岸本ゆめのインタビュー|1人で歩き始めた今だから話せること、話しておきたいこと (3/3)

自分の生い立ちやアイドル時代の葛藤とか、沸々としたものを音楽に昇華したい

──ソロ活動は始まったばかりですが、やりたかったことはやれていますか?

全然甘やかされてるんですけど、ちょっとした告知とか、YouTubeで動画を配信するにしてもどうすれば広がっていくのかなとか、やること1つひとつがこんなに難しいものなのかと思いますね。ファンコミュニティを始めたんですけど、こういうのって、これまでどこで告知されてきたんだろう?ってなるんです。今まで、めっちゃ人に頼ってきてたんだなと感じます。

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──それこそハロー!プロジェクトにいると情報はすぐに広がるし、ファンの人が能動的に情報を集めたりもするし、という。

私だけじゃなく現役でアイドルとして活動している子はわかっていることだと思うんですけど、グループを辞めるとミュージックビデオとかを観てくれる人がこんなに減るんだなと思いました。予想はしていたものの、実際、数字を見たときにはやっぱりショックは受けます(笑)。MVを公開したあとに数週間経って、「きしもん好きだったけど曲を出してたんだ」みたいな反応もけっこうあって、この人たちはこれまでどうやって公開初日にチェックしてたんだろうと思ったんです(笑)。やっぱりハロー!プロジェクトにいたから、私たちの情報を知ってもらえていたんだなと改めて思いました。SNSも始めたてなので広がりづらいところがあるにしても、自分から動かないと情報をキャッチすらしてもらえないんだなと思っています。ソロデビュー曲のMVと、その1日前後くらいで誰かが違法アップロードしたつばきファクトリーのフェスでの1曲の再生回数がだいたい一緒なんですよ。

──それはなんとも言えない(笑)。

「BLUEMOON BLUES」の関連動画で出てくるから、みんな観てるんだろうなって(笑)。そりゃつばきのライブはいいけど、めっちゃ悔しいんですよね。

岸本ゆめの
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──音楽の話も伺いたいのですが、「BLUEMOON BLUES」でスタートを切るにあたって、こんな音楽がやりたいというビジョンはありましたか?

以前から、ブルースを歌いたいとよく言っていて。(事務所にあるホワイトボートを指して)これはロバート・ジョンソンの「Sweet Home Chicago」のコード進行で、今日はこの曲のギターレッスンを受けてました。音楽ジャンルとしてのブルースも好きなんですけど、楽曲から立ちのぼる感情の面でも惹かれていて。ブルースは成り立ちが労働歌だったりするわけですけど、音楽で自分のすべてを出し切りたいというのはずっと思っていたことなんですよね。ただ、グループ時代にそれをやったらバランスが壊れてしまうので。自分の生い立ちとか、アイドル時代の葛藤とか、私にしかわからない沸々としたものを音楽に昇華したいという思いが今はすごくあります。私は母1人に育ててもらいましたし、周りの友達に比べて、多少我慢もしてきたと思うので。私だけにしか表現できない負の感情があると思うし、それをプラスにして歌に込めたい。ブルースに限らず、青春パンクが好きな時期もありましたし、人間臭いものがやりたいんです。

──浪波節ですね。

コテコテにはしたくないんですけどね(笑)。大阪生まれ大阪育ちというのも自分の持ち味ではあると思ってます。

──しかし、岸本さんの家庭のことを知らなかったので、話を聞いていてなるほどと思うことばかりです。

アイドルとして周りとちょっと違ったのは、私は貧乏になることの現実的な怖さをわかっているというか。実際に経験したことがあるので。母はすごかったと思います。父からの助けもなく、契約社員として働いた給料でお姉ちゃんと私を育ててくれて、そんな中で週末は私を大阪から東京や名古屋のレッスンに通わせてくれていたのは強かったなって。その母を見て育ったので、1人の活動に飛び込むことに対しての不安はあっても、まあ死ぬことはないだろうと思えるのかなと。

顔がどうこうとかじゃなくて、曲を聴いてもらえる歌手になりたい

──5月1日に配信リリースされたニューシングル「ユーアーアイ」は、ソロデビュー曲の「BLUEMOON BLUES」とはアプローチの違う軽快なポップスになりました。

重ための「BLUEMOON BLUES」は自分らしさもありつつ、衣装込みでソロとしての新しい感じもありつつの半々な感じでした。「ユーアーアイ」は自分が全然やってこなかった一面が感じられる、これまで私を見てきてくれた方には予想がつかないような、かわいい曲だと思います。でも、自分の中には、まあまあ、あるものだったんですよね。ボーイッシュな私も本物ですけど、ガーリーな私も本物なんですよ(笑)。

──それこそ役割分担がある中では見せにくかった部分ですよね。

そうですね。自分がこう歌いたいというイメージに対して、クリエイターの皆さんが思っていたものより膨らませて返してくださって。MV撮影に向けて、監督さんと、歌詞を書いてくださったアカシックの理姫さんとお話をさせていただく機会があったんです。理姫さんには、歌詞に対しても人としても共感できる部分があって、「どう取ってもらってもいいけど、こういう気持ちで書きました」という書き手としての思惑と私が感じたことが一致することがたくさんあったんです。人生的な部分で共感できる方が書いている歌詞なんだから自分もしっくりくるよなと思ったし、今は毎日お風呂で歌ってます(笑)。

──新しいリアルな一面が見せられたのは素晴らしいなと思います。新曲もレコーディングしているということですし、これから歌手活動が本格化していくのでしょうか?

活動の軸は歌を歌うことでありたいなと思っていますし、ほかにできている曲もあるので、それをどんどん皆さんにお届けしたいと思ってます。

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──6月8日には新宿LOFTで単独ライブ「イチ、ミマン」が控えています。そこが本格的なスタートですよね。

まさに。自分1人でライブするのがアイドル時代からの目標で、今まではファンクラブ限定の誕生日のイベントくらいしかやったことがなかったんです。それはアイドルとして、歌を歌う人としての実力不足だったからだと感じているんですけど、やっと実現できるんですよね。最近たくさんライブを観に行っていて、どのライブも楽しいんですけど、いいライブというのは心の助けになったり、日々の癒しとして残るので、来てくれる人には絶対いい感情を持っていただけるように準備したいです。「BLUEMOON BLUES」や「ユーアーアイ」を好きになってもらえたらうれしいんですけど、ライブのほうがよりよかったと思ってもらいたい。私の好きなアーティストは、やっぱり音源よりライブがいいなと思うので、音源超えはしたいなと。

──楽しみにしています。最後に言っておきたいことなどはありますか?

これは自分の勝手な課題なんですけど、自分の顔がどうこうとかじゃなくて、曲を聴いてもらえる歌手になりたいと思ってます。私はアイドルを卒業して1人で歌っていくと決めたので、ちゃんと音楽を聴いてもらえるような存在に早くなりたいです。

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ライブ情報

岸本ゆめの「イチ、ミマン」

2024年6月8日(土)東京都 新宿LOFT

プロフィール

岸本ゆめの(キシモトユメノ)

2000年4月1日、大阪府出身。2012年11月、ハロプロ研修生に加入。2015年4月29日、ハロプロ研修生内の新ユニットとして、つばきファクトリーが結成され、メンバーに選ばれる。インディーズシングル4枚のリリースを経て、2017年2月22日にメジャーデビュー。同年7月に発売した2ndシングル「就活センセーション / 笑って / ハナモヨウ」で「第50回日本有線大賞」新人賞、「第59回日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞する。2023年11月6日、東京・日本武道館で行われた卒業公演をもってつばきファクトリー、およびハロー!プロジェクトを卒業。2024年4月1日、24歳の誕生日に、グループ卒業後初のソロ曲「BLUEMOON BLUES」をリリースし、音楽活動を開始した。5月1日には、アカシックの理姫が作詞、奥脇達也が作曲を手がけた2ndシングル「ユーアーアイ」を発表。6月8日には東京・新宿LOFTで自身初のソロライブ「イチ、ミマン」を開催する。