HYDE|6つのテーマでたどる、筋書きのない道を歩いてきた20年

THEME 3故郷と海外

──2019年に「和歌山市ふるさと観光大使」に就任されてから、和歌山県にまつわる発信を続けていらっしゃいますが、この20年の間で故郷に対する思いに変化はありましたか?

より思い入れは深くなりましたね。僕自身は憧れのアーティストの真似をして、本名や誕生日を隠して活動していましたが、情報社会になってポロポロ漏れて。全然シークレットじゃなくなったタイミングで、2019年の誕生日に「黑ミサ」の開催もあって公にした感じだった。和歌山出身というのを隠すつもりはなくて、単に情報としてプロフィールに載せたくなかっただけだったんです。それくらいの感じでしたが、観光大使になってからより和歌山のことが気になり始めてね。売ってるみかんの産地がどこだか気になるし(笑)、最近だと家にあったシラスが和歌山産だったから写真撮っちゃったし。すっかり和歌山通にはなりましたね。友達も住んでいるし、多感な時期に過ごした場所はやっぱり特別ですね。

──和歌山の魅力はどんなところですか?

うーん、自分でははっきりとはわからないんですよ。来た人に「ここがいいね」と言われて「そうなんだ」と知るみたいなところもあって。でも、海があって、山があって、田舎であることは魅力ですね。あとは自分にとっては友達がいる、家族がいる場所というのが大きいかな。墓があるとかね。

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──HYDEさんは平安神宮で奉納行事を行われたり、「ZIPANG」という曲を発表されたり、日本の風景や伝統というものを大切にされている印象がありますが、日本のよさというものはどう感じていますか?

国民性として人の気持ちを思いやる人が多いなと思います。悪く言うと押しが弱いんですけど。例えば、中国とかほかのアジア圏の人はちゃんと自分をアピールできるけど、日本人はできない人が多い印象。シャイな部分もあるけど、まずはその人の意見を聞こうとする気持ちが先に来る。鍵のない襖の文化とか象徴的ですよね。鍵がなくても、襖の向こうにいる人を察して入るか入らないか考えたりするじゃない? そういう文化があるから、例えば震災が起きて物資が配給になったときにも、お互いを思いやって列に並ぶことができるし、素敵だと思う。あとは四季を大切にしているところはいいところですね。ここまで四季を感じられる国もないんじゃないかな。

──HYDEさんは活動するうえで、日本はもちろん海外も重視されていると思います。海外活動に対する現時点での評価はいかがですか。

VAMPSの中期から本格化させたので、本腰を入れるのが遅かったなという感じです。もともとはその前からジャブを打っていて、たまにライブをすればそれなりに人気があったから余裕かなと思っていたんですけど、実際には鼻を折られた感じで。日本って音楽市場の売上高が世界第2位で、この国の音楽業界内で成功すれば生活する分には十分なんですよ。ただ、ガラパゴス化しているのは否めないんですよね。国内に特化してしまって、世界には通用しない音楽がどんどん生まれている状態。僕はそれでは面白くないと思っていて、海外の人が聴いてもいいと思ってもらえるような作品をこれからも作っていきたいです。

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──思春期にアメリカの音楽に触れて、現地のフェスで観客を熱狂させたいとかねてから話していましたが、何がそこまでHYDEさんを駆り立てるんでしょうか。

最初はL'Arc-en-Cielのワールドツアーでいろんな国に行ったときに、音楽が国境を超えて受け入れられているのを実感して素晴らしいなと思ったんです。そこで、なんで日本人はもっと海外に出ていかないんだろうと思ったことが一番のきっかけでしたね。日本だけで活動するのはすごく簡単だし、ちやほやしてもらえるし、大きな規模のコンサートもできる……でもそこに夢はないんです。僕の中でアーティストとしての今の夢が、海外のフェスで観客を熱狂させることで。それが達成できれば海外戦略は完結なんだけど、まだ実現できていない。夢がないとスキルも上がらないし、成長もしないし、アーティストとして面白くないと思うんです。ボクシングと同じで、守っているだけの試合を観ててもつまらないでしょ? ただ打たれるのではなく、勝とうとして、壁を乗り越えようとしてやられる分にはいいと思うんです。

──自分が作り上げたこれまでの財産や、キャリアに甘んじるつもりはないと。

そうですね。でも、僕が戦えるのも支持してくれる人がいるからこそなんです。支持してくれる人がいるからといって、ぬるま湯に浸かっていたらその人たちも離れていく。支えてくれる人たちがいるからこそ、攻めていきたい。

THEME 4理解者

──支持してくれる人、つまりファンというのは、ライブなどでおっしゃっている“理解者”ですよね。

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長い間飽きもせず僕のことを思ってくれてる存在というのは、ありがたいですね。家族とかパートナーに近い存在。もちろん中には今までのHYDEが好きな人もいることはわかってるんです。「ROENTGEN」を作り続けてほしい、歌うならラルクでいいじゃないとか。僕にとってもそういうアーティストがいるから、その気持ちはわかる。ただ同時に、同じことをすることで飽きる人もいるんです。どちらに振り切っても何かしらの問題はあるから、結局自分が好きなこと、カッコいいと思うことをやっていくしかない。

──悩ましいところですね。

でも、今の僕の理解者は、ある程度“HYDEクオリティ”を信頼してくれていると思うんです。だから方向性や音楽性が変わってもついてきてくれる人がいるんじゃないかな。これまでのキャリアもあるんで、自分を信頼している部分もあるし。自分がカッコいいと思うことは、きっとみんな喜んでくれるから、新しいことでも自信を持って提案することができる。例え好みじゃない音楽でも、ちゃんとHYDEクオリティは保ってるよねと思ってもらえる自負もある。HYDEクオリティって、自分ではよくわからないけどね(笑)。

──長年の信頼関係の賜物ですね。その理解者の方から得た一番大きいものはなんですか?

活動を続ける喜びだね。歌う原動力にもなるし。それがなければ、ラルクはとっくに解散しているでしょうし、ファンの力で生き延びているんです。苦労しても、みんなが喜んでくれると「大変だったけどやってよかったな」と思う。彼らがいないと活動は成立しないですね。