音楽ナタリー Power Push - カノエラナ
Twitter動画で話題のSSW、メジャーへ参上。
佐賀県唐津市出身の20歳のシンガーソングライター・カノエラナが8月31日にミニアルバム「『カノエ参上。』」でワーナーミュージック・ジャパンよりメジャーデビュー。ライブで「カノエが苗字、ラナが名前です」と自己紹介する彼女は、Twitterに弾き語りの“30秒動画”を投稿したことをきっかけにその名を全国区に広めた、いわばネット発のアーティストだ。カノエはキュートな歌声と独創的な世界観の歌詞、キャッチーな楽曲を武器に同世代を中心に多くのファンを獲得してきた。
カノエのメジャーデビュー作「『カノエ参上。』」の発売を記念して、音楽ナタリーでは彼女にインタビューを実施。音楽に興味を持ったきっかけや将来のビジョンなどを聞いた。
※本文中「『カノエ参上。』」の正式タイトルは、二重カギカッコが一重カギカッコの「カノエ参上」。
取材・文 / 清本千尋 インタビュー撮影 / 石崎祥子
恥ずかしくて「歌手になりたい」なんて言えなかった
──音楽ナタリーでカノエさんの特集をするのは今回が初めてなので、まずは音楽に興味を持ったきっかけから教えていただけますか?
ちっちゃい頃から歌うことがすごく好きだったんです。おばあちゃんの家にあったピアノで、知ってる曲をなんとなく弾いてよく歌ってましたね。
──それは何歳くらいの話ですか?
4、5歳くらいですね。
──その頃から知ってる曲を誰にも教わらずに弾くことができたんですか?
なんとなくなんですけど、弾けました。それが楽しくて、その頃からお母さんに「ピアノを習いたい!」とずっとお願いしてたんですけど、なかなかやらせてくれなくて。結局、お母さんに私の思いが通じてピアノを習い始めたのは小学3年生の頃でした。
──4、5年もお願いしてやっと習うことができたんですね。
お母さん自身が1つのことを続けられない人だったから、私にやらせてもダメだと思ってたんでしょうね。あまりに私がしつこいから「じゃあ、よかよ」ってクラシックピアノを習わせてくれました。
──ピアノを習い始めてからも、弾きながら歌っていたんですか?
いや、その頃は弾く専門で。歌うことは相変わらず好きだったんですけど、「歌手になりたい」なんて恥ずかしくて言えなかったんですよ。言うと馬鹿にされるっていうのが子供なりにわかっていたし。だから学校で「将来何になりたいの?」って聞かれても「わかんないです」ってずっと答えていました。
──そうなんですか。でも今は人前で堂々と歌っていますよね。
はい。小学6年生のときの担任の先生がすごい音楽が好きな人で、クラスソングをみんなで作ったりとか、朝の会や帰りの会でいろんな曲をカバーしたりしていて、「やっぱり歌うのって楽しい!」って思ったんです。ある日、クラスの中でバンドを組むことになって、パートを決めるときに先生は私に「歌ったら?」って言ってくれて。きっと私が歌が好きなことをわかってくれていたんでしょうね。先生は「やりたいことがちゃんとあるって決まってるなら、恥ずかしがらずに言ったほうが絶対いいよ」って、私の背中を押してくれて、「やっぱり私、歌いたい!」って強く思うようになりました。中学に入ってソフトテニス部に入ったら、忙しくてその気持ちがだんだん薄れてきちゃったんですけどね(笑)。
──その頃ピアノは?
ピアノは続けていたんですけど、私は楽譜を見るのが嫌いでCDを聴いて耳で覚えて弾いていたから、「指番号違う」って注意されるのがつらくてしょうがなかったんです。中学2年生のときに学校で「唐津ジュニア音楽祭」っていう地域でやってる音楽の大会のエントリー票が配られたんですよ。その頃よくカラオケに一緒に行っていた友達と「これ、応募してみん?」っていう話になって、エントリーしたら、1次審査を通過しちゃって。
──その審査というのは課題曲を歌ったりするようなものだったんですか?
好きな曲を1曲歌って録って送る、というものでした。それで私、両親が好きなEGO-WRAPPIN'さんの「くちばしにチェリー」を歌ったのを録って送って。で、1次審査の次がもう本戦だったんですよ。まさか審査を通るなんて思ってなかったし、どうしようって思ったんですけど、通ったからには歌わなきゃいけないと思って本戦で歌いました。
──結果はどうでしたか?
優秀賞をもらいました。それをきっかけに音楽塾に入って、中学3年生からシンガーソングライターとしての勉強をすることになりました。
──唐津といえば、たんこぶちん、がんばれ!Victoryも唐津出身ですよね。地元のコンテストがあるくらい音楽が盛んな地域なんですか?
たんこぶちんとがんばれ!Victoryの通っていた中学は音楽が好きな先生がいて、校内にスタジオがあったりしたんです。私は違う学校で、さっき話した「唐津ジュニア音楽祭」で2組と知り合いました。たまたま同学年で仲良くなって、今は2組も私も東京に出てきたっていう。だから特に地域で音楽が盛んっていうわけではないかなと思います。
──そうなんですね。音楽をやってる男の子は多かったですか?
私たちと同学年だと女の子のほうが多かったかも。なんか男の子より女の子のほうが強かったんですよね(笑)。リーダータイプというか、先頭に立つのは女の子が多かったです。
──カノエさんもそういう女の子だったんですか?
まったくそんなことなかったです。わりと控えめでやるときはやるみたいなタイプだと思います(笑)。
──ちなみにカノエさんは、小学6年生のクラスで組んだバンド以降で、バンドを組んだことはありますか?
ないです。音楽は1人でやるほうが好きでした。誘われることがあっても「1人でやりたいから」って断っていました。
今日、人いるよ……
──オリジナル曲を作り始めたのは音楽塾に入ってから?
そうですね。中学3年生の冬ぐらいに初めてオリジナル曲を作りました。「ズワイガニ」っていう曲なんですけど(笑)。
──曲のタイトルにものすごくパンチがありますね(笑)。
なんかそのときカニの曲が歌いたかったんですよ。“何カニ”にしようかなと考えていたときに、テレビでズワイガニの通販番組をたまたま観て、そのまま「ズワイガニ」の曲を書いて。横にしか歩けないんだけど、いつか前に歩けるようにみたいなカニの気持ちを歌った曲なんですけど。いつもそんな調子でヘンな曲を書いて提出するから、音楽塾の先生には変わった子だと思われていたんじゃないかな(笑)。
──曲作りを始めて、ライブも並行してやるようになったんですか?
いや、全然。曲を作って分析してっていう、勉強をずっとしていました。とにかくコードの鳴り方とか構成の仕方とか「ここでこう使えばいい響きになる」とか「逆にここでこう使うと不穏な響きになる」とか、そういう理論を習っていましたね。
──人前で自分の曲を初めて演奏したのはいつ頃?
文化祭とかで5分くらいやったりしたことはありましたけど、ライブというライブは高校生の頃は全然していなくて。高校を卒業して上京してから、初めてライブハウスや路上でライブをするようになりました。
──路上ライブって最初はお客さんもなかなか集まらないと思うんですが、モチベーションを保つことはできましたか?
お客さんがいなくても歌うのがすごく楽しかったです。むしろ人がいるほうが怖かった。「どうしよう、今日、人いるよ……」って思ってましたね。
──歌うのは好きだし、音楽も好きだけど、人前で歌うのはあまり得意じゃなかったんですか?
最初は恐かったですね。
──今ではお客さんと一緒に盛り上がるライブがカノエさんの魅力の1つなような気もしますが。
そうですね。今ではお客さんがいないと歌うのが不安で、「あのー、すみません、私と一緒に盛り上がりませんか?」っていう感じです(笑)。徐々にコミュ力を付けて、私自身が成長しているんだと思います。
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収録曲
- シャトルラン
- 恋する地縛霊
- My World
- 夏の祭りのわっしょい歌
- あたしの彼氏は二次元の人
- 大事にしてもらえよ
カノエラナ
佐賀県唐津市出身の1995年生まれの女性シンガーソングライター。14歳の頃に出場した「唐津ジュニア音楽祭」で、EGO-WRAPPIN'「くちばしにチェリー」を歌って優秀賞を獲得した。高校を卒業した2014年の春に上京し、音楽活動を本格的に開始。Twitterに弾き語りの30秒動画を上げるようになったことをきっかけに人気に火が付き、ライブ動員を徐々に増やしていった。2016年3月に行った東京・渋谷CLUB QUATTROでのワンマンライブはソールドアウト。同年8月にワーナーミュージック・ジャパンよりミニアルバム「『カノエ参上。』」でメジャーデビューを果たす。