音楽ナタリー PowerPush - ハイレゾで伝わるギタリストの精神

トクマルシューゴがソニー ウォークマン&ヘッドホンで体感

ストロークのスピード感も見えてくる
Daft Punk / 「Give Life Back to Music」

──ここまで、アナログレコーディング音源をハイレゾ化したタイトルの話をしてきましたが、この曲はデジタルレコーディングされた音源でナイル・ロジャースのギターをフィーチャーした1曲です。

実は今まで「この曲ってナイル・ロジャースが弾く意味あんのかな?」って思っていたんですけど……意味がありました(笑)。

──というのは?

トクマルシューゴ

ギターって、音をたくさん重ねると隠れてしまうというか、埋もれてしまうんです。でもハイレゾにすると、それが現れてくる。「Give Life Back to Music」のハイレゾを聴いたら、実際にアンプ音を歪ませている感じとか、ピッキングの細かい部分が見えて。今は1つのギターフレーズをDAW上でコピーしていけばループが作れるから、このカッティングフレーズもそういうことはできなくはないんだけど、ハイレゾで聴いて「ああ生で弾いているんだな」って思いました。ナイル・ロジャースのカッティングのカッコよさが伝わった。

──ピッキングの細かい部分までもわかる。

コードカッティング時の、弦に対するピックの当て方などがわかります。MP3やCDだとそういう繊細な部分はなかなかわからないんですけど、ハイレゾでは、ピックの当て方やストロークのスピード感もわかります。アンプから出た音をマイクで拾ったものがちゃんと出ているというか……個人的には「マイクは何を使ったんだろうな?」っていうところまで興味が出てきますね(笑)。

──そこまで細かく感じられるんですね。そういう部分って、アーティストとしては知ってほしいものなのでしょうか?

けっこうギタリストって繊細な人が多くて、本当はいろいろこだわっているんですよね。使うアンプやエフェクターもそうだし、弾き方にしてもそう。Marshallのアンプでこういう歪みを作ってエフェクターをこうセッティングして……って。でもいざレコーディングしてCDや圧縮音源にしてしまうと、それが伝わりづらい感じになってしまって。そこが表現できるのはうれしいですよ。

コンデンサーマイクが繊細な音やプレーヤーの呼吸までも伝える
ノラ・ジョーンズ / 「Come Away With Me」

──今回はほかに、ノラ・ジョーンズやBeckの音源でアコースティックギターのサウンドも聴いていただきましたが。

トクマルシューゴ

やっぱり、アコギのニュアンスと呼吸がしっかりと表現されていると思いました。生音をレコーディングするときって、マイクにすごくこだわるんですね。マイクのチョイスやマイキングってすごく大事で、せっかくいいスタジオで録っても、マイキングがしっかりしていないとベタッとしたサウンドになってしまうんです。今回はノラ・ジョーンズの「Come Away With Me」をハイレゾで聴いたら、マイキングのよさがしっかりとわかりましたね。このアルバムはCDでも十分音がいいんですけど。

──「Come Away With Me」のCDはエンジニアやオーディオマニアのリファレンス音源としてよく使われていますよね。

はい。アコギって指を指板にちょっと置いただけでも音が鳴るんですけど、そういう微細な音やプレイヤーの呼吸までも感じることができて。そういう部分ってCDではそぎ落とされていた部分なんです。ハイレゾだとその雰囲気が残せる。これはいいですね。それとハイレゾってCDのマスタリングでそぎ落とされていたハイエンドも残せるから、コンデンサーマイクで録音した伸びやかなアコギも表現できています。

いい音を知ってほしい

──ここまでギターについてを中心にお話を伺ってきて、ハイレゾで音源をリリースするのはアーティストにとってもメリットしかないように感じます。トクマルさんはハイレゾで音源を発売したことは?

僕はないんですよ。ソノシートやレコード、段ボールのレコードプレーヤーなどハイレゾとは真逆のフォーマットで音源を出しているんですけど、ハイレゾはないんです。

──その理由は?

トクマルシューゴ

僕自身、The Velvet Undergroundのように“汚い音”で録音された音楽が好きだったっていうのが大きいんですけど。それと今の流通の状況を考えるとCDでリリースすることになるから、「一番たくさんの人に聴いてもらえる環境の中で一番よく聴いてもらえるように」って作っていて。ただ今回試したNW-ZX2やMDR-1Aのように192kHzに対応した商品が出てくると、もうハイレゾで作らない理由はないですよね。

──ではトクマルさんは、アーティストとしてリスナーにハイレゾ音源をどう楽しんでもらいたいですか?

そのうちハイレゾって言葉を意識しなくても自然とハイレゾ音源を聴いていることになると思いますが、今のところ、ハイレゾ音源を聴くまでには段階があると思っています。まずは“いい音で音楽を聴きたい”って思えるようになることが大事というか。まずはそう思ってもらわなければハイレゾを聴こうとも思わないですから。

──そうですね。

個人的には、ハイレゾでもMP3でもMDでも音楽は楽しめると思っています。だから一般の人に「ハイレゾを聴け!」って押しつける気は全然ないんですけど、「世の中にはいい音があって、しかもそれを聴ける環境は身近にあるんだよ」っていうのをお伝えしておきたい。好きなミュージシャンがいて、その音楽についてより知りたいなと思ったら、まずはプレーヤーやヘッドホンなどリスニング環境をいいものにするのが第1段階。そしてそのあとにハイレゾ音源を聴いてみれば、アーティストの精神性とか、レコーディングした場所の空気感まで伝わってくると思いますよ。

トクマルシューゴ
WALKMAN Sony NW-ZX2

WALKMAN Sony NW-ZX2

ソニー ウォークマンの最上位モデル。ハイレゾ音源の再生はもちろん、MP3などの圧縮音源やCD音源をハイレゾ相当の高解像度音源にアップスケーリングする「DSEE HX」を搭載し、さまざまなファイルフォーマットの音楽をクリアに出力する。DSDファイルの再生にも対応。

  • 価格:オープンプライス
  • 容量:128GB
  • 信号圧縮方式(音声):MP3、WMA、ATRAC、ATRAC Advanced Lossless、WAV、AAC、HE-AAC、FLAC、Apple Lossless、AIFF、DSD(リニアPCM変換再生)
  • 信号圧縮方式(ビデオ):映像 / AVC(H.264 / AVC)、MPEG-4、Windows Media Video 9、音声 / AAC-LC(AVC、MPEG-4用)、WMA(Windows Media Video 9用)
  • 信号圧縮方式(静止画):JPEG
  • ディスプレイ:4.0型ワイド、TFTカラー液晶、WVGA(854×480ドット)
  • 本体動作対応OS:Windows 7(Service Pack 1)以降、Mac OS X v10.6以降
  • 外形寸法(本体):約64.7(W)×約130.4(H)×約16.2(D)mm
  • 重量:約235 g(ケーブル除く)
Headphone Sony MDR-1A

Headphone Sony MDR-1A

低域から100kHzの超高域までを再生する広帯域40mmHDドライバーユニットを搭載。耳を包み込むような快適な装着感のステレオヘッドホン。

  • 価格:オープンプライス
  • 形式:密閉式 / ダイナミック型
  • 周波数特性:3Hz~100kHz
  • インピーダンス:24Ω(@1kHz)
  • ドライバーユニット:40mmドーム型
  • ケーブル:1.2m着脱式 / 片出し
  • 重量:約225g(ケーブル除く)
  • カラーバリエーション:2色(ブラック、シルバー)

TONOFON FESTIVAL 2015

2015年6月7日(日)
埼玉県 所沢航空記念公園 野外ステージ

<出演者>
トクマルシューゴ / neco眠る / 明和電機 / 森は生きている / yumbo / 麦ふみクーツェ楽団

トクマルシューゴ

TONOFON主宰。レコーディングからミックスまで、すべてをひとりでこなすマルチアーティスト。2004年に1stアルバム「Night Piece」をアメリカのレーベルから発表する。その類い希な音楽センスが評判を呼び、日本やアメリカだけにとどまらずヨーロッパにも拡大。100種類以上の楽器 / 非楽器から作り出されるポップで寓話的なサウンドは、世界中の音楽ファンを魅了している。また、多様な楽器を用いた楽曲を再現するライブの形態は、ソロ / トリオ / バンドとさまざま。2013年までに5作のアルバムをリリースし、ソロ活動10周年を迎えた2014年には5作のアルバムをすべてアナログでリリースした。