2016年からInstagramやTwitterなどにギター演奏動画を投稿し、美しい楽曲と華麗なテクニック、独創的なサウンドによって世界中の音楽ファンの注目を集めているギタリストichikaが本格的に音楽活動をスタートさせた。ギター1本で表現された2017年1月配信の1stミニアルバム「forn」に続くのは、ギター演奏による「she waits patiently」、ベース演奏による「he never fades」という配信アルバムの同時リリース。豊かなストーリー性を備えた楽曲、速弾きやタッピングなどを駆使した演奏技術は、さらなる進化を遂げている。3月には川谷絵音(ゲスの極み乙女。、indigo la end)らと共にインストバンド・ichikoroを結成しており、今後は活動の幅も大きく広がりそうだ。
これまでほとんどメディアに露出しておらず、謎のベールに包まれていたichika。音楽ナタリー初登場となる今回のインタビューでは、これまでの音楽遍歴、独自のメソッドと美意識に貫かれたギタリストとしてのスタンスなどについて語ってもらった。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 西槇太一
ギターやベースにはまだまだ開拓の余地が残されている
──“謎に包まれた天才ギタリスト”としてすでに世界中から注目を集めていますが、これまでの経歴はまったくと言っていいほど明らかになっていませんね。
ほとんど発信してませんでしたからね。今回の2つの作品(「she waits patiently」、「he never fades」からいろいろと動いていくことになるので、それと同時に徐々に自分の情報も出していって、親しみも持ってもらえたらなと。
──まずSNSで楽曲を発表したのも、先入観なく音楽を聴いてほしいから?
そうですね。楽曲の中からインパクトのありそうなパートをピックアップして、それをSNSに投稿して。そこで興味を持ってくれた人に楽曲をぶつけていけたらなと。そうやってコミュニティのすそ野を広げようと思っていたのですが、特にInstagramで想像以上の反応があったんですよ。世界中の人が自分の音楽を聴いてくれているのは、すごくうれしいです。
──これまでのキャリアについて聞かせてください。音楽に興味を持ったきっかけはなんだったんですか?
最初に触れた楽器はピアノだったんですよ。祖母がピアノを弾いていて、電子ピアノを買い与えてもらって。主にジャズとクラシックを弾いていたのですが、最初にハマったのはビル・エヴァンスです。父親がCDを聴いていたのがきっかけなんですが、ビル・エヴァンスの作品を聴き、動画を観ることで「すごくいいな。こういうカッコいいピアノを弾けるようになりたい」と思うようになって。その後、いろんなアーティスト、いろんなプレイヤーの音楽を聴くにつれて「1つの楽器で聴いている人の心を動かしたい」という気持ちが強くなったんです。そこからですね、ソリストとしてやっていこうと思ったのは。
──その後ピアノではなく、ギターを選んだのは?
父親がギターとベースを持っていたので、中学生くらいから自然と触るようになったんです。ピアノがうまい人は僕の周りにもたくさんいたし、天才児みたいな人がどんどん現れるじゃないですか。ピアノという楽器は、メロディ、和音、リズムをすべて表現できますが、弾き方、曲の作り方を含めてシステムが完成されているし、演奏家の数も圧倒的に多い。そう考えると、ここで太刀打ちするのは無理だろうなと思ったんです。ギター、ベースにはまだまだ開拓の余地が残されていると思ったし、自分も入っていけるんじゃないかなと。ソロのギタリスト、ベーシストとして活動されているミュージシャンもいらっしゃるし、素晴らしい作品も数多くありますが、僕の中でピンとくる作品にはなかなか出会えなかったんですよ。ギタリストのソロ作品の多くは、音楽に詳しい人や楽器をやっている人には「この作品はすごい」と理解できても、そうじゃない人はハマれない気がするんです。僕はそうじゃなくて、誰が聴いても魅了される音楽をギター1本、ベース1本で作ってみたかったんですよね。
まず仮説を立て、手順を踏みながら確認する
──ギタリストとして影響された音楽は?
ヘヴィメタルですね。ギター、ベースを弾いてみようと思ったきっかけがIron Maidenだったんです。それも父親から教わったんですけど「なんだ、このカッコいい音楽は!」と思ってすぐにハマって。ベースを弾き始めたときはずっとスティーヴ・ハリス(Iron Maiden)の2フィンガーピッキングを真似してました(笑)。ギターもかなりコピーしましたね。特に2ndアルバム「Killers」は全部弾けると思います。あとはVan Halenとかデヴィッド・リー・ロスとか。デスコア系のバンドも聴いてました。ギターやベースだけではなくリズムもすごく面白いので、それも曲作りの参考にしています。
──かなりマニアックですね。中高時代、友達と話が合わなかったのでは?
そうですね(笑)。友達にIron Maidenを薦めても、誰も聴かなかったので。当時はBUMP OF CHICKENとRADWIMPSがすごく流行っていて、みんな聴いてました。僕も軽音楽部に入っていたんですけど、バンドを組んだのは1回だけで、すぐ終わっちゃいましたね。「どうしてギタリストやベーシストの活躍の場はバンドしかないんだろう?」と思うようになって、ソリストを目指すようになったんです。
──クラシックギター、アコースティックギターの演奏家には興味がなかった?
そういう音楽も聴きましたが、特にアコギの場合は音色が独特なので、表現できる感情の幅が狭くなる気がしたんです。エレキのほうがいろいろな音が作れますからね。
──オリジナル曲を作り始めたのはいつ頃ですか?
高校のときですね。「楽器1つで心を動かせるような曲を作るためには、どうしたらいいだろう?」と考えて、いろんなことを試して、研究して。作曲も演奏も、ほぼ独学なんですよ。タッピング、両手を使った演奏、リズムの作り方もそうですけど、すべて自分で考えて研究した結果なので。なかなか思うようなものが作れず、かなり時間はかかってますが。
──目指すべきゴールがあって、それを実現するために何が必要か考え、ひたすら試行錯誤を繰り返すと。
はい。僕、大学でウイルスの研究をしていたんです。研究というのは、まず仮説を立てて、そこに至るまでの手順を1つひとつ踏みながら、確認するんですよね。失敗したときは、何が間違えていたのかを突き詰めて、最初からやり直す。そういう考え方が身に付いているんだと思います。
──「大学でウイルスの研究をしていた」ということも驚きです。ということは、研究者か音楽家のどちらかを選ばなくてはいけなかった?
去年(2017年)の1月に1st EP「forn」をリリースしたのですが、実は4月から大学院に進む予定だったんです。でも「forn」の反響が予想以上にあって、この先、大学院に通いながら音楽を続けるのは難しいだろうなと思って進学をやめました。一番やりたいことは音楽ですからね。
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ギターを上半分と下半分に分けて、ピアノのように捉える奏法
- ichika「she waits patiently - EP」
- 2018年4月1日発売 / TaWaRa
-
1200円
- 収録曲
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- salvation
- illusory sense
- farewell
- circle
- euphoria
- ichika「he never fades - EP」
- 2018年4月1日発売 / TaWaRa
-
1200円
- 収録曲
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- town
- clash
- he waits patiently
- phantom
- terminal
- ichikoro「ichiroove」
- 2018年3月25日配信 / Warner Music Japan
-
600円
- 収録曲
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- Wager
- ichigeki
- Q
- ichika 初ワンマンライブ「Signal」
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- 2018年6月17日(日)東京都 青山 月見ル君想フ
- ichika(イチカ)
- 2016年にInstagramにてギターやベースを演奏する動画の投稿を開始。タッピングなどを駆使した独創的な奏法によるテクニカルな演奏、想像力を掻き立てる個性的なメロディで、その動画の多くが3万再生を超えて世界的に話題になる。2017年1月に初のミニアルバム「forn」を配信リリースし、2018年4月にはギター演奏による「she waits patiently」、ベース演奏による「he never fades」という配信アルバムを同時リリース。また2018年3月より、ゲスの極み乙女。の川谷絵音(G)とちゃんMARI(Key)、休日課長(B)、indigo la Endの佐藤栄太郎(Dr)、Nabowaの景山奏(G)と共にichikoroというバンドでも活動している。