ナタリー PowerPush - 郷ひろみ×ヒャダイン

「99(ナインティナイン)は終わらない」発売記念インタビュー 99枚目で交差した2つの才能

日本のポップスのド真ん中を歩く郷ひろみの「GO! GO!」

──ヒャダインさんとしては、99枚目のシングルという歴史的タイミングで“郷ひろみの歴史”に参加したのは、かなり大きなトピックですよね。

ヒャダイン

ヒャダイン いまだに信じられないです(笑)。変化を恐れず、常にエッジーな活動をされてきた郷さんが、まさか僕を選んでくれるなんて。でも不思議と緊張はなくて、肩肘張らずに曲作りができました。ただただうれしくて光栄で。あと、できる自信もあったんです。僕の音楽性と、郷さんが今までやってこられたエンタテインメント性の高い音楽を合わせてみたいという気持ちが常々あったので。

 ヒャダインさんの評判はあちこちから聞いてたし、こっちが意図しているものはなんでも取り入れてくれるということだったので。僕のほうは60歳、そして99、100、101枚目という節目を迎えるにあたって……還暦では赤ん坊に戻る意味で赤い服を着るでしょう? 僕もこのタイミングでどこか初心に帰りたいという気持ちがあったのかな。それは精神的なことだけじゃなくて……僕がデビューした頃は、合いの手やかけ声が頻繁に入ってたんですよ。例えばデビュー曲の「男の子女の子」(1972年8月発売の1stシングル)では「ゴーゴー!」とか。レコードには入ってないんですよ。ファンの皆さんが一緒に盛り上がってくれてできた合いの手で。

──そもそも郷さんの名前は「ゴーゴー! ひろみ!」のかけ声から取ったんですよね。

 そうそう。デビュー前、フォーリーブスのステージで「僕たちの弟分を紹介します!」って紹介してもらって出ていくと、本名が裕美だから「ゴーゴー! レッツゴー! ひろみー!」ってみんな応援してくれて。みんなが呼んでくれた名前ということで「郷ひろみ」にしたんです。

──この名前もまた運命的というか、そこから今の郷さんを象徴する「GO! GO!」というアッパーなフレーズも生まれたりして。

郷ひろみ

 でもね、そんな何もわからなかった時代、歌謡曲じゃなくてもっとカッコいい音楽がやりたいよなって思った時代、それからバラードに出会っていく時代、「GOLDFINGER '99」に出会った時代……僕にもいろんな時代の変遷があって。今言ったように歌謡曲を否定していた時代もあったんですよ。「もう1・2・サンバじゃないよなあ」「ジャパーン!はもういいでしょ」みたいな(笑)。それがいろんな経験を経て、40代後半になったときに自分の中で何かが大きく変わった。やっぱり歌謡曲、日本のポップスのド真ん中を歩くのが郷ひろみなのかもしれないって思い直したんです。そうなるともう躊躇はないんですよ。

ヒャダイン 吹っ切れたんですね。

 うん。今こうして「GO! ひろみです」って、自分の名前も1つのパフォーマンスとして表現できるようになったのは、いろんな葛藤があったからこそだなって思うんです。合いの手もデビュー前はそんなに深く考えなかったけど、今回改めて原点をしっかり確かめてみたいと考えたときに、合いの手を入れやすい、掛け合いがやりやすい曲をお願いしようって。それならばとヒャダインさんにお願いをしたら……ホントにド真ん中の曲を作ってきてくれたんですよ。

ヒャダイン いやあ。楽しい曲になりました。

「ここもう少し全面的に郷ひろみ、ドーン!で」

──まさに初期の郷さんの音楽を彷彿とさせる楽曲になっていますし、99枚の歴史を駆け抜けるようなシングルになっているなと感じました。「99は終わらない」はアッパーな郷さんの歴史の総決算みたいな1曲で、カップリングの「愛しい他人~パリの散歩道~ 2014ver.」は1983年に発表したシングル「シャトレ・アモーナ・ホテル」のカップリングを今の歌声でリメイクしたもので、バラードの名手としての郷さんの歴史が貫かれているという。

ヒャダイン 僕はもちろんそれを意識しましたね。初期の「男の子女の子」や「花とみつばち」とかも大好きですし、あの頃の筒美京平さんが手がけられた、耳ざわりのいいアッパーな楽曲を踏まえつつ、2014年の郷ひろみさんを表現することの手助けを自分がするのであればどうすればいいのかを、すごく念頭に置いて考えました。

──じゃあ方向性を決めるのはあまり悩まずに?

ヒャダイン

ヒャダイン ええ。「あれも入れちゃえ! これも入れちゃえ!」で収拾付かなくなるのが大変でしたけど(笑)。結果「GO!」を60個ぐらい入れました(笑)。

──歌詞の細かいフレーズも意識してますよね。「今でも『男の子』」とか「百→千→万→億→兆」とか。

ヒャダイン ですね。郷さんの一番のモチベーションは「人を楽しませること」なんですよ。過剰なまでのエンターテイナーで、それは僕が曲を作るモチベーションとすごく似ていたので、この曲ではもっともっと!とコール&レスポンスを詰め込んだり、PPPHを入れやすくしたりして。郷さん自身が説教するタイプではなく背中を見せて後輩を育てるタイプなので、歌詞も上から目線のメッセージじゃなくて「僕はこうだよ」というスタンスで表現するようにしました。

──そうですね。アッパーに突っ走ってる郷さんを見るほうが、どんな重いメッセージよりも説得力があるというか。背中を押されるというよりも、釣られて走っちゃうみたいな(笑)。

ヒャダイン 郷さんという存在そのものがエンタテインメントなんですよ。

 でもね、レコーディングのときにヒャダインさんが「ここもう少し全面的に郷ひろみ、ドーン!でお願いします」って言うんだけど、歌ってるベースが郷ひろみだからどうしていいのかわかんなくて(笑)。

──あははははは(笑)。

 これ以上どうやって郷ひろみを出すんだろう(笑)。「わかりました」と答えたものの、郷ひろみってどんな感じかな……って。

秘技“ジャケットプレイ”はこうして生まれた

──確かに僕らファンの中には“郷ひろみ像”というものがあるんですけど、ご本人が考える“郷ひろみ像”ってどんなものなんでしょう。

 いやあ、どうなんでしょうね。そこまで自分のことを分析することなんてないから。ジャケットプレイも郷ひろみらしさの1つかもしれないけど、あれは僕自身が「ジャケットプレイ」と呼び始めたわけじゃないんですよ。

──あの羽織ったジャケットを使うパフォーマンスはどうやって生まれたんですか?

 僕がこれまでダンスを教わってきた中で、ずっと忘れられないことが2つあって。1つは僕がアメリカに行き始めた19~20歳のときに教わった「ダンスはどの角度から写真を撮られてもいいように、1つひとつの動きが全部完成されていなくてはいけない」ってこと。例えばこう、ワンツースリーフォーファイブシックスセブンエイト、ツーツースリーフォー……(カウントごとに動作を切り替えながら)。

ヒャダイン ……おお。

 この瞬間1つひとつが全部絵にならなきゃいけない。三つ子の魂百までじゃないけど、僕はそれからずっと形にこだわってるんですよ。例えば「A CHI CHI ACHI」(振り付けを加えながら)だとこう。このとき手のひらは揃ってたほうがいいかな、いやちょっとズレてたほうがいいとか……僕はソロシンガーでグループじゃないから、バックダンサーと厳密に揃える必要はないんですよ。だから「ここでちょっと肩を入れようかな」とか鏡を見ながら考えるわけです。

──なるほど。

左から郷ひろみ、ヒャダイン。

 そしてもう1つ忘れられないのが「人間がセクシーに見える仕草は、自分の体を触っているときだ」というもの。確かに、女の人が髪をかき上げる仕草がセクシーに見えるのはそれかなって思ったんですよ。それをふまえていろんなアクションを考えているとき、「これもいいよな、これはどうかな……ちょっと待てよ、こうやってゆっくり脱いでみるとどうかな」って試しているうちに生まれたのがこの動きなの(ジャケットをはためかせながら)。

ヒャダイン うっわー!!

──……郷さんが今少し見せてくれた動作の1つひとつが、どこを取ってもまさに僕らが考える「郷ひろみ」そのものなんですよ!

ヒャダイン ちょっとこれは鳥肌モノでしたね。

──なんで今映像で押さえてなかったんだろうって後悔するぐらい(笑)。

 はははは(笑)。でもこうやってジャケットを使ったダンスをやっていたら、誰かが「ジャケットプレイ」と呼び始めただけで。要するにただ教わっていたことをやった延長線上で、自分に何ができるかを追求した結果生まれたものが「郷ひろみらしさ」になっているだけなんですよ。

ヒャダイン そのみんなが考える“郷ひろみ像”を、この1曲の中にこれでもかってぐらい凝縮して詰め込みたくて。なので歌録りのディレクションでは「ここもっと、郷ひろみ150%でお願いします!」ってお願いしました(笑)。で、やっぱガツーン!と来るんですよ。そのあとのテイクは。キタキタキターッ!!ってスタジオ大盛り上がりで。ホントに楽しいレコーディングでしたね。

99thシングル「99は終わらない」 / 2014年5月21日発売 / ソニーミュージックエンタテインメント
初回限定盤 [CD+DVD+ブックレット] 1650円 / SRCL-8537~8
通常盤 [CD] 1340円 / SRCL-8539
CD収録曲
  1. 99は終わらない
  2. 愛しい他人~パリの散歩道~ 2014ver.
  3. 99は終わらない ~Instrumental~
  4. 愛しい他人~パリの散歩道~ 2014ver. ~Instrumental~
初回限定盤DVD収録内容
  • 99は終わらない Music Video
  • 99は終わらない Making
郷ひろみ(ゴウヒロミ)

郷ひろみ

1955年10月18日生まれ、福岡県出身の歌手。1971年にジャニーズ事務所に所属し、フォーリーブスの弟分として注目を集める。1972年1月にはNHK大河ドラマ「新・平家物語」で俳優としてデビューし、同年8月にはシングル「男の子女の子」で歌手デビュー。西城秀樹、野口五郎とともに“新御三家”として人気を博した。その後も「よろしく哀愁」「林檎殺人事件」「How many いい顔」「お嫁サンバ」「2億4千万の瞳」などバラエティに富んだ楽曲でヒットを記録。1990年代には「僕がどんなに君を好きか、君は知らない」「言えないよ」「逢いたくてしかたない」とアダルトなバラードを3作連続でリリースし、ボーカリストとして新たな魅力を発揮した。1997年9月には東京・日本武道館にてデビュー25周年公演を実施。1999年9月発売の「GOLDFINGER '99」は郷のキャラクターと独創的な振り付けが話題を呼び大ヒットした。2002年1月には芸能活動を休止し、レッスンのため2005年までアメリカ・ニューヨークに拠点を置く。55歳の誕生日を迎えた2010年10月には2度目の日本武道館公演「55!伝説」を開催。2013年大晦日には「NHK紅白歌合戦」に通算26回目の出場を果たした。2014年5月には通算99枚目となるニューシングル「99(ナインティナイン)は終わらない」をリリース。

ヒャダイン / 前山田健一
(ヒャダイン / マエヤマダケンイチ)

ヒャダイン / 前山田健一

1980年7月4日生まれの音楽クリエイター。3歳でピアノを始め、作詞・作曲・編曲を独学で身につける。京都大学を卒業後、2007年に本格的な音楽活動を開始。前山田健一として、倖田來未×misono「It's all Love!」、東方神起「Share The World」などのヒット曲を手がける一方、ニコニコ動画などの動画投稿サイトに匿名の「ヒャダイン」名義で作品を発表し大きな話題を集めた。2010年5月には自身のブログにてヒャダイン=前山田健一であることを告白。その後もヒット曲を量産し、2011年4月にシングル「ヒャダインのカカカタ☆カタオモイ-C」でヒャダインとしてメジャーデビューを果たした。2012年11月には初のソロアルバム「20112012」を、2013年1月には6枚目となるソロシングル「23時40分 feat. Base Ball Bear」を発表。2014年2月にテレビアニメ「ガンダムビルドファイターズ」のエンディングテーマ「半パン魂」をシングルとしてリリースした。同年5月発売の郷ひろみの99thシングル「99(ナインティナイン)は終わらない」では作詞・作曲およびサウンドプロデュースを担当。