吉柳咲良「Pandora」インタビュー|デビュー作でむき出しにした“ありのままの精神性” (2/2)

毎日稽古して、毎回号泣している

──吉柳さんは先ほど宇多田ヒカルさんがお好きとお話しされてましたが、特に好きな曲を教えてください。

えー、難しいな……! 選べないくらい好きな曲がいっぱいあるんですけど、カラオケでよく歌うのは「Automatic」です。あと「君に夢中」が大好きです。心を撃ち抜かれました(笑)。

吉柳咲良

──「君に夢中」はかなり変わった曲ですよね。歌のエモーションに合わせて、ミニマルなフレーズの演奏が、音色の変化で展開していくという。

もうあの曲の展開は想像ができないですよね(笑)。モノクロから始まってたはずなのにどんどん世界に色がついていく感じ。1つの物語を観たかと思うほど情景が浮かびます。「君に夢中」を聴いていると、自分もがんばって追いかけてるような気分になるんだけど、それが、人間の心情の変化を表している感覚なんだって気付いたんです。だからすごく音楽に引っ張られる。どこに行くかわからない感覚と相まって、すごくドキドキします。

──やはり吉柳さんは感情を言語化する能力に長けていますね。そして感受性がとても豊かな方だと感じます。

今稽古してる「ロミオ&ジュリエット」の現場でも言われるんです(※取材は5月上旬に実施)。毎日稽古してて、ほかのキャストの演技を何度も観てるはずなのに毎回号泣しているから(笑)。私と奥田いろは(乃木坂46)ちゃんがジュリエット役のダブルキャストなんですが、「いろはちゃんのような純粋でいい子がなんであんな目に遭わなきゃいけないの」って。

──めちゃくちゃ感情移入してますね(笑)。

自分も同じ役を演じてるのに(笑)。ベンヴォーリオやマーキューシオ(ともに「ロミオ&ジュリエット」の登場人物)を観てると「この子(ジュリエット)は犠牲者なんだ……」と客観的になって、さらに泣けてくるっていう。

吉柳咲良
吉柳咲良

──「Pandora」で表現された世界観はウェットなのに、吉柳さん自身の印象はとてもサバサバしていて、そのギャップが面白いです。

(笑)。稽古が終わると必ずダメ出しの時間があるんですが、そのあと、私はみんなに“イイ出し”をしてます。

──イイ出し?

「今日は◯◯さんのここがよかった!」って。みんなの稽古を見て、いいところを全部スマホにメモしてるので、それを勝手にキャストのグループLINEに送ってます。ダメ出しのあとは誰しもマイナスな気持ちになることがあると思うので。

表に出せなかった感情をすべて出していい場所

──吉柳さんは自分に厳しいタイプですか?

厳しいというよりも、私自身はネガティブな人間です。劣等感を抱きやすいし。すぐ人と自分を比べてしまうし、ずっと自分を否定し続けてきました。

──芸能の仕事は他人からシビアに評価される機会が多いですもんね。

そうですね。中3か高1くらいの頃、“吉柳咲良”という名前から逃げたくなったときもありました。仮に私がこの仕事を辞めても“吉柳咲良”は消えない。忘れ去られることはあっても名前は残る。そのプレッシャーにモヤモヤしてたんだと思います。そんなときもありましたが辞めなくてよかったです。今回の楽曲制作でSakaiさんに「アーティストっていうのは『ネガティブな感情』『怒り』『葛藤』を持ってれば持ってるほど面白い。それを曲に反映できたら価値になる。ここは表に出せなかったすべての感情を出していい場所。歌として出しちゃえばいいよ」と言っていただいたんですよ。

吉柳咲良

──とても素敵なアドバイスですね。

「うわっ、これだ!」って思いました。「心の支え、ここにあったわ」って(笑)。役者もアーティストも、始まりと結果にのみフォーカスされることが多いじゃないですか。でも私はどうやってそこにたどり着いたのか、どんな葛藤を経てきたのかという過程が重要だと思っていて。そういった部分を歌で表現していきたいです。心に抱えているモヤモヤした感情を言語化していくことによって、歌を聴いてくださる方の心にも寄り添うことができるんじゃないかなと考えています。

──「Pandora」の制作ではSakaiさんのアドバイスに加えて、麦野さんが吉柳さんの気持ちを歌詞にしてくれたんですね。

はい。私はどんなジャッジを受けても、ずっと自分の“好き”だけは貫き通したい。好き嫌い、似合う似合わないではなく、“自分自身だけが持つ何か”だけは変えたくないと思っていました。私、IVEのウォニョンさんが大好きなんです。常に挑戦し続ける彼女の大胆なスタンスが本当に好き。私自身も臆せず、型にはまらず、私にしかできない表現を追求したい。そういう精神性を、これからのソロプロジェクトを通じて体現していきたいです。

吉柳咲良

プロフィール

吉柳咲良(キリュウサクラ)

2004年4月22日生まれ。栃木県出身。2016年に第41回ホリプロタレントスカウトキャラバン「PURE GIRL 2016」グランプリを受賞し芸能界入りする。2017年にミュージカル「ピーター・パン」の10代目ピーター・パン役に歴代最年少タイで抜擢され、俳優デビュー。2019年7月公開のアニメ映画「天気の子」にヒロインの弟役で出演した。2024年、NHK連続テレビ小説「ブギウギ」で新人歌手・水城アユミ役を演じ、その歌唱力の高さとパワフルなステージングで注目を浴びた。20歳の誕生日前日である同年4月21日に「Pandora」で歌手デビューを果たした。現在上演中のミュージカル「ロミオ&ジュリエット」ではジュリエット役を務めている。「ロミオ&ジュリエット」は5月16日~6月10日に東京・新国立劇場 中劇場、6月22、23日に愛知・刈谷市総合文化センター、7月3日~7月15日に大阪・梅田芸術劇場メインホールで上演される。