柏木ひなたインタビュー|ネガティブな歌姫がソロで歌い続ける理由 (2/2)

「うわ、川谷絵音だ」

──「piece of cake!」を経ての2曲目「踊りましょ」は川谷絵音さんの提供曲で、アルバムに先行して配信リリースされました。柏木さんは川谷さんが企画する舞台「独特な人」で2度共演していますが、どこか波長が合うんですかね。

そうですね。2年前の舞台(2022年9月4日に東京・大手町三井ホールで開催された「川谷絵音 presents “独特な人” 第五回公演『影と毒⁺⁺』」)で共演したときに、アフタートークで「今度ソロになるんで曲を書いてください」とお願いしていて。今回本当に書いてもらいました。どんな曲にするかはもう、お任せで。

──舞台で共演して声もキャラクターも把握した状態での“当て書き”ということですよね。川谷さんなりに柏木ひなたという人について考えて、その回答が「踊りましょ」と。

はい。すげー!と思いました(笑)。ちゃんと見てくれてたんだなって感じましたね。川谷さんが作る楽曲が素晴らしいというのはわかってたけど、その相手が私となったときにどういう楽曲になるのか楽しみでしかなかったし、届いたときは「うわ、川谷絵音だ」って(笑)。改めてすごさを感じました。

──クールなダンストラックにギターの鋭いカッティングや不穏なフレーズが差し込まれる、川谷絵音楽曲の旨味がたっぷり詰まった楽曲で。柏木ひなた×川谷絵音の組み合わせとしてベストな曲だなと思いました。

本当にそう。ありがたいです。

──川谷さんは柏木さんの歌についてどう思ってるんですかね。直接何か言われたことはないですか?

どう思ってるのかなあ。「トレンディガール」(2019年6月にリリースされた私立恵比寿中学の13thシングル表題曲。作詞および作編曲を川谷が担当した)のレコーディングのとき、裏で「あの柏木さんって子、歌うまいですね」と言ってくださってたらしくて「直接言ってよ!」と思いましたけど(笑)。舞台のときも歌に関しては何も言われなくて「好きなようにやってください」と任せてくれる感じで。

──「踊りましょ」のボーカルディレクションは川谷さんではなく?

はい。曲をいただいてからまだお話ししてないんですよ。

──じゃあ完成版の感想もまだ?

そう! どうしよう、どう思われるんだろう。

──どうですか? 川谷絵音節をうまく表現できたと思いますか?

できたのかなあ? 「違うんだよなあ」って陰で言われたらどうしよう(笑)。

柏木ひなた

グループ時代とは違う、歌声の新たな表現と発見

──6曲目の「Culmination」はパンクに近いアプローチの荒々しいロックで、「柏木ひなたがソロでやりそうな曲」のイメージから一番遠いかもしれません。

大変ですよ。ライブでどうやって歌えばいいんだろう(笑)。ロックぽい曲は今までも歌ってきましたけど、ソロで歌うのはホントに大変。でも昔からのファンの人はたぶんこういう曲が大好きだから、ファン目線で考えるとロックな曲がアルバムに1つあったらうれしいだろうなって。

──こういう意外性のある曲はディレクターが持ってくるんですか?

はい。「これは絶対難しいよー」と思ってたのに、「ライブでやったら絶対盛り上がるよ」という言葉にまんまと(笑)。こういう曲はグループで歌うのと1人で歌うのでは熱量がハンパなく違うから、曲に持ってかれちゃう感じがあると思う。1曲で燃え尽きちゃいそうだから1人で歌う自信がない……。

──ライブだとバンドの人も演奏していて楽しいだろうし、一緒になって勢いで歌ってる姿は想像できますけどね。

うんうん。大丈夫、アドレナリンでなんとかします!(笑)

──9曲目の「エキストラガール」は、冒頭でお話した安室さんのR&Bのようなルーツを生かせる楽曲だと思いますが、いかがでしたか?

この曲が一番、自分の中で歌い方を探るのに苦労したかもしれないです。歌詞的にちゃんと女の子でいなくちゃいけないので、そのかわいさをどう表現するか。ちょっと潰した声でやってみたらうまく表現できたけど、1曲通して歌うのは難しいです。

──歌詞に描かれている女性は少しキザな雰囲気がありますよね。それを演じるように歌っている?

そうですね。ちょっと芝居がかった感じ。自分ではなくてこの子……エキストラガールちゃん(笑)。まんまの私で歌ったらエキストラガールちゃんじゃなくなるから、ちゃんと女の子らしさを出すにはどういう声が合うんだろうって。歌い方の発見は1曲の中ですごくたくさんありました。

柏木ひなた
柏木ひなた

──「19」は2nd EP収録曲「11人の私」に続いてGalileo Galileiの尾崎雄貴さんが作詞で参加しています。

「11人の私」がすごく素敵な楽曲になったので、アルバムでももう1曲ぜひとお願いしました。これはタイトルを先に決めてオーダーしたんです。「今まで24年間生きてきて、一番のターニングポイントになったのは何歳のとき?」とディレクターさんに聞かれて、いろんなポイントがあったけど、自分が大きく変わったのは19歳のときかなって。

──それは時期でいうと……?

エビの6人時代が始まった頃。グループとしても大きく変化をしたタイミングで、個人としても高校を卒業して1年くらい経った頃、まだ子供でいたいのに、大人にならなくちゃいけないっていう。それで「19歳」をテーマに歌詞を書いてもらいました。

音楽だからこそ共有できるネガティブ

──歌詞に関してはどの曲も自分で「こういう歌詞がいい」という希望は出しますか?

テーマは考えています。内容についてはお任せで、それを私がどう受け取って表現するかという。

──歌詞の受け止め方について、ソロになってから変化を感じるところはありますか?

グループでは、みんなの受け取り方は違うけど目標となる答えが1つあって、そこに向かってそれぞれの道をたどっていくようなイメージで。ゴールを先に決めてそこに向かってたけど、今は1人だから、ゴールは決めずにいろんな道をたどって正解を見つけ出せばいいんじゃないかなって。そこはけっこう大きく変わったところかもしれません。

──ソロを続けていくうえで「こういうことが歌いたい」あるいは「こういうことは歌いたくない」という決め事はない?

私は根がポジティブじゃないから(笑)、自分から出てくる言葉はちょっと暗いというか、ネガティブになりがちだけど、そういうことも歌っていいんじゃないかなと思っています。ネガティブなことって、音楽だと共感しやすい部分がすごくあると思うんです。ネガティブなことをストレートに言われてしまうと受け入れられないけど、音楽にはメロディがあるから意外とすんなり入ってくる。ポジティブでいることも大事だけど、私はネガティブも大事なんじゃないかなと思っているので、そこを共感してもらえるような歌が歌えたらいいなという思いはありますね。

柏木ひなた

──ソロアーティスト柏木ひなたとしては、サウンド的な面はもちろん、どういう言葉を発していくのかも現状は手探りなんじゃないかと思うんですよ。この声ならばこういうメッセージが伝えやすいとか、この性格だからこそこういう言葉が深く響くとか、ここから先はそこがもっと絞れてくるのかもしれないですね。

そうですね。ソロになって急に暗い曲ばかり歌ってるとみんな心配しちゃうと思うから(笑)。以前からのファンの人は天真爛漫で明るい柏木ひなたのイメージがあると思うし、もちろんそういう自分もいるけど、そうじゃないネガティブな自分もいるわけで。そこがうまく表現できれば「あ、あんなにいつも笑ってるやつでもこんな悩みがあったんだ」とか(笑)、音楽だからこそ共有できるものがあると思います。

柏木ひなたは、なぜ歌うのか?

──これは突き詰めると「自分が歌う意味とは」という話にもつながりますよね。単に「楽しいから」で全然いいと思うんですけど、そこに意味を見出すとしたらどういう回答になりますか? 柏木ひなたは、なぜ歌うのか。

たぶん……自分が生きるために歌ってるんだと思います。自分のために歌ってる。ステージに立てばその時間はみんなで楽しむために歌ってるけど、一番は自分のために歌っているのかなと思う。マイクを持てなければ生きていけない(笑)。音楽で救われているなと思うし、ステージで歌ってるときが一番「生きてる!」って実感できるんです。

──ある意味わがままでも歌を歌い続けていたい。

はい。いろんなアーティストさんがいる中で、みんなはなんのために歌っているんだろう?と最近たまに考えるんです。でも自分のこととなるとその答えは出せなくて。「自分の歌声でみんなに元気になってほしい」という気持ちもあるし、求めてもらえることはうれしいんだけど、私で大丈夫なのかなって思っちゃう。そういうのを取っ払ったときに「なんで私は歌ってるんだろう?」と考えたら、やっぱ自分のためなんだなって。

楽しく生きる!

──1人で歌う道を選んで1年間模索した結果がこの「1/24」の15曲、ということですよね。ソロアーティスト柏木ひなたとしての出発はこういう形です、という。自分なりの表現ができたという満足度、充実度はどのくらいですか?

すごく高いです。柏木ひなたはこういう子、というイメージが長年活動しているとやっぱりついてくるから、そのイメージだけにとらわれていたくないなという気持ちがずっとあって。こうしてソロとしてやらせてもらえるとなったときに「チャンスだ」と思ったんです。いろんな自分が出せたらそれがまんま私だし、ありのままでいられているということ。それがこの「1/24」というアルバムで表現できて、素直な自分が出せたという満足感があります。

──この15曲を持って、ここからはステージで堂々と勝負していくということですね。そこについての心配はあまりなさそうですけど。

はい。1stワンマンのときは2nd EPのリリースから3日後だったので、ファンのみんなもまだ曲に馴染んでないという心配があったと思うんですけど、アルバムツアーの初日までは1カ月くらいあるので……私はもちろんしっかり体に入れてから挑みますけど(笑)、ファンのみんなもしっかり聴き込んで来てくれると思うので楽しみです。

──アルバムを出してツアーをやって、その先の具体的な目標は何かあるんですか?

どうしていこう? 25歳……そう、25歳になっちゃうんですよ! 四捨五入したら30ですよ。

──歳をとることに怯えるタイプではなさそうですけど、どうなんですか?

歳をとりたくないということはないんですけど、私、先のこととか全然考えられないから「30歳のときに何をしてると思いますか?」と聞かれてもわかんないんですよ。今年の目標は?って事務所でもよく聞かれるんですけど……。

──なんと答えるんですか?

「楽しく生きる」「いっぱい笑う」とか(笑)。大人になったら全力ではしゃぐようなことがどんどんなくなってきたなと思うんですよ。毎日健康に、笑って、楽しく生きてないとダメだなって。

柏木ひなた

公演情報

HINATA KASHIWAGI 1st TOUR ~enchantment~

  • 2024年4月27日(土)神奈川県 Yokohama Bay Hall
  • 2024年5月3日(金・祝)愛知県 DIAMOND HALL
  • 2024年5月4日(土・祝)大阪府 BIGCAT
  • 2024年5月6日(月・振休)宮城県 Rensa
  • 2024年5月17日(金)福岡県 BEAT STATION
  • 2024年5月23日(木)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)

※ライブ中の撮影可能(携帯電話・スマートフォンのカメラのみ、本格的なカメラ等はNG)

プロフィール

柏木ひなた(カシワギヒナタ)

1999年3月29日生まれ、千葉県出身のソロアーティスト。2010年、11歳で私立恵比寿中学に加入し、2012年5月にシングル「仮契約のシンデレラ」でDefSTAR Records(現:SME Records)よりメジャーデビューを果たす。グループでの活動と並行し、映画、舞台、ドラマで主演を務めるなど俳優としても活躍。2022年には初のソロライブツアー「柏木ひなた生誕ソロライブ『-Interlude-』」を行った。同年12月に私立恵比寿中学を卒業し、ソロアーティストの道へ。2023年6月、配信シングル「From Bow To Toe」でソロデビュー。その後2作のEPを発表し、12月に東京・ステラボールで1stワンマンライブ「HINATA KASHIWAGI 1st LIVE~Euphoria~」を行った。2024年3月に1stフルアルバム「1/24」をリリース。4月末よりライブツアー「HINATA KASHIWAGI 1st TOUR ~enchantment~」を行う。