藤井隆とDragon Ashをカバーした経緯

──ソロを巡る概観が多くなってしまいましたが、ニューアルバムのポイントも伺っていきます。まず、藤井隆「ナンダカンダ」やDragon Ash「百合の咲く場所で」のカバーのセレクトについては聞いておかねばなと。

「ナンダカンダ」は昔から知っていた曲で、8cm CDでカバー曲をシングルリリースしたときにいろいろな曲を聴いたんですけど、改めて歌詞がすごくいいなと思ったんです。私はネガティブで浮き沈みが激しい人間なので、理由もなく不安に駆られたり、自分なんてオワコンだと思っちゃったりすることがけっこうあるんですね。自分のやりたいことと求められることって違うじゃないですか。今は自分のやりたいことも大事にしようと思っているし、だからこそ活動を続けられていますけど、それが本当に正しいのかどうかわからなくなる日が定期的に来るんです（笑）。そういうときに「ナンダカンダ」を聴いて励まされました。自分のままでいていい、次はあなたの番だよというメッセージに安心します。自分がこの曲に救われたように、みんなにも救われてほしいという思いがあったので、自分なりのリスペクトを込めてカバーしました。

──Dragon Ash「百合の咲く場所で」はタイトルに“ゆり”が入っているからですか？

もちろんそれもありますけど、小さい頃に私のママや叔父さんが車の中でよく流していたんですね。以前リリースした「I LOVE IDOL」という楽曲は、Dragon Ashさんの「I LOVE HIP HOP」から影響を受けて作ったんですけど、大人になってから改めてDragon Ashさんを聴くようになりました。その中でも「百合の咲く場所で」がすごく好きで、ライブの日に聴くと「今日も歌うぞ！」ってスイッチが入ります。

──「I LOVE IDOL」が「I LOVE HIP HOP」からきていたとは。曲順がレコライドの「ゆりめばえる」のカバーと並んでいるのもいいですよね。

「ゆりめばえる」の収録については、（佐々木）喫茶さんにけっこうしつこくお願いしました。ライブでのカバーはふたつ返事でOKだったんですけど、リリースとなるとなかなか難しくて。でも、会うたびに聞いていたら折れてくれました（笑）。はしゆうさんとたったさんもOKを出してくれて叶ったカバーなので、本当に感謝しています。もともとこの曲が好きだったし、私はレコライドさんの解散がホントに寂しかったんですよ。自分も持ち曲が歌えなくなった経験があるから、いい曲が眠ってしまうのはもったいないと強く思うんですね。おこがましいですけど、この曲を眠らせたくなくて、歌いたいという気持ちを喫茶さんに伝えました。それと、レコライドは解散したけど、自分的にレコ丸（レコライドと平野によるコラボユニット）は解散してないと勝手に思っているので、歌っていい人間なんじゃないかなと（笑）。

アルバムのために曲を用意したのは初めて

──前作は曲をたくさん作っていったあとにアルバムとしてまとめたわけですが、今作に関してはどうだったのでしょうか。最初からアルバムの形を想定していましたか？

そうです。まず「MagicBox」というタイトルを決めて、アルバムを聴いたら、1本の映画を観終えたような、まるで魔法にかけられた気持ちになれるというコンセプトを考えました。入れたい曲はたくさんあったんですけど、これはテーマに合わないなとか、逆にこのパーツが足りないなと考えて、セルフカバーや「By my side」などあとから必要になって収録した曲もあります。今までの曲をまとめただけの箱ではなく、よりワクワクする箱にしたかった。いつもライブファーストなので、アルバムのために曲を用意したのは初めてでした。

──だから作品が物語的に組み立てられているわけですね。

マーベル映画、特に「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」が好きで、そういうイメージの作品ができたらなと思ってました。今回、「Music or Die」で初めて作曲に挑戦したんです。自分の人生って音楽か死ぬかだなと感じたときに、「Music or Die」という曲を作りたいと思って。いつもお世話になっているEnnUさんにタイトルを伝えて、まずはトラックの制作を依頼しました。

──メロディがない状態のトラックということですね。

はい。そしてEnnUさんにフューチャリングゲストとして参加してもらうことになったので、それぞれ自分が歌うパートは作詞と作曲もしようと決めて制作を進めていくことになり、自分のパートはスマホのボイスメモで何回も録って、聴いて、修正してというのを繰り返して作りました。自分から作曲しようと言ってしまったものの、全然自信がなくてできるのかな？と思ってました（笑）。でも、やってみたらめちゃくちゃ楽しくて、ストレスなく完成まで持っていけましたし、歌詞も自分の生きざまを書いたのでスラスラと出てきました。新しい自分に出会えたので、来年はまるまる1曲分の作曲にチャレンジできたらいいなと思っています。

──アルバムのクレジットを見るとGORIさんとEnnUさんが参加している曲が多いですよね。楽曲を数多く作る中で信頼関係を築けている方々なのかなと。

なんでも作れる方たちで、私がタイトルだったり、ここにはこういう歌詞を入れてほしいとか、横揺れできるように、縦揺れできるようにとか細かいお願いを伝えるんですけど、その要望に倍以上で応えてくれます。

──アルバム冒頭の「ゆり丸 The Time」「緊急LOVE」はTaochyさんによる提供曲で、意外性もありつつ面白い楽曲ですね。

どうしてもユーロビートをやってみたいと思ったんです。ライブでお客さんも一緒にパラパラを踊ってくれたら、いい意味で気持ち悪くて面白いんじゃないかなって（笑）。周りの方に相談しまくってTaochyさんを紹介していただきました。

──また、ソロアイドルのフィーチャリング企画としてリリースされた「The Beat Goes On」や「POP☆CORN」は、アルバムにソロバージョンとして収録されています。

アルバムにも合うと思ったのと、“映画”と考えたときに、仲間との友情だったり、そういう熱いものを表現したくて、フィーチャリング作品も必ず入れたかったんです。令和だなと思うのが、「POP☆CORN」を作っていただいたゆんさんとはインスタのDMでしかやりとりをしてないんですよ。こういう曲をやりたいというイメージがあり、これも周りの方に相談したら、ゆんさんをオススメしていただいたのでDMでコンタクトを取りました。

──「愛がイイjump」は夏にロサンゼルスで開催された「Anime Expo2025」に出演した際に用意した新曲なんですよね。

はい。アメリカで初披露しようと思って作った曲です。「あんせむ」のアンサーソングとして作ってもらいました。誰も私のことを知らない環境でライブをやるのがひさしぶりだったので、誰が聴いても盛り上がれるような曲があったらいいなと思って。

──実際、いかがでしたか？

初日がまさかのサイン会から始まったんですよ。ライブも観ずに私の列に並ぶ人がいるのかと思ってお腹が痛かったんですけど……いたんです！ 思った以上に人が来てくれて「ゆり丸のことを待ってたよ」「前からXを見ていて応援してるよ」と言ってくれる方がいたり、逆に何も知らない状態で来てファンになってくれた方もいました。日本のアイドルというだけで興味を持ってくれたんだと思うんですけど、本当にうれしかったです。向こうのファンの方は、私が知らないオタ芸とかも知ってますし、ガチ恋口上も日本のオタクよりはっきりと言ってくれますし（笑）、日本のアイドルをすごく勉強されてる方が多かったです。10年前の日本のアイドルシーンみたいな熱がありました。

──日本のアイドル文化に飢えていて、ここぞとばかりに集まった人たちだったらさぞ熱いでしょうね。

なぜか懐かしいと思うフロアでした。このオタクの元気さを日本に取り戻したいと思いましたね（笑）。今回のアメリカ遠征はあおにゃん（空野青空）が誘ってくれたんですけど、本当に感謝です。あおにゃんが改めてソロの“単独戦闘型アイドル”として帰ってきてくれて、昔みたいに一緒にいろんなところで活動できることがすごくうれしいし、心強い存在です。アメリカの路上で地べたに座って日本のアイドルシーンについて熱く語り合いました（笑）。

“はみ出せない人生”を変えようと思えた

──といった感じでアルバムについて語っていただきましたが、テーマに合わず収録しなかった曲もあるということなので、もう次のことも考えているのでしょうか？

やりたいことが多すぎて体が追いついてないんですけど、いずれソロアイドルのフィーチャリング企画でアルバムも出せたらいいなと思っています。そのアイドルのファンの方に、普段とは違う姿を見せられるように意識しているので、楽しんでもらえるんじゃないかな。これからもいいペースで作品のリリースすることを大切にしていきたいですし、それを自分の強みにしたいと考えています。

──今後もソロにはこだわっていきたい？

正直、前回のアルバムの頃はソロシーンを盛り上げたいみたいな気持ちはまだ芽生えてなかったので、ユニットにまたチャレンジしたいな、ご縁があったらいいなと思っていたんですけど、今はソロにこだわりたいという気持ちがあります。「ナンダカンダ」で「はみ出す勇気をどうか 絞り出して立ち上がれ」という歌詞があるじゃないですか。それがすごく自分に響くんですよね。今まではこれに挑戦したい！と思っても、私なんかがやっていいのかなと悩んだり、私がこれやったらブレるよな、変だよなとか考えたりして、やりたいことをやらずに終わっちゃう人生だったので。ソロでがんばっているアイドルに出会えたり、たくさんの楽曲を作ったりしたことで、“はみ出せない人生”を変えようと思えました。