柏木由紀の新曲は「攻めすぎず守りすぎずの超絶妙にいいライン」
──柏木さんとしては7年5カ月ぶりのソロシングルで、もうソロで新曲は出せないのかもと思ってたみたいですね。
柏木 そうですね。ライブはやってたんですけど、新しく自分の曲が欲しいと思ってました。でも、なかなかきっかけとかタイミングがないと思ってたので、今回ぴったしの機会をいただけてありがたいですね。
──番組中で柏木さんは「そろそろ尖ったことをしたい」と話してましたけど、そういう意味でもジャストな作品でした。
柏木 ああ。確かに。仕上がった楽曲は超絶妙にいいラインというか。
渡辺 そうですね(笑)。
柏木 振り切りすぎず、でも守りには入ってないというか。今日の取材の時点では解禁前ですけど、絶対にファンが喜ぶのがわかるからすごいなって思いました。作戦なんだろうなというか。でも、すごくいい。
──WACKのちゃんとした方向性の部分で勝負したなっていう。
渡辺 あははは(笑)。違うんですよ。僕たちがなぜいろいろ言われるかっていうと、相手してもらえないから変なことしてたわけで。
──世間にかまってほしくて(笑)。
渡辺 そう、かまってほしくて。変なことしないと見てくれなかったんでやってただけで、別に真っ当にいい曲を出して「いい曲だ」って言ってくれるんだったらやらないですよ(笑)。でも、やっぱり柏木さんを今回やるにあたって、僕たちじゃなければ引き出せないものを見てほしいな、と。今まではどうしてもやっぱりブランドとしても、AKB48ということもあったと思うので、そうじゃない部分を出さないと僕たちもやる意味がないと思ったので。どちらかと言うと、しっかり僕たちもできるんだってところも見せたいと思ったし。という中での、考えの中でうまくやったなって自分でも思います。皆さんに認めてもらえるものを出しました。
──一部のファンは心配してたでしょうからね。「ものすごい下品な曲とかやられたらどうしよう」って。
渡辺 そうですね、ホントに。あのー、そこまでバカじゃない(笑)。
一同 あはははは(笑)。
渡辺 いや、このあとはわかんないですよ? もしこのあとも続けさせていただけたとしたら、アルバムの曲の中の1曲くらいはもしかしたらちょっとあの、シークレットトラックとかで99曲目に入ってるみたいなのであるかもしれませんけど(笑)。本当に単純に楽しくやらせていただきましたね。柏木さんという、誰もが知っている方とやらせていただくということでの気持ちが引き締まる部分と。やっぱり僕もマネジメントしてる部分として、サウンドプロデューサーの松隈ケンタ(SCRAMBLES)を売るためにずっとやってきた部分があったんで、そこをまた聴いてもらえるチャンスがあったりというところで言うと、もう2人で震えながら作りましたね。「大丈夫かな」って。
柏木 いい曲です。
柏木由紀が体験したWACK流レコーディング
──こんなに完全WACK仕様になってるとは思わなかったですね。シングル3曲ともプロデュースして。
渡辺 僕もそう思ったんですよ。1曲だけやらせていただく感じかなと思ってたら。なんかぱっとボールをパスしていただいて、シュートは僕だなみたいな感じではありましたね。
──柏木さんとしては今までとは明らかに違う曲をやったわけですけど、レコーディングの仕方も今までとは違う感じだったんですか?
柏木 そうですね。渡辺さんと松隈さんが現場にいらっしゃって。秋元さんはレコーディングに立ち会わないので、そこもまず違いましたし。歌い方とか指示とかも全然AKBと違って楽しかったです。ドキドキして行きました。
渡辺 うまかったです。うちのアーティストより。
柏木 いやいや、そんなわけないでしょ(笑)。私は逆で、みんな上手だから、「どんなもんなんだ?」と思われてるだろうなと思ってて。
──ロック的な歌い方がまた難しいでしょうしね。
柏木 そうなんですよ。慣れてないですし。
渡辺 事前にスタッフさんから言われてたのは、いろんなプロの観点からなのかちょっと僕もわからなかったんですけど、「喉とかも弱いのと、なかなか長時間歌えないんで」……みたいな、けっこうネガティブなことを先に言われていたんで。
柏木 私は言ってないですよ、ちなみに(笑)。周りがそう思って優しくしてくれたんですけど。
渡辺 周りから心配されてっていうのと、あんまりこき使うなよみたいな。
──渡辺さんがひたすら追い込んで泣かすまでやるみたいな印象があるからですかね?
渡辺 そうそう。そういうところを、皆さん別に柏木さんを落とすとかじゃなくて、たぶん優しさで言ってたんだろうなって。
柏木 あはははは(笑)。
渡辺 そしたら初っ端、柏木さんに一旦つるっと歌ってもらった瞬間に、僕と松隈で顔を見合わせて「歌えんじゃん! ガンガンいこう」みたいな感じにはなりましたよね。あと、すごいなと思ったのは、結局、けっこうタイトなタイミングで歌詞決定とかもやってたんで、2日前とかでしたよね?
柏木 けっこうギリギリでしたね。
渡辺 だったんで、僕たちの制作体制がよくなかったんですけど、柏木さんは3曲ともちゃんと覚えて来られてたんで、すごいなあと思って。たぶん想像を絶する忙しさだと思うので。感動して、松隈も逆に遠慮しちゃいけないってことで、けっこう細かくああしてこうしてというのはやって、僕たちも楽しくできましたね。
柏木 楽しかったです。ちゃんと向き合ってもらっているというか、対等に言ってもらえるのがうれしかったです。曲については絶対覚えていかなきゃとはさすがに思ってましたね。AKBのレコーディングもいつもギリギリなのでやりますけど、それよりも自分の曲だし、書いていただいたので。コンビニで歌詞を印刷して、書き込んで、本当にちゃんとやろうと思っていきました。
柏木の気持ちに寄り添った歌詞に驚き
──秋元さんの歌詞とはやっぱり違うなあって感じでした?
柏木 ああ。違いますよね。
渡辺 僕はけっこう真似してるんですけどね。
柏木 ええー! ホントですか?
渡辺 秋元さんの歌詞ってすごく印象的というか、耳に残る。いわゆるプロの作詞家とは違うアプローチがあるし、どっちかというとストレートな歌詞だなといつも思ってるので、僕もそういうふうにしようっていうので、本当に秋元さんの歌詞を見て勉強するっていうのはありますけどね。
柏木 確かに違和感は感じなかったです。書く人が変わるとこんなに変わっちゃうんだっていう感じよりかは、形、形式に違和感はなく。ただ、今まで自分の気持ちを歌ってる曲がなかったので。グループだし、そこがたぶん違うというか。ラジオで話したり、いろんなアンケートじゃないですけど、情報をやり取りさせていただく中で、こんな出会って数カ月の中で「え、こんなに私のことわかるんだ!」っていう。
──アイドルや歌をずっと続けていきたいみたいな思いが歌詞に反映されてますよね。
柏木 そうですね。そこも押し付けがましくなく、私の微妙な繊細な部分が全部きっちり歌詞の中に入っていて、私の気持ちとリンクしてない部分が1つもない。今までそういうことがなかったので、歌っていても感情が乗りました。
渡辺 こっ恥ずかしいですね。
柏木 むちゃくちゃいいです。
渡辺 なかなか時間のない中で、お話させていただいて。好きな映画とか好きな本とか、どういうことを目標にしているのかを聴いていく中で、柏木さんの一番の目標は「歌い続けること」だったので、柏木さんだったらどう思ってるのかなとか。それこそ過去のネット記事とか柏木さんの発言などもいろいろ拝見させていただく中で僕もいろいろ想像しながら書いて。逆に言うと僕はそのときどきでしかないものを歌詞にすることが多いので、今のがお世辞だったとしてもすごくうれしいです。
柏木 ちょっと(笑)。嘘は付かないですよ、お世辞じゃなく、本当に思ってます。
渡辺から見たプロデューサー秋元康の人物像
──ちなみに渡辺さんはプロデューサー秋元康をどう見ていたんですか?
渡辺 いやーもうレジェンドだからどう思ってたも何もないんですけど。見てて思ったことで言ったら、怖い人。
柏木 へえ。
渡辺 一生交わることのない人だとは思ってましたね。AKB48とうちのグループは真逆なんで、やっぱり交わっちゃいけないとも思いますし。でも、秋元さんは本当にすごいなというか、出す企画、出す企画が本当に面白いですし、羨ましい存在ではありましたね。それこそテレビもそうだし、ラジオもそうだし、たぶん……言い方があれですけど、なんでも動かせるじゃないですか(笑)。
一同 あはははは(笑)。
柏木 確かに(笑)。
渡辺 たぶんですけど、秋元先生がこうテレビ局に電話して「これやってよ」って言ったら、通らないものってきっとないじゃないですか。想像ですけど。やっぱり羨ましいなっていうのが一番かもしれないですね。あとは僕が目のあたりにするというか、僕が始めたのもそれこそ10年前くらいですけど、その中でAKBがガツーンと上がるときで、そのときは僕たちのイメージの中でもアイドルって気持ち悪いおっさんが「うおおあ! ゆきりーん!」とか言ってるイメージだったんですよ。
柏木 はっはっは(笑)。まあまあ。イメージはそうですよね。
渡辺 なんですけど、そこからどんどん変わっていった時期というか。若い女の子たちが憧れて、みんながAKBになりたいって時期だったんですよね。僕がアイドルを始めた頃には。
──ピンチケも増えて。
渡辺 そうですね。若い男の子もいっぱいいて、みたいな。
柏木 確かにそう。いっぱいいた。
渡辺 そういう意味で時代を何回も作ってるじゃないですか。秋元先生が。そういうムーブメントを作るってことは僕もいつかできたらいいなとは思ってるんで、憧れの存在だなとは思ってますね。変な話ですけど、「TO-Y」(「週刊少年サンデー」で連載された上條淳士によるマンガ)っていう男の子のアイドルがのし上がっていくマンガがあるんですけど、そこに“ゴジテレビ”というたぶんフジテレビがモデルのテレビ局と組んでビジネスをやる放送作家さんが出てくるんです。おそらく秋元康さんがモデルだと思うんですけど、それを見て「こういう人になりたいな」って高校生、大学生の頃に思ってたんで。
──「TO-Y」を読んで憧れるポイントがそこだったんですか!
渡辺 いやーなんか。テレビ局と癒着して。
一同 あははははははは(笑)。
渡辺 これまた言い方っすよね? 癒着じゃなくて……
──手を組んで!
渡辺 そうそう、それ! すっごく楽しいだろうなと思って。
──メディアと組んで一緒に悪ふざけするみたいなやり方が。
渡辺 そうですね。僕もちょっとずつ夢を叶えている話ではあるんですけど、そういう意味ではやっぱり秋元先生がたぶん近いな、と。
──なんで言い切ってるんですか(笑)。
渡辺 ……やだもうこのインタビューやめたい(笑)。
柏木 あはははは(笑)。
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AKB48とBiSに見る共通点は“過酷”