「新しさ」とは？

コトリンゴ　そういえば、今回レコーディング作業が遅くなってしまって、高樹さんが車で送ってくれたことがあったんですよ。そのときある若手のバンドのラジオを聴きながら「どうやったらこういう音が作れるのかな？」っておっしゃって。私は高樹さんがそういうことを気にするんだっていうのが意外で。そんなの気にしなくていいのに（笑）。

宇多丸　コトリンゴさん、高樹さんのお母さんみたいですね（笑）。

堀込　本当に知らないことが多くて。例えばヒップホップのシンプルなトラックも、僕が使ってる機材だとうまく作れないんですよ。そういうときとか「うまく作れない」って落ち込んだり。

──そうなんですか？ 僕は高樹さんってあまり周りを気にしないで制作する方だと思ってました。

堀込　いつも迷ってるんですよ。皆さんはきっと山下達郎さんやユーミンが我々のサウンドに直接的な影響を与えていると連想しますよね。確かに僕は彼らのああいう音楽が好きで、似たことを始めた。達郎さんもユーミンも今でこそスタンダードだけど、当時は超斬新だったわけです。そうなると、自分が今やってる音楽はこれでいいのか、好きで聴いてきた音楽をちゃんとアップデートしなきゃって思うんですよ。でもこの年齢になると、能力の問題や好みがある程度決まっているから結局そこに収まっちゃうんですよね。

──皆さんは本当にいろんな音楽を聴いてますよね？ どの音楽にもルーツはあるので、いくら「新しい音楽」と言われてもネタ元がはっきりしてれば、「新しさ」とは混ぜ方の問題で、そこに斬新さはないと思うんですが。

堀込　元ネタはわかるんですよ。この音はこのバンドのこういう感じと、あのバンドのこのテイストを混ぜたハイブリッドなものなんだなって。でもそれがなぜそう混ざったのか、やり方がわからないんです。

千ヶ崎　そういうのは演奏に関してもありますよ。若い人の演奏を聴くと、新しさと古さが同居していることがあるんですよ。なんでそういうグルーヴが体得できたのかわからない。これは仮説なんですけど、僕らの時代はネットがなかったから、音をディスクガイドとか本で探して時代順に音楽を聴く流れがあったんです。でも今は、すべての時代の音楽が同じ土俵に全部上がってる状態じゃないですか？ そうすると価値観の形成のされ方も僕らとは随分違ってくるんですよ。

堀込　そういう違う価値観で形成された、理解できない部分をミュージシャンとしてものにしたいんです。僕が若かったらそういうのもそのまま受け入れちゃうと思うけど、そういうこともできない。だからどうやればいいのか悩んじゃうんです。でも今回はメンバー6人がライブを経ていい感じになってきたし、RHYMESTERにも参加してもらった。「それじゃいっちょやったるか」って気持ちでがんばりました。

楠　今回のサウンドって、若い人にはできませんよ。最近のミクスチャーって、割と狭いジャンルの1つとしてネーミングされているらしいんだけど、そういうのではない、1960～70年代の音楽を一生懸命聴いてきて、勉強もしてきた人が到達したミクスチャーというか。それがアルバム全体で表現されてるっていうのは、今までのKIRINJIにはなかったと思います。

RHYMESTERはどこで参加するのか？

──9月22日からツアーがスタートしますね。RHYMESTERも参加されるんですか？

Mummy-D　どこかではすると思うよ（笑）。

宇多丸　呼んでくださいよー。

田村　まだ手をつけてない曲もあるから、ライブに向けていろいろやらなきゃいけないことは多いけど、僕らも本当に楽しみですよ。

コトリンゴ　これから練習するんですが「The Great Journey」はもう完璧です！

楠　RHYMESTERが来てくれたら、倍くらいの長さで「The Great Journey」を演奏したいね。「マナベース」から怒涛のごとく「The Great Journey」になだれ込んでいく。まあ、単純に僕がその場を体験したいだけなんだけど（笑）。

堀込　千ヶ崎くんの指がちぎれちゃうよ（笑）。でもね、僕が考えてたのはBPM108くらいの曲を先にやって途中からRHYMESTERに入ってもらって、そこから「The Great Journey」につながったらカッコいいんじゃないかって。

千ヶ崎　お二人とライブで共演できることを楽しみにしてます。

Mummy-D　ありがとうございます。僕らもそう言ってもらえると光栄ですよ。でもまずはリハが楽しみ。僕らはまだ飲みに行ったりしてるだけで、実際には1回もセッションしてないから。ライブでめちゃくちゃに弾けたいって気持ちもあるんだけど、同時に皆さんはすごいスキルを持ったミュージシャンだから、精密に作りこみたい気持ちもあるんですよ。勢いだけで終わりたくないっていうか。いっそのことツアーについていきたいよね。

宇多丸　絶対楽しいに決まってるんだけど、バンドは僕らが普段やってる感じよりも楽器要素が多いからわりとシビアな現場になると思うんですよ。要求されることも多いだろうし。だから正直なところ、どうなるかわかんないですね。

堀込　このグループでもう3年活動しているんですけど、初めはいい感じながらもちょっと緊張があったんですよ。でもそれがほぐれてきて、みんなガンガン来る感じになってきたんですよ。そして今はそこからさらに進化して、みんなが間合いの取り方がうまくなってきて、より密接な演奏ができるようになってきてるんです。今回のツアーでそれがさらに進化するんじゃないかな。派手なパフォーマンスはしないけど、飽きさせないライブをしたいです。じっくり聴けて、じっくりのれる。そんなライブになっているので、ぜひ来てもらいたいです。