カノエラナ「歌楽的イノセンス」インタビュー|アニメへの愛と願望を込めたアニソン主題歌集 (2/3)

中二病であることを受け入れている大人の私が歌いました

──ここからは新曲について伺います。まず1曲目でリード曲の「思春期中二話症候群」は、「中二話」を「なかにわ」と読ませていて。アルバムタイトルもそうでしたが、耳で聞く音と目で見た文字が一致しないという、カノエさんがよくやる言葉遊びですね。

こういうことばっかりやってきましたね(笑)。「思春期中二話症候群」にも元になったアニメ作品があって、中二病的な世界のお話ではあるんですけど、そこに私自身の学生時代を重ね合わせたりしていて。それもあって最初から「これがリード曲かな?」と思っていました。

──ポップで、どこかループ感があって、それでいてひねくれているというか。

ひねくれていますね。結局、中学生ぐらいの子は1つの世界しか見えていませんから。その世界の中で堂々巡りというか、ずっと回っているようなものを作りたかったので、Aメロから始まってAメロで終わる展開にしてみたり。

──歌詞に関しては、例えば「かしまし増し増しの特盛では お腹が減るの」「池には鯉、恋?んな訳ない」「桃栗3年だ 夏期講習なら見過ごした」など、同音異義語を用いて文脈を脱臼させ、飛躍させるみたいな。これもカノエさんらしいレトリックですね。

「この歌詞、どこ行っちゃうんだろう?」と思いながら書いていた部分もあるんですけど、最初から「とにかく遊んでやろう」と決めていた曲で、ほとんど冗談半分で作っていましたね。私の家にいるニワトリのぬいぐるみを見ながら、なんとなくポップな世界観で「このニワトリが動き出したり巨大化したりしたらどうしよう?」とかおかしなことを考えて。

──ニワトリを見ていたから「支離滅裂 コケッコ おはよう世界」なんですね。

そうそう(笑)。ボーカルも「ひねくれてやろう」と思って、めっちゃクセ強めで歌いました。ただ、あくまで中二っぽいひねくれ感というか、大人から見ればかわいらしいひねくれにとどめたかったので、声色はふわっと明るく。

──普段より怨念がこもっていないというか、カラッとしていますよね。

うんうん。根暗なひねくれはずっとやってきたんですけど、こういう感じは初めてですね。メタな言い方をすると「中二病であることを受け入れている大人の私が歌いました」というのがわかる感じ(笑)。

──続く「ラブレターヤブレタ」は、聴いていてアニメのオープニングっぽい映像が浮かんできます。

おお、うれしい。私はこの曲の元になった作品が大好きで、自分に刷り込むように観まくっていて。映像が浮かぶというのは、私の中でキャラクターを動かしながら作っていたからかもしれません。すごくわかりやすい1曲ですね。

カノエラナ

──ジャンルとしてはいわゆる青春ラブコメで、例えばAメロは主人公の登校シーンから始まり、授業中や休み時間のシーンでメインキャラがフォーカスされたりして、サビはみんなで走り出す感じ。

そうそう、そういうやつです(笑)。

──さわやかなギターポップで、ボーカルもみずみずしくて、先ほどの「思春期中二話症候群」とのギャップがすごい。

急に世界が変わるので、びっくりする曲順ではありますよね。でも、「ラブレターヤブレタ」のレコーディングでは喉が引きちぎれそうになりました。明るめの声色をさらに明るくする感じだったので、「なんだこの声は!?」と思いながら歌っていましたね。アプローチの仕方にしても、特にBメロの終わり、「最初で最後の始まりだ」の「だ」をどういう「だ」にするか迷ったりして。

──言われてみれば、カノエさんは語尾の処理にかなり気を遣っているように思います。

気持ちよくサビにつなげるためには、Bメロの終わりをどうするかという問題があって。だから跳び箱の踏切板みたいな感じで、どれぐらいの勢いで踏み切るのがいいのか、何テイクも試しましたね。

──歌詞もとても素直ですね。曲名はダジャレになっていますが。

このタイトルは、ちょっとふざけずにはいられなくて(笑)。自分としては恥ずかしい歌詞なので「こればっかりは許してくれよ」と思いながら……要は照れ隠しです。

スペシャル難しい歌い方を要求される曲を作ってみよう

──4曲目の「天高く響け 青嵐の様に」は和風ブラスロックと言えそうな楽曲で、雰囲気としてはバトルアニメっぽいと思いました。「ラブレターヤブレタ」のサビがさわやかに走っていたのに対し、こちらは戦っている絵が浮かびます。

完全に戦っていますね。実はこの楽曲は、3曲目に入っている「グラトニック・ラヴ」(2022年3月リリースの配信シングル)のあとに続く、いわば“つなぎ”の曲が必要になるだろうと思って作った曲でもあるんです。アルバムというパッケージで考えたとき、どう考えても「グラトニック・ラヴ」で流れが切れるから。

──確かに「グラトニック・ラヴ」は毒気のある歌謡曲的なジャズナンバーで、その流れを「天高く響け 青嵐の様に」が引き受けていますね。ボーカルもクセが強めですが、先の「思春期中二話症候群」とはクセの種類が違うというか。

「天高く響け 青嵐の様に」は低い声色のくどい系って言えばいいのかな(笑)。力強く戦っていてほしいと思って歌いました。

──その低音から高音までの音域もかなり広いうえに、目まぐるしく上下しますよね。

音の幅が広すぎて、レコーディングで「私の喉、今どこにいるの?」みたいな状態に陥りました。でもアニソンって、複数のキャラクターが歌っている曲とかではかけ合いのようになるパートがあるじゃないですか。それをカラオケとかで全部1人で歌うのがけっこう楽しかったりするんですよ。そういうめっちゃ忙しくて高低差もある、スペシャル難しい歌い方を要求される曲を作ってみようと思って。

──ここまでの3曲、どれもテイストがまったく違っていますね。まあ、それを言ったら残りの4曲も全部違うんですけど。

遊び回っていますね(笑)。いろんな曲を歌っていたいし、「私、これ歌えるのかな?」という好奇心もあるのかもしれない。

──実に多彩だと思います。7曲目の「心に愛論」は少年マンガ的な熱量と爽快感を伴ったギターロックで、やはり雰囲気がガラッと変わりますし。

これはもう、元になった作品自体が強烈で、テーマもめちゃくちゃしっかりしていて。その熱さを表現するにはこうするしかなかったので、作品そのままかもしれない。ただ、私の中でこういう曲は歌うのが苦手な部類に入るんですよ。私はどうしても陰湿なものを好む傾向にあるので、あまりにもカラッとしすぎていると「私なんかが、そんな明るい場所に行っていいのかしら?」と、ひねくれた部分が出てきちゃって。そのひねくれが出ないギリギリの、瀬戸際で生まれたのがこいつです。

──瀬戸際(笑)。曲名で「愛論」と「アイロン」をかけていますが、歌詞もうまいですね。ワイシャツと心のありようを重ねつつ、「袖を千切られ ほつれたら」「襟も信念も折れないよ」などシャツにまつわるワードをちりばめていて。さらに「Oh 特注 Loser」、つまり「オートクチュール」というダジャレまで。

「ラブレターヤブレタ」に続いて「カノエ、またやりやがったな!」みたいな(笑)。私としては、最後が「Oh 再放送の 人生!」で、つまり「お裁縫」で終わるのがポイントです。

──あー、それは気付きませんでした。

これはたぶん誰も気付かないだろうと思いながら書いたんですけど、実際、まだ誰にも突っ込まれたことがなくて。実は言いたかったのは「お裁縫」でした(笑)。

現実逃避をし始めて、ファンタジー路線に走る

──8曲目の「無垢なる主人のpuppet show」はメランコリックなエレクトロポップですが、カノエさんはたまにこういう打ち込みの曲も作りますよね。

好きなんですよ、ピコピコ系が。この曲をそういうサウンドにしたのは、「昼想夜夢」に入っていた「アリスは夢を見ることが出来ない」をどうしても引っ張りたかったからで。

──「無垢なる主人のpuppet show」の歌詞には「三月兎」「tea time」といったワードが出てきますし、やはり「不思議の国のアリス」がモチーフなんですね。

そうです。もちろん元になったアニメもあるんですけど、そのアニメの主人公と、「アリスは夢を見ることが出来ない」の主人公を重ねることができるんじゃないかと思って。「アリ夢」の主人公はただうさぎさんを追いかけているだけで、自分の力で前に進めていなかったというか、どっちつかずな感じだったんですね。でも、「無垢なる主人のpuppet show」の主人公はうさぎさんを追いかけるのをやめて、うさぎさん=主人とは別の方向に進んでいくと決めた。つまり、別離という形をとった進展の物語として表したかったんですよ。

カノエラナ

──カノエさんは続編あるいは連作のような楽曲もたまに作りますよね。「恋する地縛霊」(2016年7月リリースの配信シングル)と「地縛霊に恋をした」(2018年2月発売の1stフルアルバム「キョウカイセン」収録曲)だったり、「ねぇダーリン」(2018年6月発売のライブ会場限定CD「ぼっち2」収録曲)と「あの子のダーリン」(2020年10月発売のアルバム「ぼっち3」収録曲)だったり。

そうそうそう。

──「あの子のダーリン」は、初めて聴いたときは震えました。「ねぇダーリン」の歌詞にある「君の部屋 片隅 落ちていたピアス」の落とし主が判明して……。

「お前かー!」みたいな(笑)。

──「無垢なる主人のpuppet show」のボーカルも、やはりこれまでのどの曲とも違って淡々としていますね。それでいてサビのあたりはちゃんと盛り上げていくという起伏もあって。

ボーカルも「アリスは夢を見ることが出来ない」みたいな、「これは生きている人が歌っているの?」というような無機質な感じを出したくて。なのであんまり感情は入れずにずっと棒線のように歌っていき、サビで少しだけ「あれ? この人はちゃんと生きている人間だったのかな?」と思わせる、というのをやりたかったんですよ。

──歌詞に関して、この「無垢なる主人のpuppet show」から抽象度が高くなっていますよね。

今回の新曲はほぼ曲順の通りに作っていて、たぶんこのへんで迷い出したというか、現実逃避をし始めたんだと思います。だから「無垢なる主人のpuppet show」も次の「ラフレシア」もファンタジー路線に走っちゃてるんですよ。逆に最後の「秋の空またはオレンジの夕暮れ」は「あと1曲で終わるぜ!」という解放感にあふれていて。なんか、ものづくりの旅路が表れているなと思います。