Kis-My-Ft2|“多彩なハグ”が生んだポップアルバム 新作に見るキスマイの音楽的包容力

Kis-My-Ft2が4月24日にニューアルバム「FREE HUGS!」をリリースした。

彼らにとって通算8枚目のアルバムとなる今作は、「音楽でハグする」をテーマに制作された。Mrs. GREEN APPLEの大森元貴が提供したアルバム本編の「ルラルララ」に加え、通常盤に付属するCDでは各メンバーのソロ曲でもそれぞれが個性豊かなアーティストたちとコラボレーション。大きく腕を広げてさまざまな楽曲ジャンルやコラボアーティストの個性を受け止め、キスマイ流のポップアルバムへと昇華している。アルバムのリリースを記念し、音楽ナタリーではテキストで今作の魅力を掘り下げる。

文 / 粉川しの

予測不可能なケミストリーを楽しむKis-My-Ft2

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そんなメッセージを掲げたKis-My-Ft2の通算8枚目のオリジナルアルバムとなる「FREE HUGS!」は、まさにボーダレスでジャンルレス。違いを面白がり、個性の異なる者同士が認め合い、祝福しあうような包容力を感じさせるポップアルバムに仕上がっている。サウンド的にもここまで包容力を、そして大人っぽい余裕を感じさせるKis-My-Ft2のアルバムは初めてなんじゃないかと思う。でも、それは決して大人になって守りに入ったということではない。「現状維持が一番やっちゃいけないこと」だと彼らも話しているように、本作で彼らは多くの人たちと交わってハグしていく中で生まれる予測不可能なケミストリーを楽しみ、そこから見えてくる新たな可能性と新しい景色に胸踊らせているからだ。

キスマイは長い下積みを経てデビューしたグループだった。だからこそ彼らはこれまで焦燥にかられるようにトップを目指し、がむしゃらに走り続けてきたわけだが、デビューから8年の歳月の中で自信を深めてきたキスマイは今、こうして大きく手を広げてすべてを抱きしめようとしている。

“フリーハグ精神”を体現したテーマソング

アルバムのリードトラックとなるのは、「"8th" Overture」に続く2曲目に収録された「HUG & WALK」。「地球ごと抱きしめたい」と歌うこの曲は“フリーハグ精神”を体現した本作のテーマソングと呼ぶべきもので、それに相応しくカラフルでチアーなバイブスにあふれた1曲となっている。そんな「HUG & WALK」を中心としたアルバムの前半は、これまでにもさまざまなジャンルを貪欲に取り入れ、自分たちの強みにしてきたキスマイの真骨頂とも言えるバラエティ豊かな楽曲が並ぶセクションだ。ネオソウル風の「"8th" Overture」や、ヘビーなベースが効いたテクノチューン「A.D.D.I.C.T.」、そしてトレンドのど真ん中を行くエレクトロR&Bをセンシュアルに歌い上げる「THIS CRAZY LOVE」と、どれも趣向を凝らしたナンバー。5月から始まる待望のドームツアー「Kis-My-Ft2 LIVE TOUR 2019 FREE HUGS!」でどんなふうに演出されるのか、メンバーがどんなダンスを見せてくれるのか、俄然楽しみになってくる楽曲群なのだ。

「FREE HUGS!」にはCMソングにもなった「L.O.V.E.」と「君、僕。」、北山宏光主演の映画「トラさん~僕が猫になったワケ~」の主題歌「君を大好きだ」と、3曲のシングル曲が収録されている。この3曲のヒットチューンがアルバムの流れを要所要所で引き締める役割を果たしていて、例えば「L.O.V.E.」はアンセミックな楽曲ぞろいの前半の締めくくりに該当する曲。「君を大好きだ」は、ストリングスやブラスセクションの音色が際立つアルバム中盤の美しいバラードセクションを牽引するナンバーで、「君、僕。」はアルバム後半のクライマックスの場所に置かれている。

伝統と革新のコントラスト

また本作の中でも注目の1曲が、北山が作詞作曲を手がけた9曲目の「僕ハ君ナシデ愛ヲ知レナイ」だ。メロウな和メロをフィーチャーしたこの曲は、誤解を恐れずに言えば「FREE HUGS!」の中でもっともジャニーズらしい曲だ。彼らがジャニーズJr.時代から先輩たちの曲も含めて歌い続け、歌い慣れてきた曲調に近いものだと思うし、実際ここで7人は本当に伸び伸びと歌っている。一方、この曲に続く10曲目の「Bring It On」は藤ヶ谷太輔と二階堂高嗣のラップの応酬も新境地で、「僕ハ君ナシデ愛ヲ知レナイ」と「Bring It On」の“伝統と革新のコントラスト”は、アルバム後半のハイライトになっている。

「音楽でハグする」というアルバムコンセプトを体現するように、本作には数多くのアーティストたちとのコラボナンバーが収録されている。本編のラストナンバー「ルラルララ」を提供したのはMrs. GREEN APPLEの大森元貴。彼のコメントを引用すると「僕が小学生の頃から遠い親戚のような藤ヶ谷の太ちゃんからお声掛け頂き」実現したコラボだったそうだが、ゴスペル的な壮大さを持ち合わせたメロディックチューンである「ルラルララ」は、まさにMrs. GREEN APPLEの持ち味が発揮されたナンバーだ。The Beatlesの「All You Need Is Love(愛こそはすべて)」を彷彿とさせる曲調でもあるだけに、キスマイが本作で目指したピースフルでチアフルな包容力とも見事にマッチしているのだ。

こうしてアルバム全編を通して聴いて感じるのは、7人7色のボーカルがここまで際立って聞こえるアルバムは初めてじゃないか?ということ。北山と藤ヶ谷のツインボーカルをメインにしつつも、7人が次々とバトンをリレーしていくような歌割りが際立っている。1人ひとりの歌声がくっきりとクリアな輪郭を持ったことで、楽曲に今まで以上の抑揚と深みが生まれている。そうして俄然カラフルになった7人の歌声がひとたびユニゾンを形成して混じり合うと、瞬く間にキスマイとしてのオンリーワンの響きを生み出していくのもミラクルだ。