カイジューバイミー インタビュー|4人が獲得した“見せかけではない根拠のある自信” (2/2)

ここからは自己との戦いが大事

──「ROVER」からは、「どこまでも行くぞ!」と夢を追って勢いよく駆けていくイメージではなく、ストイックかつ愚直に等身大の自分と向き合って、地に足をつけて歩んでいこうとするリアルさを感じました。現実と向き合って進んでいこうとしているカイジューバイミーの現状とも重なりますよね。

菜月 たまたまですか?

 たまたまじゃないよ!

エレナ菜月華希ミーア ハハハハ!

 ミニアルバムをリリースすることは、かなり前から決まっていて。「ROVER」のジャケットを見ると、“R”のあたりに“L”の文字も薄く書かれているんです。というのも、最初は「LOVER」というタイトルにしようと思っていたんですよ。この“L”はわざと残してるわけじゃなくて、僕がスマホのアプリでジャケットのデザインを作っているのもあって、きれいに消せなかった。……ん、なんで笑ってるの?

エレナ ジャケットの話を聞いて「そうだったんだ」と思って。

カイジューバイミー「ROVER」ジャケット

カイジューバイミー「ROVER」ジャケット

華希 この“L”について、気付いてるファンの方がいました!

 あ、そうなんだ。「怪獣大全集」とかを経て、自分が作るべく作品のタイトルは「LOVER」(愛する人)じゃなくて、「ROVER」(流浪者)のほうだと気付いたんです。その結果、自分自身と向き合う1枚になりました。収録曲はどれもカイジューバイミーが歌うからこそ説得力が出る音楽で、活動の中で僕が思ったことも反映させています。

華希 祐さんの書いてくださる曲は「自分たちへのメッセージが込められてるな」と思うこともあるし、「私たちの気持ちがそのまま曲になってる」と感じるときもあって。今回も自分たちと重なる部分はあるけど……それ以上に祐さんの心臓をすごく感じる。

 活動していく中で、自分も変化をしていかないと飽きるので、刺激を求めていろんなことを始めるんですね。これまではカイジューのライブやイベントなど、ほぼすべての現場に足を運んでいて。それってすごく幸せなんですよ。チェキを撮りながらダイレクトにお客さんの声を聞けるし、メンバーと同じ気持ちを味わえるから。だけど、1回そこから抜け出したいなと思って、現場や事務所にも行くのをやめたんです。

ミーア こんなに現場に来ないこと、結成以来なかったですよね。

華希 今まではリリイベも毎回欠かさずに来てくれていました。

 外側から見えることがたくさんあるんですよ。最初は、大切にしていたものを自らすべて捨ててしまったような、何もかもを失ったような気持ちになってつらかったし、孤独を感じました。でも現場の温度や空気感が自分のところに届かないからこそ、感じられたこともたくさんあって。この環境に自分から飛び込んだからこそ、作ることができたアルバムが「ROVER」です。

華希 「ROVER」の楽曲から、めっちゃ祐さんを感じます。

スタンド・バイ・華希

スタンド・バイ・華希

 「アローン」とか、特にそうだと思う。

ミーア 「霊園」も初めて聴いたときに祐さんを感じました。

 それぞれが1曲として完結してるけど、6曲を通してひとつの作品になっていると思います。今回のアルバムはタイトルにもある、正に「放浪者」のような目線から自問自答していく形で制作を進めていったんですけど、その中で今の自分やカイジューバイミーの答えみたいなものが少しずつ明確になっていく感覚があって。ほかにも収録する予定で準備していた楽曲があったんですけど、その最後の曲をレコーディングする数時間前に「やっぱりこれじゃないな」と思い、急遽ボツにして「今から新しく書きます」と言って1時間半ぐらいでバーッと書いたのが「霊園」です。そのときの自分から見えた景色や心情をそのまま歌詞にしてるので、その分、僕からメンバーに対する思いや、聴いてくれる人への思いも含まれているし、すごくリアルな楽曲になりました。僕にとって一番特別な曲かもしれないです。

エレナ 制作期間中に祐さんが曲作りに集中していた分、リリースイベントでは4人の力だけでお客さんにパフォーマンスを届けなきゃいけないと思いました。祐さんがリリイベに来てくれたときに、ちゃんと楽曲を届けている姿を見せたいなって。歌詞をただ歌に乗せるだけじゃなくて、「今の自分たちはこうなんだ」という姿勢を見せることを大事にしたいなと、「霊園」を聴いたのをきっかけに思いました。

菜月 作品を出せることを前よりも大事に思えているし、1曲1曲を通してちゃんとカイジューバイミーの存在を伝えたいという気持ちもデカくなっていて。新曲を初披露する前に、メンバーだけでスタジオに入るようになったんですよ。今まではしてなかったよね?

華希 うん。こんなに1本1本のライブに時間をかけることは今までなかった。

ミーア 楽曲ごとにスタジオに入ったよね。

スタンド・バイ・ミーア

スタンド・バイ・ミーア

華希 これまでは、常に祐さんが私たちの後ろで見守ってくれてる感覚があった。でも、この「ROVER」では横にいる感じがしたんです。みんなで横並びになって走ってる、みたいな。「霊園」は上からでもなく後ろからでもなく、私たちと同じ目線になって書かれた曲に感じました。

 確かにそうかもね。今作はこれまでの楽曲以上に、僕目線の要素が強く出ていますが、外部の人間からメンバーへ曲を渡した、という感覚もあるんです。特に「霊園」は他人としてというか、今の自分が、カイジューバイミーや聴いてくれるファンに手を伸ばしても届かない場所にいることを完全に受け入れることができたうえで書いた曲ですね。

──これまでは祐さんが後ろで支えてくれていたので、ときには安心して寄りかかることもできた。でも、横にいるということは寄りかかれないから、しっかりと自立して歩かなければいけない。その自覚が芽生えたからこそ、「祐さんがライブを観に来たとき、ちゃんと曲を届けている姿を見せたい」という思いが芽生えたり、自分たちで率先してスタジオに入ったりするようになったのかなと思いました。

華希 まさに、その感覚です。祐さんがパッと現れたときに「私たち、こんなに進化してますよ」と示したかった。その気持ちをメンバー各々が持っていたし、「ROVER」にはその意識の変化が強く表れていると思います。

 これまでは「このまま行くと失敗するな」と思ったら、すぐにフォローしていたんです。それがプロデューサーの役割なんですけど、“最終的には手を差し伸べてもらえること”ありきでやってるな、と感じてしまって。最近はなるべくいい距離感を保つようにしています。失敗してもいいし、それこそが大きくなるための一番の近道になる。それにステージって、どんなに曲がよくても、歌やダンスがうまくても、結局は人間性が左右する。この4人は歌もダンスもできるようになってきたからこそ、ここからは自己との戦いが大事。すごくいい状況だと思います。

今、やっとカイジューがデビューした

──「ROVER」の収録曲「ルーザー」には、関大地(ハルカミライ)さん、日向秀和(ストレイテナー、Nothing’s Carved In Stone)さん、櫻井誠(Dragon Ash、The Ravens)さんというそうそうたる面々がゲストミュージシャンとして参加しています。これからカイジューバイミーが大きくなるうえで、意識を向けなければいけない、次のフェーズを示しているように感じました。

 ご一緒した皆さんは、僕が音楽を始めたときから憧れていた方たちで。新しい試みをすることで楽曲のクオリティ向上もそうですし、メンバーの成長に対しても可能性を広げたいと思ってコラボをお願いしました。

菜月 レコーディングで生演奏されている姿を観て、めっちゃ痺れたし刺激になりました。

エレナ あっという間に録り終わったからびっくりした。

ミーア 本当に早かったんですよ。「じゃあ、1回弾いてみますね」と言って、バーッと演奏されて。「気になるところはありますか?」「いや、ないです!」ってサクサク終わった。

 「プロってそういうものなんだよ」とメンバーには前から伝えてはいたつもりだったけど、とはいえ自分の目で見ないとわからないもんね。実際、レコーディングを進めていくにあたって、1つひとつの音との向き合い方もそうですけど、その現場での空気感の作り方なども含めて、勉強になることが本当に多かった。

ミーア 「ルーザー」のオケができて、その場ですぐ歌のレコーディングもしたんです。演奏に自分の歌が負けないようにしよう、と気持ちを込めて強く歌いました。今はライブで歌うたびに自分の中で新たな解釈というか、レコーディングのときとは違う感情が出てきて。曲が育つってこういうことかと実感しています。

菜月 このコラボが自分に与えた影響はめちゃくちゃ大きいです。レコーディングの日から全然違うんですよ。

 プロとしての自覚が芽生えたよね。

ミーア 「本当のカッコいいってこういうことだ」というのを目の当たりにして。自分たちのライブ映像を観ているときも、実際にステージに立っているときも、前とは全然違うものを感じる。ピーン!と背筋が伸びました。

 「プロとしてカッコよくならなきゃ」よりも「プロとしての自覚を持って挑むことってカッコいい」という感覚に変わったのかなと思います。今、やっとカイジューがデビューした感じだよね?

エレナ 確かにそうかも!

菜月 ようやくスタートラインに立った。

エレナ ゲストミュージシャンの方々のレコーディングが終わって、いざ私たちが歌うときに「圧倒されてばかりじゃダメだ、次は自分が圧倒しなきゃ!」と思ったんです。これまではどう歌うのかを考えながら臨んでいたけど、そうじゃないんだって。もっと自由に堂々と歌おうと思いました。これまでいろんな曲を歌ってきた中で、「ルーザー」での自分の歌声が一番好きです。あのときしか出せなかった歌声だし、これまでの道のりがあったからこそ生まれた曲だなと思います。

スタンド・バイ・エレナ

スタンド・バイ・エレナ

──「ようやくスタートラインに立った」という話も含めて、「ROVER」はカイジューバイミーの歴史において大事な1枚になりましたね。

 今までやってきたこと、今やらなきゃいけないことが明確になったし、これから進む道の指針になった1枚だよね。

華希 そう思います!

 きっと僕たちは「ああでもない、こうでもない」と同じところをぐるぐる回っているんですよ。今までやってきたことを自ら否定する形で新しい音楽を作っているけど、結局また元の位置に戻ってくる。それは無駄なことにも見えますけど、「愛なんて」という曲の歌詞にも書いてるように、すべて無駄じゃないんです。ずっと同じ場所を回ってるように見えて、気付かないうちにいろんなものをまとえるようになり、背負えるようにもなってる。今後もその繰り返しかなと思います。

菜月 収録曲のうち「濁流」と「茜」は既存曲だけど、1周回って新しい曲に感じるんですよ。迷ったり葛藤したりしながら、ここまで来たから全然違う曲として歌えているなって、今改めて思いました。私は今のカイジューが一番好きです。

スタンド・バイ・菜月

スタンド・バイ・菜月

心に残りだったLIQUIDROOMワンマンを成功させる

──今後の予定としては、8月27日にLIQUIDROOMでワンマンライブ「来航」が開催されます。LIQUIDROOMは2023年のデビュー2周年ワンマン「衝幕」で思うようなパフォーマンスができずに、ステージ裏で悔し涙を流した遺憾千万の会場でもありますね。

菜月 YouTubeのドキュメント映像って観ました?

──観ましたよ。菜月さんが終演後に泣きながら叫んでいました。

菜月 あの日のライブではそれだけショックを受けたし、自信をなくした日でもあったから、自分の中でずっと蓋をしていて。「来航」の開催を発表した当初は、悔しかった思い出として残っていたけど、今はそれだけじゃなかったと思えるようになりました。あのライブがカイジューとの出会いになった人とか、「いいワンマンだった」と思ってくれた人とかもいて。「そういうのを忘れちゃってたな」と気付いたし、あの日だけのカイジューらしさもあった。ただリベンジするんじゃなくて、あの日のカイジューを愛してあげたい気持ちが生まれました。今はシンプルに最高のライブがしたいですね。

華希 2年前の私はめっちゃ自信満々でステージに上がったけど、ステージ上で初めて「あ、自分は弱いな」と気付いちゃったんです。私は小さい頃からダンスをやっていて、ステージに立つ機会はたくさんあったけど、心が折れたのは2023年のLIQUIDROOMが初めて。そんな自分にショック受けたし、自信もなくした。あれから2年が経って、今の私たちだったら本物のステージを見せられる自信があるんですよ。ほかにも立ちたいステージはたくさんあるし、カイジューを知らない人も大勢いる。やりたいことを1つずつ叶えていくには、心残りだったLIQUIDROOMを成功させるしかないんです。

エレナ 最近まで、頭の中には“悔しさ”ばかりが残っていました。でも、映像を見返すとお客さんがめっちゃ盛り上がっていて、歓声も半端じゃなかった。お客さんからもらった熱量を思い出したし、それと同時にあの日の自分たちができなかったことも鮮明によみがえってきて、ファンのみんなにもっと大きいものを返せたはずという気持ちが込み上げてきました。何より、今の自分たちならちゃんと音楽を届けられる自信がある。最初から最後まで1曲1曲を大事に伝えていって「カイジュー最高だ!」って言いたい。そういうワンマンにしたいです。

ミーア 今思うと、当時の私は自分のことしか見えてなかったなと思います。だけど……今は違う。かつての未熟だった私とは違う姿を見せたいです。ちなみに、1カ月前にLIQUIDROOMの見学をしたんです。お客さんがいないフロアを見たときに、2年前よりも少しだけ小さく感じた。その瞬間に「今の自分ならカッコいいステージにできるな」と思いました。東名阪ツアーやZepp Shinjuku、全曲披露ワンマンとか全部のライブが自信につながっているし、今度のLIQUIDROOMワンマンで初めてカイジューのライブを観る人にも、これまでの経験が伝わるようなステージにしたいです。

カイジューバイミー

カイジューバイミー

 正直、僕は「リベンジワンマンはやらなくていいんじゃないかな」と思っていたんです。確かに、2年前のLIQUIDROOMワンマンは自信をなくした日でした。でも、その原因はわかっていて。2年前までは根拠のない自信だけで突き進んでいて、周りの人たちからも「カイジューバイミーはすごい!」ともてはやされていたけど、その自信が打ち砕かれた瞬間だった。そもそも根拠のない自信だけで、登り詰めることなんて絶対にできない。どこかで自信をなくす瞬間がある。上を見れば見るほど「自分って全然ダメだな」と思い知る。自分と周りの差に気付いた瞬間が、本当の財産だと思っています。4人からすれば、LIQUIDROOMは悔しい思いをした場所かもしれないけど、自分の実力のなさに気付けないまま上に行って、取り返しがつかないところで心が折れた人たちを僕はたくさん見てきたし、むしろ2年目で気付けたことはラッキーでした。あの日から今日まで、4人は見せかけではない根拠のある自信を身に付けてきました。自分たちが大きく成長したことを今度のLIQUIDROOMワンマンで改めて気付くことになると思うし、気付かせてあげたいですね。

──祐さんの中ではリベンジではないと。

 もっと前向きな気持ちでステージを楽しんでほしいです。いいライブになるのは間違いないし、ここからカイジューバイミーはもっと上に行くので「その前にLIQUIDROOMを噛み締めておいで」という気持ちですね。

──9月28日からは、同じくI LOVE YOU ENTERTAINMENT MUSICに所属するスパンコールグッドタイムズとのツーマンツアー「HELLO,I LOVE YOU これから愛して抱きしめる為ツアー」が開催されます。

華希 全国にI LOVE YOU ENTERTAINMENT MUSICの輪を広げていきたいし、勢いが増している最強の2組でツアーを回るのは、めちゃくちゃ楽しみです。

エレナ 絶対に来たほうがいいよね。

華希 観ないと損しちゃいます!

 初めて北海道や仙台でライブをします。もっと公演の本数を増やしてもいいのかなと考えたりもしたんですけど、今回は各地1本のみにしました。

菜月 1本のライブをやるためだけに各地を回るのって、けっこうな勇気だと思うんですよ。だからこそ「この1本に込めたデカい気持ちを受け取れ!」って言いたい。

 事務所の売上を考えたら、いっぱいライブをしたほうがいいし、お客さんとしても「1本の対バンのために地方へ行くのか」と思うかもしれないですけど、そんな守りに入ったことはしたくないんです。

菜月 私、思うんですよ。ライブ1本のだけのために遠くから足を運んでくれる人と、いつでもライブが観れる感覚で足を運ぶ人とでは、気持ちが全然違う。「明日もあるし」みたいに余力がある状態だと、ステージを見る熱量にも大きな差が出る。

 メンバーがそう思ってるからじゃなくて? 「私たち、明日もライブがあるから」ってさ。

菜月 余裕を持ったスタンスでステージに立てないから、いつも困ってるんですよ!

一同 ハハハハ!

カイジューバイミーとメルクマール祐。

カイジューバイミーとメルクマール祐。

公演情報

カイジューバイミーONEMAN「来航」

2025年8月27日(水)東京都 LIQUIDROOM
OPEN 18:15 / START 19:00


カイジューバイミー×スパンコールグッドタイムズ 全国六大都市2MAN TOUR「HELLO,I LOVE YOU これから愛して抱きしめる為ツアー」

  • 2025年9月28日(日)北海道 SPIRITUAL LOUNGE
  • 2025年10月18日(土)福岡県 Queblick
  • 2025年10月25日(土)愛知県 RAD HALL
  • 2025年10月26日(日)大阪府 Live House ANIMA
  • 2025年11月9日(日)宮城県 ROCKATERIA
  • 2025年11月16日(日)東京都 渋谷音楽堂

プロフィール

カイジューバイミー

スタンド・バイ・エレナ、スタンド・バイ・菜月、スタンド・バイ・華希、スタンド・バイ・ミーアの4人からなるロックアイドルグループ。「唯一無二の初期衝動」をテーマに掲げて活動している。2020年12月に東京・TSUTAYA O-Crestにてプレデビューのお披露目ライブ、2021年7月に東京・ヒューリックホール東京で正式なデビューライブを行い、熱量の高いライブパフォーマンスで徐々に話題を集める。2021年11月に1stフルアルバム「純白BY ME」をリリースした。2022年7月に東京・渋谷CLUB QUATTROでデビュー1周年記念ワンマンライブを開催。11月に同会場で再び単独公演を行い、チケットをソールドアウトさせた。2023年7月にはデビュー2周年記念ライブを東京・LIQUIDROOMで実施。2024年4月に東京・Zepp Shinjuku(TOKYO)でワンマンライブを行い、会場を満員にした。同年5月に「bleach」、2025年6月に「ROVER」と題したミニアルバムを発表。8月27日に再びLIQUIDROOMでワンマンライブを開催する。