな人のつながりなど、そういったストーリー的な部分にも共感していて。それでカバーしてみたいと思うようになったんですね。

──なぜ80年代、90年代の楽曲がお好きなんですか?

80年代の楽曲は、上手なプレイヤーがビンテージの機材を使ってハイレベルな演奏を披露している印象があるんです。コード進行やキレのあるギターのカッティングも素晴らしいですし、「この時代にしか出せない音があるな」と思います。90年代については、その当時の音楽を聴くと、明るさや希望を感じさせるメロディの中に切なさや寂しさも垣間見える不思議なサウンドだなと感じています。「タイミング ~Timing~」も、原曲は華やかなサウンドに対して、コード進行やメロディは少し寂しげに聞こえる。そのあたりがとても印象に残っています。

──「タイミング ~Timing~」のカバーには、原曲の印象を大胆に変えるアレンジが施されています。

原曲はブラスやストリングスなどのサウンドが、煌びやかさを感じさせますよね。それに対して、僕らは少ない音色でアレンジしていこうと思いました。それと、“リズムの輪郭”が見えることも意識しました。海外の曲に比べて、日本の流行歌は中音域に音がまとまりすぎていて、低域があまり聞こえないと感じていたんです。

──もう一方の「ジェネリックラブ」は、今年4月に配信リリースされたメジャー2ndシングルです。

「1980年代のサウンドを取り入れたい」という思いから、当時流行したLinnDrumというドラムマシンを使ったりして、リズムのサウンドにはとにかくこだわりました。プリンスやマイケル・ジャクソンも使っていた名機のサウンドを取り入れたことで、1980年風というか、シンセウェイブっぽい雰囲気というか、そういうものをうまく引き出せたかなと思います。

──いずれの楽曲も、楽曲の世界観が反映されたMVも印象に残りました。

僕らはいつも、演奏以外の部分にもこだわりたいという思いがあるんです。だからミュージックビデオに関しても、さまざまな方々と打ち合わせを重ねながら世界観を決めていくようにしていて。中華料理屋さんを借りて撮影した「タイミング ~Timing~」のMVは、フィルムで撮影したようなアナログ風の画質で、温みのある表現を目指しました。SF映画を彷彿とさせるイントロが特徴の「ジェネリックラブ」のほうは、バーチャルリアリティの世界に行くというSFの要素を取り入れながら、楽曲とリンクする世界観を作り上げていきました。

──先ほど「タイミング ~Timing~」について、「バズを狙ったわけではなかった」とおっしゃっていましたが、結果的にバズを起こしてみて、何か発見などはありましたか?

TikTokだと、サビ前に数秒間の余裕を持たせたほうがいいのかなと思いました。楽曲の一部が動画の尺に合わせて切り抜かれるTikTokでは、録画ボタンを押してから実際に踊り始めるまで、少し時間が必要ですからね。あとは特徴的な歌詞。それと「タイミング ~Timing~」の場合は、サビの前にある“フッ”という音のような、振り付けにしやすい要素を取り入れるとか。でも、SNS内での短期的な流行を追い求めるよりは、1曲ごとにしっかりこだわって、長い間残り続けるような曲を作りたいですね。ただ、バンドとして「どういうアーティスト像を見せていくか」という点において楽曲の次にSNSを大事にしてはいますけど。

yonkey(Vo)

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バンドとして“大きな存在”になる

──昨年メジャーデビューを果たしてから、リリースした楽曲の数も増えてきました。アルバムの制作なども視野に入れていたりするのでしょうか?

楽曲のつながりを意識しながら、コンセプトを持たせた作品を作っていくという意味でアルバムの制作には興味がありますし、今後やってみたいことの1つではあります。でもリスナーの視点に立ったとき、アルバム全体を通して聴くという機会が少なくなっている時代でもあります。そうなると、シングルを継続的に発表していくほうが、結果的に多くの方に楽曲を届けられるのではないかとも思うんです。だから今は、「将来的にはやってみたい」くらいの温度感ですね。

──なるほど。では、Klang Rulerの今後のプランや目標を教えてください。

バンドとしての目標は、まずは“大きな存在”になる。オリジナルの楽曲をヒットさせて、着実にステップアップしていきたいなと思います。個人的には地元にあるZepp Hanedaで早くライブがしたいですね。その先で「海外」というさらに大きなマーケットに挑戦できたらなと思っています。

──一方でyonkeyさんは、新しい学校のリーダーズや山本彩さんへの楽曲提供など、プロデューサーとしても精力的に活動されていますよね。ほかのアーティストへ楽曲を提供する際のこだわりがあれば教えてください。

実際にその方と会って話したり、そのグループのメンバーになったことを想像したりしながら曲を書くことが多いですね。どんな楽曲がその人に合うかはもちろん、“その人が言いそうなこと”をイメージしながら曲の輪郭を作り上げていきます。山本彩さんと共作した「あいまって。」(参照:山本彩、yonkeyとの共作曲「あいまって。」配信決定)に関しても、アイドルとしてきらびやかに活躍していた山本彩さんの姿ももちろん印象的でしたが、僕は、初めて山本さんとお会いしたときに感じた“人間らしさ”を表現に取り入れたいと思ったんです。だから、あまり機械的になりすぎないようなアレンジにしました。それって、Klang Rulerのボーカルとしても同じような感覚で。ほかのメンバーに感情移入したり想像を膨らませたりしながら、自分が歌う部分の歌詞を考えることが多いですね。

──1人のプロデューサーとしての目標は?

Klang Rulerの活動もプロデューサーの仕事も、どちらも自分にとって欠かすことのできない大切なものです。それを踏まえたうえでプロデューサーとしては、楽曲を一度聴いただけですぐに誰のサウンドなのかわかるような存在になりたいです。そういえば、新しい学校のリーダーズの楽曲を手がけたことで、海外にいる彼女たちの熱心なファンの方で、僕のことを応援してくれる人が格段に増えたんです。SNSで反応してくれたりとかして。

──それはうれしいですね。

それも、これまでの積み重ねのおかげかなと思うんですけど。

──海外アーティストの楽曲を手がけるような未来も描けそうですね。

そうですね。今までの制作を通して、少しずつではありますが手応えを感じてきているので、国籍問わずにどんどん挑戦してみたいです。新しい学校のリーダーズが所属している88risingにはアジア系のアーティストが多いので、ゆくゆくはJojiさんとか、リッチ・ブライアンさんのような方々をプロデュースできたらいいなという思いもありますね。いずれにしても、プロデューサーとしてもバンドの一員としても、1人でも多くの人に自分の音楽を聴いてもらいたいです。

yonkey(Vo)

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プロフィール

Klang Ruler(クラングルーラー)

Z世代のプロデューサー / トラックメイカーのyonkey(Vo)が高校時代の友人であるSimiSho(Dr)、専門学校で出会ったかとたくみ(B)に声をかけ、2014年に結成したバンド。2019年にYouTubeで同世代アーティストとともに名曲をカバーする動画シリーズ「MIDNIGHT SESSION」をスタートさせ話題となる。2020年4月に1stシングル「iCON」を配信リリース。2021年夏に「MIDNIGHT SESSION」でも共演したやすだちひろ(Vo)と、サポートギターとしてバンドに参加していたGyoshi(G)が正式加入する。同年11月にRin音をフィーチャーした「ビビデバビビ」でメジャーデビュー。12月にブラックビスケッツ「タイミング ~Timing~」のカバー、2022年4月に「ジェネリックラブ」を配信リリースした。この2曲を収録したアナログ盤が9月にリリースされる。