神はサイコロを振らないインタビュー|7年間を凝縮したメジャー1stフルアルバムを携え、誰も見たことのない地平へ (2/3)

現時点までの神サイの総まとめ

──「事象の地平線」というアルバムタイトルは、制作のどの段階で決まったのでしょうか?

柳田 デモが全曲分そろった段階でした。ある一定のラインを超えた先に見えたものがあったというか。僕らもこのアルバムで限界を突破しまくったので、チームやリスナーもひっくるめて誰も見たことのない地平まで連れていきたいという願いを込めました。リリース後、東阪の野音でワンマンをやるんですが、地上から星空のずっと先にある“事象の地平線”を目指そうという願いから、アルバムタイトルと同時にツアータイトルを「最下層からの観測」と決めました。

──柳田さんは物理学しかり宇宙しかり、サイエンスフィクションの要素に強く惹かれるようですね。

柳田 神サイは全員SF好きで。クリストファー・ノーランの映画なんかも大好きなんです。「クロノグラフ彗星」という曲は去年の新春ドラマ「星になりたかった君と」というSFと人間ドラマがテーマとなった作品の主題歌だったので、それもすごくうれしかったですね。

──昨日めでたくすべてのアルバム用のレコーディングを終えられて、あとはミックスを残すのみだそうですね(取材は1月下旬に実施)。全20曲という、CDだと2枚組のボリュームですが、お一人ずつアルバム全体の手応えを聞かせてください。

吉田 まだ自分の中でうまく客観視できていないんですが、本当にいい曲しかない。特に「LOVE」「少年よ永遠に」「僕だけが失敗作みたいで」といった新曲は、自分たちの中で挑戦した曲です。

柳田 最高傑作です。ビッグマウスではなくかなり自信があります。一切の妥協も手抜きもなく全力を尽くせた。リードトラックの「イリーガル・ゲーム」もほかの曲もすべてが挑戦でしたし、現時点までの神サイの総まとめみたいな1作になりました。

桐木 バラエティに富んだ内容ですけど、全曲リードトラックと言えるほど胸を張ってリリースできる作品になりました。自分自身、一旦神サイをまったく知らない状態に記憶を消して聴いてみたいですね(笑)。リスナーの皆さんの感想がとても気になりますけど、自分としては1曲も飛ばさずに聴けるアルバムになったと思います。

黒川 本当に7年間が凝縮されたアルバムができたと思う。さっきお話しした通り、神サイは初期にけっこうラウドなロックを鳴らしていたんですが、その頃の名残りも新しい要素もしっかり入っていると思います。

──確かに1曲1曲がアレンジ面でもリリック面においても新しい扉を開いていますね。そしてさまざまなタイプの曲があって似ている曲がない。

柳田 そう思います。

──どんなに高度で変則的なアレンジでも聴きづらくならないバランス感覚と皆さんの演奏力が素晴らしい。このアルバムは、柳田さんのソングライティングのさまざまな素養を3人の演奏力でどう爆発させるかという実験をしているアルバムとも言える気がします。柳田さんは自身のソングライティングについてどう捉えていますか?

柳田 うーん……俺は曲を作っているときはとにかく必死で、あまり訳がわかってないんですよね。歌詞を書いているときの記憶も一切なくて。右脳が活発になるというか、自分の中に自分じゃないもう1人の誰かがいるような感じ。むしろ冷静に処理する左脳は死んじゃっているような感覚で。よくあとから「我ながらようこんな歌詞書けたな」と思います。

──曲を作る時間帯は主に昼夜で言うとどちらですか?

柳田 すべてド深夜です。僕、ボロアパートに住んでいて、壁が薄くて、昼はいろんな生活音が聞こえてデモの歌入れがしづらいんですよ。夜中は夜中で声出しに気を使うんですけど、23時くらいから朝までがもっとも集中できますね。よく明け方前の3時とか4時に閃いてガーッと作ります。「あなただけ」という曲ができたとき、5時頃に亮介に送ったら「これはいい」と返信をくれて。そのまま亮介の家に行って7時から2人で祝杯を上げました(笑)。

──3000回も危機を迎えたとは思えない結束力ですね(笑)。柳田さんはデモの段階で曲をどのくらいまで仕上げるんですか?

柳田 曲によります。弾き語りだけ作ってアレンジャーさんに渡す場合もあれば、ほぼ完成形の場合もあります。基本的にはデモの段階から世界観を作り込むので、パッドやシンセ音、ギターのリバースもデモ段階のものを使用することもありますね。

吉田 僕はそれを聴いてアレンジ通りに弾くところもあれば、アレンジとまったく違うことをやるときもあって。スタジオで思い付いたアイデアもたくさん取り入れるので、そういう意味では自分なりに咀嚼しているのかな。アイデアをストックしておいてレコーディングのときに試してみる場合もあるし。

柳田 レコーディング中にリフやフレーズが生まれるケースも多いよね。「遺言状」のギターリフも「あなただけ」のギターソロもレコーディング中に生まれたし。やっぱり衝動って大事なんで、考え込んだフレーズよりもその場で閃いたフレーズの方がカッコよかったりするのも音楽の面白さだなと。

黒川 「僕だけが失敗作みたいで」のフィードバック音もスタジオでのアイデアだったよね。

柳田 うん。この曲の歌のハモのラインも歌入れ中に出来ました。

神はサイコロを振らない
神はサイコロを振らない

自分の実力と限界を思い知らされた

──黒川さん、ドラミングについてはいかがですか?

黒川 神サイはいろんなタイプの楽曲があるんですが、最近はドラムセットも曲によって変える機会が増えたので楽器に詳しくなりました。特に今回のアルバムはビンテージのドラムセットを使ったり自分の新しいセットを使ったり、ヘッドをすべて変えた曲もあったし。音に対するこだわりがどんどん強くなっていますね。ベースとして使っているのはカノウプスというメーカーの比較的ダークな音が出るセットなんですけど、バラードの場合は柳田の声の優しさを打ち消さないようにマイルドな音のビンテージセットに変えてみたりとか。スネアとキックのキャラクターで曲の雰囲気もだいぶ変わるし、録り音もミキシングもかなりこだわっています。

柳田 僕は「LOVE」と「少年よ永遠に」のドラムがすごく好き。「LOVE」は神サイの中では珍しくスネアが高めでフレーズも跳ねた感じで、ちょっと洋楽っぽいテイストのリズムを踏んでいるというか。「少年よ永遠に」では初めて全員せーのでやる一発録りにトライしたんです。これもドラムがめっちゃカッコよくて。ほぼキック、スネア、ハットという3点のみで攻めるという泥臭さがいいんですよ。

黒川 いかにシンプルで説得力があるビートを叩けるか。そこにすべてを賭けました。

──このアレンジで一発録りは痺れますね。

柳田 全員かつてない緊張感でレコーディングしたんですが、そのとき、黒川のドラムテックに付いてくれている方から、「でもライブではプラスアルファの完成度のパフォーマンスを心がけなきゃね」と言われて。絶対的なグルーヴにフリーダムな歌が乗るのが僕の理想なんですが、そのためにはまずライブでお客さんが安心するくらいの徹底的なクオリティのパフォーマンスを毎回当たり前のように提示しなきゃいけないんだなと気付かされました。

──桐木さん、ベースについてはいかがですか?

桐木 神サイ以前に違うバンドでやっていた頃は、1個の机についてるいくつかの引き出しを開けていた感覚でしたが、神サイでは毎回レコーディングのたびに机ごと違うものを用意するようなレコーディングをしています。それくらいどんどん違うテイストを取り入れている。それだけでもこの1年半ですごく成長できたと思う。自分の実力と限界を何度も思い知らされたことも大きなバネになりましたね。

桐木岳貢(B)

桐木岳貢(B)

──最近は5弦ベースを弾かれていますね。

桐木 2019年のミニアルバム「ラムダに対する見解」あたりから使い始めました。大変だから最初はどうかなと思ってたんだけど、かなり表現の幅が広がりましたね。