jo0ji×御所園翔太監督インタビュー|「呪術廻戦」第3期「死滅回游 前編」エンディングテーマ制作秘話 (2/2)

感情の爆発

──アニメで流れるのは1分半のバージョンですが、フル尺を完成させるまでには1年近い時間がかかったとお伺いしました。

jo0ji 虎杖と自分を重ねる作業に関しては、1回スイッチが入っちゃえば、そのままスルッとできたんです。ただ今の虎杖にはまだ立ち直る気配がないけど、曲としては立ち直る兆しくらいがないと終われない。だから1コーラス目以降に関しては禪院真希と禪院真依だったり、「死滅回游」に出てくるいろんなキャラクターが奮起する瞬間に背中を押されながら書いていきました。

御所園 1年ですか……でも確かに、1分半は完全に虎杖にフォーカスして作っていただいたので、そこからどうするかはすごく難しいですよね。

禪院真希と禪院真依。©芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

禪院真希と禪院真依。©芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

jo0ji エンディングで流れる1分半のサビは、一番“らしい”サビだったんですよ。なんですけど、音楽的な広がりでいくと、最後のサビに持ってくるくらいの音数がある。でも、自分は歌詞が一緒なのにアレンジが違うものがあんまり好きじゃないので、アニメバージョンの1分半を踏襲しながら曲を展開させていかなきゃいけないと思ったんです。でも、最後のサビをさらに爆発させる方法がなかなか見当たらなくて。歌詞に関しても、さっき言った「自分の存在が周りの人を卑屈にさせてしまってるかもしれない」ということに対しての答えがなかなか見つからなくて、説得力のある光への導き方が全然書けなかった。それで4、5カ月くらい放置しちゃったというか、「考えてはいるんだけど、でも書けない」みたいな時期が長くあって。

──書けない時期から抜け出せたのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

jo0ji あまりにも考えが煮詰まってしまったので、「これは1回違う曲で消化した方がいいな」と思って、バンドメンバーと一緒に違う曲を作ったんです。それが「あえか」(2025年7月リリース1stアルバム)の最後に入ってる「onajimi」という曲で。モヤモヤした気持ちを全部吐露するような曲を書いたことによって、向かっていくべき方向が見えて、それでやっと最後まで行けたという感じです。

──最後のサビの盛り上がりについては、どんなイメージで作りましたか?

jo0ji いろいろ試行錯誤した結果、音の広がりというよりも、“感情の爆発”にするしかないなと思いました。もともと1分半ができた段階で、暗いんだけど、強制的にでも気分を上げて、明日に向かっていかなきゃいけない、みたいな曲だと思って。満身創痍でズタボロなんだけど、朝が来るから仕方なく起き上がる、みたいなイメージ。でも結局、無理して起き上がってるだけで、治ってはいない状態が1分半のバージョンなので、それをフル尺にするうえではプラスに行くというより、マイナスからゼロに戻るような意識で制作しました。全体的にジェットコースターみたいな感情の起伏があって、編曲でもそういうイメージがテーマだったので、すごく劇的な感じにして。ラスサビはドラムがアグレッシブにドコドコ鳴ることで、ゼロに向かって収束していく爆発力を表現しました。ゼロから先に進むよりも、マイナスからゼロに行くほうが力が必要だと思うんですね。なので、歌い方にしても振り絞るように力いっぱい歌って、それで完成させることができました。

jo0ji

jo0ji

人の心が動くのは、不器用なやつが何かをひねり出した瞬間

──エンディングムービーはどのようなイメージで作られたのでしょうか?

御所園 エンディング曲はステンドグラスの前で座ってる悠仁のスーパーティザービジュアルをイメージして作ってもらったので、映像もそこからスタートしました。ステンドグラスから「窓」を連想して。「日本の土地」をテーマに日本のきれいな風景を写真家さんに手配してもらい、それらをもとに美術で起こしていくことにしたんです。そのときにイメージしたのがイタリアの画家ジョヴァンニ・セガンティーニ。セガンティーニの絵画は広角レンズで撮ったような画角で、さわやかなんだけど、世紀末に向かっているような雰囲気が感じられるので、「世紀末芸術」とも呼ばれているんです。美術さんには「なるべくセガンティーニ的なタッチを真似してくれ」という話をしました。あとセル画がパカパカ出てくるのは悠仁の心情表現で、それはルネ・マグリットのイメージ。悠仁がそれまで見てきたものをなるべく洗い出して、モチーフを選定しつつ、それをアニメーターの方に補強してもらう、みたいな流れですね。

jo0ji 自分もアニメ好きなので、いろいろなエンディングムービーを観てきましたけど、今までにない映像だなと思いましたね。カット割りがたくさんあるようなエンディングが多い中で、ほぼワンショットでサビまで行くのはすごく新しい。曲の世界観と映像がめちゃくちゃ合っていて、すげえなと思いました。観た人が「これはなんだ?」って、絶対気になっちゃうだろうなって。

──最後に一瞬だけ青い空が見えるのが印象的で、「よあけ」というイメージともリンクしますね。

御所園 まあ、さすがに赤い窓のままじゃ終われないだろうと(笑)。実は悠仁が最後にちょっとだけ目を開けてるんですよ。さっき「マイナスからゼロになる」という話がありましたけど、それに近いのかもしれない。「やっと目を開けることぐらいはできた」みたいなエンディングですね。あと、これはめちゃくちゃ個人的な話なんですけど、この1、2年すごくへこむ時期が多かったんです。でもそういうときに「よあけのうた」を聴くとプラスになるというか、沈んでるときに沈んでる歌を聴くのはすごくいいなと。今の日本には沈んでる人が多いと思うので、多くの人を支えるという意味でもすごく大事な歌になったんじゃないかな。「今はどうしようもない」という人が聴くと、得るものが多い歌になっていると感じます。制作の助けにもなりましたね。

テレビアニメ「呪術廻戦」第3期「死滅回游 前編」スーパーティザービジュアル。©芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

テレビアニメ「呪術廻戦」第3期「死滅回游 前編」スーパーティザービジュアル。©芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

──jo0jiさんは今の時代をどのように捉えて、楽曲に落とし込んでいますか?

jo0ji 今の時代を見て思うのは、なんでもできる器用な人が多いなということ。器用さはすごく価値が高いものだけど、人の心が動くのは、むしろ不器用なやつが何かをひねり出した瞬間だと思うんです。それこそ虎杖はクソ不器用だけど、不器用ながらも、そのときそのときの100%をどうにか出しきって、進んでいく感じに心が動かされる。だから自分が作るものも、きれいにまとめようとせずに、不器用でもやり切るのが大事だと思っているんです。

──その感覚が落ち込んでるときの御所園さんに響いたのかもしれないですね。

jo0ji 自分もこの曲が書けたことが自信になったし、そういう意味ではお守りみたいな曲ですね。自分が一番救われた曲かもしれない。

補助輪が外れた自転車を漕いでるイメージで弾いてくれ

──3月に出るシングルCDには「ひかりのうた」と「わかれのうた」という曲も収録されていますが、「よあけのうた」との関連性はあるのでしょうか?

jo0ji 「ひかりのうた」では、マイナスからゼロになったその先を作りたいと思ったんです。マイナスからゼロに戻った人がいたとして、そこからの生活が始まるきっかけになるような、プラスに転じる力が湧くような曲になればなって。「ひかりのうた」はいつも一緒にやってるバンドメンバーと作ったんですけど、メンバーには「補助輪が外れた自転車を漕いでるイメージで演奏してくれ」と言いました。「よあけのうた」は“マイナスからゼロ”、「ひかりのうた」と「わかれのうた」は“ゼロの先にある光と別れ”、そんなふうにイメージすると、すんなり聴けると思います。

御所園 「補助輪が外れたように弾いてくれ」。そんな指示をするんですね。面白い。

jo0ji 勢いを伝えるときには、抽象的なほうが「わかった!」ってやってくれるんです。うちのメンバーだけかもしれないですけど(笑)。

御所園 いいですね。「よあけのうた」のレコーディングのときはどんな指示をしたんですか?

jo0ji さっきも言った「ジェットコースターみたいな感情の起伏」っていうのを伝えて。あと心の中のことだから、悲劇の主人公になりきっていいと思ったんです。なので「わざとらしいくらいにやってください」とは言いました。ラスサビに関しては、ドラムの人に「ビーストモードでお願いします」と言って、何回か好きに叩いてもらって、その中からよかったフレーズを拾ってきて作った感じですね。

──アレンジにはWONKの江﨑文武さんが参加していますが、どんなやりとりがありましたか?

jo0ji 文武さんには監督から言われたことをそのまま伝えて、最初は「1A1Bをけっこう重たくしてください」と言いました。最初に自分が作ったデモもだいぶ重かったんですけど、「不安になるくらいまでいっちゃってもいいと思います」とは言いましたね。

御所園 そうなんだけど、音が上がってきたとき最初は「これ大丈夫かな?」と思いました(笑)。ここまで暗いと、聴いた人がドン引きしちゃわないかなって。

jo0ji 最初に御所園さんに渡したときは重いほうへ行ききってたので、そこからちょっと調整はしました。1Bからボコーダーを使ってるんですけど、最初は1番からサビに行くまで全編にエフェクトをかけてたんですよ。怨霊と一緒に歌ってるみたいに。

──(笑)。

jo0ji どんどん呪霊に侵食されていってる感じの1A1Bを最初に渡したら、「さすがにやりすぎです」みたいな感じになって(笑)。それで結局1Bだけに落ち着いたんですけど、でもやっぱり「行ききる」ことがテーマだったかもしれないですね。

御所園 「呪術廻戦」は「渋谷事変」以前・以降ですごく変わっていて、主人公視点だけで見ると、以前までは他人の負の感情を解消していく、呪霊を退治する流れだったんですよ。「渋谷事変」以降は「自分を呪う」ということが大きなターニングポイントとしてあって。自分がいろんな人を殺したことによって、自分を呪う。初めて呪いの方向が自分に向かうというのが大きなところで。それが今回のエンディングで十分に表現できたので、めちゃくちゃありがたいなと思いましたね。

虎杖悠仁 ©芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

虎杖悠仁 ©芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

──では最後に、「よあけのうた」はjo0jiさんのキャリアの中でどんな意味を持つ楽曲になったと思いますか?

jo0ji 今までは自分1人で、DTMで作ってた曲が多かったんです。でも「よあけのうた」は1人で抱え込んでたら埒があかなくて、みんなに助けてもらいながら作った曲なので、「1人じゃない」と思えた曲ですね。なおかつ、これまでは自分の人生の中で思ったことを曲にしていたんですが、「呪術廻戦」という作品があったことで、今までより視野の広い曲になったと思います。自分の人生だけでは出てこなかったであろう音楽的なアイデアも、「呪術廻戦」を通すことで実験的にいろいろやれたりしたので、自分が階段飛ばしで成長できた曲でもある。5月のZeppツアーは「よあけまえ」というタイトルなんですけど、言ってみれば、今まではゼロだったけど、次からイチが始まるイメージ。そういう意味で、この曲は自分にとっての始まりの曲になったと思います。

jo0ji

jo0ji

公演情報

jo0ji tour 2026「よあけまえ」

  • 2026年5月10日(日)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2026年5月16日(土)大阪府 Zepp Namba(OSAKA)
  • 2026年5月22日(金)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)

プロフィール

jo0ji(ジョージ)

鳥取出身のシンガーソングライター。漁師の父のもと、自身も漁港で働きながら音楽活動をしている。2021年、友人のために制作した楽曲「不屈に花」をYouTubeに公開し、音楽活動をスタート。2023年9月にWONKの江﨑文武と井上幹がアレンジャーとして参加した1st EP「475」を配信リリースした。2024年にはSpotifyが注目の次世代アーティストを紹介する「RADAR:Early Noise 2024」に選出されたほか、2025年には数々のメディアで期待のアーティストとしてピックアップされ注目を浴び、大型フェスにも次々と出演。2025年7月に1stアルバム「あえか」を発表。2026年1月にテレビアニメ「呪術廻戦」第3期「死滅回游 前編」のエンディングテーマを担当し、同曲を含むシングル「よあけのうた」を3月にCDリリースする。5月に東名阪のZepp会場を回るライブツアー「jo0ji tour 2026『よあけまえ』」を開催する。

御所園翔太(ゴショゾノショウタ)

アニメーター / 監督。2020年、テレビアニメ「呪術廻戦」にて絵コンテおよび演出を担当。同アニメ第2期「呪術廻戦 懐玉・玉折 / 渋谷事変」では監督を務めた。2024年には、アメリカのアニメ配信事業大手・クランチロールが主催する「クランチロール・アニメアワード」において「呪術廻戦」第2期「懐玉・玉折」が「アニメ・オブ・ザ・イヤー」を受賞。御所園は同作で最優秀監督賞を受賞した。