ナタリー PowerPush - 堀江由衣
ほっちゃんと振り返る「パイレーツ・オブ・ユイ3013」レポート
ほっちゃんが解説する
「堀江由衣をめぐる冒険IV ~パイレーツ・オブ・ユイ3013~」レポート・後編
夢うつつの彼女がCOALTAR OF THE DEEPERS「DEAR FUTURE」のほっちゃんバージョンを歌っていると、キャプテンガイコッツ率いる幽霊海賊団が青クマ海賊団の財宝を狙って港に上陸。「ねぇ、聴こえてる?」と叩き起こされたほっちゃんは20人の仲間を引き連れ「インモラリスト」を熱唱しながら応戦するが幽霊海賊団に押し込まれ、財宝とともにトランクを奪われてしまった。
──「ねぇ、聴こえてる?」のセリフが「インモラリスト」につながる流れもツアーに引き続き。
これはホントたまたまで。ちょうど「インモラリスト」に入る前のリーチとビンゴのセリフが「ねえ、ほっちゃん聴こえてるの?」だったんです。そのセリフのあとに私が曲のセリフで「ねぇ、聴こえてる?」って言うのはおかしいから「試しに柿原(徹也)さんに、CDのセリフっぽく言ってもらおう」って(笑)。それでホントにやってみたら、Aメロの間中ずっとお客さんがざわつくという(笑)。
──そういえば、どの声優さんが参加されているのかを第一声で把握して判断してざわつくというのも、堀江さんのライブのお楽しみポイントとして定番化してますよね。
スタッフ 関係者席の皆さんのエンドロールクレジットへの食い付きが毎回すごいです(笑)。
あははははは(笑)。
それでもイカダに乗って逃げのびたほっちゃんがアリーナ後方のサブステージにたどり着くと、そこには彼女を1000年後の未来に送った張本人、タイムズ伯爵の姿が。伯爵によると、彼の懐中時計を使えば元の時間に戻ることができるのだが、あいにく時計の電池が切れているという。そこでほっちゃんは前日ミス・モノクロームから抜き取ってトランクの中にしまっていた単3電池を取り戻すべくキャプテンガイコッツと再戦することを決意する。
「Get up and Go」をクールに歌い踊りながら幽霊船に潜入したほっちゃんは、牢屋に捕らえられたリーチとビンゴとカイゾクマスターに遭遇。さらに牢屋の格子の間隔が本人曰く「細い」ほっちゃんなら十分通れるほど粗いものであることを発見する。おかげでリーチとビンゴは脱けだせたのだが、当のほっちゃんは牢内にあったカイゾクマスターの食事をつまみ食いしたことがたたって増量。頭が引っかかって格子を抜けられないカイゾクマスターとともに牢内に閉じ込められてしまうのだった。
──このくだりはとにかく自分だけ助かりたがるカイゾクマスターの最低な人間性が際立っています(笑)。どうかと思うほどズルいですよね。
このシーンは最初はなかったんですよ、実は。私も一緒に連れ去られてしまう予定だったんですけど、着替えの時間が必要だから、ちょっとクマスターのコントの尺を伸ばせないかなって(笑)。作り込んでいくうちにどんどんひどい性格になっちゃって。クマなんだけどある意味すごく人間味にあふれてるというか(笑)。
──海賊の仲間になってから一時的なサクセスを経て落ちぶれるまでの流れは、堀江さん本人としてもかなり気に入られているとか。
はい。映画とかでもよくある王道のパターンにうまくハマったなって。ここもよく観ると、イカダに乗るときにはジャラジャラ着けていた宝石も全部なくなって、つぎはぎだらけのボロ衣装を着てるんですよ。「あ、落ちぶれたこの人」ってすぐわかる(笑)。ライブのバランスで考えると「ここでバラードを入れとこう」とか考えてストーリーとは合わなくなってきちゃうんです。それがいつも悩みどころで。今回はそこもうまくハマった気がします。
リーチとビンゴのアドバイスもあり、ほっちゃんはダイエットを試みる。ピンクのミニのワンピース姿に早替えし、同じく救出された海賊団員たちとともに「YAHHO!!」「笑顔の連鎖」「CHILDISH♡LOVE♡WORLD」をラブリーに連射すると「フレー! フレー! ほっちゃん! がんばれ! がんばれ! ほっちゃん!」コールに身も心もリフレッシュしたのか牢屋から無事脱出。火柱が吹き上がるステージで幽霊海賊団員と格闘し、トランクを奪還した。
直後、幽霊海賊団員に囲まれたほっちゃんとリーチとビンゴを救出したのはミス・モノクローム。幽霊船内に電池ボックスがあることに気付いたほっちゃんがボックスに単3電池をセットすると現れたミス・モノクロームが「ホッチャン、ココハ マカセテ」とダンスチューン「try again」をバックにレーザー光線を発射。幽霊たちを一蹴してみせた。……のだが、前日同様、モノクロームが「ワタシ、モット ウタイタイ」と言い出すと、今度はほっちゃんが彼女を一蹴。「この電池、すごく大事なんだ」と単3電池をボックスから回収しモノクロームを消し去って、リーチとビンゴとともに幽霊海賊団を退けたことを喜びあう。
──牢屋のシーンはもう、ドリフターズをも彷彿とさせるコントの定型みたいな展開で。
海賊ものだとやっぱり戦うシーンが多いから、明るくて楽しい曲を歌う場所が少ないねって話していて出てきたのがこのアイデアです。ダイエットのために元気がいい曲を歌おうって。
──そしてミス・モノクロームのくだりでは「由衣と時間泥棒」のストーリーともつながる電池ボックスが登場します。「この電池、すごく大事なんだ」というセリフは諏訪さん得意のメタ構造というか、このへんのくすぐりは確実にウケてましたね(笑)。
うふふふふ(笑)。ミス・モノクロームはやっぱり前に出てきたがるので、早めにハケてもらうために電池を抜くっていう(笑)。
しかしそれもつかの間、今度は超巨大化したキャプテンガイコッツがプロジェクションマッピングで会場の天井に現れ、最終決戦に打って出る。これを受けたほっちゃんは、ワインレッドのデコラティブな海賊風ジャケットを身にまとい短剣を手に臨戦態勢を整え「ヒカリ」をドロップ。アリーナめがけておびただしい数の銀テープを噴射してガイコッツを見事撃破し「それじゃあ海賊のみんな出航だ!」と帆船の舳先で「Puzzle」「Lady Go!」などアッパーチューンを連投して、6000人の“海賊のみんな”とともに青クマ海賊団の勝利を祝福した。そして敬礼する海賊団員に別れを告げ、「BE FREE」を歌いながら、頭にリボンをあしらったドクロの描かれた海賊旗を手にしたタイムズ伯爵とともに現代へと帰還するのだった。
──幕張メッセの天井に超巨大な大ボスが投影されるという演出は、かなりのインパクトでした。こちらも特典映像でコメントされていましたが、実現にはいろいろな難関があったようで。
私はアイデアを出すだけだからいいけど、これを実現させるスタッフさんはホントに大変だったと思います。敵って……なんでか知らないけど私のライブには必ず敵が出てくるんで(笑)、敵とどう戦うかに毎回頭を悩ませるんです。今回は幽霊船の海賊だし、今までにない怪しくて怖い敵にしたくて。前回のインタビューでも最後に少しお話しましたけど、設定を考えてるときに出てきた「本格ホラー」のアイデアがここに使われてるんですよ。
──どう戦うのかと思ったら、コンサート特効の定番である銀テープの噴射を利用するという。
なかなか新しい銀テープの使い方だったかなと思います(笑)。
「パイレーツ・オブ・ユイのテーマ」をBGMにスクリーンにエンドロールが映しだされたあとには、ライブTシャツ姿のほっちゃんが再びステージに登場。「私のサクセスストーリーとでも申しましょうか。『パイレーツ・オブ・ユイ』いかがでしたでしょうか?」と大歓声と笑いを誘い、この日と前日の公演のために14曲のBGMが書き下ろされたこと、両公演のほっちゃんとダンサーの衣装が107着に及んだこと、開場時に物販ブースで流れていた「パイレーツ・オブ・ユイのテーマ」の男性ボーカルバージョンはミュージカル「レ・ミゼラブル」のジャン・ヴァルジャン役などで知られるミュージカル俳優、今井清隆が歌っていることなど、舞台裏を明かす。そしてライブが大成功を収めたことを喜ぶとダンサー陣とともにアンコールの定番曲「Happy happy * rice shower」などを明るく歌い上げ、2日間に及ぶ幕張メッセ公演を締めくくった。
──ということでレポートは以上です。やはりこれだけ大がかりなライブを、しかも2日間連続でやるというのは相当大変だったんじゃないかと。
大変でしたけど、2日目のほうがこの日のことだけに集中できるから、1日目よりも余裕を持って挑めましたね。1日目は次の日のこともどこか頭の片隅で意識しながらやっていたので。気持ち的にはラクだけど、体力的にはかなりヘトヘトでした。実は最後のおまけパートが一番の早着替えなんですよ(笑)。メインステージの反対側でエンディングを迎えて、そこからダッシュでメインステージに戻りながらの早着替えなので……。
──すごくラフな格好なのに(笑)。
「よかった間に合ったー!」みたいな感じで(笑)。
──ほかに見えないところで大変だった場面や、ここは失敗しちゃったなーという反省点はありますか?
キャプテンガイコッツとの戦いのとき、間違ってくじら号の目が光っちゃったらしくって。それだと銀テープじゃなくてくじら号がやっつけちゃったことになるから。演出家さんが慌てて調べたんだけど「くじら号、止まりませーん!」みたいになっちゃって(笑)、結局何かの線をブチッ!と抜いたんですって。なんとかくじら号は止まって事なきを得たんですけど、そのあと線を抜いたことで別の何かができなくなったみたいで(笑)。あとはクマスターの内臓がいないとか(笑)。
──内臓(笑)。表はクマとかくじらとか牧歌的な世界なのに、舞台裏では怒号が飛び交う事態に。
広い会場をキックボードで移動してたらしいです(笑)。
──逆に思っていた以上に成功した場面は?
椅子や机を使って幽霊海賊と戦うシーンは、映像で改めて観るとすごくカッコいいですね。背景のスクリーンは全部LEDなんですけど、戦いのあとでは酒場のポスターが剥がれて傾いていたり。背景も含めて世界観の出し方はうまくいったなと思います。「パイレーツ・オブ・ユイ」は今までの中でも一番好きなライブになりました。
──これまでのライブの集大成といった感じもあるし、「ほっちゃんのライブってどんな感じなんだろう?」って思っている人がとりあえず手にしてみるのに最適な作品かもしれないですね。
本当にそうだと思います。一応「時間泥棒」の続きになってるから、この作品から観た人にもわかりやすくするために、最初にあらすじの字幕が入ってるんですよ。なかなかないですよね、ライブ映像であらすじが入っているのって(笑)。
- ライブDVD / Blu-ray「堀江由衣をめぐる冒険IV ~パイレーツ・オブ・ユイ 3013~」 / 2013年12月25日発売 / スターチャイルド
- [Blu-ray Disc+CD] / 8715円 / KIZM-128~9
- [DVD2枚組+CD] / 7665円 / KIZB-150~2
DVD / Blu-ray収録内容
Opening
- moment
- Time machine
3013年大海賊時代
- いつか
- Secret Garden
青クマ海賊団
- True truly love
- パイレーツ・オブ・ユイのテーマ
カイゾクマスター船長
- スクランブル
- Go! Go! Golden Days
忍び寄る影
- DEAR FUTURE
海賊天職
- インモラリスト
青クマ海賊団の敗北
- くじら光線
タイムズ伯爵との遭遇
- sky fish
- Get up and Go
囚われの青クマ海賊団
- YAHHO!!
- 笑顔の連鎖
- CHILDISH♡LOVE♡WORLD
牢獄からの脱出
- 大切なもの
電池ボックスと単三電池
- Try Again
キャプテン・ガイコッツ襲来
- ヒカリ
新たなる旅立ち
- Puzzle
- PRESENTER
- Lady Go!
- BE FREE
End roll
CD収録曲
- パイレーツ・オブ・ユイのテーマ / 堀江由衣
- Theme For Pirates of Yui / 今井清隆
堀江由衣(ほりえゆい)
東京都出身の声優アーティスト。1997年に声優としてのキャリアをスタートさせた後、1998年に歌手デビュー。「ほっちゃん」の愛称で親しまれ、永遠の少女然とした自身のキャラクターと重なるオリジナル音楽作品をコンスタントに発表している。アニメやゲームのキャラクターソングも数多く手がけ、2005~2007年には声優ユニット「Aice5」としても活躍。2009年9月には声優として歴代4人目となる日本武道館公演を2日間にわたって行い、大成功に収めた。2012年2月には8thアルバム「秘密」を発表。オリコン週間ランキングで3位を獲得した。2013年3月には千葉・幕張メッセイベントホールにて「堀江由衣ベストライブ~由衣と時間泥棒~」「堀江由衣をめぐる冒険IV ~パイレーツ・オブ・ユイ 3013~」と内容の異なる2本のライブを開催。9月20日には「堀江由衣ベストライブ~由衣と時間泥棒~」が、12月25日には「堀江由衣をめぐる冒険IV ~パイレーツ・オブ・ユイ 3013~」がDVD / Blu-rayとなってリリースされた。