今までやってこなかったことに向き合った「MIREMIRE」
──今回のEPのタイトルはどのように付けられたんですか?
雄大 ジャケットにもなっているんですけど、いろいろなテイストの曲たちが、大きな水槽の中で泳ぎ回っているイメージがあって。それに、ネオンテトラというお魚自体、きれいじゃないですか。キラキラ光っているイメージがある。それが今回のEPの楽曲の彩りを表現している気がして、このEPのイメージにピッタリだなと思ったんですよね。
──EPに収録された5曲の中で、最初にリリースされたのは5曲目に収録されている「MIREMIRE」ですよね。この曲はサウンドもそうですけど、過去を振り返りながらも未来に歩を進める姿を描いたような歌詞も美しいです。ミュージックビデオもとてもきれいな映像で。バンドとしては、この曲からメンバーの脱退を経て3人編成になったタイミングでもありましたけど、どんなことを思いながら作られた曲ですか?
雄大 「MIREMIRE」は新体制に入って1発目の楽曲だったので、音楽的に今までにないテイストを入れようと思いつつも、それだけじゃなくて。自分を応援するのと同時に、聴いてくれる人のことも応援できるような曲を作りたいなと思ったんです。切ないながらも、聴いた人の背中を押すことができるような曲にしたいなと考えていました。
──自分自身と聴き手の人生にとても深い場所で向き合っている楽曲だと思うんですけど、この曲には、雄大さん自身の人間性がにじんでいるんでしょうか?
雄大 そうですね。今年に入ってから作っている楽曲は特に、自分自身を投影している曲が多いです。「MIREMIRE」以降、そういう曲が多くなっている気はします。
──なぜ、今年に入ってそういうモードに?
雄大 もともと自分の正直な気持ちをストレートに表現するのは得意じゃなかったんです。でも、今年に入ってバンドが新体制になったのもあるし、少しでも、自分も変われたらなという気持ちがあったんでしょうね。それなら今までやってこなかったことに真正面から向き合ってみようと思ったし。曲調とかサウンドも変わってきたよね。
かずき うん。「MIREMIRE」からパッドを導入したんです。レコーディングでは打ち込みと生とのハイブリッド感を意識したし、音色はモダンに行くのか、ビンテージに行くのかとか、いろいろ考えました。パッドもイチから勉強したので大変ではあったんですけど、楽しかったですね。
樹 シンセベースもイチから練習しました。これから確実にシンセベースの曲も増えていくと思います。
雄大 というか、弾きたくてウズウズしてるんでしょ?(笑)
かずき 最近はずっとシンセベースの話ばっかりしてるもんね。
樹 シンセベースにハマっちゃって(笑)。インプットしまくってるんですよ。
──いいですね(笑)。
雄大 樹がシンベの話ばっかりするから、僕も曲に入れたくて入れたくて仕方がない(笑)。「MIREMIRE」はそういう音楽的な意味でも、「やっちゃっていいんだ」と思えた曲ですね。「許されたな」と思えた曲というか。だから、次にシングルで出した「ice」でも打ち込みのドラムを試してみたり、「MIREMIRE」で試みたことを詰め込むことができた。「ice」は、音数は少ないけど、そこに自分の癖とかこだわりを入れることができました。ここまでピアノが入ってくる曲も、今までのカラノアにはなかったし。
タイアップのうれしさは「演じる俳優さんたちも聴いてくれるのかも」
──雄大さんは、ご自身の音楽的な“癖”ってどんな部分に表れていると感じますか?
雄大 衝動的に変な音を入れたくなるんですよ。例えば「ice」ではチャカチャカと鳴っている音が入っているんですけど、「金属的なチャカチャカした音を入れたい」と思ったとき、そういう音を鳴らす楽器を探すんじゃなくて、変なこだわりで「家にあるものでその音を出そう」としちゃう。それで金属のキーホルダーと1円玉を右手で握って、その音を録ったんです。
──なるほど……すごく面白いです。
雄大 思いつきをすぐに形にしたくなるんですよね。「やっちゃおう!」って。
かずき あと「MIREMIRE」の制作からギタリストの永田涼司さんにサポートで加わっていただいたのも大きいよね。それによって音楽性がさらに広がった感じもします。
雄大 そうだね。永田さんの存在はものすごく大きい。一緒に仕事をしていて勉強になることも多くて。「MIREMIRE」と「ice」は永田さんにはあくまでギターのアレンジをしてもらっていたんですけど、「やさしいね」からは構成まで一緒に永田さんと考えるようになったんです。「打ち込みでこういうエッセンスを入れてみたら面白いんじゃないか?」みたいなやりとりをするようになって、それも大きかったです。
──EPの1曲目「aquarium」はドラマ「雨上がりの僕らについて」のオープニング主題歌で、先ほど「王道ポップス」という話も出ましたけど、それでも目まぐるしく展開していく、一筋縄ではいかない楽曲ですよね。
雄大 この曲は、ドラマの制作サイドから「主人公の奏目線の曲を作ってほしい」というオーダーをもらっていて。そこから原作を読んで、もはや主人公になり切る意識で歌詞を書きました。僕は今までボーイズラブの作品を読んだことがなかったんですけど、「雨上がりの僕らについて」は甘酸っぱいし、2人いる主人公どちらにも共感しやすいし、読みながらどんどん理解度が深まっていく感じがして。もう一方の主人公の曲も書きたいくらいなんですよね(笑)。
──「aquarium」というタイトルも、「雨上がりの僕らについて」に関係しているんですか?
雄大 はい。水族館でデートする描写があるんですけど、そのシーンが物語の「起承転結」で言うところの「承」と「転」の間くらいだなと、僕は個人的に思っていて。
──「転」じゃなくて「承と転の間」というところが、繊細でいいですね(笑)。
雄大 「そろそろ“転”が起きそう!」みたいな(笑)。今回、初めてのドラマタイアップだったんですけど、作っているときもワクワクして仕方がなかったです。「演じる俳優さんたちも聴いてくれるのかもしれない」と思うと、それもうれしくて。
3人の関係性は「いい意味で、バンドオンリー」
──そうしてもう1曲、「Paradise」というカラノアとしてはとても新機軸な楽曲が収録されていますね。
雄大 これは僕の大好き詰め放題みたいな曲ですね。ここまでガッツリとシンセを入れたのは初めてなんですよ。
かずき これで「シンセもいける」とわかったから、雄大は味を占めると思います。
──(笑)。本当に、どんどんと音楽性が膨張していますね。そのうえで、バンドでそれを表現することもまた大切にされている部分と言えますか?
雄大 それは絶対にありますね。バンドならではのグルーヴも絶対にあるし、この2人に出会ってしまったので。バンドの楽しさを知ってしまった以上、もうここから抜け出せないというところまできています。スタジオで演奏していて、お互い見ていないのにブレイクでバッチリと決まった瞬間とか、3人の見ている方向が一緒だからこそ、何の意識もせずともバチッと息があった瞬間とか……「ああ、音楽!」っていう気持ちになるんですよね(笑)。
──「音楽!」という喜びが最高ですね。
樹 この3人は好きな音楽はバラバラなんですけど、そんな3人がいろいろな要素を持ち寄って1つの楽曲ができるのは楽しいし、「そんな音楽もあるんだ!」ということもバンドをやりながら知ることができるし……とにかく楽しいんですよね。
かずき 誰かのサポートで演奏するのと違って、自分のバンドだとこだわれるしね。
雄大 それに小さい頃から一緒にいる3人じゃないから、逆に好きなことを言い合えるっていうのはあるよね。
かずき 確かに、恥ずかしさがないから。
雄大 いい意味で、バンドオンリーな関係というか。
樹 それがちょうどいいよね。
かずき うん、ホントにちょうどいい。
──歌詞の面で言うと、個人的に雄大さんが書く歌詞の現実的な感覚に惹かれます。例えば「MIREMIRE」には「腹が痛いくらい考えるけど」というフレーズがありますけど、「考え過ぎて腹が痛い」って、観念と肉体が混ざり合ったような表現だと思うんです。そういう日常生活の中で感じる、言いようがないけど確かにあるものを言葉にしているような部分が、雄大さんの歌詞にはあるような気がします。
雄大 僕は圧倒的に感覚で生きている人間ですけど(笑)、自分ではすぐに言葉にできないような感覚に対して「この感覚はどの言葉に当てはまるんだろう?」と考えて、無理やり言葉を作ったりしますね。
──「Paradise」の歌詞もかなり衝撃的でした。ものすごく人間が表れているというか、生活の中で生まれる混沌としたものが出ている感じがします。
雄大 この曲の言いたいことは、1番のサビ前くらいまでに全部詰まっていると思いますね。結末から書いている歌詞だと思う。「いろいろ窮屈なんじゃないの? 疲れちゃってるんじゃないの?」みたいな……正直、書いたときの記憶はあまりないですけど(笑)、このときの自分自身が切羽詰まっていたのか、窮屈だったのか。ひたすら「解放されたい」と思っていたのかな。
かずき この曲を書いていた時期は大変だったもんね。スケジュールもギリギリで。
雄大 そうだったかも。グワーッと書いた記憶はありますね。自分自身が窮屈だったから「蓋してんじゃないの?」と思って、溜まっていたものをこの曲にぶつけたのかもしれない。
かずき 今見るとすごい曲だよ(笑)。
──この「Paradise」の歌詞に出てくる「命の起こり」という言葉が、すごくインパクトがありますよね。初めて出会った言葉だなと思いました。雄大さんにとって、「命の起こり」とはどんな状態のことなんだと思いますか?
雄大 わかりやすく言うと、財布……いや、ペンだな。お気に入りのペンをなくしちゃったとするじゃないですか。探しても出てこない。それが数カ月後に、急にそのペンが見つかる。そのときの感覚が「命の起こり」に近いです。
──なるほど!(笑)
かずき なんで財布じゃダメなの?(笑)
雄大 財布じゃ重すぎる。
樹 重すぎるのはダメなんだ。
雄大 そう、「命の起こり」っていうのは、もっとキラキラしたものなんだよ。
公演情報
カラノア Presents Log Book Fest. Vol.2 ~NEW EP「ネオンテトラ」Release live~
2025年9月12日(金)東京都 渋谷eggman
<出演者>
カラノア / 雨のパレード / 大橋ちっぽけ
プロフィール
カラノア
2020年11月に結成されたロックバンド。現在のメンバーは雄大(Vo, G)、樹(B)、かずき(Dr)の3人で、東京・渋谷や下北沢を中心に活動している。2022年11月に初音源となるシングル「ナイト」を配信リリースし、初の自主企画ライブを開催。翌2023年8月には「MONSTER baSH 2023 オーディション」のグランプリを獲得した。同年11月に東京・shibuya eggmanで初のワンマンライブを開催。2024年に「ROAD TO ROCK IN JAPAN FES. CHIBA 2024」の優勝アーティストに選出され、8月に「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024」へ出演を果たした。2025年7月よりテレ東系で放送される連続ドラマ「雨上がりの僕らについて」に、オープニングテーマとして書き下ろしの新曲「aquarium」を提供。同月、この曲も収録した新作EP「ネオンテトラ」を配信リリースした。
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