音楽ナタリー Power Push - KIRINJI×RHYMESTER座談会

ネオ・KIRINJIを語らう

KIRINJIがニューアルバム「ネオ」を8月3日にリリースした。本作は、6人体制になった彼らの充実ぶりを伺わせる意欲作だ。この「ネオ」ではバンドとしての新たな試みが数々実行されているが、中でも特に目を引くのはリード曲「The Great Journey」でRHYMESTERの宇多丸&Mummy-Dとコラボレーションしたこと。両者のコラボを記念して、音楽ナタリーではKIRINJIの堀込高樹(Vo, G)、千ヶ崎学(B, Vo)、コトリンゴ(Piano, Key, Vo)、楠均(Dr, Perc, Vo)、田村玄一(Pedal Steel, Steel Pan, Vo)と、RHYMESTERの宇多丸、Mummy-Dによる大規模座談会を企画した。実はこのメンバーで集まるのはこの日が初めてだった彼ら。一体どんな話が飛び出したのか、楽しんでもらいたい。

取材・文 / 宮崎敬太 撮影 / 後藤倫人

「The Great Journey」の原型「マナベース」

──「The Great Journey feat. RHYMESTER」、すごい曲ですね。

堀込高樹(Vo, G) もともとはライブでやってた曲がベースになってるんですよ。

千ヶ崎学(B, Vo) 僕をいじる曲ですね(笑)。

堀込高樹(Vo, G)

堀込 その曲は「真夏のサーガ」(2015年7月に発売されたシングル)を発表する頃から作り始めていました。最初はギターリフだけの状態で放っておいたんだけど、改めて作り直して「The Great Journey」のオケに近い形まで完成させたんです。その段階で歌詞はまだ乗ってなかったんだけど、すごくカッコいいからレコーディングまで待ちきれなくてライブで先にお披露目することにしました。この曲ってベースラインにすごく特徴があるから、僕は千ヶ崎くんを讃えようと思って、横浜出身である彼の生い立ちをインストに乗せて紹介しつつ、弓木(英梨乃 / KIRINJI / G, Violin, Vo)さんとコトリさん(コトリンゴ)に「マナベース!」とコールしてもらったんです。

宇多丸 「マナベース」っていうのはなんなんですか?

堀込 千ヶ崎くんの名前(学)とベースを合わせた造語です(笑)。

楠均(Dr, Perc, Vo) 「マナベース」をライブでお披露目したとき、千ヶ崎くんから発せられる「一生懸命弾いてるから邪魔すんな」オーラがすごくて。僕は彼の邪魔をしないように必死で合わせたんですよ(笑)。

千ヶ崎 最初は基本的なベースラインですら弾くのが大変で。そのライブのときはまだ「マナベース」の演奏自体に慣れてなかったから1曲通して弾くのに必死でした。

堀込 死んだ魚みたいな顔になってたよね。

田村玄一(Pedal Steel, Steel Pan, Vo) そう? 涼しい顔して弾いてたじゃん(笑)。

千ヶ崎学(B, Vo)

千ヶ崎 違う違う……。表情を作る余裕すらなかったんですよ。フレーズに集中しないといけなかったから、ドラムと絡むこともできなくて。でもライブを重ねるうちにコツを見つけたんですよ。曲の中で音符が詰まってる部分があるんですけど、そこに意識を置いておけば意外と乗り越えられました。自分でもそういうのを発見できたのはすごい楽しかったですね。

Mummy-D ちなみにあのベースラインはどっから出てきたの?

堀込 最初は僕の手癖の中からですね。

コトリンゴ(Piano, Key, Vo) 私としては、「マナベース」はライブで曲と曲の間をつなぐインストみたいな性格のものだと認識してたから、RHYMESTERのお二人がラップを入れてくれたのを聴いたときはびっくりしました(笑)。

宇多丸 僕らは、オファーをいただいて最初の打ち合わせのときに「マナベース」の状態のトラックを聴かせてもらったんですよ。最初はこのベースの人を讃えるラップをするのかと思ってました(笑)。

堀込 そのとき、2人共千ヶ崎くんのこと知らなかったでしょ?

Mummy-D それでも俺らは全然書けるよ。

宇多丸 しかもライブでは「マナベース」スタイルでやってるから、ファンの人にとっても全然アリだと思ったんですよ。

堀込 実は「マナベース」という架空の人物について延々と歌ってもらおうというアイデアもあったんですよ。でもよくよく考えると内輪ノリすぎるんでやめました(笑)。

未知数だった“KIRINJI×ラップ”

堀込 そこでこの強力なトラックに見合うボーカル要素は何かを考えたんですよ。歌だとなんか違う感じがしたんでみんなと相談したら「ラップはどうかな」ってなって。でも一緒にやるんだったら、KIRINJIのことを知っててくれてる人がいいし、こちらも相手のことを知らないといけない。アーティスト同士がコラボレーションする場合、両者のカルチャーがあまりにも違っているとうまくいかないもんなんですよ。それでなおかつ曲に負けないラップをする人は誰かと考えたらRHYMESTERしかいないな、と。

Mummy-D 俺らはよくKIRINJIと比べられたりもするから、今回オファーをもらえたことは本当に光栄だったよ。しかもこんな攻めたトラックじゃない? 「こりゃ、やりがいあるな」と思った。こんなのでラップしたことないもん。

宇多丸 アフロファンクやラテンのノリもあってすごいカッコいい。

堀込 KIRINJIの曲にラップが乗るっていうのは、リスナーも想像してなかったんじゃないかな?

田村 だって僕もラップ入れるって話を聞いたとき「ほおー」ってなりましたからね。でも音楽やってるんだったら攻めなきゃ意味ないし、どんどんやろうよって感じだった。とはいえアルバムのほかの曲はデモ段階である程度完成した形が想像できたんだけど、唯一この曲だけは完成像が見えなかったな。ラップが入るというのはKIRINJI初の試みだし。

堀込 まずはバンドのみんなと話しながらトラックのベーシックな部分を組み立てたんですよ。その時点でけっこう生きのいい感じに仕上がったから、あとはラップが乗ってから考えようと思ってました。僕自身もラップがどうなっていくかは全然わからなかったので。

宇多丸

宇多丸 僕らもオファーをいただいてうれしかったけど、最初は「なんで俺らなの?」って感じだったんですよ。それで打ち合わせをして、そのときに壮大なものと身近なものがつながるってテーマはなんとなく伝えてもらいました。

堀込 最初イメージしてたのはRHYMESTERの「The Choice Is Yours」のみたいなポリティカルな感じと、バタフライエフェクトの要素を混ぜたらどうかと思ってたんですよ。それは打ち合わせでも話しましたよね。

宇多丸 そうですね。打ち合わせのときはそういうふわっとしたものを伝えられたんだけど、実際作業するにはもうちょっと具体的なものがほしくて。

コトリンゴ ちなみに私は、壮大なものと“目の前の丼”がつながる感じだよって言われてました(笑)。

堀込 後日RHYMESTER側から「もうちょっと具体的なテーマがほしい」って言われて、「えー、テーマってRHYMESTERが考えてくれるんじゃないの?」ってなったんだけど(笑)、そこから真剣に考えたんですよ。それで、今自分たちが暮らしてるこの環境は意外と自分たちの目の前にあるものから始まっているんだっていうテーマが見つかって。で、僕は、ネオン街で恋人がラブホテルを求めてさまよう“歓楽街”感と、16万年前に地球に現れたホモサピエンスイダルトゥ(人類の祖先)の“人類の旅路”感を絡めて歌ってほしいと思って、2人にお願いしたんです。

宇多丸 そんなストーリーが突然メールで送られてきたんですよ。急にめちゃめちゃ具体的になってすごい戸惑いました(笑)。まあ僕らがテーマを設定してもよかったですよ。でもそうなると結局RHYMESTER節になっちゃう。それじゃ面白くないですよって高樹さんに話したら「そりゃこっちも一緒なんですよ」って。結局お互い手癖から離れたかったんですよ。

Mummy-D でも実は、そのメールには高樹さんの考えてるビジョンと一緒に、レコード会社からの「夏っぽく」とか「かつポップに」とか都合のいい要求がいっぱい書かれてて(笑)。

宇多丸 そうそう。高樹さんの壮大なストーリーのあとに、「……とは言えリリース時期もありますのでサマーソング感も盛り込んでいただきたく」とか(笑)。

Mummy-D もうホントに呆れちゃって(笑)。こっちも意地で全部盛り込んでやろうと思ったんです。この曲の配信日が7月前半と聞いて、七夕感も入れてやりましたよ。

KIRINJI ニューアルバム「ネオ」2016年8月3日発売 / UNIVERSAL JAZZ
「ネオ」
初回限定盤 [SHM-CD+DVD] / 3996円 / UCCJ-9212
Amazon.co.jp
通常盤 [SHM-CD] / 3240円 / UCCJ-2138
Amazon.co.jp
CD収録曲
  1. The Great Journey feat. RHYMESTER
  2. Mr. BOOGIEMAN
  3. fake it
  4. 恋の気配
  5. 失踪
  6. 日々是観光
  7. ネンネコ
  8. あの娘のバースデイ
  9. 絶対に晴れて欲しい日
  10. 真夏のサーガ
初回限定盤DVD収録内容
  • 「The Great Journey feat. RHYMESTER」ミュージックビデオ
  • 2015年11月25日に行われた大阪・梅田CLUB QUATTRO公演より「ONNA DARAKE!」「真夏のサーガ」「進水式」のライブ映像
「ネオ」発売記念 KIRINJIトーク&サイン会
2016年8月12日(金)
東京都 タワーレコード新宿店 7Fイベントスペース
<出演者>
KIRINJI(参加予定メンバー:堀込高樹[Vo, G] / 弓木英梨乃[G, Violin, Vo] / 楠均[Dr, Perc, Vo])
※参加メンバーは変更の場合あり
KIRINJI TOUR 2016
  • 2016年9月22日(木・祝)石川県 Kanazawa AZ
  • 2016年9月23日(金)京都府 磔磔
  • 2016年9月25日(日)宮城県 SENDAI CLUB JUNK BOX
  • 2016年9月28日(水)東京都 Zepp Tokyo
  • 2016年10月1日(土)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2016年10月8日(土)鹿児島県 CAPARVO HALL
  • 2016年10月10日(月・祝)福岡県 イムズホール
  • 2016年10月15日(土)愛媛県 WstudioRED
  • 2016年10月16日(日)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
  • 2016年10月26日(水)愛知県 DIAMOND HALL
  • 2016年10月27日(木)大阪府 なんばHatch
  • 2016年10月30日(日)東京都 ステラボール
  • 2016年10月31日(月)東京都 ステラボール
KIRINJI(キリンジ)
KIRINJI

1996年10月に堀込泰行(Vo, G)、堀込高樹(G, Vo)の兄弟2人で結成。1997年5月にインディーズデビュー盤「キリンジ」、同年11月にマキシシングル「冬のオルカ」がリリースされると、複雑ながらポップなサウンドと独自の詞世界が大きな注目を集め、1998年にシングル「双子座グラフィティ」でメジャーデビューを果たした。2013年4月に泰行がグループを脱退し、同年夏より千ヶ崎学(B, Vo)、コトリンゴ(Piano, Key, Vo)、楠均(Dr, Perc, Vo)、田村玄一(Pedal Steel, Steel Pan, Vo)、弓木英梨乃(G, Violin, Vo)の5人を加えた新体制に。2014年8月に通算11枚目にして新体制初のアルバム「11」をリリースしたのち、2015年6月には東京・Billboard Live TOKYOでワンマンライブを実施。このライブの音源をもとに、スタジオでのポストプロダクションを施してアルバム「11」を再構築した「EXTRA 11」が11月に発売された。2016年8月にはアルバム「ネオ」を発表した。

RHYMESTER(ライムスター)
RHYMESTER

宇多丸、Mummy-D、DJ JINからなるヒップホップグループ。別名「キング・オブ・ステージ」。1989年に結成され、1993年にアルバム「俺に言わせりゃ」でインディーズデビューを果たす。メンバー交代を経て1994年にDJ JINが加入し、現在の編成に。1998年発表のシングル「B-BOYイズム」、翌1999年発表の3rdアルバム「リスペクト」のヒットで日本のヒップホップシーンを代表する存在となった。2001年からは活動の場をメジャーへと移し、2007年には東京・日本武道館公演「KING OF STAGE Vol.7」を大成功させた。その後、約2年の活動休止期間を経て「マニフェスト」「POP LIFE」「ダーティーサイエンス」という3枚のアルバムを発表する。2014年12月にレコード会社をビクターエンタテインメントへ移し、主宰レーベル「starplayers Records」を設立。2015年5月には東京・お台場野外特設会場で初の主催フェスティバル「人間交差点」を開催し、7月に移籍後初のアルバム「Bitter, Sweet & Beautiful」をリリースした。なお宇多丸はラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」のメインパーソナリティを務めるほか、テレビなどでも活躍している。Mummy-DとDJ JINはプロデューサーとしても活動中。