なんなら万博の会場に住んでもいい
08. カッコよく言ってみるシリーズ
これとか「知らんけど」「うまいこと言うなぁ」は同じ日に録ったんです。ひさびさにスタジオにギターを持っていって、レコーディング最後にプロデューサーが「じゃあ、ギター1本で録ってみようか」って。プロデューサーの前でギター持ってネタやるのはすごく棚卸感がありました。その音源がこうして残ることにもレコーディングの意味があるんでしょうね。
09. 言うたらアカンがな
2年前に亡くなった笑福亭笑瓶さんがよく口にしてたフレーズです。「それ言うた? 言うた? 言うたらアカンがな~」で、みんな大爆笑。もったいないなあ。こんな面白いフレーズ、テレビとかで使うたらええのに、なんで7、8人の仲間内でお酒を飲んでるところで言うてるんやろと僕いつも思っていたんです。こういうことこそ歌にしなければ、という回路が僕の中に潜在的にあるんですよね。
10. 大阪・関西万博エキスポ~港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ~
──1975年に大ヒットしたダウン・タウン・ブギウギ・バンドの「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」の替え唄です。
僕は宇崎竜童さんのことをものすごく尊敬していて、高校生のときツナギを着てコンサートに行きました。今回のアルバムジャケットでも、ちゃんとツナギを着ています。この曲は昨年、宇崎さんと一緒にステージをやらせていただいたときに歌ったバージョンを元に作りました。オリジナル曲で伝えてもいいけど、確固たるものに乗せるほうが伝わるメッセージもあることは感じます。僕が若い頃お世話になった笑福亭鶴光師匠も、この曲が流行っている頃ワーナーから出したアルバム(「レコード版 鶴光のかやくごはん」)で「港のヨーコ、ヨコハマ、ヨコスカ」の関西弁カバーをやってて、決め台詞が「あんた、あの子のなんだんねん」でした(笑)。
──芸能界屈指の万博通で知られる嘉門さんですが、55年前の大阪万博(日本万国博覧会)には21回通われて、会場でもらえるピンバッジを64個も集めたそうですね。
近所でしたからね。当時僕は小学6年生。高度成長期のイケイケムードですごく楽しかったことがいまだに忘れられなくて。今回も「万博の歌を作らなきゃ!」という使命感で書かせていただきました。公式ではないですけど、万博の方とお話をしてタイトルや歌詞の使用を認めてもらっています。今回の万博、立ち上がりがちょっと遅くて、いつ何が行われるかの情報がまだ出てないんですよね。ステージが空いてる日は全部こちらに振ってもらって大丈夫。なんなら会場に住んでもいいと思ってますから(笑)。
かつての常識も時が経てば違和感になる
11. 小市民~昭和篇~
昭和の時代はなんでこんな事やってたんやろう?みたいなことを現代から振り返った曲です。昭和に限らず、最近の例で言えば、コロナの時期なんでソーシャルディスタンス言うて2mも離れて歩かなかあかんかったやろう?とかね。かつての常識も時が経てば違和感になるというのは自分が突き詰めたいテーマの1つではあります。
12. 60なかば
同窓会って、そこそこ人生うまいこといった人たちしか集まってないじゃないですか。僕は学生の頃からずっと水族館のイワシの群れを見て、1匹だけ逆に泳いでるやつになりたいと思って生きてきたんです。世間的には大学出たら一流企業に就職して、安定してよかったというのが常識ですけど、そこに違和感を覚えて。ドイツのハイデッガーという人の哲学ってたぶんそういうことかなと思うんです(人間が「不安」から逃れるために「世間」へ従属する生き方を「非本来的」であると批判し、むしろその「不安」をきっかけに「本来的な生き方」に覚醒できるとする考え)。それを音楽に乗せたらもっとわかりやすく、面白くなると思うから、今後も歌っていきたいですね。
13. 知らんけど
14. うまい事言うなぁ
「知らんけど」は2022年の流行語大賞で話題になりましたけど、20年ぐらい前から、なんかしたいなと思っていた言葉なんです。「うまい事言うなぁ」は謎かけをベースに作りました。落語家さんのやる謎かけはベタすぎて古く感じてしまうんですけど、ギターを入れて会話的にすればもうちょっとサラッと伝わるかなと思って作りました。
15.バイバイ笑瓶ちゃん
笑瓶さんの一周忌の会で歌った曲がベースになっています。その会には笑瓶さんと仲のよかったスターダスト☆レビューの根本要さん、それと北野誠さん、桂雀々さん、僕がゲストで出席したんです。雀々さんも先日亡くなってしまいましたけれども。そのとき、本当は要さんの「木蘭の涙」で締めるはずやったんですけど、話し合いの末に「バイバイ笑瓶ちゃん」になったんです。「えーっ、俺が締めんの? 『木蘭の涙』のあとでええの?」って。その話をしたらプロデューサーが今回のアルバムに入れようと言ってくれました。
16.ギターパラダイス
ギターがあるからここまでやって来れたという歌です。清水ミチコさんのようにピアノで替え唄をやられてる方もいますけど、僕はやっぱりギターですね。最近サザンを聴き直して桑田さんのギターに対するものすごいこだわりも改めて感じました。
ずっと頭の隅っこで「マリーゴールド」が鳴っています
──お話をうかがって、改めて「至福の楽園~歌と笑いのパラダイス~」というタイトルにふさわしい、嘉門さんの過去・現在・未来が網羅された1枚だなと感じました。
たまたま井上陽水さんの曲をAmazon Musicで調べてたら、今って「この曲も聴きや」ってオススメしてくれるじゃないですか? そしたら玉置浩二さんの曲が流れてきて。中には知らない歌もあって、次々と紹介してくれるんです。それがここ4、5日の僕の中の流行(笑)。玉置さんが奥様の青田典子さんに書いた楽曲も素晴らしいんですよね。青田さんが「真夜中のドア~stay with me」をカバーしてることとか知らなくて。そういう知らなかった過去の作品が今、新曲として僕のところに届く。これを自分に置き換えると、僕が20年前、30年前に発表した楽曲を令和の今、初めて聴く人がいっぱいいるってことですよね。それが音源を残すことの面白さだなって感じてます。
──若い世代の間で流行っている曲も聴かれますか。
もちろんです。一時期あいみょんばっかし聴いてました。ああ、石崎ひゅーいって人に影響受けてるのか、この人の曲もまたええやんか、みたいな。それ以来ずっと頭の隅っこで「マリーゴールド」が鳴っていますから(笑)。「マリーゴールドに似た言葉、何がええやろ? ハリー・ポッターかな? 『♪麦わらの~』、やから『♪藤原の~ 鎌足が~』はどうやろ?」とか(笑)。
──日本史がぐんぐん頭に入ってきそうです(笑)。
中島みゆきさんの「糸」も長いこと「なんとかせんといかん」リストの上位に入っているんです。「♪た~てのシワはあなた~、よ~このシワは私~、二つのシワが~ もつれ合うのを~ 人はしわよせと呼ぶ~」っていうのが、すでにできていて(笑)。1曲全部シワとか老化のことにすると薄めすぎやからメドレーにしたら、みゆきさんもオッケーしてくれるかなと。松山千春さんの「大空と大地の中で」も歌詞全部できてるんで、これもなんとかせなあかんと思ってます(笑)。
──素晴らしい。
まあ、中にはタイトル負けしてるのもあるんです。「いちご大福をもう一度」とかね。その点、「なごり寿司」は、我ながらうまくできているかなと。あとは元になる楽曲がどこまで世間一般に浸透してるかですね。とはいえ、ももいろクローバーZさんのイベントに出させてもらったときは「ももクロメドレー」を作っていきましたし、泉谷しげるさんのライブに呼んでいただいたときも「デトロイト・ポーカー」の替え唄で「♪エイジ~、板東英二ぃ~~」って(笑)。そういうことばかりやってきましたね。
──群れを逆に泳いできて後悔のない人生だったことが伝わってます。
まだまだやりたいことありますから。嘉門タツオ記念館が完成するまでがんばります!
ライブ情報
「嘉門タツオ 至福の楽園~歌と笑いのパラダイス~」ツアー
- 2025年3月30日(日)大阪府 なんばHatch
- 2025年4月12日(土)愛知県 THE BOTTOM LINE
※詳細は嘉門タツオ・オフィシャルサイトまで
プロフィール
嘉門タツオ(カモンタツオ)
1959年3月25日生まれ。大阪府出身。高校在学中の1975年に落語家の笑福亭鶴光師匠に弟子入り。1978年、笑福亭笑光として「ヤングタウン」のレギュラー出演を果たしたが1980年に破門、放浪の旅へ出る。その後、サザンオールスターズの桑田佳祐と出会い、桑田の別名「嘉門雄三」から姓を受け、「嘉門達夫」と命名される。1983年、「ヤンキーの兄ちゃんのうた」でレコードデビュー、YTV全日本有線放送大賞新人賞を受賞する。1991年に発表した「替え唄メドレー」、1992年に発表した「鼻から牛乳」が大ヒット。同年NHK「紅白歌合戦」に出場を果たし、笑いと音楽の融合した独自のジャンルを確立した。現在は「嘉門タツオ」と名を改め、音楽活動、執筆、YouTubeなど幅広い活動を展開中。2025年3月には6年8カ月ぶりとなるアルバム「至福の楽園~歌と笑いのパラダイス~」をキングレコードからリリースした。