音楽ナタリー PowerPush - 限りなく透明な果実

不器用に太陽を目指す3人の現在地

リリエンタールの姿に重ねた3人のスタンス

──今作のジャケットのコンセプトは?

サトル アルバムのコンセプトとつながってくるんですけど、今回の「LILI&HAL」っていうアルバムはオットー・リリエンタールっていう、昔飛行機を作っていた人をテーマにしていて。オットーはグスタフという弟と一緒に飛行機を作っていたんですけど、ライト兄弟よりも前に何度も飛行機を飛ばしていたんです。ライト兄弟はエンジンを積んで実験をしていたんですけど、この人たちの飛行機はグライダーみたいな感じだった。今からすると到底飛べるわけがないだろう、みたいな飛行機で実験を繰り返して、結局オットーは飛行中に墜落して亡くなったんですけど。そんな彼らの話に感動しまして「彼らのアルバムを作ろう」と。

──そのようなスタートだったんですね。

限りなく透明な果実

サトル そうなんです。彼らのすごく不器用な感じ……空を飛ぶっていうことは当時常識的にはあり得ない話なわけで。そういった未知なる概念に立ち向かう姿というか。そういったところにすごく共感して、彼らについてのアルバムを作りました。自分の中でリリエンタールの話が、ロウの羽で太陽に向かって飛ぼうとした神話のイカロスの話や、僕らのバンドが3人だけで不器用にやっているスタンスなど……いろんなこととリンクしていまして。絶対届かない太陽に向かっていくような姿勢だったり、飛べるはずないのに空を飛ぼうとする姿勢だったり。

──そうなんですね。CDを聴いて、作品を貫く物語があるように感じたので、今の話を聞いて納得しました。ちなみに、タイトルはどうしてリリエンタールのつづりそのまま(Lilienthal)ではなく「LILI&HAL」と書き替えたんですか?

サトル LILIとHALっていう女の子と男の子の名前にして、もうひとつ意味付けをさせてもらいました。

──サトルさんから作品のコンセプトを聞いたときはどう思いました?

アキラ 1曲1曲を作っているときはそこまで作品の世界観は意識しなかったけど、いざ1枚のアルバムにパッケージしようってなったときにコンセプトを聞いて「よし」ってすぐに受け入れましたね。

サトル なんか、みなぎるものがあったよね。

アキラ なんと言うか、リリエンタールが何度も何度も挑戦した姿に自分たちの姿を重ねて。

サトル しかも、リリエンタールも俺らも兄弟でトライしてるしね。今、バンドマンってなかなか報われない時代だと思っていて。テクノロジーが発達してきて、今はボーカロイドとかが人気ですよね。逆に、バンドとかだと解散していく仲間が多くて、僕らはそういう仲間を目の当たりにして悔しい思いをしていて。そんな、時代に刃向う姿勢っていうものを今回の作品にはそのままパッケージングできたんじゃないかなと思います。

──1曲目「halo:太陽、オレンジ」の冒頭にはサトルさんのつぶやきが挿入されてますよね。「君に会いに行く 太陽を超えて会いに行く」っていう言葉でこの作品がスタートすることにメッセージ性を感じたんですが、それは今言ったようなバンドの意志を表現したものなんですか?

サトル そうですね。「太陽を超えて会いに行く」っていうフレーズには……形容しがたい思いが詰まってますね。

何かに立ち向かうような心構え

──サトルさんの歌詞は文学的ですよね。歌詞を書く際もインスピレーションを受けたのはやはりリリエンタールの史実ですか?

サトル そうですね。その史実だけでけっこう泣けてきたりしちゃって。昔の飛行機を見るのが好きで、飛行機の図鑑を見たりもするんですよ。

ニシカワユウスケ(Dr)

ニシカワ 一時期めっちゃ飛行機のこと話してるときありましたもんね。「飛行機が熱い」とか、「図書館で飛行機のこと調べてきた」とか。

──あとは言葉遣いが特長的ですよね。「halo:太陽、オレンジ」や「リリエンタール」は全体を通して聴くと希望を感じるメッセージが込められたナンバーだなと感じるんですけど、一方で「こんな世界に興味はないから」といったフレーズや「落ちる」という言葉のリフレインなど、けっこうインパクトのある強い言葉も混じっていて、その部分がすごく印象に残るんです。そういったところの言葉選びは意識しているんですか?

サトル そうですね。何かに立ち向かうような心構えを表現するのが好きなので……。今置かれているバンドの状況もそうですし、自分の人生も決して順風満帆なものではないので、“悔しい”といったような思いを持って歌詞を書くことが多いです。

──サトルさんのこういった独特な歌詞の世界観を、ほかのお2人はどう捉えてらっしゃるのか気になります。

アキラ 歌詞に関しては、最初はいちリスナーとして聴くんですけど……俺らは「これってどういう意味なの?」って本人に聞けちゃうからね。そうやって教えてもらった意味を演奏で表現するのが仕事なので。

──いちリスナーとして聴いたときの第一印象ってどのようなものですか?

アキラ 俺はちょっと照れくさい(笑)。

ニシカワ 最初に歌詞を聴くときって、演奏中のことが多くて。なので演奏に合ってるかというか、ビートの間に入って来る語呂というか、音としての気持ちよさがあるかっていう部分を聴くんです。そして演奏しながら印象に残っていくフレーズっていうと、さっきおっしゃったような……意味合いとしても強い言葉が多いので、演奏のあとに「これってこういう意味なんですか?」って聞いたりとかはしますね。

フクシマサトル(Vo, G)

サトル 俺が歌詞の表現とかを迷っているときに、ニシカワくんが「この表現はいいですよ」って強くプッシュしてくれて制作が押し進められることも多いですね。そういう意味で、歌詞は僕が書いているんですけど、曲は3人で一致団結して作っていると思っています。俺ら、シンガーソングライター+バンド、っていう構図じゃないもんね。

アキラ そう。歌作る人が弾き語りでデモを持ってきてバンドアレンジして……っていう、よくある作り方で曲を作ったことがない。

サトル 一度もないね。

ミニアルバム「LILI&HAL」 / 2015年1月14日発売 / 2000円 / 古都レコード / DQC-1452
「LILI&HAL」
収録曲
  1. halo:太陽、オレンジ
  2. 三番街、発明家
  3. カンパネルラ
  4. 小さな魔女
  5. 灯台守の歌
  6. ウッドペッカー
  7. リリエンタール
限りなく透明な果実 mini album“LILI&HAL(リリエンタール)”リリースツアー
  • 2015年2月14日(土)東京都 渋谷club乙-kinoto-
  • 2015年2月20日(金)大阪府 天王寺Fireloop
  • 2015年2月21日(土)徳島県 club GRINDHOUSE
  • 2015年2月27日(金)宮城県 enn 3rd
  • 2015年3月6日(金)東京都 下北沢Daisy Bar
  • 2015年3月13日(金)京都府 京都MOJO
  • 2015年3月15日(日)兵庫県 ART HOUSE
  • 2015年4月10日(金)愛知県 CLUB ROCK'N'ROLL
限りなく透明な果実(カギリナクトウメイナカジツ)
限りなく透明な果実

フクシマサトル(Vo, G)、サトルの実弟のフクシマアキラ(B)、ニシカワユウスケ(Dr)から成る3ピースバンド。サトルの呼びかけで2011年に活動をスタートさせる。2011年3月に1stデモCD「十字衛生軍」をライブ会場で販売し、2012年1月に2ndデモCD「方舟ep+マクロファージ」を発表。同年5月には1stミニアルバム「サナトリウム.end」をライブ会場及びdisk union限定で発売する。2013年10月には3rdデモCD「『    』(無題)」を発表。2015年1月にバンド初の全国流通盤となるミニアルバム「LILI&HAL」(リリエンタール)をリリースした。