HYDEの新作ライブBlu-ray / DVD「HYDE LIVE 2019 ANTI FINAL」が7月29日にリリースされた。
1月に発表された「HYDE ACOUSTIC CONCERT 2019 黑ミサ BIRTHDAY -WAKAYAMA-」以来となる映像作品には、昨年12月に千葉・幕張メッセ国際展示場で行われた「HYDE LIVE 2019 ANTI FINAL」の模様を収録。終始厳粛な空気が漂っていた「黑ミサ」が“静”だとすれば、「ANTI FINAL」は攻撃性をむき出しにした“動”のHYDEがあらわになった作品と言える。
新型コロナウイルスの影響によってライブ活動を中断せざるを得ない状況の中、HYDEは何を感じ、どんなことを考えているのか。刻一刻と変わっていく世界の状況への思いも含めて聞いた。
取材・文 / 中野明子 撮影 / 映美
自粛期間に始めたことは……
──外出自粛期間中は音楽ナタリーのコラム企画「ねえ、みんな家で何してる?」で近況をお知らせいただきありがとうございました(参照:HYDE編 | ねえ、みんな家で何してる? Vol.24)。「ヒロシちゃんねる」をご覧になっているというのが読者には意外だったようで、大きな反響がありました。
そう?「ヒロシちゃんねる」は全部観てる。キャンパーの血が騒ぐよ(笑)。
──自粛期間中、HYDEさんはどんな日々を過ごしていらっしゃいましたか?
ほとんど家から出てないですね。外出といっても必要最低限の買い出しくらい。一度日本での仕事を切り上げてロスに戻ったんだけど、滞在中にアメリカでのコロナの影響が大きくなったことを受けて4月に帰国して……それからずっと日本にいました。
──世界中が混乱に陥ってしまって、いろんなものが止まってしまいましたが、その状況をどう感じていらっしゃいました?
残念だと思うことはたくさんあったし、ファンの子を驚かせようといろいろ考えていた企画が飛んでしまったけど、なるようにしかならないと思いました。幸いなことに仕事は山ほどあったから、溜まっていたことをやろうと。動けるようになったときに、一番いいスタートダッシュを切れるような状態にしておきたかったからね。
──音楽シーンにおいては、さまざまな制限がある中でInstagramやYouTubeなどで配信をしたり新しい表現をされるアーティストも多いですよね。
そうですね。ライブ配信をがんばっているアーティストもいるけど、やっぱり僕が本当にやりたいのは今までのようなオーディエンスありきのライブであって、無観客っていうのがあまりピンと来ないんですよね(※取材は6月下旬に実施)。
──それを求めるファンの方も多いとは思うのですが。
もちろんやってみることでわかることもあるけど、まだ僕はライブができないのであればその期間を制作に充てたい。曲のクオリティを上げたりするような作業に時間を使いたいと思ってます。
──プライベートでこの期間中に新たに挑戦したことはありますか?
草刈り! 庭の雑草を刈ったりして日常を楽しんでました。
──HYDEさんが草刈り……?
そう。庭に照明を仕込んでライトアップできるようにしたり。あとは毎朝起きてすぐ掃除したり、そんなことを今までしたことなかったけど。時間があったから家のことをやるようになりましたね。そういう毎日も悪くないけど、なんか隠居生活みたい(笑)。
──ここ10年ほどHYDEさんは1年の半分近くはライブという日々だったと思うのですが、ライブがなくなったことに対する喪失感はありませんでしたか?
喪失感はあります。でもこの状況では仕方がないから切り替えるしかないなと。自粛要請の影響でエンタテインメント業界も苦境に立たされて我々も大きなツアーがなくなって今年の収入はほとんどないです。この期間に政策を叩いている人も多いけど、日本は民主主義だからちゃんと国民による選挙があっての政府じゃないですか? 投票率を見ても選挙にも行かないのにヒステリックに政府の揚げ足をとったり、マイナンバーカード取ってないのに他国を羨んだりっていうのは、自分たちの責任を棚に上げて怒っているように感じて僕はひいてました。
──日本では自分たちの意見を政治に反映させるために選挙という制度があるのに、選挙率の低さを目の当たりにすると多くの人がその権利を放棄している印象を受けてしまいます。ただ、今の事態を前にして、政治や自分たちの生き方を考え直すきっかけにはなっている気もします。
うん。確かに災害を通して考えさせられることは多いですね。
僕の立場だからこそ言えることがある
──世情が制作に影響を与えていることはありますか?
あります。これまでより冷静に曲を作れてますね。もっと勢いでガーっと作ってリリースしていたこともあったけど、今は時間をかけて作ったり、数日後聴き直してみたり。これまではこだわらなかったところまでこだわったりしてるから、いい作品ができる気がする。僕に限らず、アーティストはコロナ禍が明けたらいい作品ができるんじゃないかな? もちろん時間があればあるほどいい作品ができるというわけではないけど、僕の場合はのんびり新鮮な耳で聴いたり「この曲どう?」とかスタッフやバンドメンバーに聞いたりしてるよ。今までは自分で判断して自分でOKを出してたからそこは変わりました。自分でプロデュースはするんだけど、人の意見を聞くことで自分が気付かなかったことに気付いたり。
──制作をする中で発見したことは?
僕は曲をゼロから作るより、アレンジをすることやプロデュースするのが好きなんだなと。作詞や作曲よりアレンジに時間をかけてますね。例えば僕が映画監督だったとして、映画を作ろうと思ったときに自分1人でやろうとは思わないんです。思い描いたものを形にするには、いろんな技術や人の力がないとできないと思っているし、自分ですべてやることが理想じゃない。
──それは以前もおっしゃってましたね。曲作りにおいて誰かとコライトしたり、作詞や作曲を任せることで自分の理想に近付けると。
そう。時間があることで、それをより追求できる状況にあります。不幸中の幸いというか。
──今作られている楽曲はどんなタイプのサウンドなんですか?
今まで以上にハードでメタルっぽくなってるかも。「ANTI」よりもヘビーだと思います。
──「ANTI」もかなり激しいヘビーな曲ぞろいでしたが、それ以上とは。歌詞はどうですか?
歌詞はまだ書いてない曲がほとんどです。でも、作曲やアレンジ同様にこれまでより突き詰めたいと思ってます。今回のコロナのこともそうだし、この国の政府や政治に対する考え方、他の国との関係だったり……僕の立場だからこそ言えることがあるなと。今世界中で問題になっている差別の問題とか。コロナはいろいろ書くべきこと、歌うべきことがあると気付くきっかけになりました。
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