ヒプノシスマイク「The Champion」発売記念 Zeebra×速水奨×木村昴鼎談|走り続けるレジェンドが伝えるシーンの伝統と最新トレンド

“伝説”ではなく“今”を生きている

──速水さんも「ヒプマイ」を通してヒップホップにお詳しくなりましたか?

速水 僕はヒップホップはまったく通ってこなかったし、年齢も……。

木村 グランドマスター・フラッシュ(ヒップホップ創始者の1人に数えられるDJ)と同い年。

速水 これまで音楽ではなく言葉を紡ぐ仕事を何十年間もやってきたんですが、「ヒプマイ」に関わることになって、いろんなワードをリズムの中で構築して韻を踏むことの気持ちよさに気付きましたね。

左からZeebra、速水奨。

Zeebra そうなんですよ。韻は気持ちいいから踏むんですよ。

速水 考えてみたらね、ずっと昔から僕はいわゆる親父ギャグじゃなくて、ちゃんとしたダジャレが好きなんですよ。だから意外と親和性はあったんですよね。フリースタイルはできないですけど。

Zeebra フリースタイルは練習が必要だし、10代の若い子たちの脳みそにはなかなか勝てないですよね。

──速水さんは「ヒプマイ」に参加するにあたってラップの勉強をされていて、Zeebraさんが司会を務める「フリースタイルダンジョン」もご覧になられていると伺いました。

速水 はい。Zeebraさんについてはやっぱりカッコいいなと思っていたし、これまでのご活動についても調べたりしていたんですが、レコーディングで実際にお会いしてみて「今を生きている人」だなと思ったんです。いろいろな伝説のある人ではあるけど、今ここでやっていることがとても大切なんだなと感じました。

Zeebra レジェンドだけでメシが食えたら最高なんですけどね(笑)。なかなかそうもいかないので、がんばって今を生きている感じです。

世界中で流行っている最新のヒップホップ

──今回Zeebraさんが麻天狼に提供された「The Champion」は最近の流行をしっかり取り入れていて、シーンの今を伝えようという意思を強く感じました。

Zeebra ヒップホップって今は枝分かれしていて、1990年代っぽいオールドスクールのブーンバップ(太いドラムを中心に構築されるヒップホップのビート)がずっと好きな人もいるし、最新のものを追っかけてる奴らもいるんですけど、アメリカの最新のヒップホップは本当に世界的に流行っていて。海外では一般の人たちもその最新の音に慣れているんですよね。日本ではまだ一般に普及するところまではいってないと思うので、こういう機会に新しいものを聴かせていって慣れてもらいたいなという思いがありました。

──昨年日本のヒップホップシーンの話題を独占したBAD HOPの「Kawasaki Drift」など、多数のラッパーのトラックを手がけるビートメイカーの理貴さんが共同プロデューサーとして「The Champion」に参加しています。今のトレンドを知ってもらいたいという思いでZeebraさんから理貴さんに声をかけたのでしょうか?

Zeebra うちのレーベルの所属アーティストがラップするために、普段からいろんなビートメイカーにトラックを提供してもらっているんです。そのトラックの中から「ヒプマイ」にはどれが合うかなと考えて選んだのがたまたま理貴のトラックだったんですよ。理貴はクライアントに依頼されたことにプロとしてしっかり対応してくれるタイプということでも間違いなかったし、これまでKOHHの楽曲を手がけてきたり、シーンを動かす側にいるビートメイカーという意味でもいいなと思いました。

──理貴さんに提供されたトラックをもとにZeebraさんがアレンジの指示をして作り上げたんですね。

Zeebra そう。そんなにガラッと変えることはなかったけど、いろいろ相談しながらアレンジしてもらったという感じです。

1つのビートに3つの“正解”

──麻天狼の3人がラップするリリックはZeebraさんが1人で書かれたんですよね。

Zeebra 自分はこれまでいろんなタイプのリリックを書いていて、例えば子供がいるので親目線で子供に歌う曲もあれば、自分が子供として書く曲もあるし。そういう違う視点の歌詞を1曲の中にうまく入れられたら面白いだろうなと思って、3人の歌詞はいろいろ変えてみたつもりです。速水さんが演じた(神宮寺)寂雷のヴァースに関しては、リーダーでもあるし、優勝したシンジュク・ディビジョンの中でも特に大志をもっていると思うんですよね。だから今回優勝してうれしいんだけど、その先を見据えた重みのある表現であるべきかなと思って歌詞を書きました。(伊弉冉)一二三がラップする能天気な1番と寂雷の3番の歌詞だとだいぶ差がある(笑)。一二三とは対象的に2番の(観音坂)独歩は悩みまくるし。それから歌詞の内容だけじゃなくて、それぞれのラップのスタイルも変えました。普段歌詞を書くときは「このビートだとこういうふうに乗るといいな」という自分なりの“正解”を1つ出すんですけど、今回はそれぞれの声を聴いて3個正解を出さなきゃいけなくて。1番の一二三はビートに対して倍のリズムで歯切れよく乗っていくトラップをバリバリにやってもらって、続く独歩はアンダーグラウンドヒップホップというか、昔流行った頃の3連符(1拍を3分割したリズム)っぽい感じにして。

伊弉冉一二三(CV:木島隆一) 神宮寺寂雷(CV:速水奨) 観音坂独歩(CV:伊東健人)
速水奨

速水 一二三を演じる木島(隆一)くんがレコーディングを終えてブースから出てきたときのすごくうれしそうな顔を覚えています。彼はZeebraさんと一緒に写真を撮ったり、本当に楽しそうで、これはいい曲になるんだなと思いましたね。

Zeebra 本当に最新のフロウなので、乗りこなせるかどうか正直一番不安だったんです。でも、しっかり乗れてましたね。

──速水さんはレコーディング時に独歩役の伊東健人さんとも話しましたか?

速水 伊東くんとはドラマトラックを録音したときに「今度うちでごはんを食べよう」って話したくらいですね。

──なるほど。麻天狼の3人はプライベートでも会うくらい仲がいいんですか?

速水 そうですね。でも木村くんとも仲いいんですよ。

木村 (笑)。よくしていただいております。

USヒップホップシーンでアニメ声が流行?

Zeebra 自分の書いた歌詞が速水さんの声で音になるのは本当に聴いてみたかったんですよね。ボーカルブースに入る前に「おはようございます」って挨拶したときから「この声だ!」って(笑)。

──ここまでの美声でラップする人ってほかにいるんでしょうか?

Zeebra どうなんですかね。ラッパーって本当にいろんな声質の人がいて、こういう声質が正解とか一番いいとかはないんですけど、流行りの声質というのはあって。ここ5年くらいのUSヒップホップは、アニメっぽい声が流行ってるんですよ。すごいキャラクターを作りまくった声というか。始まりはリル・ウェインくらいからかなと思うんですけど、最近流行っているトラップをやっている子たちは本当に声に特徴のある子がすごく多い。そういう意味でも普段から声の出し方を変えて表現されている声優の方に、ラップはピタッとハマるんじゃないかと思います。

速水 じゃあ木村くんはジャイアンでいけばいい。

一同 (笑)。

Zeebra それは俺も思っていて、木村くんにはぜひステージの上に土管を並べてリサイタルやってほしいなと。

木村 そこは藤子プロダクションに許可を取って……(笑)。

美声を生かすための3連符

──速水さんはZeebraさんからどんな歌唱指導を受けましたか?

速水 もう大きな心で……。僕はたぶんZeebraさんの手のひらの上で悟空のように転がされる感じだったと思うんですが、音がズレるところを指摘してもらったり、韻を踏んで言葉がくっきりスッキリ出るようにディレクションしていただいたりしました。

Zeebra それぞれ声やリズムのクセがあって、こうじゃなきゃダメっていうのはないと思うんです。聴いて気持ちよくなるのが一番大事で。速水さんについては、普段のナレーションの心地よさを絶対生かしたいと思ったので、そのしゃべりのペースでビートに乗ってもらうために3連符のフロウでラップをしてもらいました。普通にこの曲のビートに乗ったら、もうちょっとゆっくりになるんですけど、3連符で乗るとちょうどいい独り言くらいのペースになる。それに3連符ってだけで今っぽくもあるんですよね。

──3連符はMigosを筆頭にここ数年多用されていますよね。速水さんの美声でラップしてもらってどうでしたか?

Zeebra いや、もうバッチリでしたね。ぶっちゃけ僕の曲でもフィーチャリングで歌ってほしいなって(笑)。

速水 いやいや……。

木村 そんなのバズりまくりですよ。