ホロライブ所属のVTuber22人が出演するライブイベント「hololive IDOL PROJECT 1st Live.『Bloom,』」が2月17日に配信される。
「hololive IDOL PROJECT 1st Live.『Bloom,』」は、ホロライブのライブとしては初めてオリジナル曲のみで構成されるライブイベントだ。音楽ナタリーではイベントの開催に向けて、ホロライブの運営としてSNSなどで情報発信をしている友人Aと、ホロライブのオリジナル曲制作のプロデュースを手がける音楽制作チーム・Arte Refactの桑原聖と菊池司の3人を迎えてインタビューを実施。運営側が考えるオリジナル曲のみのライブイベント開催の意義、音源制作チームから見たVTuberたちのボーカリストとしての魅力について語ってもらった。
取材・文 / 倉嶌孝彦 撮影 / 須田卓馬
“ザ・ホロライブ”な体験を
──本題に入る前に、まずは昨年12月に開催されたライブイベント「hololive 2nd fes. Beyond the Stage Supported By Bushiroad」のお話から伺います。初めての2DAYS開催となった2ndフェスは、ホロライブにとってかなり大きな試みだったと思います(参照:ときのそら、AZKiらホロライブメンバーがAR演出で“限界をこえた”全体ライブ初日)。
友人A 私は(ときの)そらが1人しかいなかった頃から裏方のお仕事をさせていただいているので、ホロライブが大きくなって、今は2日間で違うライブを見せられるようになったところがすごく感慨深いです。ただ注目度が上がった反面、多くの期待が寄せられるので、それにちゃんと応えられるかは不安でもありました。たくさんの出演タレントさんがいる中で誰と誰を組み合わせるか、どのように見せたら視聴者さんが喜ぶか、無観客で楽しんでもらえるか、とか。結果的にはすごく多くの反響をいただいたので、今は大きなライブを無事終えられてホッとしています。
──そして次回のライブとして「hololive IDOL PROJECT 1st Live.『Bloom,』」の開催が発表されました。この公演の大きな特徴は、全曲オリジナル曲のみで構成されるというところですよね。
友人A 視聴者さんに“ザ・ホロライブ”な体験をしてもらうために、オリジナル曲だけのライブを開催してみたい、と個人的にもずっと思っていたんです。ただこれまでは曲数が足りなかったし、ちょっと前のホロライブだとオリジナル曲だけのライブを作り上げる力もなくて……。
──それが近年のVTuber業界の急成長によって可能になった、と。
友人A ここ数年でメンバーも増えてきて、みんなが配信活動を毎日のようにがんばってくれたおかげで、ホロライブでできることの幅がどんどん広がってきました。そういった意味でこれまで応援してくださったファンの方に対する感謝を伝えたいと思ったんです。そして、やるからには“ザ・ホロライブ”な1日を皆さんに堪能していただきたいと思って、「Bloom,」開催に向けて、総合プロデューサーやスタッフの皆さんと一緒に去年はいろいろ準備を進めていました。
──その準備の中で重要な役割を持つ方ということで、今回の取材ではオリジナル曲制作のプロデュースを手がけているArte Refactという音楽制作チームの代表・桑原さんとエンジニアの菊池さんに出席いただきました。お二人は兼ねてからVTuberのライブに触れていたと伺っています。
実は僕、去年の1月に開催された「hololive 1st fes.『ノンストップ・ストーリー』」を観ていたんです。VTuber業界は発展のスピードがものすごく速いと感じていて、1stライブのときは「まずはVTuberというタレントさんがライブステージを作り上げたことが素晴らしいな」と感じていました。それからありがたいことに「オリジナル曲だけのライブを作りたいから楽曲制作をお願いします」というオファーをいただいて、その志の高さに感動したんですよ。
菊池司 1stフェスは僕も配信で拝見していて、「これだけ人気を集めるタレントさんたちがいるのなら、もっとオリジナルのコンテンツで見てみたいな」と感じていました。なので、今回オリジナル曲の制作をしていきたいと聞いたときは、「ご協力できることがあるなら是非!」と。
ただ、本来ならもうちょっと早い段階でお話をいただきたく……(笑)。
友人A その節はすみません。プロデューサーの方針もあって、「Bloom,」に向けて9週連続でオリジナル曲をリリースすることになり、かなり短いスパンで曲を仕上げていただきました(参照:ホロライブ9週連続リリース第1弾は5期生が歌う「BLUE CLAPPER」)。
いえいえ(笑)。僕は個人的に、コロナ禍においてVTuberさんがインターネット上のエンタテインメントを支えてくれた存在だと感じていて。外出自粛があって、ライブハウスでライブが開催されなくなったとき、VTuberさんをはじめとした動画を用いてエンタメを提供する人たちががんばってくれたから今があると思っているので、何か力になりたいなとは感じていたんです。スケジュールに余裕はなかったけど、「このカルチャーに触れている以上、これはやるべき仕事だな」と思って、オリジナル曲の制作を引き受けることにしました。
菊池 桑原の言う通りVTuber業界の発展スピードはすさまじくて、ほかのコンテンツが10年ぐらいかけて進めるプロジェクトを2、3年でやっているイメージなんですよ。
友人A 運営側からしてもスピード感がすさまじいと感じています。例えば2019年の時点では、チャンネル登録者数が100万人を超えるタレントさんが現れるなんて想像もできなかったんです。それに当時はその日暮らしというか、毎日のコンテンツを出すので精いっぱいだったんですよね。明日の動画、明後日の動画を用意することに必死で、数カ月先のイベントに力を入れる余裕もあまりなくて。
──転機となったのは去年の1月に行われた1stフェスですか?
友人A そうだと思います。1stフェスを終えてからの登録者数や再生数の成長率がすさまじくて。それを目の当たりにして、プロデューサーもまだまだ先だろうと思っていたことが、もっと早く形にできるかもしれないと感じたようで。そこから「Bloom,」やオリジナル曲の制作を急ピッチで進めていくことになりました。
ホロライブのアイドル観は“王道”
──そもそも今回のライブタイトルに使われている「hololive IDOL PROJECT」というのは、どういう枠組みなんでしょうか?
友人A ホロライブにはいろんなタレントがいるんですが、中でも「今アイドル活動を積極的にしたい!」というタレントさんを集めた枠組みが「hololive IDOL PROJECT」です。ホロライブという大きな枠組みの中の1つのユニットのような存在、と捉えていただくのが一番わかりやすいと思います。
──「hololive IDOL PROJECT」の「Floral Circlet」第1弾という形で初めて発売されたのが、昨年10月の「今宵はHalloween Night!」です。この曲からArte Refactさんが制作に携わったんですか?
はい。2020年の春頃かな? ホロライブさんから「アイドルプロジェクトを展開するうえでアイドルらしい曲を」というオーダーをいただいたんです。ただ今どきのアイドルって細分化していけばいくほど、どんな音楽でも作れてしまうんですよね。デスメタルをやるアイドルもいれば、パンクロックをやるアイドルもいる。ジャンルで言えばなんでもやっていいことになってしまうんですが、ホロライブさんとの打ち合わせを重ねていく中で、王道のアイドル路線から逸脱しない曲、という1つの軸があったほうがいいなと思って。
友人A 個人的に音楽やアイドルコンテンツが大好きだったので、私も打ち合わせにかなり初期から参加させていただいたんです。そこでキーワードとして出てきたのは某ゲームにも使われている「キュート」「クール」「パッション」というもので(笑)。参考までに出てきた言葉ではあるんですが、たくさんいるタレントさんたちの魅力をいろんな切り口で紹介したいというこちらの意図は伝わったかなと思います。
例えば「キュート」「クール」「パッション」みたいな属性をもっとたくさん並べてアイドルの細分化を系統樹で表すとして、今回僕らが用意する曲は王道のアイドルソングから逸脱しすぎない、大きく枝分かれした分岐点に位置するものだと認識していて。それと同時に、「誰が歌ってもいい曲」というのもテーマにありました。
友人A 「hololive IDOL PROJECT」は固定のユニットではないんです。例えば「百花繚乱花吹雪」という曲は白上フブキさん、百鬼あやめさん、大神ミオさんの3人が歌った音源が配信されていますが、この3人だけが歌う曲というわけではないんですよね。これはプロデューサーが制作の段階で決めていて、歌うタレントさんを固定してしまうとどうしても曲の振れ幅や可能性が狭くなってしまう。なるべく王道で、誰が歌っても華になる曲、という観点で曲を作っていただき、その時点で楽曲のコンセプトに合うだろうという方をホロライブ側からも提案させてもらって、Arte Refactさんからもご意見をいただきながらレコーディングメンバーを決める、という流れでした。
菊池 だからアーティスト名はすべて「hololive IDOL PROJECT」で統一しているんです。なので特定のタレントさんに当てすぎないように、誰が歌ってもいいような見せ方ができる楽曲作りを意識していました。
ボーカリストとしてのVTuber
友人A Arte Refactの皆さんには、まずタレントのみんなの声質を聴いてもらったんです。同じ歌、同じフレーズをみんなに歌ってもらって、プロの目線でどんな曲が歌えるか、どんな曲が合うかを見てもらいました。
全員の歌声を聴かせてもらう前と後ではかなりイメージが変わりましたね。
菊池 歌声を聴くことで、「実はこういう歌い方もできそうだな」みたいな提案もできて。どうしてもそれぞれのタレントさんの姿だったり、性格だったりに引っ張られて曲に合うイメージにもバイアスがかかっちゃうんですが、歌声だけを提出してもらうとけっこう印象が違ったりする方もいらっしゃって。
友人A プロデューサーに許可をもらって、実は私の歌も聴いてもらったんですよ(笑)。
えーちゃんさんは意欲的で、2パターンも出してくれました(笑)。
友人A 貴重な機会だから私も評価してください!って。なので、万が一私のオリジナル曲ができるとしたらよろしくお願いします(笑)。
──声質のチェックを経て、新しい魅力を発見したタレントさんを具体的に挙げるとすればどなたですか?
友人A 例えば夏色まつりさんは、普段の話し方とかも明るいし、元気いっぱいな曲が合う方なので、イメージ通りの「でいり~だいあり~!」という曲を歌ってもらった一方で、クールな歌い方もできるので「至上主義アドトラック」という曲も歌ってもらっています。それと不知火フレアさんは“イケボ”と言われることが多いんですけど、ライブに向けたタレントさん向けのアンケートの中で「かわいい曲をやりたいです」と希望を出してくれたので、「Candy-Go-Round」という曲にアサインさせてもらったり、ということがありました。細かく言うと全員分話せそうなのですが、歌い方のクセが音楽業界のプロの方から見ると個性的だったり、機材環境を整えたらさらに歌のポテンシャルを引き出せそうだということがわかって、とても参考になりました。
──VTuberという一風変わった声のお仕事をされている方々の歌声に、何か傾向めいたものはありましたか?
菊池 VTuberというくくりで判断していいものかどうかはわかりませんが、今回皆さんの歌声を聴かせてもらって、いい意味でクセが強いというか、個性的な方が多い印象を受けました。声優さんをはじめ声に特徴のあるボーカリストでも、歌い方という点では意外にクセがなかったりするんです。一方で今回歌っていただいた方々は、それぞれが自分の歌い方を持っている方が多い印象がありました。これは皆さんが“歌ってみた”のようなカバー文化に触れているからかもしれないですね。
“歌ってみた”という文化は原曲がボーカロイドなので、ボーカリストが個性を出してナンボの世界なんですよね。しかもそれぞれ個性を発揮した“歌ってみた”がたくさん動画共有サイトにアップロードされていて。おそらく皆さん、自分が好きなボーカリストを見付けては、そのスタイルを自然と自分のものとして吸収していったんじゃないかと思うんです。それぞれのタレントさんが声を使ってちゃんと自分の存在感を発揮しているというか、自分らしさをちゃんと追求しているイメージが強くて、1人ひとりがアーティストとして立っている印象が強いですね。
──ボカロの文化、“歌ってみた”の文化が下地にあると考えると面白いですね。先ほど皆さんが話していた「VTuber業界の急成長のスピードがすさまじい」という話にも通じる気がします。
友人A VTuberという文化がまだ生まれて間もないものなので、基準がないのも大きいかもしれないですね。業界標準みたいなものがまだ存在していないからこそ、逆にみんなが自分の個性を煮詰めているところもきっとあると思います。
菊池 グループに所属はしていても基本的にスタンドプレーで成り立っているから、とも考えられますね。それぞれがチャンネルを構えて、自分の好きな音楽だったり、自分の好きなゲームだったりを配信で伝えていく。そこにはやっぱり個性がないと戦えないので、皆さんきっと自分自身をどう見せるかをすごく意識されているんじゃないかと思って。歌の素材をもらったときに、そういうVTuberのプロ意識を感じました。
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