TikTokで話題のトランジション系クリエイター・ケチャップが音楽シーンへ|DECO*27と語る、デビュー曲「加工迷彩」の制作秘話 (2/2)

DECO*27らしさが存分に発揮された歌詞

──では、ここからはデビュー曲「加工迷彩」について聞かせてください。最初の打ち合わせの時点で何か楽曲のイメージはあったんですか?

ケチャップ アーティストとしてのケチャップは誰も知らないだろうから、今回のデビュー曲を通して間接的に私という存在を伝えたいと思ったんです。その思いを自分なりに文章にして、DECO*27さんにお送りしたのを覚えています。

──間接的に?

ケチャップ DECO*27さんが書く歌詞には考察する余白があって、そういうところがめちゃくちゃ好きなんです。まず歌だけを聴いて、次に歌詞を読んでみると、最初に自分が想像していた表記と違っていたりする。そうすると自分の中で意味が広がったり、歌詞の面白みが増すんですよね。だから「加工迷彩」の歌詞は私の思いを書いた文章をお渡しして、あとはDECO*27さんにお任せしたいなと。

ケチャップ

ケチャップ

──なるほど。DECO*27さんはどのように歌詞を書いていったんですか?

DECO*27 タイトルの「加工迷彩」は、ケチャップさんにとってのトランジションをイメージして付けました。“トランジションという迷彩をかぶって自分を表現する”という感じですね。最初にいただいたメモに、ケチャップさんが普段どんなことを考えているかが書かれていたので、それを歌詞に起こしていきました。あと今回はDECO*27っぽい歌詞が求められているのかなと感じたので、ほかのアーティストの提供曲だと使わないような言葉を多めに入れたりしていて。

──確かに「加工迷彩」にはDECO*27さんらしい歌詞が多く含まれていますよね。特に「昨日今日の『死のう』は明日の死語でしょ」という歌詞は、DECO*27さんらしい言葉の仕掛けだと思いました。

ケチャップ めちゃくちゃわかります!

DECO*27 「ああ死にたい」「もう嫌だわ」みたいな感情って、明日になると気分が変わって忘れていたりするじゃないですか。明日は明日でつらいことがあるかもしれないし、いいことがあるかもしれない。おっしゃっていただいた部分は、そういうことを表現したところですね。

ケチャップ 「加工迷彩」の歌詞はすべてが“ザ・DECO*27さん”という内容で本当にうれしかったんですけど、中でも「だめ? ダメ?」というキャッチーなフレーズにずっと「?」が付いていたのに、最後の歌詞では「?」が消えて「だめ ダメ 普通じゃ BAN BAN BAN」になっているんです。ちょっとした表記の違いで莫大な情報量がやってくるというか。自分が好きだったDECO*27さんの歌詞の雰囲気が出ていて、本当にうれしかったです。

オーダーを120%汲んだTAKU INOUEのトラック

──TAKU INOUEさんのトラックはどうでしたか?

ケチャップ 自分は重低音が効いた曲やバキバキな音が入っている曲が好きで、そういう曲だとトランジションにも合うと思ったので、「銃声が欲しいです」「トランジションしやすい要素があるとうれしいです」と提案させていただきました。そしたらオーダーを120%汲んだカッコいい曲を作ってくださて……「かっけー!!」という気持ちしかなかったです。

TAKU INOUE

TAKU INOUE

──途中でテンポがガラッと変わる部分がありますけど、そういった仕掛けはトランジションを意識してのことかもしれませんね。

ケチャップ そうですね。素敵な曲ですし、DECO*27さんの歌詞ともすごく合っていて。どこを切り取ってもカッコいいトランジションが撮れる曲にしてくださいました。

DECO*27 最初に聴いたときは「TAKUさん攻めてるなあ!」と思いました。だからこそ同時に「これ、自分が歌詞を書くのか……」とプレッシャーを感じたりもして(笑)。でも、ケチャップさんが歌っているイメージがすごく湧いたし、トランジションにして表現する様子もパッとイメージできました。

──ヒップホップのトラップでも使われそうなトラックですよね。DECO*27さんの歌詞もラップ風というか、母音を細かく合わせることをかなり意識しているように感じました。

DECO*27 そこはめちゃくちゃ意識しました。伝えたいことを優先しすぎて韻を踏まなさすぎると、楽曲の魅力が落ちると思ったので、基本的には韻を優先して歌詞を書きました。あと今回はTAKUさんがトラックを作って、ケチャップさんが歌う曲だからこそ出てきた要素が多かったと思っていて。僕は普段、自分が書く歌詞の中で人間っぽいメタな言葉はあまり入れないんですよ。この曲の「白いご飯」「ふりかけ」という部分がそうなんですけど、例えば(初音)ミクが「白いご飯」と歌うのは変じゃないですか。なのでスパイスとしてたまに使うくらいで、普段は入れないようにしていて。でも今回は「ロボット」や「初期不良」のようなデジタルっぽい、自分が人ではないような歌詞と対比させるように「白いご飯」「ふりかけ」といったワードを使うことで、TikTokでの動画上にいるケチャップさんと、それを作っている人間としてのケチャップさんの中間から、それぞれの魅力を表現できたらいいなと思ったんです。

──なるほど。「加工迷彩 / 着させてちょうだい」「加工迷彩 / 剥がしてちょうだい」という部分も、その対比が効いてますよね。

DECO*27 そうですね。この部分は僕の想像で書いているんですけど、作品としてのケチャップさんが褒められてるときって「もちろんうれしいけど、人間としての自分自身も評価してほしい」という気持ちがあるんじゃないかと思ったんです。でも一方で、クリエイティブをしている人間は自分にないものを求めて創作活動をしていると思うから、ある意味で「クリエイターとして活動しているときこそ自分が表現できる」という瞬間もあるはずで。そういう意味で「加工迷彩」いう言葉を使ったりしています。

ケチャップ

ケチャップ

ケチャップ 「加工迷彩」の歌詞についていろいろと考えながらレコーディングしていたので、その答え合わせができてれしいです。「なんで白いご飯という言葉を使うんだろう? 自分の人間くさい部分を表現してくれたのかな」と考えていたので、1人のオタクとしても感激です。

DECO*27 ちなみにデモの仮歌は僕が歌ったんですよ。キーを上げたものをケチャップさんにお渡ししました。

ケチャップ 「もしかしたらDECO*27さんかな……?」と薄々気付いてはいました(笑)。でもキーを上げていたからなのか、めちゃくちゃかわいい声だったんですよ。

DECO*27 (笑)。僕がイメージした譜割りがわかりやすいように自分の仮歌で送ったんですけど、それを踏まえつつ、ケチャップさんらしさをしっかりと出してくれてめちゃくちゃよかったです。

トランジション界隈が盛り上がるきっかけに

──改めて「加工迷彩」はどんな楽曲になったと感じていますか?

ケチャップ まずは自分の初めての楽曲を、こんなに豪華な方々と一緒に作ることができたのは本当に身に余ることだと思っていて。アーティストとして努力して、少しでもお二人に追い付きたいという気持ちです。自分の想像を超える楽曲になりましたし、MVもとても素敵な監督さんに担当いただいていて、本当に感謝しています。トランジショナーのメジャーデビューはなかなかない機会だと思うので、今後のアーティスト活動も気合いを入れてがんばりたいです。

ケチャップ

DECO*27 僕もめっちゃいい曲になったなと思っています。できあがった音源を聴いて、このチームじゃないとできなかっただろうと感じました。「クリエイターとしてのケチャップさんと、普段のケチャップさんの両方を描かねば」と没頭していたので、自分の中ではもう何回もケチャップさんに会って、何回も曲を作っている感覚になっていたりして。そういう不思議な感覚になるくらい、貴重な経験をすることができました。

ケチャップ こちらこそです。ありがとうございます! この曲をTikTok音源として多くの方々に使っていただけたらうれしいです。音楽の方面から知ってくださった方がいたら、トランジションの認知の向上につながると思いますし、トランジション界隈が盛り上がるきっかけになればいいなと思います。それでまた新しい作品が生まれたり、表現の方法が広がったりしたらうれしいですね。

プロフィール

ケチャップ

PPP STUDIO所属、TikTokを中心に活躍する“トランジション系クリエイター”。カットとカットをつなぐための切り替え効果のことを指す映像編集技術・トランジションを用いた動画コンテンツが注目を浴び、TikTokのフォロワー数は240万人を突破している。TikTokでの活動のほかに、D2Cアパレルブランド「ケチャップマニア」の発足や、フォトエッセイ「一人だけど孤独じゃない 中二病クリエイター、世界でバズる」の出版など幅広く活動。2022年3月にはトイズファクトリー内のレーベル・VIAから、配信シングル「加工迷彩」をリリースしてアーティストデビューを果たした。

DECO*27(デコニーナ)

アーティストでありながら他ミュージシャンのさまざまな楽曲の作詞、作曲を手がけるプロデューサー。ロックやエレクロニックをベースにしたジャンルレスなサウンドとメロディ、愛や恋といった万人が持つ感情を独特な言葉遊びで表現した歌詞で若い世代を中心に注目を浴びている。2008年10月よりVOCALOIDを使用した作品を動画共有サイトに投稿。これまでに公開されたDECO*27楽曲の関連動画を含む総再生回数は10億を突破している。また、Hey! Say! JUMP、まふまふ、Ado、浦島坂田船、江口拓也、柴咲コウ、ホロライブ、MILGRAM、「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」などのプロデュースを担当。そのほかさまざまなアーティストへ楽曲を提供している。2022年3月には通算8枚目となるアルバム「MANNEQUIN」をリリースした。