林萌々子(Hump Back)× 橋本学(ハルカミライ)|1人の“少年”に向けた歌が誰かの歌に

現実派の林と空想派の学

──ソングライターとしてのお話をさらにお聞きしたいんですが、お二人は気持ちがどう動いたときに曲ができるんですか? 曲の根源と言うか。

左から林萌々子(Hump Back)、橋本学(ハルカミライ)。

 私は生活ですね。それを実感したのが今回のCDを作るときで。前作の「hanamuke」で言いたいことは全部言ったし、やりたいことも全部やったと思ってたから、そのあと曲が全然できへんなあってめっちゃ悩んでたんです。で、私はライブがないときだけですけど、子供と関わる仕事をしていて。「曲ができひんできひん」ってなってるときにひさしぶりに3連勤があって。「働いてる場合じゃないのに」と思いながらも職場に行って働いてヘトヘトになって帰ってきて、ごはん食べてお風呂に入って寝て、また出勤してっていうのを3日続けて、その3日目の夜にめちゃくちゃ曲ができたんですよ。決まった時間に出勤して、決まった時間に退社するみたいな生活ではないし、社会人にはなってないですけど、でも私のこの生活の中で生まれるもどかしさとか、日常の中に落ちてるものを見つけていくのが好きなんやなって思いました。みんなの日常に寄り添おうとは思わないけど、やっぱりみんなの日常で聴いてほしいから、自分も日常を歌いたいなと。

橋本 俺は何か衝撃があって曲を殴り書くみたいなことは全然なくて、携帯とかいじりながら「今、なんか曲書けそう!」って思って書いていきます。自分の生活には基づいてると思うんですけど、そこからいろいろ想像していく。作り話とまではいかないですけど「こうなったらいいな」みたいなものを書いていく感じです。例えば「predawn」っていう曲(2017年11月発売のアルバム「星屑の歌」収録)には、車道のど真ん中を歩く描写があるんですけど、普通は歩かないじゃないですか。「普通は歩かないけど、夜中に車道のど真ん中を歩けたらすげえいいな」って想像から書いて。そういう想像でどんどん物語を作っていきます。

──先ほど橋本さんは林さんのことをロマンチストだとおっしゃいましたけど、橋本さんの書く歌詞もロマンチックですよね。

 ですよね! 「月に目隠しして」(「星屑の歌」収録曲「ウルトラマリン」の歌詞)とか絶対書かれへんもん(笑)。

橋本 あれ、ヤバいよね(笑)。「ウルトラマリン」は誕生日というキーワードを使わずに「誕生日おめでとう」という状況を書こうと思って。そしたら、まず真っ暗な状況にしないとと思って、月の明かりを消して、ロウソクを点けて……で、2番がまたよくて!

 知ってる知ってる!(笑)

橋本 1番はロウソクの灯だったんだけど、2番では灯が涙になるの。「涙が光ったら」って。そこが最高じゃない?(笑)

 これは空想派やから書けることやと思います。私は現実のことしか書けないので。

ずっと音楽を好きでいたい

──冒頭でHump Backのなにくそ感がすごいというお話が出ましたけど、2組共、ライブではその悔しさみたいなものがそのまま演奏のパワーになっている印象があります。

 最近は拭えてきたんですけど、今まではずっと誰にも認められていないと思ってて。それがあきらめにならんかったからここまで来れたんやと思う。「認められんでいいわ」とか、「自分が好きにやったらいいわ」って思ってたときもあったけど、やっぱ心のどこかでずっと「認められたい」という気持ちはあって。「認めさせてやる」みたいな。

左から林萌々子(Hump Back)、橋本学(ハルカミライ)。

橋本 俺は「認めてんだろ」ってゴリ押ししたい(笑)。そもそものスタートラインで完成してるって言うか……「はい、お前認めたよな?」って言い切っちゃう勢いって言うか……なんか男っぽくてよくないですか?(笑) 認めてもらえなくて悔しいとかはあんま思わないんですよね。「カッコいい」って言ってくれるか、「気持ちわりい」とか「俺は苦手だ」とか「あのスタイルは嫌いだ」とか、どれでもいいです。とにかく印象に残ればオッケーなんです、俺の中で。

 そうやって言われてみたら、私も自分の満足度が大切と言うか、お客さんの反応ももちろん大事だけど、自分が「やってやった」って思えるのが一番大事な気がしてきた。自分が満足いくライブができたら、誰かが「ダメだった」って言おうが別に気にならんすね、そういえば。

橋本 そういうときに、プラス「いいね」って反応がもらえたら「よし!」ってなる。

 そうやな。

──そういう意味では、最近は2組とも人気が高まってきて、認められてきている状態だと思うんですが、その意識は以前と変わりましたか?

 変わりましたね。若い子がお金もそんなにない中、チケット代を払って、ドリンク代を払って、ましてやグッズも買ってくれてってことを考えると、「来てよかった」って絶対思わせたいと思うようになりました。今まではもう「自分が自分が」という気持ちしかなかったんで。

左から林萌々子(Hump Back)、橋本学(ハルカミライ)。

橋本 バンドを長く続けたかったら、人気出るとか売れるとかしたほうが続く確率は上がると思うんです。だからライブでこけちゃったら、観に来てくれた人はもうCDやグッズを買わなくなって、結果俺たちがバンドを続けられなくなる。そういう意味での責任感もあるよな。

 そうだね。

橋本 とは言え、最近はどっちでもいいなと思い始めて。もちろん売れたほうが楽しいと思うんですけど、売れたいか売れたくないかで言ったら「まあ売れたいな」くらいのテンションになってきた。そうやっていろいろ解けて、最終的に残った芯みたいなものは「ずっとめっちゃ元気にやっていよう」ってことで。元気にバンドをやってることが土台にあって、そこでさらにうまくいったらいいなって思います。そりゃあ売れたいし、人気者にもなりたい。でもそこは最終目的ではなくて、あくまで元気に歌う、元気にライブをするっていうのがいいなと、最近思うようになりました。

 私は何よりもずっとHump Backを、音楽を好きでいたい。環境は変わっていくし、関わってくれる人もライブを観てくれる人も増えていく中で、もしかしたら自分の意図と違うことを選ばなアカンときがくるかもしれないし、何かに寄せていかなアカンこともあるかもしれないけど、選ぶにしろ選ばないにしろ、寄せるにしろ寄せないにしろ、作業にはしたくない。ずっと自分の中で生まれるものを好きな形にしていきたいし、追求していきたいです。

──Hump Backが1人だったとき含め、音楽が嫌になったことはあります?

 マジでないです。これまでのインタビューとかでも「1人の時期、大変でしたよね?」とか「つらいと思ったことありました? どう乗り越えたんですか?」とか皆さんすごく気にしてくださるんですけど、私の場合は好きでやってるだけで、別に苦労したと思ってもないから「やめたい」とか「苦しい」とか思ったことがないんですよ。もちろん苦しいことはあるけど、好きの中で起こることだから。もし「苦しい」が「好き」からはみ出したら音楽を嫌いになるかもしれないけど、それを超えない限りはずっと音楽が好きなんだと思います。

左から林萌々子(Hump Back)、橋本学(ハルカミライ)。
Hump Back「拝啓、少年よ」
2018年6月20日発売 / VAP
Hump Back「拝啓、少年よ」

[CD]
1200円 / VPCC-82347

Amazon.co.jp

収録曲
  1. 拝啓、少年よ
  2. ナイトシアター
  3. 今日が終わってく
  4. VANS
ハルカミライ「それいけステアーズ」
2018年3月14日発売 / THE NINTH APOLLO
ハルカミライ「それいけステアーズ」

[CD]
1080円 / TNAD-0100

Amazon.co.jp

収録曲
  1. それいけステアーズ
  2. デイドリーム
  3. 春はあけぼの

公演情報

Hump Back"拝啓、少年よ"リリースツアー

  • 2018年7月5日(木)千葉県 千葉LOOK
  • 2018年7月11日(水)愛知県 APOLLO BASE
  • 2018年7月13日(金)神奈川県 F.A.D YOKOHAMA
  • 2018年7月19日(木)高知県 X-pt.
  • 2018年7月20日(金)香川県 DIME
  • 2018年7月27日(金)茨城県 mito LIGHT HOUSE
  • 2018年7月28日(土)青森県 八戸ROXX
  • 2018年7月30日(月)宮城県 SENDAI CLUB JUNK BOX
  • 2018年8月1日(水)北海道 BESSIE HALL
  • 2018年8月14日(火)京都府 KYOTO MUSE
  • 2018年8月22日(水)福岡県 Queblick
  • 2018年8月24日(金)広島県 HIROSHIMA 4.14
  • 2018年8月31日(金)東京都 TSUTAYA O-EAST
  • 2018年9月7日(金)大阪府 LIVE HOUSE OSAKA BRONZE

ハルカミライ「赤く青く燃えてツアー」(※終了分は割愛)

  • 2018年7月2日(月)兵庫県 MUSIC ZOO KOBE 太陽と虎
  • 2018年7月25日(水)鹿児島県 SR HALL
  • 2018年7月26日(木)福岡県 LIVEHOUSE CB
  • 2018年8月1日(水)東京都 八王子RIPS
  • 2018年8月3日(金)宮城県 SENDAI CLUB JUNK BOX
  • 2018年8月8日(水)山梨県 KAZOO HALL
  • 2018年8月20日(月)広島県 HIROSHIMA 4.14
  • 2018年8月21日(火)山口県 周南RISING HALL
  • 2018年8月23日(木)香川県 DIME
  • 2018年9月6日(木)京都府 KYOTO MUSE
  • 2018年9月9日(日)東京都 TSUTAYA O-EAST
THE NINTH APOLLO pre “毎晩前夜、毎日当日”

2018年10月7日(日)東京都 日比谷野外大音楽堂
OPEN 16:00 / START 17:00
<出演者> ハルカミライ / Hump Back / SIX LOUNGE

Hump Back(ハンプバック)
Hump Back
林萌々子(Vo, G)、ぴか(B, Cho)、美咲(Dr, Cho)からなる大阪出身のガールズロックバンド。THE NINTH APOLLOの姉妹レーベル・WELL BUCKET RECORDSに所属し、12月にミニアルバム「夜になったら」、2017年11月に2ndミニアルバム「hanamuke」を発表した。2018年3月にはチャットモンチーのトリビュートアルバム「CHATMONCHY Tribute ~My CHATMONCHY~」に参加。6月に1stシングル「拝啓、少年よ」をリリースする。
ハルカミライ
ハルカミライ
橋本学(Vo)、須藤俊(B, Cho)、関大地(G, Cho)、小松謙太(Dr, Cho)からなるバンド。2012年に八王子で結成された。2016年7月にTHE NINTH APOLLOに所属を発表し、2017年2月に初の全国流通盤「センスオブワンダー」を発売した。11月にミニアルバム「星屑の歌」、2018年3月に1stシングル「それいけステアーズ」をリリース。