キタニタツヤ×エジマハルシ(ポルカドットスティングレイ)|同い年の2人 濃密で刺激的なコラボレーションの先に

ありきたりなフレーズでは自分が弾く意味がない

──では、キタニさんの新曲「Cinnamon」について聞かせてください。まさにネオソウルの潮流を感じさせる楽曲ですが、どのように制作されたんですか?

キタニ ハルシに弾いてもらいたいという思いは最初からあったんです。ポルカを聴いているリスナーの方が「エジマハルシって、実はこういうタイプのギタリストなのか」と思ってくれたら面白いなって。ポルカはずっと動き続けてるバンドなので忙しいかもしれないなと思ったんだけど、オファーしたらすぐに「やる」って言ってくれて。

ハルシ 「え、いいの? やるやる!」って、即答でしたね。こういうタイプの曲を持ってきてくれたのもうれしかったし。送ってもらった音源に(キタニが弾いた)リフが入ってて「これでよくない?」とは思ったんだけど(笑)、せっかくギターで参加させてもらうのに、メインのリフを自分で弾かないのはどうなんだ?って。

キタニ 仕事しなきゃ的な? 偉いね(笑)。

──ギターのアレンジはエジマさんにお任せだったんですか?

キタニ そうですね。デモ音源には自分で弾いたギターも入れてたんですけど、基本的には「好きにしてください」という感じでした。ギターソロのパートも空けておいたし。そういうやり方は初めてだったんですよ。そもそもギターを人に頼んだこともなかったし。

ハルシ 自分で弾けるもんね。

キタニ 大してうまくないんだけど、自分で弾いたほうが早いなと思っちゃって。ハルシは音楽の好みも近いし、センスと技術を持ち合わせてる。僕の近くにそんなギタリストはハルシ以外にいないし、だからぜひ弾いてほしいなと。デモを送ったあとの反応もすごく早かったんですよ。「こんな感じでどう?」ってギターを入れたトラックがすぐに返ってきて。あとはほぼリモートでやりとりしていました。去年の11月くらいかな?

ハルシ うん。あそこまでリモートで完結させたのも初めてだったんですけど、ルーティンが面白かったんですよ。僕が夜中に作業し始めて、たっちゃんが起きる前にデータを送って。

キタニ それを僕が午前中に確認して、ちょっと手を入れて、また送り返して。さらにハルシが夜中に作業して……っていうのを繰り返してました。

──海外のアーティストとやり取りしているような(笑)。

ハルシ そうですね(笑)。ギターのアレンジは難しかったです。シンプルなトラックだったから、あえてギターを目立たせる必要はないのかな?とも思ったんだけど、無難にやるだけだったらそれこそたっちゃんが弾けばいいから。かと言って、やりすぎてもよくないし。でも、データのやりとりの中でめっちゃ細かいところまで打ち合わせもできたから「これなら大丈夫だな」と。

キタニ 「このフレーズの3番目の音がコードに対して……」みたいな理論的なことも伝えてましたね。ハルシのギターはやりすぎてるところもあったんだけど(笑)、それくらいがちょうどよかったんですよ。もともと「シンプルなトラックなんだけど、ギターが飛び出してくる」という感じを想像していたし、僕のほうからも「もっと弾いて」ってディレクションすることもあったので。ギターソロの注文は全然理論的じゃなくて、「ウェットな感じでお洒落によろしく!」みたいな感じだったんですけど(笑)。

──いいですね。エジマさんとしては、「自分らしさを出したい」という気持ちもあった?

ハルシ ありましたね。自分よりうまいギタリストはいくらでもいるし、ありきたりなフレーズでは自分が弾く意味がないなって。

コードに対するお互いの認識が違う。それが面白いんです

キタニ 「ここは俺っぽいな」という部分ってどこ?

ハルシ どこだろうな?(笑) 1番の歌メロの裏で弾いてるカッティングもそうだし、あとは2番のAメロも気に入ってるかな。

キタニ 2Aのギター、最高だよね。僕、編曲家として「1番は手堅くやって、2番はちょっとくらい理論的にアウトなことをやってもいい」と思ってるところがあって。「Cinnamon」の2番のギターはまさにそうだし、フレーズもすごくよかった。ただ、レコーディングが終わってから「あのフレーズ、どういう仕組みなの?」って話をしてたら、ハルシがいきなり「もしかしたらコードに合ってなかったかも」と言い出して(笑)。

ハルシ あははは(笑)。

キタニ 「コードには合ってるから、大丈夫」って(笑)。ただ、解釈の仕方が違うんですよね。コードに対するお互いの認識が違うし、もちろんフレーズや弾き方も違っていて。それが面白いんです。

ハルシ フレーズのイメージがバッと湧いて、そのまま弾いちゃったんですよ。

キタニタツヤ

キタニ 聴き応えのあるギターですよね。ギターは目立つ楽器だし、最初は「自分の好みに合わなかったらどうしようかな」とも思ってたんだけど、全然そんなことなかった。レコーディングのときもすごかったんですよ。スタジオでギターを録ったのも初めてだったんですけど、2、3テイクでどんどんOKが出て。僕は普段17テイクくらい録って編集してるんですけど、「あの時間、マジで無駄だったな。うまいギタリストって、こんなに早いんだ」と。プリプロの段階でしっかりフレーズを作っていたとはいえ、本番で完璧に弾けるのはすごいです。やっぱりいいギタリストなんだなと思ったし、尊敬しちゃいますね。

──完成した「Cinnamon」を聴いて、エジマさんはどう感じました?

ハルシ そうですね……超よかったです。

キタニ 浅っさ!(笑)

ハルシ (笑)。デモの段階では歌詞が1番までしか入ってなくて。できあがったものを聴いたときに、2番の歌詞がめっちゃいいなと思ったんですよ。コードとメロディが変わって、言葉がさらに具体的になって。その組み合わせが強いなと。

キタニ うん。2番のメロはかなり強烈だから、負けないような歌詞にしたいと思って。気合いを入れ直すような感じがあったかも。

──歌詞全体のテーマはあったんですか?

キタニ 僕は完全にメロディが先なんですけど、まずサビのメロディを決めてから「愛をもっとくれないか」という言葉をはめて。そこから浮かんでくるイメージや情景をもとにしながら書いた歌詞ですね。

ハルシ いいよね。たっちゃんは“音楽IQ”が高くて、作詞、作曲、編曲まで自分でやるし、マルチプレイヤーなんだけど、それだけじゃなくて、歌と歌詞に対するこだわりの強さを感じられたというか。歌ってる人だから当たり前なんですけど、改めて「歌がいいな」と思いましたね。

キタニ 照れくさいな(笑)。

──一緒に制作してみて、新たに気付いたこともありました?

ハルシ いろいろありましたね。「Cinnamon」はポルカでよくやっているテンポ感とはまったく違うし、求められることも違った。具体的な指示もどんどん飛んできて面白かったし、すごく勉強になりました。

キタニ さっき言ったようにギタリストに弾いてもらうこと自体が初めてだったし、発見の連続でしたよ。ハルシが弾いたギターのパラデータを聴くのも楽しくて。カッティング1つにしても、ハルシのアクセントの付け方やブラッシングは、自分とは全然違うんですよ。「こういう感じで弾いてみようかな」と思ってギターを手に取ったんですけど、とにかく難しくて(笑)。練習が必要ですね。

ハルシ あははは(笑)。

キタニ あと自分でギターを弾くときも、ギタリストにお願いするような気持ちでやったほうがいいなと思いました。ハルシもそうだったと思うけど、人から頼まれたら「かましてやろう」と思うじゃないですか。そのほうが面白いものが出てくるだろうなと。

ハルシ 作曲した人が弾くギターっていうのもいいよね。