KALMA×リュックと添い寝ごはん|2020年メジャーデビューの似ているようで似ていない2組、お互いを語る

ライブは自由に楽しく

畑山 リュックは真面目なんだよね。軽音楽部だったし、もし演奏を失敗したら「失敗したー」って、かなり反省してヘコむでしょ? 僕らは少し違いますね。

斉藤 そうそう。失敗しても、失敗していないフリしてるだけ(笑)。最近はちょっと失敗しても、ライブ全体がよければ「今日、よかったね」っていう感じだよね。

畑山 そういう感じのライブが楽しいんだよ。もちろんちゃんと演奏しないといけないけど、失敗しても「ライブ全体通してよかったから、いいか」ってなれればいいし、それが気持ちいい。バンドを始めたての頃はメンバーが失敗したら怒ってたんだけど、自分だって失敗するわけだし、もう怒らなくなった。リュックはそういうところは真面目でしょ? ライブが終わったあとの雰囲気が想像つくもん。うつむいて「今日、ヤバかったね」みたいな……。

宮澤 ユウくんはしゃべらなくなります(笑)。

松本 うん(笑)。ライブで失敗すると凹むんですけど、ただ、ライブを観て「音源みたいだね」って言われてもうれしくなくて。音源とは違うものを見せたいっていう気持ちはすごくあるんです。例えばカネコアヤノさんのライブみたいなのが理想なんです。カネコアヤノさんは、音源だとギターも声もベースも抑え目なんですけど、ライブになると爆発するじゃないですか。声も太くなるし。そういう表現力の幅があるのがいいなと思っていて。そこを今、模索中なんです。

KALMA、リュックと添い寝ごはん。

斉藤 僕らの場合は、ライブのスタイル的にお客さんを巻き込んでいく感じだからね。

畑山 そうだね。僕はMr.Childrenが好きで、ライブに昔から行っていて。ミスチルのライブってお客さんと一緒に歌ったりして、すごく幸せな空間なんだよ。終わったあとに「ああ、幸せだったな」と思える。そういうのがいいなって。もちろんいろんなバンドがいると思う。ライブの第一印象が「カッコよかった」のバンドもいるし、「泣けた」とか「感動した」が一番に来るバンドもいると思うけど、KALMAはまず「楽しかった」が一番に来るバンドになりたい。だから曲中でもMCでも笑ってくれたらうれしいし、コール&レスポンスで歌ってくれたらうれしいし。カッコつけたり、気取ったりするんじゃなくて、僕たちが楽しく演奏することが伝わって、それがお客さんに伝染して笑ってくれたらいいなと思う。もちろん、曲は真面目にやりたいんだけどね。

斉藤 それは、もちろん。

畑山 でも、とりあえず楽しくありたい。僕らが楽しくやっていることが伝われば、きっとお客さんも楽しくなってくれるから。

──リュックは、お客さんとのつながりに関してはどうですか?

松本 僕らはお客さんが自由にノッてくれたらいいなと思っていて。去年「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」でネバヤン(never young beach)のライブを観たときに「これだ!」と思ったんですけど、ああいう感じで拳を振り上げるよりも、横揺れしてくれたらいいなっていうのがあります。

畑山 あー、確かに、サビで拳を上げる感じの曲はリュックにはないもんね。

松本 そうなんです。新曲の「あたらしい朝」は、そういうイメージで作った曲なんです。

斉藤 それこそ、この曲はネバヤンとかヨギー(Yogee New Waves)とかに近い感じはあるよね。

畑山 わかる。ライブでポッケに手を突っ込んで横にユラユラ揺れながら聴きたい曲っていう感じがする。「あたらしい朝」は完成する前の段階で宮澤に聴かせてもらってたけど、そのときから「いい曲だな」と思っていて。今回完成したものを聴いて、改めて「やっぱりすごくいい曲だな」と思った。今日、朝バスに乗るときも聴いたし、飛行機でも聴いてきたんだけど、飛行機の中で聴くのが、めちゃくちゃすがすがしかった。雲の上、晴れている空、海を見下ろし飛んでいる僕、リュックの新曲……気持ちよかったなあ。

金田 ミドルテンポでノリやすいよね。「あたらしい朝」というタイトルがまさに似合う曲で、すごく心地いい。

斉藤 あと、やっぱり演奏がうまいしね。

リュックのキャラ確立、真冬に夏の曲ばっかりのアルバム

──8月に出た「生活」、そして今回の「あたらしい朝」と、リュックは自分たちの鳴らしたい音像がどんどんと明確化されているし、それがちゃんと形になっている印象を受けます。

畑山 僕もそう思います。最近「リュックと添い寝ごはん」というバンドのキャラが確立されてきているんですよ。「グッバイトレイン」辺りから「こういう音楽をやりたいんだな、リュックは」っていうことがちゃんと伝わってきているし、それがうまく表現できていると思う。「生活」があって、この「あたらしい朝」で“リュックらしさ”みたいなものが確立されると思う。

松本 うわあ……めっちゃうれしいです。めちゃくちゃ伝わってる……! 自分たちがやりたいことが伝わっているのかどうか、すごく不安だったんです。

畑山 お客さんにはもっと伝わっていると思うよ。

松本 冬に出す「neo neo」というアルバムは、自分たちにとってかなり実験的な作品になりそうなんです。去年の夏にネバヤンのライブを観てからの1年間は、ずっとそこで見つけた自分たちのやりたいことを突き詰めてきた感覚があって。特にこのコロナ禍の自粛期間は自分たちを見つめ直す期間になったと思うんですけど、次の新しいアルバムは音楽の幅を広げて、もっと野外のライブが似合うような感じとか、自分たちにとっての“ネオ”な感じを突き詰めていこうとした作品で。結果として、真冬に出すアルバムなのに、夏っぽい曲ばっかりのアルバムになりそうなんですけど(笑)。

畑山 いいじゃん。あと、さっきメンバーで話していたんだけど、リュックの歌詞は表現が広いんですよね。僕が書く歌詞は自分目線ばかりで、ローカルだなと思うんです。そこがいいと言ってくれる人もいるんですけど、ユウくんが書く歌詞は一見ローカルなようで、いろんな人に対して意味が広がっていくようなワードが入ってる。例えば「あたらしい朝」だったら、「あたらしい朝 あくびを一つ」とか、「雨上がりのアスファルトみたい」とか、すごく受け取れる意味が広いんだよね。そういうところもいいなと思うし、そこも悔しいと思う部分の1つですね。

松本 この曲の歌詞に出てくる「冷コー」とかは実際に使ったことのない言葉なんですけど、昭和の頃に流行っていた言葉みたいで。懐かしさとか、レトロな感じを出せたらなと思って書いたんです。でも僕は逆にKALMAの歌詞がうらやましいんです。僕は恋愛のこととか、自分が思っていることをハッキリと言語化できないんですよ。悠月さんの歌詞は、自分を深くまで研究しているというか、自分のことをよくわかっている人じゃないと書けない歌詞だと思うんです。それは僕には絶対に書けない。

畑山 ユウくんの歌詞は大人が書く文学みたいだけど、僕の歌詞はわかりやすい作文みたいなものかもしれない(笑)。新曲だって歌い出しは「ねぇミスター 僕はどうしたら あの人みたいになれるんだい」だから。

──KALMAの新曲「ねぇミスター」、この「ねぇミスター」というフレーズの持つ勢いや力もすごいですよね。

畑山 「ミスター」は、聴く人によって、いろんな憧れの対象に置き換えてくれたらいいなと思っていて。僕にもいろんなミスターがいるんですよ。まあ、一番はやっぱりミスチルなんですけどね(笑)。そもそもはMr.Childrenの“ミスター”なんです。「どうしたら桜井さんみたいになれるんだろう?」っていう気持ちが根本にはあるんだけど、「ミスター」という言葉の奥には、ほかにもいろんな人たちが思い浮かぶ。それこそリュックだって僕にとっては“ミスター”だし、もしかしたらユウくんにとってはネバヤンが“ミスター”かもしれない。そんな感じで「どうしたらあの友達みたいに勉強ができるようになるんだろう?」とか、いろんな置き換えをしてくれるといいなと思って書きました。