限界に挑戦するからこそ表現できる美しさ

──花たんさんがコンセプトアルバムを制作するのは、今回が初めてですよね。

花たん　そうなんです。これまでdorikoさんやOSTER projectさんにアルバムをプロデュースしていただいたことはあったんですけど、今回のようにアルバムで1つの物語を作り上げるという経験は初めてで。

──きくおさんが言っていたように曲によって主人公は変わりますし、さまざまな歌い方が要求される難しいレコーディングだったのではないですか？

花たん　大変ではあったんですけど、すごく充実してました。きくおさんに書いてもらう曲って、いろんなイメージが湧いてくるから「こう歌ったらもっと伝わるんじゃないかな」とか、楽しみながら取り組めましたね。まだまだ歌い足りないくらいです。

──きくおさんが描く“ぶっ壊れおとぎ話”という世界観についてはどう思いましたか？

花たん　大好きです。謎めいたものとか、ミステリアスな世界観が好きなので、今回はどこまで作品に合わせて自分が壊れられるかを考えたりして。それに今回、きくおはなとしてアルバム作りをさせていただいて、自分のレベルが上がったと感じているんです。まあ、きくおさんがどんどんハードルを上げてくるからでもあるんですけど（笑）。

──どういう風にハードルを上げるんですか？

きくお　僕は「花たんだったらもっとすごいことができる」ってずっと思っていたから、花たんが120％くらいの力を発揮してやっと到達できるようなラインのメロディや歌い方を用意しようと最初から決めていたんです。限界に挑戦するからこそ表現できる美しさみたいなものがあると思いますから。でも僕が用意したハードルを全部完璧に越えてくれましたらから、やっぱり花たんはすごいと、改めて感じました。

花たん　例えば、きくおさんが「これ、ちょっとキーが低すぎるかもしれません」という話をしても「いや、この曲はキーの低さがいいから、このままで歌いたいです」って返したりして。

かわいいと残酷の両立

──アルバムの中で花たんさんが一番印象に残った曲はどれですか？

花たん　どれもインパクトが強すぎて選ぶのが難しいんですけど、強いて言えば「のぼれ！すすめ！高い塔」ですね。

きくお　それを選ぶと思った。

花たん　(笑)。レコーディングのときにすごく苦労した曲でもあるんです。曲が進行していくにつれて「ここは子供っぽく歌いたい」とか、「ここは男らしく歌いたい」とか、部分によって違う人物として歌いたい曲だったので。切り替えが難しかったんですが、1曲の中でどんどんキャラクターを変えながら歌うのが新鮮で面白くて。

きくお　「のぼれ！すすめ！高い塔」はアルバムの中で一番歌詞が長いんですよ。それに収録曲の中で一番物語性が強いのもこの曲ですね。なのでこの曲のミュージックビデオが作りたくて、MVに出てくるイラストをマンガ家の西島大介さんにお願いしたんです。

──なぜ西島さんに依頼をしたんですか？

きくお　西島さんは、かわいさと残酷さを両立させたイラストを描くことができるマンガ家さんだからですね。まさに「のぼれ！すすめ！高い塔」という曲が、かわいい一面があるのにすごく残酷なストーリーだったので、この曲のイラストを描いてもらうとするならば西島さんしかいないと考えていたんです。最初はコマを割って楽曲の世界を描いてもらうつもりだったんですけれど、西島さんと打ち合わせをしたときに「この曲だったら大きな1枚の絵にしたほうがいい」と提案していただきまして。

花たん　絵のところどころで楽曲の歌詞が表現されているんです。

きくお　歓楽街とか遊園地があって、塔の上のほうは建設現場になっているんです。さらに雨が降り始めて、最終的に塔が崩れてしまうところまで、楽曲の歌詞を忠実に1枚のイラストで表現していただきました。

花たん　絵を遠くから見たときの印象と細かく読み解いていったときの印象が全然違って。動画でも楽しんでもらいたいですけど、この1枚のイラストもじっくり観てほしいですね。