Kがニューアルバム「Storyteller」を1月24日にリリースした。
本作は全楽曲が詞先で制作されており、その意味でKにとって実験的な1枚となった。作詞を手がけたのは旧知の仲であるプロデューサーの寺岡呼人。Kはシンガーとして、作曲家として、寺岡とキャッチボールをしながら時間をかけてじっくりとこのアルバムを作り上げたと言う。今回のインタビューでは制作の中でKが何を感じ、何にこだわったのかを聞いた。
取材・文 / 宮崎敬太 撮影 / 後藤倫人
台本を渡された役者さんみたいな感覚
──ひさしぶりのオリジナルアルバムですね。
今回はレーベルが決まってないまま制作を始めたんです。今まではスタッフの方たちと決めたスケジュールに沿って作曲をしていたんですが、今回はそういう着地点を設定せず作り始めました。そういう意味では「Storyteller」はすごく自由な発想から生まれた作品だと思います。
──なぜ詞先で制作したんですか?
プロデューサーの寺岡呼人さんと飲みに行ったとき、「こんなアルバムができたら面白いね」という雑談をしたのがきっかけです。別に僕や呼人さんの作品として作ろうというわけではなく、最初は単純に「こんなのがあったら聴いてみたい」みたいな感じだったんです。普遍的なポップスもあれば、おしゃれなサウンドやカッコいいフレーズが入っている曲もある。そういうアルバムを作ってみたいよねって。でもその中で共通していたのは、最終的に言葉が残る曲ということでした。それで詞先でやってみようという話になったんです。呼人さんとは3、4年前にも詞先で曲を作ったことがあったし。
──メロディから曲を作るのに飽きたという部分はありますか?
それはそこまで深くは考えてません。でも、詞先だとイレギュラーなことがいっぱい起こるんですよ。以前詞先で制作したときも、言葉が小節の中にハマらないこととかがよくあって。でも思い通りに作れないところがすごく面白かった。あと、人の書いた詞から曲の世界観を作っていく作業も新鮮でしたね。自分で作詞作曲する場合、僕は詞の主人公の顔とか、着る服とかをゼロから想像していくんです。でも今回は事前にある言葉からイメージするキャラクターの肉付けをしていって、それが本当に楽しかった。台本を渡された役者さんみたいな感覚ですね。シンガーとして世界を広げていっている実感があって、それは今まで感じたことのない喜びでした。
──歌詞は一気にすべて渡されたんですか?
いえ、少しずつです。曲によっては、断片的な言葉だけがいくつか送られてくることもありました。そこに僕がメロディを付けて呼人さんに戻すと、さらに新しい言葉が送られてくる、みたいな。もちろん1曲分の歌詞が、お手紙みたいに送られてくることもありました。今回はとにかく時間があったので、そういうやり取りを1年くらいやっていました。送られてきた歌詞の世界観がわからなくて、呼人さんに細かく意味を聞いたこともありましたね。
自分の中にルールを作らず自由に作った
──歌詞の意味を理解するのに時間がかかった曲はありますか?
「桐箪笥のうた」ですね。日本では桐で作った箪笥を嫁入り道具として持たせるということを知って、カルチャーショックを受けました。この曲は最初に歌詞を丸ごといただいたものです。それを読んで、第三者的な視点で歌っていきたいと思ったんです。子供が生まれたという僕自身の経験も反映させましたけど、あくまで客観的でいたかったんですね。だから歌詞に登場するキャラクターを曲の中でどう出すかを一番重視しました。なるべく熱くならないように、プレイヤーの皆さんにもとにかく「音を抑えてほしい」と伝えました。その感じが出るようなアレンジにしましたし。
──呼人さんの言葉を生かすことを最初に考えていたんですね。
はい。自分で作詞作曲する場合は、50~60%の段階のアレンジをスタジオに持って行っていたんですが、今回は先に詞があることでキャラクターもはっきり見えていたので、90%くらいの状態までできあがったものを持って行きました。歌い方に関しても、今までは歌入れする直前までは試行錯誤していたんですけど、今回はほぼ決め打ちでいきました。それぞれの曲のビジョンがはっきり見えていたから、この歌詞ならこの音色で、この言葉ならこのフレーズがいいみたいな形でアレンジを作って。例えば「プリテンダー」なんかも、スタジオに入る段階でほぼこの形に仕上がってました。
──「プリテンダー」は男性の切ない心情を歌った曲ですよね。
僕は槇原敬之さんの「君の後ろ姿」という曲が大好きなんです。「プリテンダー」は僕なりの「君の後ろ姿」を作りたいなという思いがありました。ちなみに初めは最後の歌詞の「『、、、君が欲しいんだ』」にカギカッコが付いてなかったんです。
──カギカッコの有無で歌詞のニュアンスは変わってきますよね。
そうなんですよ。呼人さんが最後の歌詞にカギカッコを付けたことで、僕はこの部分を心の声だと解釈したんです。この主人公は「、、、君が欲しいんだ」と口に出して言えなかったんだと。だから曲もちゃんと締めるのではなく、フェードアウトにしました。フェードアウトをする場合は、同じ演奏が延々と繰り返される。そこの意味合いを、歌詞と合わせて感じ取ってほしいですね。
──韓国の方の恋愛観ははっきりしていると聞いたことがあります。
もうね、好きか嫌いか2つに1つです(笑)。逆にこういう曖昧さは失礼だと思われちゃう。でも僕はそういうのが苦手だったんです。僕は日本人の持つグレーな感覚が大好きなんですよ。「白か黒」じゃなくて「白も、黒も、グレーもある」。そのほうがしっくりくる。直球じゃないからこそ生まれる面白みがあるんです。曲作りにおいてもメロディがあると答えがある程度見えてしまうものなんですよ。そうすると表現できる部分が限られてしまう。
──詞先で作ったことで、Kさんのクリエイティビティが自由に発揮できたわけですね。
はい。今回は詞先でやるという以外は、ルールを作らず自由にやることを意識したので。
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34歳の僕が歌って意味のある言葉
- K「Storyteller」
- 2018年1月24日発売 / Victor Entertainment
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初回限定盤 [CD+DVD]
5184円 / VIZL-1295 -
通常盤 [CD]
3240円 / VICL-64915
- CD収録曲
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- Piano
- Story
- GATE11
- シャイン
- 指輪物語
- ボーダー
- 春の雪(Album ver.)
- Louder
- プリテンダー
- 桐箪笥のうた
- Bless U
- 残像
<初回限定盤ボーナストラック>
- 遠雷(Album Ver.)
- 初回限定盤DVD収録内容
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live K 2017 ~Anthology Night~
- イケナイ DRIVE
- Cover Girl
- 525600min.~Seasons of love~
- スニーカー
- Only Human
- 遠雷
- over...
- 桐箪笥のうた
- 641
- You're My Home
- プリテンダー
- 7 days
- 反省ゼロ
- Music in My Life
- Last Love
- Y.E.S.
- GATE11
- シャイン
- Bye My Friends
live K tour 2018 ~Storyteller~
- 2018年2月3日(土)宮城県 チームスマイル・仙台PIT
- 2018年2月4日(日)東京都 日本青年館
- 2018年2月8日(木)広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
- 2018年2月9日(金)福岡県 イムズホール
- 2018年2月16日(金)愛知県 DIAMOND HALL
- 2018年2月18日(日)大阪府 森ノ宮ピロティホール
- 2018年3月1日(木)北海道 札幌市教育文化会館 小ホール
- K(ケイ)
- 1983年11月生まれ、韓国・ソウル出身の男性シンガーソングライター。地元ソウルの教会で続けていたピアノライブが話題となり、2005年3月にシングル「over...」で日本デビューを果たす。同年リリースしたシングル「Only Human」がテレビドラマ「1リットルの涙」の主題歌に採用されスマッシュヒットを記録。2010年11月には東京・日本武道館で単独ライブを行った。同年12月に初のベストアルバム「K-BEST」をリリースし、その後兵役のため2年間の活動休止に入る。2012年10月に兵役を終え、音楽活動を再開。2013年に復帰作となるミニアルバム「641」を発表した。2017年2月にビクターエンタテインメントより寺岡呼人プロデュースによるシングル「シャイン」を発表。2018年1月に寺岡呼人が作詞およびプロデュースを手がけた、“詞先アルバム”「Storyteller」をリリースした。2月より全国ツアー「live K tour 2018 ~Storyteller~」を開催。