HYDE|アコースティックツアー「ANTI WIRE」で見出した活路

今年10月にソロデビュー20周年という大きな節目を迎えるHYDE。当初、アニバーサリーイヤーに向けて彼はさまざまな企画を進めていたという。しかし、いまだに収束の目処が見えないコロナ禍の影響を受けて、活動内容の変更を余儀なくされることに。その1つとして昨年12月から今年3月に開催されたのが、アコースティックツアー「HYDE LIVE 2020-2021 ANTI WIRE」だ。

「騒げるアコースティックライブ」をコンセプトに掲げた「ANTI WIRE」で、HYDEはソロ、L'Arc-en-Ciel、VAMPSなどさまざまな形態で発表してきた楽曲を、旧知の仲であるバンドメンバーたちとリアレンジして披露。各楽曲に新たな命を吹き込み、オーディエンスを驚かせた。本人にとって思惑とは異なるツアーだったとはいえ、結果的にアーティストとして、歌手としてのHYDEの新しい一面を披露する内容となった。

「ANTI WIRE」とはHYDEにとってどんな意味を持つツアーだったのか。今回は、1月末に行われた東京・東京国際フォーラム ホールA公演の映像作品のリリースに合わせて話を聞いた。

取材・文 / 中野明子

状況に応じて変化していくしかない

──マスク越しの取材もすっかり定着してしまいましたね。

そうですね……。

──ちょうど去年の2月下旬、新型コロナウイルス感染拡大の影響でエンタテインメント業界に影響が出始めた時期にお話をお伺いしたのですが(参照:HYDE「BELIEVING IN MYSELF / INTERPLAY」インタビュー)、混乱が続く今の状況についてどう感じていらっしゃいますか。

HYDE「HYDE LIVE 2020-2021 ANTI WIRE」の様子。(撮影:岡田貴之、田中和子)

ここまでとは思ってなかったですね。去年の今頃は夏には収束すると思っていたし、実際に夏に感染拡大が下火になった時期があったから「このまま終わってくれたらいいな」と思ったけど、また感染者数が増えたりして。生きていくには、ルールは最低限守りながら、状況に応じて自分で判断して変化していくしかないですよね。

──その通りですね。あとはワクチンの接種ができるようになって、1日でも早く収束してほしいですよね。ニュージーランドでは5万人を動員する大規模な野外ライブを開催して成功を収めたという報道もあって、ほかの国の話ですが個人的には希望を感じました。

すごいよね。海外では秋頃開催のメタルフェスのブッキングが始まってるけど、その頃の状況はどうなってるかな……日本では当分は着席形式だったり、声出し禁止じゃないと難しいでしょうね。

自分たちで成果を勝ち取った「ANTI WIRE」

──予断を許さない状況ではありますが、今回HYDEさんはコロナ禍の中で開催された全国ツアー「HYDE LIVE 2020-2021 ANTI WIRE」の映像作品をリリースされます。ひさしぶりの有観客ツアーというのも大きなトピックではありましたが、何より一番大きかったのは全編がアコースティックスタイルのライブであったことです。

もともとはコロナがない前提で、これまでのように激しいライブツアーをするつもりだったんです。そのファイナルを神奈川・ぴあアリーナMMで開催する予定だったんだけど、結局ツアーはできないまま会場だけ押さえられていた状態で。でも去年9月にZepp Haneda(TOKYO)で開催した「HYDE LIVE 2020 Jekyll & Hyde」でアコースティックライブをやったときに(参照:HYDEがアコースティック&ロックの二面性で魅せた、羽田5DAYSライブ)、このスタイルならいろいろと制限がある状況の中でもツアーができるかなと思って。ずっとオールスタンディングライブにこだわってきたけど、アコースティックだったらむしろオールスタンディングじゃないほうがいいだろうから、ぴあアリーナMMを着席スタイルのアコースティックツアーの初日にして、その後ホール会場をブッキングできないかと考えたんです。「Jekyll & Hyde」は東京に住んでいるファンの子たちしか参加できなかったから、地方の子たちのためにも各地でライブをやろうと思って。

──ツアーは緊急事態宣言発令を受けての一部公演延期もありつつ、3月に無事終幕しました。

HYDE「HYDE LIVE 2020-2021 ANTI WIRE」の様子。(撮影:岡田貴之、田中和子)

1人ひとりの努力がなければ成立しないツアーだったので、開催中はメンバーもスタッフも毎日のように抗原検査を受けていたし、ファンの子たちも自分の責任で感染してはならないと思って行動してくれていたみたい。ライブに来てくれても打ち上げもせず黙って帰ったり……それがファイナルまで続いて、自分たちで見事に成果を勝ち取った。ちゃんと対策をすればライブができるという結果を残すことができました。

──ツアーが終ったときの心境はどんなものでしたか? 安堵だったのか、達成感だったのか。

うーん、いろいろかなあ。例えば僕がツアーで一番好きなのは、各地に行っておいしいものを食べて、メンバーと飲んで、「今日のライブよかったな」とか普段のくだらない話とか話すことなんです。極論を言えば、打ち上げでいい酒飲むためにライブやってるところがある。なのに今回はそれができなかったから寂しくもあったね。

──では何にモチベーションを求めていたんですか?

今回はこういう機会が与えられたんだから歌に集中しようと。それがモチベーションになりましたね。激しいライブができるようになったときに、さらにいいボーカリストでありたいなと思っていました。それと、これまでのライブだとクリックを聴きながら演奏してたけど、「ANTI WIRE」ではやめたんです。人間のリズムに合わせるから、歌も演奏も変わるんですよね。そういう意味ではすごく生々しいし、ライブらしいライブというかね。メンバーもすごく生き生きしていた。それこそ蚊の鳴くようなピアノのちっちゃな音から、激しいシャウトまで、ハードロックのライブではできない幅広い表現をすることができたのもよかった。

──アレンジするうえで重視したポイントはありますか?

2019年12月に幕張で行われた「ANTI FINAL」が「エピソード1」だったとしたら、「ANTI WIRE」は「エピソード0」にしたいと思っていたんです。「ANTI FINAL」がアルバム「ANTI」の世界が開花した、表の状態だったとしたら、そこに通じるような内容にしたかった。生まれる前の卵のような、赤ちゃんのような状態。「ここから始まる」ということや、「ANTI FINAL」の舞台になった“NEO TOKYO”の路地裏の雰囲気が出るようにしました。自分としてやりたい曲があっても、世界観に合わないようであればやらないか、合うアレンジにする。だから今回はツアーに向けてのリハーサルでのアレンジ作業が一番面白かったですね。バンドメンバーも天才が集まってるから、アイデアに詰まることもないし、例え1人が行き詰まってもほかのメンバーが新しいアイデアを出す。アイデアの応酬みたいな感じで楽しかったですよ。

HYDE「HYDE LIVE 2020-2021 ANTI WIRE」の様子。(撮影:岡田貴之)

HYDE「HYDE LIVE 2020-2021 ANTI WIRE」の様子。(撮影:岡田貴之)

天才4人との化学反応

──初回限定盤に付属するボーナスディスクのインタビューでも、バンドメンバーのhicoさん、PABLOさん、城戸紘志さん、Aliさんの4人について「天才」と評価されていました。

それぞれバンドのリーダーみたいなタイプなんです。中でも核になっているのはhicoかな。hicoはピアノの実力もあるし、どんなジャンルにも対応できる。例えば「この曲をスパニッシュにして」と言ったらすぐアレンジができちゃうんですよ。PABLOも名作曲家で幅広い曲を作れるし、アイデアが尽きないタイプ。あと彼は意外と大人なんです。

──ライブを拝見していると一番やんちゃなイメージですが。

(笑)。PABLOはメンバーのいいところを褒めるから、やりがいにつながるんですよね。僕とかいいと思うところがあったとしても、あえて口に出さないことが多いんです。でもPABLOはちゃんと褒める。そういうことってやろうと思ってできることじゃない。城戸くんもアレンジの才能があって、僕がプロデュースしたジェジュンの「BREAKING DAWN」の原曲のアイデアも彼が出してくれました。作曲できるドラマーってやっぱり強いなと。Aliは基本なんでもできるし、作曲家としてもいいラインを突いてくるし、人柄がいいからバンマスとして彼がいると安心できる部分は大きいね。

──もともと予定にはなかった内容のツアーだったとは思いますが、結果的にHYDEさんとバンドメンバーの新しい化学反応が生まれたのかなと。

そうそう、今すごいバンドっぽいですね。

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僕はO型なんで