Ryu、ナガイケジョーとの制作

──2曲目の「Precious Time」には、Ryu（Ryu Matsuyama）さんがアレンジャーとして参加しています。

彼とは対バンもしていて、以前から面識があったんです。この曲のアレンジを進める中で、ピアノアレンジが合うなというイメージが浮かんできて。1曲ぐらいは自分以外の人にアレンジしてもらいたいという思いがあったので、ピアノも達者なRyuくんにお願いしました。彼は自分でも歌う人だから、僕のシンガーソングライターとして表現したい部分もしっかりと汲んでくれるだろうと。ただ、この曲だけ全編生演奏というのも違う気がしたので、打ち込みがコンセプトであることも伝えて。さっき話した冒頭のプロローグから、歌がドンと始まる構成は気に入ってますね。

──3曲目「Roll A Die」と7曲目「I'll Be There」には、SCOOBIE DOのナガイケジョーさんがベースで参加していますね。

どちらもソウルフレーバーの漂うものを入れたいなと思ったんです。あと、単純にジョーさんのベースで聴いてみたくなった。「Roll A Die」のほうは、自分で鍵盤で弾いたベースラインやPCの画面上で並べた音をジョーさんが弾いたらどうなるかなっていう興味から頼んでいて。「I'll Be There」のほうは、自分が考えたベースラインがあまり気にいらなかったので、ジョーさんお任せで入れちゃってくださいとお願いしました。だから、頼んだ内容がまったく違うんですよね。

──打ち込みのビートに、生のベースを重ねてグルーヴを生み出していくことの面白さもありますよね。

絶対あると思います。あと「Roll A Die」はドラムフィルターみたいなエフェクトがいくつか出てくるんですけど、あれもパソコン上でトラックを組んでいる段階で、DJするときのフィルターのような感じで作り込んじゃって。遊びの部分もOKにしちゃう、気軽な感じも楽しかったですね。今回のアルバムは「やっぱりなんか楽しい！」とか、音楽作りの基本のところに立ち返った作品でもあるから。もちろん生みの苦しみもあるけど、そもそも楽しくて音楽やってただけだしっていう、そういう原点に返っていく中の1曲だったかもしれないですね。今話しながら思い出しましたけど（笑）。

──ちなみに「Roll A Die」のサイコロというモチーフには、どんな思いが込められているんですか？

偶然に生まれたものって世の中にたくさんあるけど、僕はそれをなるべく必然だと思いたくて。運に左右されるところも大きいけど、全部が運任せじゃないと思って生きていきたいというかね。サイコロを振るって、出た目は運によるものだけど、そのサイコロを振ろうと思ったのは自分じゃないですか。偶然誰かと道で会ったとして、それは偶然なんだけど、その道をどこかで選択しているわけで。「今日こっちの道から行ってみようと思った自分ナイス！」みたいな（笑）。そんな感覚が重要なんじゃないかと考えていたから、サイコロをモチーフに歌詞にしてみました。

今回のアルバムだからこそ生まれた「Colors」

──4曲目の「Colors」は、これまでのKeishiさんの楽曲の中でも異色な、ストレートなギターロックです。

ギターで曲を作っていて、歪んだエレキギターのストロークが象徴的なアレンジが浮かんだんですけど、自分でも今までにないアプローチだなと思いました。オルタナティブロックとかあまり通ってこなかったところを、今の自分の解釈でストレートに表現したらどうなるんだろう？っていう。だけど、こういうアレンジにしようと思ったのも、打ち込みで自宅レコーディングというコンセプトがあったからこそだと思います。普通にドラムもベースも生だったら、たぶんこういうふうに作ろうとは思わないはずで。この歪んだギターに、自分のシンセベースで作りたいっていう、純粋な衝動。だから、あまり迷いはなかったですね。

──サビの「声にならない私の感情よ もっと自由に燃えて昇っていけ」というストレートな歌詞と、気持ちが晴れていくような展開がとてもいいなと思いました。

「Colors」は去年の秋ぐらいから弾き語りライブでも演奏してるんですけど、ずっと観てくれているお客さんの反応も、聞こえてくる声も、ほかの曲とは違うような気がします。もちろんそこにすべて左右されるわけではないけど、僕はやっぱり、歌は届いてなんぼだと思っているので。

「Like A Diary」に込めたミュージシャンとしての意思表示

──6曲目の「おぼろげ」はギターに四本晶さん（oysm）、ベースに田口恵人さん（brkfstblend）が参加しています。ファズギターがリズムを刻むリフから、ストリングスのアレンジが入ってくる広がりのある歌ですね。

大事な人に会えなくなること……例えば死別もあるだろうし、恋愛のお別れもあるだろうし。そういうことでしか感じられない、喪失感っていうのも、人生において無視できない感情だと思う。無視できないことは、やっぱり歌にしていくべきだろうなと。それで、こういう歌詞を書くことにしました。実体験としてというよりは、もう少し広い意味で書いてるんですけど……大きなショックを受けると、時間が止まってしまうような感覚ってあると思うんです。それでも生きていかなきゃいけない。歌詞の中では「移ろいを盗まれた」と表現していますが、悲しみ尽くしたその先には、やっぱりまだ行くべき場所や、やるべきことがある。そんなことを歌っています。

──本編ラストの10曲目「Hope」は美しいピアノとコーラス、そこに重なる打ち込みのビートとシンセベースがいい違和感を生んで、耳に残るバラードになっています。最後のヴァースの「諦めること以外なら全てやろう 賭けるよ 希望を」というフレーズは、正しく希望の道筋を示してくれるような印象を受けました。

音楽だけでガラッと何かを変えることはできないけど、変えるための1つのきっかけにはなると信じているので。音もそうだし、こういう言葉の1行とか、そういうものをみんながそれぞれの人生に持ち帰ってもらえたらうれしいなって思います。

──本編最後に入っているこの歌のメッセージは、「Like A Diary」というアルバム全体にも通底しているものだと思うし、この美しい曲のあとに、どっしりしたビートのインスト曲「Dawn Again」がエピローグとして入ってるのは、この先に果てしなく続く日常を歩んでいくことへの力強い意思にも感じます。

なるほど。それはうれしいですね。そうそう、CDがリリースされるまではどこにも言ってなかったけど、この最後に入れたインストって、実はライブのSEのために作った曲なんです。本編は「Hope」で終わってるんだけど、そこから「Dawn Again」してライブにつながっていくのも面白いかなって。ミュージシャンとしての意思表示でもあるし、もちろんこれからもライブを続けるよって思いも込めてるつもりなので。アルバムのリリースツアーは、今までで一番音源とは違うライブになるでしょうね。でも、弾き語りもそうですけど、やっぱり音源とは全然違うことをもともとやってますから。音源をそのまま再現するのがライブだとは思っていないし、ライブが音源を超えてくることになるかもしれない。そのへんは自分自身も楽しみなところでもあります。ライブに来てくれるお客さんにも、そこを楽しんでほしいですね。