片平里菜|5年間で集めた“欠片たち”を手に未来へs

THE BACK HORNと「最高の仕打ち」

──今作にはTHE BACK HORNが演奏に参加し、バンドサウンドにアレンジされた「最高の仕打ち(New Recording)」が収録されています。THE BACK HORNと再録したのはどういう経緯だったんですか?

今回のベストアルバムのタイミングで「最高の仕打ち」をアレンジして再録したいなと思っていて、誰にアレンジをお願いしようかなと考えてたんです。そのタイミングで「風とロック芋煮会2018 KAZETOROCK IMONY学園」という福島のイベントに出たんですけど、そのときに私は1人でステージ袖から怒髪天のライブを観てたんです。そしたら反対側で栄純さん(菅波栄純 / G)も観ていて。そのライブのあとに「怒髪天のとき、里菜ちゃんがいたの観てたらレコーディングをしたくなった」と言ってくださって。以前、THE BACK HORN兄さんたちとツーマンライブをやったときに「最高の仕打ち」をアレンジしていただいてご一緒したことがあったので、これはぜひお願いしようと。

片平里菜

──アレンジはどうやって詰めていったんですか?

ライブで1回やって手応えもあったから、完全に栄純さんにお任せしました。私は勝手にTHE BACK HORNだから骨太なたくましいロックアレンジになると思ってたんですけど、できあがったものはそれだけじゃないと言うか。ベース、ドラムのリズム隊はそれこそ骨太でどっしりしてるんですけど、そこに乗るギターはどことなく切なくて壊れそうな音で。この曲の歌詞の内容や精神性を汲み取ってくださったんだなあと思いました。

──バンドサウンドながら、原曲の持つフォーキーな感じもどことなく残ってますよね。

そうですね。アコギも入れてもらって。

──どうして今回「最高の仕打ち」を再録しようと思っていたんですか?

この曲は2ndアルバム(2016年2月発売「最高の仕打ち」)の表題曲なんですけど、当時のレコーディングのときに本当はバンドアレンジにするつもりだったんです。でも大事な曲すぎて勇気がなくって結局「歌とギターだけでよくない?」って結論になって、HAWAIIAN6のYUTAさん(Vo, G)のギターと私の歌だけにしたんです。そのあとライブでたくさん歌って自信も付いたから、今ならバンドアレンジして世に出せるなと思ったので。

──「大事な曲すぎた」というのは?

片平里菜

10代の頃から自分の中にあったわだかまりみたいなものが、この曲ができたことで解放されたんです。そういう意味ですごく大事な存在で。だからアレンジすることによって安っぽくなってしまうのが嫌だった。もちろんアレンジしてくれるのが信頼しているバンドの兄さんたちだからそんなことはないとわかってたんですけど、でも当時はまだ怖かった。

──確かにライブでもいつも弾き語りで披露していますよね。マイクも通さず、肉声で歌うことも多くて。

この曲はきれいに歌っても伝わらないと思って、ライブや弾き語りでは地声で張り上げるように歌っています。肉声だからこそお客さんもすごく集中してくださるので、こっちもちゃんと届けたいという気持ちになる。その空気感がけっこう好きなんです。

──張り上げるように歌う弾き語りのときとは違って、今回のバンドアレンジでは優しさを感じる歌い方になっていますね。

今回、歌い方も栄純さんにディレクションしてもらったんです。バンドでTHE BACK HORNのロックな兄貴たちが支えてくれることによって、私は男らしさとか人間らしさみたいな役割を担わなくていいので、むしろ優しさを出したほうがいいよねって話をして。ちょっと達観してると言うか、「最高の仕打ち、するの? しないの? どうなの?」って問いかけてる感じにしました。

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“自分の歌”じゃなかった「女の子は泣かない」

──5年間を振り返ると、片平さんの名前を一気に広めたのは2014年1月に発売された2ndシングル「女の子は泣かない」でした。この曲にはモデルになった方がいらっしゃるんですよね。先日Twitterで書かれていたその方とのエピソードと「歌ってすごい。本当に歌った通りになる」という言葉が素敵でした。

うれしい。「女の子は泣かない」は実体験ではなくて、親友の体験を膨らませて書いた曲だったから、最初は「自分の歌じゃない」という気持ちが強くて。でも歌っていくうちに、感情移入できるようになって、好きになっていきました。

──初めは好きじゃなかった?

自分の身から出た感じがしなかったんですよね。なんか本当にサラーっと書けちゃったんですよ。話を聞いて「そういう恋があるんだな」って思って書いて、スタッフに聴かせたら「すげえ曲だ!」って大きくなっていっちゃって。その間も私は気持ちが入り込めないでいたんですけど。

──片平さんは人の話を曲にしていくことが多いと思うのですが、ほかの曲ではそういう気持ちにならないんですか?

例えば「この涙を知らない」(2016年1月発売の6thシングル表題曲)もある映画からインスパイアされて書いたんですけど、「女の子は泣かない」以外の曲はわりと自分の感情も投影されてるんですよね。主人公に同調して書けてる。

──じゃあ本当に「女の子は泣かない」だけが、曲の中の主人公と自分に温度差が生まれていたんですね。

そう。あとからついてくるみたいな経験はこの曲だけでしたね。

アイデンティティを示せる表現者に

──ちなみにご自身ではこの5年間でターニングポイントはいつだと思いますか?

片平里菜

えー、いつだろう。常に迷い狂ってるんで……。私の活動ってぐちゃぐちゃしてるんですよね。亀田誠治さんにプロデュースしてもらってポップにしてもらったかと思えば、OAU(OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND)とかHAWAIIAN6に手伝ってもらうこともあって。「結局のところ、片平里菜ってなんなの?」って言われたら、わからないんですよね。

──確かに毎回違うアプローチをされていますね。

実はそれもけっこう葛藤でした。毎回違うアレンジャーさんにお願いして、いろんなアーティストさんとご一緒させていただいていろんな経験ができた反面、定住してる場所がなかったから。

──先ほどもパブリックイメージを壊すためにいろんなことに挑戦してきたとおっしゃっていましたもんね。

結局、自分で曲を作って歌っているということしか一貫してない。

──そこがブレないから、いろんな方と作品作りができるんでしょうね。

そう。それは強みと思っています。ゼロからイチの作業をしているのは全部自分だから、そこに誰が加わっても芯は変わらないのかなっていう。

──傍から見ていると、作品を発表するごとにどんどんたくましくなっていった感じがします。

片平里菜

あー、そうかも。そう考えるといろんな服を着てみて、いろんなものをまといすぎて、「一旦裸になりたい」みたいな時期が去年出した「愛のせい」の頃だったかなと思いますね。さっき「常に迷い狂ってる」と言いましたけど、そのときは「自分の強みってなんだろう?」ってことをずっと考えていたんです。特に制作の後半はよく自分と向き合っていた感覚があります。

──その結果、見えたご自身の強みとは?

声と言葉。なので「愛のせい」では歌詞を重視して作っていきました。そうやって作品ごとにそのときどきの成長過程がつまっていると思います。

──そんな成長過程のつまった曲たちを収録したベストアルバムには「欠片たち」を意味する単語「fragment」がタイトルに冠されています。このタイトルを付けた理由を教えてください。

欠片たちをかき集めて宝箱に収めるような気持ちで、曲を大切に並べたので。欠片なので、完璧ではないんですが、未完成なものなのでその先があるということも感じ取ってもらえたらと思います。

──いろんなものを着て、一旦裸になって、今後はどうなりそうですか?

今度は服を着たくなりました!(笑) さっきギタ女の話になりましたけど、そりゃあ見た目はギターを持ってる女だし、分類されても当たり前だよなってことに気付いて。だから今は、自分で「私はこういう人間です」って提示できるようになりたい。去年までは削いでいく作業だったけど、これからは必要に応じていろんなものをまとって、アイデンティティを提示できるような表現者になりたいです。

片平里菜
ライブ情報
片平里菜 live 2019 「fragment live darling & honey」
  • <day1 darling>
    2019年2月10日(日) 大阪府 なんばHatch
  • <day2 honey>
    2019年2月24日(日) 東京都 Zepp DiverCity TOKYO