Ken Yokoyama「Better Left Unsaid」インタビュー|コロナ禍を乗り越え新たなステージへ (2/3)

最近の健さんこんな感じだよね

──では今回のシングル「Better Left Unsaid」はどういうフェーズの作品になるんでしょう?

横山 1曲目の「Better Left Unsaid」に関してと言いますと……「4Wheels 9Lives」を作ってライブでグシャッとなれず、コロナ禍以前のような感触は得られなかったけど、みんなの生活に入り込んでいることは感じられたんです。だから、僕としては「次行こう、次!」って感じで、その“次”に選んだのがミッドテンポという。実は、次のアルバムや作品群はミッドテンポとマイナーキーの速い曲中心だってことをメンバーには話していて、それで最初にできたのが「Better Left Unsaid」だったんです。自分で言うのもなんですけど、すごくいい曲ができたなと思っています。

──ここまでの流れを踏まえると、リスナー的には爽快感が強くてめちゃくちゃ速い曲が来るのかなと思いきや、がっつり聴かせる曲という。

横山 はい(笑)。これはさっきお話したことと被ってしまうんですけど、今思っていることがすぐできるわけではないので、結局1、2年前のフェーズを作品として出さなきゃいけないんですよ。ただ、暴れられない時期に速い曲を出して、それが解禁されたらゆっくりな曲を出してというやり方は、下手くそだなと思いつつも、バンドの素直な動きがそうだったというだけで。そりゃあ今日書いて、明日レコーディングして完成、明後日リリースできるんだったらめっちゃ速い曲書きますよ?

一同 (笑)。

──それこそ、「4Wheels 9Lives」にしても2019年からの流れのもと完成したわけで、いい意味で時代を意識しつつもコロナにはとらわれていない。だから、コロナ禍を抜けても色褪せない楽曲になるだろうなと当時から感じていました。それはこの「Better Left Unsaid」に関しても同様だと思うんです。皆さんはどういう気持ちで、この曲のレコーディングに臨みましたか?

Minami これからたくさん作っていくであろう曲のうちの1つでしかない……という言い方はちょっとさっぱりしすぎているかもしれないですけど、このテンポ感や曲の世界観が何か特別な意味を持つとも思っていなかったし、歌詞の内容に関しても「最近の健さんこんな感じだよね」っていう。それぐらいでしかないかな。

Jun これからいくつかリリースがあると思うんですけど、「Better Left Unsaid」はその中でも一番古くからある曲で。制作を続けていく中で、健がさっき言ったように「ミディアムテンポを増やしたい」というのがあったから、当然そういう曲が上がってきただけなのかな。あと、ここ最近はうちら的に「2ビート縛り、クソ食らえ」的なところもあるのかなという。前は「それがうちらっぽいでしょ?」と期待に沿っていたところもあった気がするんだけど、今はそうでもなくていろんなことをやりたいから。「Better Left Unsaid」も「いい曲だね」と思いながら作った、そんな感じですね。

EKKUN 確かできあがってから1年経つ曲なんですけど、歌詞の世界観と曲調がいい感じにギャップがあって、すごく大胆な曲だなって改めて思います。

EKKUN(Dr)

EKKUN(Dr)

横山 ギャップあるかなあ?

EKKUN いや、日本語訳を見ると“死”とか出てくるから。

Jun でも、それはここ最近の傾向だよね。

Minami 今に始まったことでもないから。

EKKUN そうなんですけど、「Better Left Unsaid」だけをフォーカスしてみると俺はそのギャップに「おお!」と唸った記憶があります。

Jun 去年のライブでもやっていたから演奏し慣れている感もあって、当然最初にリリースするならこれがいいんじゃないかというのは、4人とも一致していたんじゃないかな。

「黙ってるほうが得」

──僕はこの「Better Left Unsaid」、横山健のソングライター / メロディメイカーとしての卓越した才能や詩人ぶりが端的に表れた1曲だと思っていて。僕の感覚ですけど、在りし日のジョン・レノンとリンクするなと感じているんです。

横山 それは面白い意見ですね。「Better Left Unsaid」っていう言葉自体が、世の中に対するちょっとした逆張りじゃないですか。僕が書いた歌詞自体は男女のストーリーですけど、「男女の仲であっても、なんでもかんでもお互い話そうね」とかって、そんなきれいなことじゃないよねって思いがあるわけで。加えて、誰もが発信できる時代になり、SNSを通じて「なんでこいつ、こんなこと言うんだろう? 言わなきゃいいのに」と思うことも増えたので、そういう受け取り方もできるよなと。そこらへんの感覚がもしかしたら体制側や世論と戦ってきたロックンローラーたちと近いものがあるのかもなとは思います。

横山健(Vo, G)

横山健(Vo, G)

──対個人としても、そして対社会としても共感できる歌詞が、こういう普遍的なメロディに乗せられて歌うことが本当にすごいなと。

横山 まあ……人はそれを才能と言いますけどね(笑)。

一同 (笑)。

「どうするつもりなんだ」

──一方で、「Whatcha Gonna Do」はその対極にあるとも言える1曲です。

横山 これは以前思いついたレゲエ調の曲で、WANIMAにあげたものなんですよ。

──それをなぜこのタイミングにセルフカバーしようと思ったんでしょう?

横山 何かきっかけがあったんだっけ?

Minami 健さんが急に言い出したんですよね。

Jun リハのとき、急に思い立ったように「あれ(「Whatcha Gonna Do」)やるのも手だな」と言い出して。EKKUNはこの曲のことを知らなかったから、動画サイトに上がっているやつを聴かせたりして、そこから広がっていった気がする。

Jun Gray(B)

Jun Gray(B)

EKKUN 確かそのときって、カバー曲の可能性を探っていませんでしたっけ?

Minami ああ、そうだったね。

EKKUN そこを探っていく中で、思いついた感じだったような。

横山 僕が作った部分から先をWANIMAがしっかり完成させて、彼らはレコーディングまでしているんです。で、それを僕たちが形を崩してやっているので、セルフカバーみたいなものではあるんですけど。ステイホームの時期に一度、彼らがインスタに上げたんですよ。そのときに「やっとあの曲が形になったんだ」とは思った記憶があるんですけど、なぜそれを自分たちでやろうと思ったかは自分でも謎です(笑)。

ド下ネタを“空耳”英語に

──Ken Yokoyama流に作り直すうえで、まず歌詞に目が行くわけですが……これは響きを重視して書いたんでしょうか?

横山 これはMinamiちゃんが書いたんですよ。

Minami 日本語の歌詞が強烈すぎて、普通にレコーディングしても何も面白くないし、どうすればいいんだろう?と最初はすごく悩んだんですよ。それこそ2週間くらい手を付けられずにいて、半ば「もう日本語で歌えばいいじゃん!」と思ったくらい(笑)。で、ある日のリハの休憩中に、「こういうふうに聞こえたら面白いかもね」って健さんがポロッと言ったんです。そのアイデアを拾って、昔の「掘った芋、いじるな」的な形で作るしかないかなと思って。

横山 何それ?

Jun 昔、日本人が「What time is it now?」を空耳的に言ってたやつね。

横山 ああ、「Don't touch my mustache.」が「どういたしまして」みたいな?

Minami そうそう。その流れで作るしかないと思ったんです。要は、歌詞に「ちんこ」とか出てくるわけじゃないですか。だからこそ、こっちに逃げたところもありますね。

Hidenori Minami(G)

Hidenori Minami(G)

横山 僕はこの形に着地して、「Minamiさん、さすがだよ!」と。もしWANIMAが日本語で歌ったものをそのまま英訳していたら、ここまでじゃなかったかもしれない。でも、さっきMinamiちゃんが話した苦労があって、これを受け取って。素直にガン上がりしましたね。

──しかも、演奏がめちゃめちゃカッコいいんですよね。

Minami そのギャップが一番面白いですよね。

Jun レコーディングも面白かったし。「やっぱりこれ、『ちんこ』って言ってるよな?」って(笑)。どう聴いてもそうじゃねえかと。

横山 最初、笑っちゃって歌えなかったですからね。「50過ぎたおじさんたちが本気でバカをやると、こういう形になるんだな」という楽しさを、自分でも実感しましたし。ちなみにこれ、ギターソロは1957年製ビンテージのレスポールを使っていて。

Minami そうそう(笑)。

──ギターソロはEaglesみたいですよね。

横山 そうなんです。どうしてもコード進行がEaglesの「Hotel California」チックなので、なるべくそのオマージュに落とさないようミュージシャンシップを発揮させました(笑)。