hololive IDOL PROJECT特集|ホロライブが今、オリジナル曲で勝負する理由

1曲につき50~80曲のデモ

──楽曲制作のプロデュースはAPDREAMとArte Refactさんが担当したようですが、作詞作曲のクレジットにはいろんなクリエイターさんの名前があります。実際の楽曲制作はどのように進めたんですか?

桑原聖

桑原 ホロライブのタレントさんは1人ひとりが非常に魅力的で、個性がある方ばかりなので、楽曲制作に関してはシンプルにコンペ形式でホロライブに合う曲を探す方法にしようかなと考えたんです。有名な作家さんに楽曲制作をお願いするという手もあるんですが、1曲に集中して作るより、僕らやホロライブの運営さんがしっくりくる曲をちゃんと選びたかった。なのでそれぞれのテーマごとにいろんな作家さんにデモ音源を書いてもらって、「hololive IDOL PROJECT」に合う曲を見つけ出してアレンジする方法で今回は曲を作りました。だいたい1曲作るのに50~80曲くらいデモを集めています。

菊池 全曲コンペなので、決め打ちで作った曲は1つもありません。すべて募集をかけて、僕らと友人Aさんを含めた運営さんたちで全部聴き込んでコンペ形式で選ばせていただきました。

友人A 大変だったけど、すごく楽しかったなあ(笑)。

桑原 結果として今回採用させていただいた曲は若いクリエイターの曲が多いですよね。VTuberというコンテンツに対して熱意を持った若いクリエイターさんの曲は、やっぱり引っかかるものが多かったというか。

友人A 「ホロライブにはこういうものが合うと思う」みたいに提案していただいた方もいましたよね。本当にありがたかったです。

菊池 デモを聴く段階では誰が歌うとかは全然決めず、強いて言えば何人ぐらいが歌う曲にしようか、みたいな大雑把な感じで、シンプルにいい曲を探っていった記憶があります。

桑原 アイドル業界的なスタンダードに則って、歌唱人数は基本的に3人、5人、7人、9人の奇数にするようにイメージしていました。奇数だと、ライブのときにフォーメーションが組みやすいんですよね。常に中心が生まれるので「今はこの人がセンター」というのが表現しやすくなる。なので、デモ音源を聴きながら「この曲は5人ぐらいで歌うのがよさそう」とか「これは9人で歌っても違和感ないね」みたいな想定をしていました。

──“全体曲”として作られた「Dreaming Days」は、配信される音源の中で最も歌唱人数が多い曲です。個性豊かなボーカリストたちであるがゆえに、歌唱人数が増えることでミックスなどの調整は苦労しそうなイメージがあります。

桑原 9人分のボーカルを重ねるのは苦戦しました(笑)。先ほど菊池が話していたように、皆さん個性が強いので、整合性を取るという意味で1つの曲に仕上げるのがけっこう大変で……。

菊池 ただディレクションの段階であえてクセを殺さないようにはしています。タレントさんの個性を削ってそろえるものではないという気もして。

友人A 確かに、そのほうが個性を強みに活動しているVTuberらしいと思います。

左から桑原聖、菊池司。

桑原 タレントさんによっては「レコーディングブースで歌を録るのが初めて」という方も多かったんです。僕はタレントさん自身にもこのアイドルプロジェクトを楽しんでもらいたいという思いがあったし、「もっとレコーディングしたい!」と思ってもらいたかったから、こちらから指示を出してガチガチにディレクションするというより、皆さんのいいところを伸ばすようなアドバイスをするように心がけていました。その分、9人の声をどう合わせるかに気を遣いましたが。

菊池 それぞれの個性を残すミックスをしているので、9人で歌っていても「あっここはあの子だな」とわかるようにしています。

友人A タレントさんによっては家でレコーディングをするのが当たり前な子もいて。そんな子たちが「プロに録ってもらうと全然違う!」みたいに言っているのを見て、なんだか私まで誇らしい気持ちになりました(笑)。「レコーディングは楽しい!」と思ってもらうのが、これからの活動に向けてすごく大事なことになる気がするんですよね。あと、今回歌う曲数も出演するタレントさんに「何曲くらい歌えそう?」と事前にアンケートを取っていて、タレント自身の活動に寄り添うように進行しています。

「Bloom,」は次に続いていくライブ

──念願のオリジナル曲のみで行われるライブ「Bloom,」は、どんなライブになりそうですか?

友人A いい意味でこれまで作ってきたライブとは違う内容になると思うんです。今回の取材は私たち制作側にスポットを当てていただいているんですが、実は「Bloom,」では、初めてタレントさんたちにもライブの制作に携わってもらっています。具体的には「どんなコンセプトのライブにしたいですか?」というヒアリングをして、どんな曲を歌いたいか、どんなグッズを作りたいかを聞いて、それに対する運営側の考えも交えつつ、タレントさん自身の希望もなるべく形にできるように心がけています。実は「Bloom,」というタイトルの「,」の部分は、タレントさんの発案なんです。

桑原 どういう意味が込められているんですか?

友人A 「Bloom,」という言葉は「花が咲く」という意味なんですが、ピリオドではなくて「,」にすることで、「これから先も続く」という意味を表しているんです。花が咲いて、そのあと実ができて種になって、次につながっていく、という過程の中での今回の「Bloom,」なんです。このアイデアを出したのは、(湊)あくあさんなんですよ。

桑原 タレントさんが一緒にタイトルの考案までしているなんて素敵ですね。

友人A 今回のライブはホロライブにとって「,」で表現した“その次”につながる重大発表もあるはずなので……。「hololive IDOL PROJECT」の立ち上げ発表と同じくらいインパクトのある発表事なので、今後のホロライブ全体の展開にも注目してほしいですね。

左から桑原聖、菊池司、友人A。