ナタリー PowerPush - カミナリグモ

僕らはまだ戦えるんだ

カミナリグモのメジャー3rdアルバム「MY DROWSY COCKPIT」が完成した。およそ1年ぶりのフルアルバムとなる今作は、初期からの代表曲「王様のミサイル」をはじめ、島田大介監督(Qotori film inc.)撮影によるビデオクリップも話題の「あの虹」や、カミナリグモ独自のディープな世界観が味わえるタイトル曲「MY DROWSY COCKPIT」など12曲で構成されている。

アルバム制作の過程で、心境に大きな変化があったという上野啓示(Vo, G)。インタビューでは今作に賭ける彼の思いをじっくりと訊いた。

取材・文 / 臼杵成晃 インタビュー撮影 / 上山陽介

成熟されすぎず、初期衝動から少し進んだところにある

──前回のインタビューでは、音楽をやる上で抱えている悶々とした気持ちを話してくれましたよね。ちょうどアルバム制作に取りかかる直前でしたが、こうしてアルバムが完成した今はどんな気分ですか?

インタビュー写真

どちらかと言うと暗めな曲が多くなりましたけど、前作「SMASH THIS WORLD!」(2011年11月発売)からまた一歩先の世界にどう立ち向かっていくかみたいな、そういうバンドの気分が詰まってるアルバムにはなったかなと思います。決して意気揚々と明るい気分ではないんですけど、まずは自分が納得するもの、自分が世の中に評価されるべきだと思うものを作ることはできたかなと。前回のインタビューのときよりは、良くも悪くも開き直って、やるしかないっていう気持ちですね。

──アルバム全体のムードは、バンドメンバー全員に共通したものなのでしょうか?

音楽的な部分では僕も他の3人も同じ比重というか、みんなバンドの1/4の気分でそれぞれのパートに責任を持ってやっていて、アルバム全体の世界観を元に音を構築していくんですけど、とりわけ歌詞については僕が全部書いているので、そのへんの気分や温度感はそれぞれちょっとずつ違うかもしれないですね。もうこのメンバーで3枚目のアルバムで、お互いの共通言語も以前よりは断然増えた中でのレコーディングだったので、それぞれに「いいアルバムできた」という手応えはあると思います。

──カミナリグモはリズム隊の鈴木淳さん(B)と森信行さん(Dr)を固定のサポートメンバーとして加えたバンド形態ですが、このメンバーでフルアルバム3枚目ともなると、4ピースバンドとしての歴史が積み重ねられてきた感がありますね。

バンドとしても過ごしてきた時間も長いし、僕らはアルバムもシングルもどちらかと言うと曲数が多いほうなので、確実にバンドの持ってる力が積み重ねられてきていると思います。1st、2ndのときよりも、これが今のバンドの形だっていうのは明確に見えてますね。

──確かに今までのどのアルバムよりも、4人のバンドとしての音作りがよりハッキリしているように感じます。

僕らも同じような感覚ですね。自分たちで客観的に聴いても、よりバンドらしい、今の自分たちらしいアルバムになったなって。もちろん今までもその時々でベストは尽くしてますけど、この4人でCDを作るようになってから3枚目のアルバム、というのは時期的にもちょうどいいのかなと思いますね。成熟されすぎず、初期衝動から少し進んだところにある、みたいな。

いい曲をいいアレンジで届けよう

──カミナリグモのサウンド面での特徴というと、やはりghomaさん(成瀬篤志 / Key)独特の鍵盤アレンジにあるのかなと思います。ギターロックバンドがスパイス的に入れるキーボードとは異なりますよね。今回のアルバムでは、それがより明確になっているようにも感じました。

前作は、1stアルバム(2010年11月発売「BRAIN MAGIC SHOW」)で手応えを感じたカミナリグモのバンドとしての方向性を確立させようと作ったアルバムで。ghomaちゃんのキーボードは、いわゆる通常のギターロックでいうところのリードギターに当てはまるもので、この独特なアプローチがサウンド面での大きな特徴だと思うんですよ。今作はそれを踏まえた上で、さらに突っ込んだ部分もあれば、逆にちょっと抑えてる部分もあって。例えば「Stray Moon」はもし前作に入れてたら、単音でリードギターに当たるフレーズを入れてたと思うんですけど、ここではギターのアルペジオを全面に出してみた。これって前作で自分たちのスタイルが確立できたからこそできた引き算なのかなと思うんですよね。

──変な言い方ですけど「より自然に変なことをやっている」みたいな印象があるんですよね。それはもしかしたら「キーボードがいるバンド」という形式上のイメージに縛られないだけの余裕ができたということかもしれませんね。

インタビュー写真

そうですね。今回は自分たちのスタイルが当然のものとしてある上で、曲によっては必ずしもキーボードが主張しなくてもいいって考えられるようになりましたね。だいぶ肩の力が抜けてきたというか。世界観という部分では、何より今作は「王様のミサイル」が収録されるアルバムだというのが大きくて。この曲は昔からのレパートリーだけど、シングルとして改めてレコーディングするにあたって、サウンド面で工夫するというよりは、楽曲が持つ世界観をより広げられるようなアレンジにしたいねって話してたんです。「曲がいいんだから、しっかりと幅広く伝えるために良いプレイをしよう」って。このレコーディングを経て作り始めたアルバムだから、必然的にその傾向が強くなりました。

──具体的に方向性を固めるというよりは、自然に。

はい。面白いアプローチについては、元々そういうことが好きなメンバーが集まってやってるから、意識しなくても勝手にそうなっちゃうんですよ(笑)。今回はみんな「いい曲をいいアレンジで届けよう」という方向に自然と向かいましたね。

3rdアルバム「MY DROWSY COCKPIT」 / 2012年11月14日発売 / 3000円 / KING RECORDS KIZC-195~6
3rdアルバム「MY DROWSY COCKPIT」
CD収録曲
  1. 201周目の飛行船
  2. Toys
  3. SURVIVE
  4. あの虹
  5. Stray Moon
  6. RUSTY ALARM CLOCK -DROWSY Ver.-
  7. 脇役の犬
  8. ラストシーン
  9. 王様のミサイル
  10. Butterfly Girl
  11. MY DROWSY COCKPIT
  12. Perfect Sky
DVD収録内容
  • 「王様のミサイル」Music Video
  • 「あの虹」Music Video
カミナリグモ(かみなりぐも)

2002年、上野啓示(Vo, G)が中心となってカミナリグモを結成。翌年には上野のソロプロジェクトとなり、弾き語り、バンド、ユニットと形態を問わないスタイルとなる。2007年にはサポートとして参加していたghomaこと成瀬篤志(Key)が正式メンバーに。インディーズで3作のマキシシングルと1stアルバム「ツキヒノォト」を発表した。かねてよりthe pillowsを敬愛していた上野が、ライブ会場で山中さわお(the pillows)に手渡した音源が高く評価され、2010年7月に山中プロデュースによるマキシシングル「ローカル線」でメジャーデビュー。同年11月にはメジャー1stアルバム「BRAIN MAGIC SHOW」、2011年にはミニアルバム「SCRAP SHORT SUMMER」と2ndフルアルバム「SMASH THIS WORLD!」を発表した。2012年8月8日にはインディーズ時代からの定番ナンバー「王様のミサイル」を再度レコーディングし、ニューシングルとして発売。11月14日には3rdアルバム「MY DROWSY COCKPIT」をリリースした。