エンディング映像に“推しキャラ”登場
南川 エンディング主題歌の「ディザイア」を聴かせてもらったときも、「原作とアニメをしっかり理解したうえで作ってくれたんだな」と思いました。エンドウさんもやっぱり映像を思い浮かべながら制作されたんですか?
エンドウ 映像というより、「アニメを観ている人に対して、こういう気持ちを残したい」ということを考えていましたね。アニメのエンディング曲は、次週に向けた期待も担っていると思うんです。ライブも同じで、余韻を残したまま、「次も観たい」とか「これで明日から生きられる」と思ってほしいなと。「ディザイア」に関して言えば、余韻だけじゃなくて、心拍数を上げる瞬間も作りたかったんです。そのためにテーマを“爆発”にして、プロデュースしてくれた鮪くんと喫茶店でいろいろと話して。
谷口 話しました(笑)。
エンドウ 「いかに爆発力を高めるか」ということに力を入れた楽曲だし、想像以上の曲になったと自負しています。アニメを観ている人の中には普段エンディング曲を飛ばしている人もいるかもしれないけど、ぜひ楽曲込みで愛してほしいですね。
南川 1つの話が終わるというだけではなくて、次の回への期待も高める必要もあって。お願いしておいてあれですけど、エンディング曲って難しいですよね。
──谷口さんはこの曲にどのような形で参加したんですか?
谷口 プロデュースというほどではなくて、感覚的にはお手伝い、アドバイザー的なポジションですね。KANA-BOONの強みとしてはメロディの起伏、豊かさがあると思っているんですけど、PELICAN FANCLUBからそういった部分で協力してほしいという話があったんです。僕はPELICAN FANCLUBの音楽に対して“無機質の中に、命がある”というイメージを抱いていて。近未来の都市の中に、一輪の花が咲いているイメージというか。
エンドウ うん。
谷口 「ディザイア」はそれだけではなくて、もっと生命力を強くして、燃え上がる炎を大きくしたいと思っていたんです。「Aメロからもっとメロディを動かしてみよう」という話をしたり。楽曲のポテンシャルを引き上げるような意識がありましたね。
南川 パンチがある曲ですよね。エンディングだからと言ってしっとりしているわけではなく、絶妙なラインを突いていて。
エンドウ ありがとうございます。エンディングの映像も素晴らしかったです。しかも僕が一番好きなアーサーがメインになっていて……実は曲を作っているときも、アーサーが頭の中でチラついていたんです。
南川 そうだったんですね。
エンドウ アーサーの天然さが大好きなんです。劇中で、なぜか利き手じゃないほうの手で剣を持って戦うシーンがあって。「本気出す」って利き手に持ち替えた瞬間、一発で相手を倒すという。そういうバカさ加減って本当にカッコいいし、目が離せないです。命を吹き込めた曲だし、鮪くんのおかげで爆発力が増して。さらに自分の推しキャラが映像に出てきて、めちゃくちゃうれしかったですね。メンバーは「かわいい映像だね」って言ってたんですけど、僕は感慨深くて仕方なかったです。
南川 それも偶然のシンクロですね。
──「エンディング映像はアーサーでお願いします」と言ったわけではなく?
エンドウ 言ってないです。
南川 オープニングと同じで、細かく詰めたわけではないんだけど、同じ方向を見ていたというか。そういうシンクロやこだわりって、観ている人にも伝わると思うんですよ。アニメって膨大な数の絵を使ったパラパラマンガなんですけど、中にはひょっとしたら観ている人にはわかりづらいかもしれないようなこだわりもあって。でも、僕としては「魂を込めれば、必ず誰かに伝わる」と信じているんです。根拠はないですけど(笑)。
谷口 わかります。レコーディングのときは、ほとんど聞こえないようなギターの細かいフレーズにこだわったりするので。
エンドウ 聞こえない部分こそ、「どれがいい?」ってずっと話し合ったり。
南川 心が折れることはないですか?
エンドウ いや、心躍りますね。
谷口 地味な作業ほどテンションが上がるんですよ(笑)。
エンドウ ほとんどの人が気付かないところで、「実はこんなことやってるんだぜ」って。
南川 そこに気付いてくれる人がいたら、「やるじゃん」「ありがとう」「わかりづらくて申し訳ない」とか、いろんな気持ちになりますね(笑)。こちらとしては「ちょっと面白くない?」くらいでやったことに対して、思った以上の反応が返ってくることもあるし。
谷口 「え、そこが好きなの?」って(笑)。
南川 そうですね。狙ったことではなくても、楽しんでもらえたら結果オーライです(笑)。
鮪くんはわかってくれていた
谷口 「炎炎ノ消防隊」を観ていて、「こういう動きになるんだ!」と驚くことがあって。南川さんも、そういう瞬間はあるんですか?
南川 ありますね。制作の工程としては、原作をシナリオにして、絵コンテを作るところから始まるんですよ。シナリオで描かれてなかったことが、絵コンテの段階で入っていることもあって、「おっ、ここを入れたんだ」と思ったり。アフレコもそうですね。僕たち以上に役者の方がキャラクターを理解していて、演技を聴いて「なるほど!」と納得させられたり、「このままだと声に絵が負ける」と思って作画をやり直したりすることもあります。見えないところでスタッフや役者がやり合ってるというか(笑)。
──そのバランスを取って、作品の質を上げるのが南川監督の役割なんですね。
南川 まあ、僕が何をやっているかは、観てくれる方には関係ないんですけどね。完成したものを観ていただけるだけでうれしいし、「大変ですね」って言われたいわけではない。同情されたらおしまいだと思ってるので、必死でやっても、顔はニコニコしてます(笑)。
──アニメ作品の監督という立場として、ご自身の作家性についてはどうですか?
南川 作家性みたいなことはあまり大っぴらに言わないし、普段はそこまで考えてないですね。「炎炎ノ消防隊」には原作があるし、「この作品は作者のもの」という認識があるんです。僕はシリーズ構成も担当しているんですけど、すべてを自分で決めているわけではなくて。もちろん自信を持って進めなくちゃいけないんだけど、「もっといい答えを誰かが持っているかもしれない」と常に思ってるんですよ。アニメの制作にはいろんなセクションがありますが、僕はすべてをマスターしているわけではなくて。作画、音楽、演技など、それぞれにプロが関わっているので、話し合ったり、意見を聞いたりすることはすごく大事だと思います。原作のコマとコマの間や、そこで生まれる感情の流れをどう描くかということに関しては、かなり介入したりもするんですけどね。そういう細かいことの積み重ねによって、「あの人が監督してる作品は見やすくて面白い」みたいに言われたとしたら、それが作家性や個性ということになるのかも。すいません、はっきりしたことが言えなくて(笑)。
谷口 確かに作家性とか個性って、具体的に言葉にするのは難しいですよね。今話を聞いていて思い出したんですけど、今回、PELICAN FANCLUBのプロデュースをしていて、「どこまで踏み込んでいいのか」って考えていたんですよ。PELICAN FANCLUBはもともと好きなバンドだし、同じレーベルの後輩でもあってすごく近い関係性で。でも、あまりにも踏み込みすぎるとおせっかいになるし、PELICAN FANCLUBの個性を薄めてしまうかもしれないなと。メンバーが完全にウェルカムだったから、結果的には「自分がやれることを思い切りやろう」と思えたんですけどね。線引きせず、まるで自分の曲のように没入していました。
南川 途中でケンカしなかったですか?
エンドウ しなかったです(笑)。個性ということで言えば、自分たちの中で「PELICAN FANCLUBはこういうバンドだ」と確立してはいるんですけど、それを人に押し付けるのは違うと思っていて。鮪くんはそこも含めてわかってくれていたし、だったらこっちも全力で信頼してプロデュースしてもらいたいなと。提案してくれたことに対して「それは違う」と思うことはなかったし、制作を進める中で「PELICAN FANCLUBにはこういう部分があったのか」という発見もあって。僕自身、「ディザイア」を演奏していて「生きている」という実感を得られました。
──「炎炎ノ消防隊 弐ノ章」の今後の展開も楽しみです。
南川 オープニング曲、エンディング曲のおかげで、映像にも変化が生まれて。もう一段上にいけると思っています。
谷口 ありがとうございます。観ている方にも喜んでもらいたいし、僕も楽しみにしてます。
エンドウ 同情してほしいわけではないですけど、緊張して寝られない日々が続いてます(笑)。
南川 大丈夫です! 僕らは立ち止まれないので、ゆっくり観られるのは最終回を作り終えてからですね。それまではSNSで皆さんの感想を読んで、栄養補給します(笑)。