嘉門タツオインタビュー|名付け親・桑田佳祐との出会い、万博への思い、時代との付き合い方 (2/3)

「至福の楽園~歌と笑いのパラダイス~」全曲解説

常にその時代の新たなツールを取り入れている

──当時のプロデューサーさんとひさしぶりに二人三脚で制作された今回のアルバム「至福の楽園~歌と笑いのパラダイス~」、せっかくなので、嘉門さんご本人に各曲の解説をお願いいたします。

01. ハンバーガーショップ~カフェチーノ篇~

サブタイトルに入っている「カフェチーノ」という言葉は、商標の問題でフラペチーノが使えなかったので僕の造語です(笑)。今どきのカフェに行くと女の子が複雑なオーダーをしていて、おじさんには理解できないところが単純に面白いなと思って。最初は違う曲で作ってたんですけど、途中からやっぱり「ハンバーガーショップ」にしたほうがより伝わるなと。

──「ハンバーガーショップ」は嘉門さんの代表曲です。渾身の「アーッ」は今回も健在ですね。

もともとアリスの「チャンピオン」のパロディですから。去年、堀内孝雄さんにお会いしたとき、「そないに『アーッ』言うてへんで」っておっしゃってました(笑)。今回もいっぱい入ってます。

嘉門タツオ
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02. インバウンド・ブルー

1990年に出したアルバム「リゾート計画」に収録した「無敵の日本海外旅行」という曲の逆パターンです。あのときは日本からカメラを持ってパリに行く、みたいなことを歌詞に書いていたんですけど、今はインバウンドで日本に世界中から旅行者がやってくる。時の流れを感じますね。

03. 鼻から牛乳~令和篇~(アルバムバージョン)

──「鼻から牛乳」は男と女の恋模様を歌った楽曲ですが、令和篇の歌詞ではマッチングアプリで彼女バレ、GPSでホテルの場所がわかって、寝顔でスマホの顔認証されてしまうなど、身に覚えのある人はゾッとするアップデートがされています。

こういうのは実感を伴わないと伝わらないので、常にその時代の新たなツールは取り入れてます。最初の「鼻から牛乳」は電話の子機が登場したときのエピソードから始まってますから。そこからガラケーになり、スマホが出てきて。今、タイムマシンで過去にさかのぼって「LINE」って言っても当時の人は「何それ?」って理解できないと思いますよね。

──日々アンテナを張ってらっしゃるわけですか。

アンテナを張ってる意識はそんなにないですけど、大衆に支持される現象の波がデカいと、「これは俺がなんとかしなければ」と思ってしまうんです(笑)。ライブでは最近のテレビ業界の話題も寸止めでやってますけど、時事ネタはやりすぎてもよくない。さじ加減が一番面白いところです。

04. ギャーシリーズ(キッズライブバージョン)

2歳児からのハートをつかめるシリーズの1曲です。つかもうという意識はないんですけど、結果的につかんでしまったという(笑)。これはライブ音源ですね。聴いていただくとわかるんですけど「滑り台がおろし金」というところで子供がギャーッて笑ってるんです。2歳児にはおろし金がわからないはずなのに声なのか「ギャー!」というタイミングなのか、「面白いー」という雰囲気で笑ってるんですよ。

──タケモトピアノのCMで泣き止む赤ちゃんと一緒ですね(笑)。

05. どんなんやねん(ライブバージョン)

これも韻ですね。「奈良の大仏」と「生の大仏」とか似た言葉を並べて「♪生の大仏 まだやわらかいで どんなんやねん」。「どんなんやねん」が2回出てきますけど、最初がクエスチョンで最後のは追いがつお、みたいな(笑)。

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紅白出場時の思い出~替え唄CD化の困難

06. なごり寿司(さびマシマシ)~なごり雪~

楽曲が2分半ぐらいしかないから、もうちょっと継ぎ足そうというので、サビをマシマシで作りました。これまで流通していた音源が15年くらい前のものなので新たにアレンジし直したんですけど、またよくなりましたね。

──「♪寿司を待つ君の横で僕は 値段を気にしてる」という歌い出しから最高です(笑)。

「なごり雪」を作詞作曲された伊勢正三さんからちゃんと許可をいただいてます。最初はサビの部分を「♪犬~、猿が来て~、キジ~も~」と歌ってました(笑)。中には替え唄なんてダメだという方もいらっしゃるんですけど、伊勢さんはとても好意的でしたね。ただ、伊勢さんが主催する「君と歩いた青春」というコンサートがあって、イルカさんとか南こうせつさんとか出演されているんですけど「そこには呼ばないから」と言われました。呼んだら「なごり雪」の世界観がぶち壊しになるからって(笑)。確かに、どっちを先にやっても成立しないんです。

──昨年、イルカさんが32年ぶりにNHK紅白歌合戦に出場して「なごり雪」を歌われて話題になりましたが、嘉門さんも1992年に「替え唄メドレー」で紅白歌合戦に出場されています。

その前年にもお話をいただいていたんですけど、白組ではなく応援団のにぎやかし──要はお笑い枠で出てほしいという依頼を当時の事務所の社長が断ったんです。出演と出場は違うから。白組じゃないとイヤですって。そして翌年「替え唄メドレー3 (完結篇)」「鼻から牛乳 / 帰って来た替え唄メドレー4」「鼻から牛乳 -第2章-」「デュエット替え唄メドレー」とシングルを出して、赤組の藤あや子さんの対戦相手として出場したんです。あれは面白い采配でしたね。当時はお笑いの人ではなくアーティストのイメージを打ち出していこうと言われていました。そのためにビジュアルから作っていって、まず眼鏡をサングラスにして。バブルガム・ブラザーズの「WON'T BE LONG」が流行ったときはブラザー・コーンさんみたいな帽子をかぶってた時期もあります。一時期は迷走してました(笑)。

──「替え唄メドレー」は80万枚を超えるセールスを記録した嘉門さんの代表作ですが、CD化に至るまでは想像以上に大変だったそうですね。

原曲の著作権、歌詞に出てくる固有名詞、関係各所すべてに許可を取らなあかんから、替え唄をCD化するのって、めちゃくちゃ手間がかかる作業なんですよ。当時のプロデューサーは小泉今日子さんをはじめ超人気アーティストをたくさん担当されていてチームに勢いがあったので、とにかく断られてもええから聞いてみようというエネルギーがありました。

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07. 焼き鳥バカ一代

日本で一番予約が取れない焼き鳥屋といわれているミシュラン店・鳥しきのご主人、池川義輝さんに捧げた歌です。今の焼き鳥業界をここまで引っ張ってきたのは池川さんですし、皆さんこの人に憧れていて。焼き鳥職人をカッコいい存在にした方です。できあがった曲を聴いていただいたら、すごく喜んでくださってました。食に関する歌はいっぱいあるんです。リリースするしないにかかわらず「この人のこの思いを伝えなければ!」と思える職人さんに出会ったら、自分が歌にせなあかんと使命のように感じて。8年前に出した「崎陽軒シウマイ弁当の歌」も大阪のアナウンサー、森たけしさんが崎陽軒のことが狂信的に好きなので、歌にせなあかんと思って作った曲です。