謙遜ラヴァーズがCD作品「Pondemix」を3月8日にリリースした。
謙遜ラヴァーズは鈴木伸宏(ill hiss clover / NOBLAND)と伊藤翔磨(SHOWMA)からなる楽曲制作ユニット。2018年6月公開の上田慎一郎監督作映画「カメラを止めるな!」で、メインテーマ「zombeat」と主題歌「Keep Rolling」を担当して注目を集めた。「カメ止め」の公式スピンオフ音楽作品として制作された「Pondemix」には、「zombeat」のリアレンジ音源「zombeat -Pon! ver-」、ボーカルオーディションで選ばれた渡辺リコが歌う「ポンデミックスガール」「君の魔法にかけられて」、インストの新曲「TRUE FINISH」「Beach」など計9曲が収められる。
音楽ナタリーでは本作のリリースを記念して謙遜ラヴァーズと「カメ止め」の主演俳優・濱津隆之の対談を実施。謙遜ラヴァーズの結成の経緯や「Pondemix」の制作秘話、そして濱津の知られざるDJ時代のエピソードなど、対談ではさまざまな話題が繰り広げられた。また対談終了後には謙遜ラヴァーズに追加取材を行い、「Pondemix」のキーパーソンと言える女子大生シンガー渡辺リコについても語ってもらった。
取材・文 / 秦野邦彦 撮影 / 沼田学
人生を一変させた「カメ止め」フィーバー
──日本アカデミー賞8部門優秀賞受賞、地上波テレビ初放送と、ここ最近、立て続けにおめでたいことが重なりました。皆さんにとっても「カメラを止めるな!」との出会いは人生が一変するくらい大きな出来事になりましたね。
濱津隆之 そうですね。事務所が決まったことがあんなに大々的に取り上げられるとは思ってもなくて。でもほんと生活は180°変わりました。
鈴木伸宏 声もかけられますよね? マスクしてましたもんね、さっき。
濱津 ははは! あれは風邪予防のマスクなので。
伊藤翔磨 それこそ今回、公式スピンオフ音楽作品として「Pondemix」を作らせていただいたこともそうですね。もともとは鈴木くんが上田慎一郎監督と幼なじみで、上田監督が「今回の映画、音楽をお前に頼みたい」となったところから始まって。それで鈴木くんが知り合いの僕に声をかけてくれて。
鈴木 今まで伊藤と一緒に曲を作ったことはなくて、今回ギターをメインにした楽曲にしたかったので、ギタリストとして信頼している伊藤に一緒に作らないか声をかけました。
──鈴木さんは上田監督とは幼稚園からの幼なじみですが、最初にお話があったときはいかがでした?
鈴木 もともと僕がやっていたバンド(ill hiss clover)の音と、彼が作る映画のイメージは、ちょっとジャンルが違う感じだったんです。「カメ止め」では自分がやりたいことを全部やると決めて僕に声をかけてくれた。うれしかったですね。
伊藤 謙遜ラヴァーズは、新宿のイタメシ屋で鈴木くんから「ちょっと今度こういうのやるんやけど一緒にやらん?」みたいな会話から始まったんです。でも、映画が公開されたら一気に感染者が増えていって……。
鈴木 感染者って「カメ止め」ファンの専門用語やん(笑)。
伊藤 映画が盛り上がっていく様子をスタートから内側から見ることができたのはすごく貴重な体験でしたね。
濱津 やっぱりあそこに集まってきてたキャスト陣もみんな何かしらの思いを持って来てたというのはあって。それぞれの思いがひとつになったデカさというのは絶対あるなと思います。
鈴木 上田は濱津さんが辞退してたら「カメ止め」の撮影自体をやめてたと言ってました。
「zombeat」は“ザ・ハリウッド”のイメージ
──ちなみに謙遜ラヴァーズというユニット名はどうやって決められたんですか?
鈴木 これは僕がゲームで使ってるアカウント名ですね。ほかに思い浮かばなくて。「全然謙遜してないやん」ってツッコミを受けることはよくあるんですけれども(笑)。
──映画のメインテーマ「zombeat」、主題歌「Keep Rolling」もヒットしました。
鈴木 濱津さんはサウンドトラックを聴いて正直どう思われました?
伊藤 その感想は聞きたい!
濱津 「zombeat」、めちゃくちゃカッコいいですよね。あれだけ聴くと、たぶん思い浮かばないと思うんですよ、(ポスターの自分の写真を指差し)このおじさんの姿が。
鈴木 このおじさんて(笑)。
濱津 まさかあんな情けない人たちしか出てこないような映画で流れている音楽とは思わない感じがしました。曲だけ聴くと。
鈴木 「zombeat」に関しては、音楽制作のオファーを受けた時点で「みんなを紹介するシーンで流れる、“ザ・ハリウッド”って感じの曲で」と上田からイメージを伝えられていたんです。それで伊藤と組もうと思って。彼はがっつりギタリストなんで。
伊藤 そうね。最初に言ってた。
鈴木 ギターがガーンって鳴る“ザ・ハリウッド”という感じの曲をやりたくて。僕、映画を全然観ないんですけど、曲を作るにあたって上田の家でハリウッド映画のオープニングを何本か一緒に観ました。
伊藤 でもわりとすぐに曲の方向性は決まったよね? 最初に「こんな感じでどうでしょう?」っていうのを送ったら、「それはちょっとハワイアンみたいだからちょっと違う」と言われてしまったけど(笑)。
鈴木 そこからブラッシュアップしたものを改めて聴いてもらったら、すぐに「めちゃめちゃいいね」みたいな感じになって。
伊藤 あとは細かいところを詰めていって。作業自体はスムーズでした。
──映画の最後に流れる「Keep Rolling」についてはいかがですか?
濱津 あの歌詞、鈴木さんが書いたんですよね。あれすごいですね。
鈴木 ははは。マジすか。
濱津 昨日改めて歌詞を読んで「すごいな」って。
鈴木 恥ずかしいなあ。そんなの濱津さんから言われたことないんですけど(笑)。
濱津 あと、菊地成孔さんが自分のラジオ番組(TBSラジオ「菊地成孔の粋な夜電波」)の最終回でこの曲の歌詞を朗読していて、すごいなあと思いました。
鈴木 あの日は、まさに上田の家に別の用事で行ってて、車で帰ってる途中、「ちょっとこれ聴いてよ!」って上田からLINEが届いて。あれは本当にびっくりしました。まさかラジオから、自分が書いた歌詞の朗読が流れてくるとは思わないじゃないですか(笑)。
濱津 「Keep Rolling」は本当にいい曲ですよね。うちの親とか姉ちゃんも、「いい歌だよね」と言ってました。
──「カメ止め」公開後にはサントラCDも急遽発売され、劇場で品切れが続出するなど大ヒットを記録しました。
濱津 音楽も含めてこんなふうに全部が盛り上がることなんて、そうそうないですよね。でも、まさか自分の顔が写ったCDがタワーレコードに並ぶなんて思ってもみなかったです(笑)。なんだか不思議な気持ちでした。
「カメ止め」から生まれたドラマを音源化
──では改めて、今回「Pondemix」という公式スピンオフ音楽作品を作ることになったきっかけを教えていただけますか。
伊藤 最初はサントラをリリースしてくれたランブリングレコーズの担当者さんと「また一緒に何かできたらいいですね」みたいな、ぼんやりした会話を交わしたところから始まって。それが去年の秋くらいですね。
鈴木 そこから打ち合わせをして、どういう作品にするかという話をしたときに、この映画に起こったこと自体がドラマというか、「カメ止め」公開後に、1つの物語が生まれているんじゃないかという話になったんですよ。で、それをモチーフにした作品にしたら面白いんじゃないかと。
伊藤 そこから“公式スピンオフ音楽作品”というコンセプトが生まれたんです。
──1曲目を飾るのが「zombeat -Pon! ver-」。ファンも望んでいたフルバージョンです。
鈴木 今回のバージョンはライブ感をいかに出すかということがテーマだったんで、一発録りでレコーディングしました。観客動員数200万人突破記念パーティでこの曲を生演奏で披露することになったんだけど、お客さんの反応がめちゃくちゃよかったんです。それで今回バンドバージョンを入れることになって。
伊藤 「zombeat」は皆さんの印象に残っているギターのリフが映画で言えば本編だと思うんです。なので、「カメ止め」のキャッチフレーズでもある「この映画は二度はじまる。」みたいな感じで、あのギターリフをベースに新たな曲の展開を加えていったんです。
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普段は微動だにしない濱津が……