亀田誠治×井上芳雄|日比谷ブロードウェイ「雨が止んだら」発売記念インタビュー (2/3)

桜井和寿が日比谷ブロードウェイに託した「雨が止んだら」

──今回シングルリリースされる「雨が止んだら」は、2023年の「日比谷音楽祭」で実現した日比谷ブロードウェイと桜井和寿さんとのコラボから生まれた1曲です。

亀田 実は最初から「桜井さんに曲を書いてもらおう」とお願いしたわけではなかったんです。2023年の「日比谷音楽祭」に桜井さんがソロで出演してくれることになり、そのセットリストを一緒に考えていて。何曲か決めて「じゃあリハーサルで会いましょう」と別れたら、その夜に桜井さんから「曲ができました」と、ピアノと歌だけの「雨が止んだら」のデモ音源が送られてきました。「うわあ、いい曲だね」と伝えたら、桜井さんは「ミュージカル仕立てにしたくて、日比谷ブロードウェイの皆さんに歌ってほしい。自分は歌わなくていい」と、まるで贈り物のように託してくれました。

──日比谷ブロードウェイと桜井さんが一緒に歌う予定ではなかったんですね。

亀田 そうなんです。でもせっかくの初披露だし、一緒にやることになりました。ただ、桜井さんは自分の歌というよりは、ミュージカル俳優の皆さんに歌ってほしい、大勢の声でこの歌詞を伝えたいということをおっしゃっていました。

井上 僕たちからすると、なぜ桜井さんが僕たちに曲を書いてくださったのかわからず、しかも自分は歌わなくていいとおっしゃっていて、ますます混乱しました(笑)。本当にいい曲だし、ミュージカルをイメージして作ってくださったというのもすごくうれしくて。僕たちからすると、そこまでミュージカルっぽくないというか、桜井さんのフィルターを通すとこうなるんだと感じながら、このバラードを歌わせていただけてうれしかったです。本当に贈り物のようで光栄でした。

──「雨が止んだら」の歌詞は深くて、豊かで、この音楽祭のアンセムになっていると思います。

亀田 ありがとうございます。「日比谷音楽祭」に出演してくださるアーティストの皆さんには、必ずお1人おひとりにコンセプトを説明していて。桜井さんにも同じようにご説明しました。日比谷野音はロックの聖地と言われていますが、その周辺には「3つの洋(洋花・洋食・洋楽)」をコンセプトに日本で初めての洋式公園として誕生した日比谷公園があって、日比谷の街には劇場や映画館がたくさんあります。エンタテインメントで人々の生活を100年にもわたってうるおしてきた街で、ニューヨークで言うところのブロードウェイのような場所ということをお伝えしています。それで日比谷ブロードウェイと名付けて、井上芳雄座長がいて、いろいろなメンバーがその時々に届けたいミュージカルを披露するプロジェクトです、と。そんな会話を重ねたので、ただなんとなくミュージカルっぽい曲だから歌ってもらいたいということではなく、桜井さんのスイッチを押すような、芳雄さんたちに歌ってもらいたいと判断するに至るまでの心の積み重ねのようなものがあったんだと思います。

日比谷ブロードウェイ(上段左から石丸幹二、井上芳雄、甲斐翔真、木下晴香、中段左から佐藤隆紀[LE VELVETS]、島田歌穂、田代万里生、下段左から中川晃教、遥海、望海風斗、屋比久知奈)

日比谷ブロードウェイ(上段左から石丸幹二、井上芳雄、甲斐翔真、木下晴香、中段左から佐藤隆紀[LE VELVETS]、島田歌穂、田代万里生、下段左から中川晃教、遥海、望海風斗、屋比久知奈)

「劇場を飛び出していきたい」初期衝動をどう伝えるか

──ピアノで始まり、音と声が少しずつ重なっていき壮大なクライマックスを迎える。コーラスアレンジもそれぞれのシンガーの声の配置が絶妙でした。全員がメインを取れるミュージカルスターのコーラスを聴けるのもぜいたくです。コーラスアレンジは大貫祐一郎さんが手がけていますね。

亀田 大貫さんには毎年、日比谷ブロードウェイの歌のパート分けをお願いしていて。どの俳優さんがどのパートをどう歌えば最適かを一番理解されている。僕はいちミュージカルファンなので、作品のクオリティのためにもその道のプロフェッショナルに任せるのがプロデューサーとしての責務だと考えています。

井上 今おっしゃっていただいたように、メンバー1人ひとりが素晴らしいアーティストですが、今回はできるだけコーラスに参加してもらって、ハモリもたくさんやってもらいました。

亀田 レコーディングは感動的でした。コーラスを担当する場面では、自分を出しながらも「雨が止んだら」という曲に対して没入してくれているというか、魂を注ぐようにレコーディングに参加してくれて、僕はそこにソウルを感じました。とにかく皆さんの“声力”がすごい。声というのは1人でも尊いけど、混ざり合っても尊い。そんなことを考えながら1人でウルウルしていました。

井上 亀田さんとレコーディングをご一緒するのは初めてだったのですが、テンションの高さに驚きました。「すごい! イエーイ!」という感じで僕が知ってる亀田さんと違うと思っていたら、スタッフさんが「レコーディングではいつもこうです」と教えてくれました(笑)。

左から大貫祐一郎、井上芳雄、亀田誠治。

左から大貫祐一郎、井上芳雄、亀田誠治。

──亀田さんはどのようなディレクションをしたのでしょうか?

井上 1人ひとりレコーディングしていったので、前後の人の歌い方によって変えていましたよね。

亀田 僕の中でのポップスクオリティみたいなものがあって、これだけのアーティストさんがそろって塊で表現したものを、ポップスとしてどれだけ多くの人の心に届けることができるか。いわゆるミュージカル的な起伏だけではなく、ポップミュージックとしてのメロディフローというか、歌の流れや曲から出てくる波動のようなものをきちんとすくい上げたい。僕がディレクションしたのは、そういうところだったと思います。

──井上さんは亀田さんのディレクションで印象に残っている言葉はありますか?

井上 僕はこの曲を聴く人に「ミュージカル俳優がこれだけ集まって歌うとこうなるんだ」というインパクトを与えたいと考えていました。だから大貫さんにもできるだけコーラスを厚くしてほしい、ダイナミクスも付けてほしい、などたくさん要望をお伝えしました。ミュージカルではドラマチックなアレンジの曲をたくさん歌っているので、どうしてもそういうアレンジを思い浮かべてしまうんです。結果的に「雨が止んだら」はミュージカル的でありながらもポップスから外れてない、とてもいいバランスに落ち着きましたが、最初はもっとドラマチックにしたほうがいいんじゃないかと少し心配でしたね。

亀田 芳雄さんとも、電話で長い時間話しました。

井上 僕たちが普段歌っているミュージカルの楽曲とは異なるので、それぞれが調和というか融合をイメージした歌い方にトライしたと思います。その結果、唯一無二の“歌”ができたのかなと。

亀田 「劇場を飛び出していきたい」という初期衝動を、どう伝えていくのがいいのか考えていました。そもそもアレンジプロデュース自体も、ミュージカル音楽をやっている方にお願いをして、そこで花を咲かせるというやり方もあったかもしれない。その中で僕が考えたのは、「より多くの人に聴いてもらうために額縁はポップスにして、色彩はミュージカルにするのがいいのでは」ということ。そう思った瞬間、僕がプロデュースとアレンジをやって、大貫さんにコーラスアレンジをお願いしようと判断しました。