ナタリー PowerPush - カミナリグモ

結成10年目の憂鬱と確かな自信

シングルとしてのポピュラリティ

──カップリングに収録される3曲はどの時期に作られたのでしょうか。「SMASH THIS WORLD!」のリリース後?

そうです。比較的最近作った曲ばかりですね。

──ということは、先程話してもらったような悶々とした気分を抱えながら作った曲、ということになるんですか?

ええ。「王様のミサイル」は自分が作った曲の中でも特にポピュラリティのある曲なので、いざこれを超えるポピュラリティを持った曲を作ろうと考えると……なかなか自分の中ではそのレベルの曲を作ることができなくて。カップリングはそういう気分の中で作った曲たちです。

──前回のインタビューでは、曲は常日頃から時間がある限りどんどん作っているとおっしゃってましたよね。今回はそうもいかなかった?

インタビュー写真

普通に曲を作る分には変わらずできるんですけど、自分でシングルとして納得できるラインの「もっとポピュラリティのある曲」となるとなかなか。前回のアルバムが自分が思ったような評価を得られたのであれば、シングルとしてももっとソングライティングの幅も広げられたのかもしれないけど、やっぱりこう……今回はシングルとしてのポピュラリティについてすごく考えました。僕たちの音楽を聴いてくれるファンの人はもちろん、周りのスタッフや協力してくれる人たちを納得させられるだけの力がある楽曲を作らないとという意識が強くて。

──自分で高く設定したハードルを越えていくような。

自分のソングライティングに対する自信というか、良い音楽を作っているという自負はもちろんあるんですけど、そういう広くポピュラリティのある曲を作ろうと思えば思うほど、何が正しいのかわからなくなって。もちろん正解はないんですよ。過去に成功したバンドと同じことをやっても、そのバンドと僕たちは見た目も性格も違う別人なので同じように成功するわけじゃないし。正解はないけど、自分の頭でしっかり判断して、責任持ってやっていくしかない、というところに結局はたどり着くんですよね。

──なるほど。僕はここに収められている新曲3曲がどのタイミングで作られたのかわからない、まっさらな状態で聴いたので、今の話は興味深いですね。

うーん。僕が自分で作った曲を歌わない、もっと作家的な立場だったら、もうちょっと作為的に作るんでしょうけど、自分で歌う以上はこうやってインタビューも受けるわけで。自分の書いた曲を完成したあとに自己分析するようなところがあるんですよね。僕は基本的に最初のワンセンテンスを書いて、そこからどう物語が進んでいくかという書き方なので、あとになって「ああ、自分の深層心理はこういうことになっていたのか」と気付かされることが多いですね。

充実してるからこそ歯がゆい気持ちもある

──では、そういった自問自答を経て完成した3曲を客観的にどう感じますか?

「ミスマッチ」と「Goodbye, you all」は僕の得意な(笑)、人間の暗い部分を書いた曲ですけど、そんな中で「ミスマッチ」はもうちょっと、「ふさわしくなりたい」という主人公の明確な意思があるんですよね。まあ、そこからどうなったかはわからないですけど。「Goodbye, you all」ではさよならと言ってますけど、やはりこう出ていくってことは、ある意味次に向かっているのかなって。この暗い2曲のあとで、最後はちょっと希望を添えたいと思って、4曲目に「シンガー」を置いたんです。全体を通して、カミナリグモらしい価値観、世界観が見せられたらという意図もあって。

──なるほど。

「王様のミサイル」にはその3曲の流れと同じものが、1曲の中に入っていると思います。作品全体として、カミナリグモを好きでいてくれる人には、今までの作品と同様に気に入ってもらえると思うし、このシングルをきっかけに知ってくれた人にも、僕らのことが伝わる作品になったんじゃないかな。「これがカミナリグモですよ」というものは提示できたんじゃないかと思います。好きか嫌いかは判断してもらうしかない。その判断をしてもらうためのものとしては、いいものができたなと。

──もがきながらもこうして1枚の作品を完成させて、改めて見えてきたものはありますか?

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今回のシングルもそうですけど、評価されて然るべきだと自分で思える作品をとにかく作っていくしかないってことですね。そのあとのことは自分でコントロールできないこともたくさんあるけど、そこまでは最大限責任をもってやりたい。よく周りからは「もっと力を抜いて楽しんだほうがいいよ」って言われるんですけど、現状や自分の性格的にもそれはなかなか難しくて。ただ、制作に関しては本当にすごく充実しています。ずっとやりたかったバンドサウンドが理想どおりにできていて。そのときどきの状況によって制約があって、そこは頭を使いながら10年やってきたんですけど、ここ2年ぐらいはずっと同じメンバーでライブもレコーディングも進めてきて、ようやくバンドらしくなってきたというか、うまくコミュニケーションがとれるようになってきましたね。暗いことばっかり言ってきましたけど(笑)、そこは非常に充実してます。充実してるからこそ、やっぱり歯がゆい気持ちもあるし。とにかく今はもっと知ってもらいたいなって気持ちが強いです。うん。

──充実しているからこそ、もっと広げたいという葛藤はあるでしょうね。その充実感が感じられるからか、話を聞いていてもそれほど不安を感じないんですよ。すっごく無責任な言い方ですけど「めちゃめちゃ売れそうなのに」って思っちゃうんですよね(笑)。

いや、僕も思ってますよ(笑)。

──あははは(笑)。軸までブレてる人ならもっといろんなところまで不安定になるんでしょうけど、「カミナリグモの音楽」という部分で揺れることはなさそうだなと。

もちろん自分はまだまだだし、音楽トータルで見ると足りない部分、売れない要因はいくらでもあると思うんです。でも、まずはとにかくいい曲を作って、何かをきっかけにカミナリグモの音楽を知ってくれた人に「いいな」って言ってもらえるよう、自信のあるソングライティングもそのほかの部分も、もっともっと磨いていかないとなと思います。

ニューシングル「王様のミサイル」/ 2012年8月8日発売 / 1200円 / キングレコード / KICM-1409

CD収録曲
  1. 王様のミサイル
  2. ミスマッチ
  3. Goodbye,you all
  4. シンガー
カミナリグモ「王様のミサイル-Oneman Tour-」
  • 2012年9月17日(月・祝)
    長野県 長野NEONHALL
  • 2012年9月27日(木)
    愛知県 名古屋ell.SIZE
  • 2012年9月29日(土)
    福岡県 福岡SPIRAL FACTORY
  • 2012年9月30日(日)
    広島県 広島BACK BEAT
  • 2012年10月2日(火)
    大阪府 梅田Shangri-La
  • 2012年10月7日(日)
    東京都 WWW
カミナリグモ

2002年、上野啓示(Vo, G)が中心となってカミナリグモを結成。翌年には上野のソロプロジェクトとなり、弾き語り、バンド、ユニットと形態を問わないスタイルとなる。2007年にはサポートとして参加していたghomaこと成瀬篤志(key)が正式メンバーに。インディーズで3作のマキシシングルと1stアルバム「ツキヒノォト」を発表した。かねてよりthe pillowsを敬愛していた上野が、ライブ会場で山中さわお(the pillows)に手渡した音源が高く評価され、2010年7月に山中プロデュースによるマキシシングル「ローカル線」でメジャーデビュー。同年11月にはメジャー1stアルバム「BRAIN MAGIC SHOW」、2011年にはミニアルバム「SCRAP SHORT SUMMER」と2ndフルアルバム「SMASH THIS WORLD!」を発表した。2012年8月8日にはインディーズ時代からの定番ナンバー「王様のミサイル」を再度レコーディングし、ニューシングルとしてリリース。