HYDE|宿命を受け入れた“反逆者”

自分1人だけでは理想は形にできない

──ソロ再始動後のHYDEさんは積極的に国内外のクリエイターとタッグを組んでいますよね。

HYDE

はい。MY FIRST STORYのShoくんが作った曲はマイファスの匂いもあるけど、僕のダークな部分を察してくれてゴシックな雰囲気のある曲にしてくれたし、PABLO(Pay money To my Pain、POLPO)も僕の気持ちを察して作ってくれた感じ。でも、アメリカの作家は僕のことをあまり知らないから、「こういうのどう? こういうのは?」っていろんな曲を聴かせてくれて面白かったですね。

──コンポーザーの皆さんのデモテープはある程度作り込まれているんですか?

そうですね。ほとんどの曲は一度聴いたあと、それぞれの人と僕好みのアレンジを作っていきました。人が曲を作る過程はほとんど見たことがなかったので、すごく勉強になりましたね。まあ、「ANOTHER MOMENT」はドリュー(・フルク)が3時間くらいで作るのを後ろで見ていただけだったけど(笑)。

──それはすごいスピードですね……。これまでのHYDEさんが歌ってきた曲は、バンドメンバーが作ることはあっても、ここまで外部のクリエイターに一任するケースはなかった気がします。

そうですね。でも、いろんな人と組んだほうが結果的に自分の好みに近付けるんですよ。

──そうなんですか?

自分だけでは自分の理想は表現できない。例えば映画を作るときに、監督1人で全部撮った映画が面白いかといったら、決して面白くないんじゃないかな? 美意識は強く出るでしょうけど、僕はいろんなクリエイターが集まってこそいい作品ができると思う。無理して自分1人で作ることで理想を形にできるならいいですけど、僕はいろんな人と組んだほうが理想に近付けると思ってます。

──今回は歌詞も共作が多いですよね。

はい。僕のイメージを作詞家に伝えて書いていってもらいました。日本語の歌詞は自分で書くんですけど、英語はヘタに介入するよりAliとかに任せてしまったほうがアメリカ人が聴いたときに気持ちがいい歌詞になる。作曲と同じように無理して自分でやっても……という感じ。

──従来のこだわりみたいなものが抜けていっているんでしょうか?

というか、最近まで勝手に自分を枠にはめてましたね。でも、VAMPSの「RISE OR DIE」(2017年4月発売のアルバム「UNDERWORLD」収録曲)をドイツのバンド・Rammsteinのリチャード・Z・クラスペと共作したときに、「あ、こんな手があるんだ」と気付いた。一気に今までの固定観念が崩れていったんです。考えてみたらけっこうみんなこういう手法で音楽を作ってますよね。極端なことを言うとマイケル・ジャクソンとか。誰が作った曲でも、マイケルが歌えばマイケルの曲になるでしょ?

──確かに。

「RISE OR DIE」を作ったときに、自分が勝手にシンガーソングライターであろうとしていたことに気が付いたんです。それでソロになったときに、世界中のクリエイターが自分のプロジェクトのメンバーになり得ると思った。

──自分を縛っていたルールから解き放たれた。

そうですね。毎年少しずつ開眼して、アップデートしてる感じ。曲に限らずプロモーションの方法に関しても、垣根をなくしていきたいと思ってます。知らない間にみんな枠組みを作っちゃってるんで。「前回こうだったから、次もこうでしょ?」じゃなくて「今回はこうしてみよう」というのが大事。僕の場合は、半世紀生きてどんどん自由になってます。

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ダークな部分を出さざるを得ない

──歌詞の内容についてお伺いしたいのですが、今回はアルバムを通して「怒り」「痛み」「苦しみ」「救い」といったものを表現する言葉が多い印象を受けました。

これはアメリカのフェスで評価されるためのところもあるかな。僕が今、一番実現したいことの1つが、アメリカのフェスに出て評価されることなんです。僕が出られるフェスとなるとロック系の激しいフェスになる。そこで評価されるには限られた時間の中でどれだけ観客を盛り上げられるかが大事で、自然とマイナー調でテンポの速い曲がメインになるんです。そうすると、曲調は必然的に僕のダークな部分を出さざるを得なくなる。激しい音楽で明るいことを歌うのは嫌がられるから。僕は普段から怒ってるわけじゃないけど、悔しかったことや悲しかったことを表現する必要が出てくる。

──そして、それはHYDEさんの一面ではある。

HYDE

もちろん。あと「SET IN STONE」で取り上げているアメリカの銃問題とかは、僕が日本人だからこそ歌える内容だし、そういう視点も大事にしていきたいです。

──HYDEさんのソロ作品だと、聴き手に疑問を投げかけるタイプの歌詞が多いですよね。「FAITH」(2006年4月発売のアルバム)は宗教や信仰というものがテーマになっていました。今回の作品においては現代社会の矛盾や心の闇を歌詞で表現している気がしました。

そうですね。現代ならではの悩める部分というか、闇があると思うんです。人が精神的に悪魔を抱えている状態。今はネットでしか人とつながってない部分もあるし、ネットでしか闇を発散できない人が多い気がしていて。そこで今まで見えなかった部分が見えてしまったり、言わないでいいことを言ったり。そういう場面に遭遇すると、みんな心の中にモンスターを抱えてるんだなと感じる。僕はモラルを大切にしながら、どうやって自分の中の悪魔と共存していくのか……これが大事なことだと思います。

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理由は「かわいい」