Karin.|「solitude ability」をショートフィルム化 表現者が語る青春と孤独

教室に入ったら先生がギターを持って待っていて

──この物語は、アキの青春の記憶の中に残るであろう人物との出会いを描いていると思いますが、皆さんにとって、青春時代を象徴する人はいますか?

伊藤 高校生のときに出会った、今でも仲よくしてる唯一の親友がいます。私は乃木坂46の一員として高校1年の夏から活動していたので、学校の記憶ってほとんどなくて。でも、彼女といる記憶だけは残っています。アキが小野寺(晃良)くん演じるキイタの存在を光に例えていたのと一緒で、彼女は太陽みたいで。ただそばにいてくれた、っていうか。連絡を毎日取り合う仲でもないんですけど、ずっと頭の片隅にいるみたいな存在です。会えばわかる、というか、お互いがお互いを思っていることをすごく感じます。

──アイドルとしての活動を始めて、生活がガラッと変わる中で、その親友の方が心の支えになっていたのでしょうか?

伊藤万理華

伊藤 その親友がいたから、学校も通えたし勉強もしたし(笑)。グループのメンバーたちも青春の記憶ではあるんですけど、私が元の自分に戻る瞬間は、やっぱりその親友と居るときだなって。それを分ける必要はないかもしれないし、メンバーといるときもすごく楽しいんだけど、また違う、普通の自分……いや、普通って言葉はよくない。普通という言葉を、自分は使われたくないから。なんだろう。自分が好きなことの輪郭が改めてわかる、とか。そういう感じです。

──お仕事柄、自分が持っている外に向けた側面を使うことが多い中で、そうではない自分自身の内側の感覚や感情を共有できる、大事な存在だったのかもしれないですね。

伊藤 そうですね。そうです。

──Karin.さんにとって、そういう人物はいますか?

Karin. 青春って言われて最初に浮かぶのは中学校のときの先生ですね。美術の女性の先生なんですけど、その人の影響で音楽を始めたんですよ。ひと目で元バンドマンだなってわかるくらい全身真っ黒のファッションで、椎名林檎さんをリスペクトしていて。人間関係がうまくいかなくて、悲しいなと思っていた時期があったんですけど、昼休みに私だけ美術室に呼んでくれて、教室に入ったら先生がギターを持って待ってくれていて(笑)。

──すごい!(笑)

Karin. 「何歌ってほしい?」って聞かれて、「丸の内サディスティック」をお願いしたら、その場で弾き語りしてくれて。いまだにその先生とお茶しに行ったりしています。その人のおかげで、音楽がどれだけ素敵なことか気付けたんですよね。それまではずっと下を向いていたというか、いろんなことをあきらめていたんですけど、その考え方が変わったんです。

伊藤 すごい。その先生、カッコいいですね。

Karin. カッコよかったです。枝さんにとって、忘れられない人はいますか?

 仲のいい子はいたし、この人に救われたなって思い出もあるけど、自分の中のミューズみたいな存在はいなくて。「いたらいいな」と思いながら、こういう話をずっと書いてるのかなって思います。でも、Karin.さんの先生の話を聞いて、私にとっては祖父が大事な存在だったなと。両親が忙しくて祖父と過ごす時間がすごく長かったんですよ。のんびりした人で、一緒に散歩したり料理作ったり、写真を一緒に撮ってみたりとか。祖父はそこまで写真がうまいってわけではなかったんですけど(笑)。高校2年生のときに亡くなってしまって、生きていたら今の私の活動を一番喜んでくれただろうし。ある意味、一番の親友だったので。それこそ、太陽みたいな存在でした。でもすごく祖父からの影響が大きすぎたから、いなくなった実感が全然ないんです。どこかで生きてるんじゃないかって思う。初めて写真の仕事をしたときは、祖父のカメラを使いました。

めんどくさいけど、孤独を飼い慣らしておくことも必要で

──今回の作品のキーワードの1つでもある、“孤独”についても話を聞きたいです。孤独ってネガティブなようで、創作の源泉になったり、人間には必要なことなのかな、とも思いますが、それぞれ皆さんが孤独とどういう付き合い方をしているのか教えてください。

枝優花

 監督って孤独な仕事だな、とは常々思いますね。脚本制作から始まって、撮影、編集、仕上げ、宣伝までずっと作品のことを考えていて。自分の作った映画は自分の生んだ大事な子、みたいな気持ちになるんです。一緒に撮影をするスタッフは、撮影中はもちろんそれぞれのプロフェッショナルを発揮して、すごく頼りになるんですけど、撮影期間が終われば次の現場に行くわけで、つまり別の子の面倒を見に行ってしまう(笑)。もちろん分業なので、それは当然なんですけど、作品のすべてを思っているのは自分だけだし、そこに孤独を感じる瞬間はあります。去年の今頃は特にそういうことを考えていましたね。でも、最近はバンドの曲を書いてるフロントマンとか、イラストレーターとか、小説家とか、0から1を生み出す人に出会うことが多くて、みんな同じ悩みを持っているんですよ。「俺が曲書かないとメンバーが食えないからさ」とか言ってて。「はー、わかる」みたいな。ジャンルは違えど役目が近い人たちがいるんだと思ったら、「がんばろ!」と前向きな気持ちになりますね。

──監督という仕事は、たくさんの人の思いを受け止める仕事でもありますよね。

 そうなんです。例えばお芝居のワークショップを開くと、みんな「人生どうにかしたい!」という切実な気持ちで来てくれるから、私もそれに向き合って、なんていうか、愛を振りまくんですよね。全員のことをちゃんと見るし。40人と10時間かけて向き合い続けて、それが何日間か続いたりすることはまったく苦じゃないんですけど、終わって家に帰って1人になったとき、自分の中の“愛”が全部空っぽになって、「私には誰がくれるんだ? 愛を……」という孤独が突き上げてくるんですよね(笑)。

──その孤独は、なかなか人と共有しにくいかもしれないですね(笑)。

 しにくい。ぽっかり空いた部分を何が埋めてくれるんだろう。人に頼むのは無理かも。恋人とか友達に求めることではない気がして、趣味をめちゃくちゃ増やしてます(笑)。アニメを観たり、植物を育てたり、自分自身を大切にするというか。他者に頼って埋めてもらうってけっこう難しいことだし、自分は自分として立っていられるように、「がんばろ!」って。

──映画を撮ること自体が、孤独を和らげることでもあったりするのでしょうか?

 それもあるし、ある意味、孤独を満たしちゃいけなくて。すごくめんどくさいんですけど、孤独を飼い慣らしておくことも必要なんですよね(笑)。満たされちゃうと、作りたいという欲求がなくなっちゃう。傷ついた感情を、あまり癒さずに……ある意味、アスリートみたいな状態ですよね。制作するうえでのいいコンディションを整えないといけないので。それに疲れてあきらめたときに、もしかしたら作家性が変わったりするかもしれない。「自分はまだここで踏ん張らないとダメだなー」と思って、孤独を飼い慣らしています(笑)

「じゃあ作ればいいじゃん」と思っていれば、
自然と同じような気持ちの人たちが集まる

──Karin.さんは孤独な気持ちとどのように向き合っていますか?

Karin.

Karin. 私も枝さんと少し近いことを感じているかもしれません。普段、ライブとかレコーディングはバンド編成でやってるんですけど、みんなサポートメンバーなので、それぞれ自分の録音が終わったら帰っちゃうんですよね。ライブもそうで、終わったらすぐに解散になる。ライブで気持ちを共有し合って、「めっちゃ楽しかったね!」と確かになっても、終われば「おつかれさまでしたー!」と散り散りになる。さっきまでのあの気持ちを、どこに向けたらいいの?って(笑)。自分が中心になって何かを作るということは、孤独な行為なのかもしれません。枝さんの話と同じではないと思うんですけど、なんだか助けられた感じがしました。個人的に、万理華さんはどういうときに孤独を感じてるのかなって気になります。グループに属していたときと、自分1人でやっている今とで、孤独の種類は変わりますか?

伊藤 説明が難しいんですけど。グループにいるときって、作品の一部として自分があるというか。ステージだったり、歌だったり、ダンスだったり。自分が必要とされるところで、求められることをして、グループと一体化していくんです。そこにいるときの居心地はもちろんいいんです。光を浴びて、たくさんの人がライブを観てくれて、いろんな会場に行って、名前を呼んでもらって。「自分はここに存在しているんだ、大丈夫だ」って思います。それがある意味快感でもあったんです。競争みたいなこともあったのかもしれないけど、自分の存在を認めてくれる人がいるっていうことが素直にうれしかったです。だから6年間活動してこれたと思います。でもその中で、Karin.さんや枝さんみたいに、0から1を生み出す存在に惹かれていって。私のお母さんは、昔ファッションデザイナーをやっていたんです。お父さんはグラフィックデザイナーで。そういう、0から作っていく人たちを見ていると、アイドルとして光を浴びる快感とはまた違う何かがあるんだろうなってずっと思っていたんです。

──そう感じたきっかけは何かあったのでしょうか?

伊藤 私が役者として最初に映像作品に出たときに、撮影現場でスタッフさんをずっと見ていたんですけど、とにかく楽しくて。撮影の合間、照明機材を動かしていたり、音を録っていたり、監督さんがずっとモニターを覗いていたり。そういうスタッフさんと一体になって映像を作っている自分が、すごく充実していたなあと記憶に強く残っているんです。孤独の話とは少しずれちゃうかもしれないけど。そういう感覚が少しずつ、確信に変わっていきました。でも、アイドルもすごく楽しかったです。バラエティにも出してもらえてかわいい服も着せてもらえて(笑)。

 (笑)。

伊藤 ただ、頭の片隅で自分を支えていたのは、そういう0から1を生み出す人たちと関わることへの渇望だったんです。6年間のアイドル経験の中で、生み出すことへの思いが溜まっていて。「全部自分でやってみたらどうなるんだろう?」っていう思いとともに卒業しました。でも、卒業して1年半くらいは、これまでで一番の孤独を体験しました。アイドル活動の反動のようなものもあったのかもしれないけど、なんか空っぽで、どうにもならなくて、すごくモヤモヤして。そうやって自分と向き合う中でたどり着いたのが“家族”というキーワードでした。それが2回目の個展「HOMESICK」を開くきっかけになりました。家族と向き合ったり、話をする代わりに、個展を開いて作品を作ってみようっていう発想になりました。「じゃあ作ればいいじゃん」という思いを持っていれば、自然と同じような気持ちの人たちが集まることもあるし。それがもしかしたらこの3人だったのかなって。今後もそういう方たちとお仕事をしていきたいです。

ライブ情報

Karin. 1st Live "solitude time"
  • 2021年6月12日(土) 東京都 LIQUIDROOM OPEN 16:15 / START 17:00
左からKarin.、伊藤万理華、枝優花。