ナタリー PowerPush - HEAD PHONES PRESIDENT

ヘヴィロック界の至宝が語る バンド再生とメンバーの絆

ポジティブな内容をわかりやすい言葉で提示

──アルバムの表題曲「Stand In The World」は今までありそうでなかったストレートなメタルチューンで、まさにこのアルバムを象徴するような楽曲ですね。

ANZA(Vo)

ANZA 曲調だけじゃなくて歌詞もそうなんですけど、今までのドロドロしたHEAD PHONES PRESIDENTの作風からは考えられない、ストレートな曲ですよね(笑)。これまではネガティブな感情を表現するために比較的難しい単語を使うことが多かったんですけど、今回はポジティブな内容も多くて、しかもそれをわかりやすい言葉で提示したいという気持ちが強くて。それと、実は今回初めて日本語の対訳を入れることにしたんですよ。今までの作品ではどうしても言ってることがあまりにも直球過ぎてしまうことが多かったので、どうしても知りたかったらみんな辞書を引いて調べてくれっていうスタンスでやってきたんですけど、今回は「Stand In The World」の歌詞ができたときに「これは直接伝えるべき内容だ」って気付いて。新たな一面というか、ようやく自信を持って日本語でも言いたいこと、歌いたいことを伝えられるようになったなって思います。

NARUMI 今までの歌詞は、歌の主人公が閉じ込められてて、その中でもがいてる感じ。そこで歌われていることも、誰に向けて歌っているのかがわかりにくかった。

ANZA 自分の中で戦ってるイメージがあったんだけど、今回はそれが外に向かっていったという。

NARUMI うん。今回は誰かに向けて発してるメッセージがすごく多い。それってバンドとして精神面も成長したってことなのかな、子供から大人になったみたいな。

ANZA 自分はすごくマイナス思考な人間なんですけど、今回作詞を進めているときに書いてる内容に変化を感じて。より光を求めるっていうか、閉じこもるのがすごく嫌でもっと広い場所に行きたいって気持ちが、この4人になってからどんどん強くなっていったんです。

──どうしてそういう心境の変化があったんでしょう?

ANZA 震災が起こったのも大きいのかな。それ以前は自分を追い込んで命を大事にできずに「死にたい」と思うこともあったんだけど、震災を目の当たりにして自分が今まで考えてきたことが本当にちっちゃいなって感じて。そこから、自分の思いを世界に向けてきちんと届けたいっていう気持ちが大きくなって、歌詞の内容も変化していったんです。

──その心境の変化を経て、これだけ開放的なアルバムが完成したのはすごく印象深いです。

ANZA まず自分たちが驚いてますね。自分を含めてメンバー1人ひとりの引き出しを本当に見事に出すことができたっていうか。

初めてメンバー以外の意見を選曲に取り入れた

──そういえば今回は「Lost Place」というピアノバラードも収録されています。正直これにはビックリしました。

ANZA アルバムを聴いた人みんなに言われます(笑)。実はこの曲、スタジオ合宿のときにアイデアが生まれて。HIROが寝てしまったあとに、3人で「ちょっとダークな曲を作ろうか」って軽いノリでベースとパーカッションの上にメロディを乗せていったんです。その日はそれで終わったんですけど、次の日にHIROに「昨日こんな感じの曲ができたんだけど」って聴かせたら、スタジオにあった古びたピアノでその曲のコードを弾き始めて。HIROが「ちょっと歌って」って言うから歌ってみたら、見事にハマったんです。最初はバンドサウンドでいこうかって話もあったんですけど、最終的には「シンプルにピアノと歌だけの曲があってもいいんじゃないか」ってことで、このアレンジになったんですよ。

──そうなんですね。レコーディングでもピアノはHIROさんが弾いたんですか?

HIRO(G)

HIRO そうです。久しぶりにちゃんと弾いてみたので、あまり入れたくなかったんですけど(笑)。

──この曲がアルバムの後半に入ることで、全体の流れがガラッと変わりますよね。

ANZA この曲はアルバムのどの位置に入れるのがいいか、最後の最後まで悩んだんですよ。レコーディングが終わって1カ月以上悩みましたね。4月のニューヨークツアーの最中にバンド側の案を出したんですけど、日本に戻ってからレーベルの方と話し合って。以前だったらそういったメンバー以外の意見に絶対聞く耳を持たなかったんですけど、レーベルの方の言っていることも理解できて……それだけ自分たちが大人になったのか、これも心境の変化なのかわからないですけど。そういった意見を取り入れた結果、アルバムを1曲目から最後の曲まで聴いてもらうための最高のセットリストになったと思います。

──最後に「Purge」みたいに童謡チックな曲が入ってるのも面白いというか。

ANZA 実は最初に私たちが曲順を決めたとき、「Purge」が1曲目でその次に「Stand In The World」という流れだったんですよ。でも最終的には1曲目じゃなくなって、「1曲目がダメなら最後に入れるしかないな」という結論に達して。アルバムをループして聴いたら結局同じ流れになりますしね。

──「Purge」でアルバムが終わると、また1曲目に戻りたくなるんですよ。

ANZA 「Purge」は今後のHEAD PHONES PRESIDENTのライブにおけるオープニングSEになると思うんで、この曲でアルバムが終わって「早くHEAD PHONES PRESIDENTに会いたい!」って思ってもらえるようにしたかったのと、また1曲目の「Stand In The World」へとループしてもらいたいっていう願いが込められてるんです。

4人が作るアルバムとしては全て出し切れた

──それにしても本当に「Stand In The World」というアルバムは、HEAD PHONES PRESIDENT史上最もバラエティに富んだ内容になりましたね。

NARUMI(B)

NARUMI どういう雰囲気にも持っていける曲が集まりましたしね。組み立て方次第ではダークなトーンにもできたし、ノリノリな空気にもできたと思います。

ANZA レコーディングが終わったときにHIROが「やっと自分がやりたかったことがやれたアルバムを作れた」って言ったのが印象深くて。実際に振り返ってみると、今回はやり残したことがないんです。それくらいやり尽くしたっていうか、後悔がないというか、今の4人が作るアルバムとしては全て出し切れたと思います。今は「次のアルバムどうする?」って言われても、全く想像できませんね。

──それだけメンバーの皆さんが満足できる作品を、できるだけ多くの人たちに聴いてほしいですよね。

ANZA あまりこういうヘヴィロックやメタルを聴かない人たちにも届くといいなっていう気持ちが強いし、届いてくれたらうれしいですね。

収録曲
  1. Stand In The World
  2. My Name Is
  3. In Scrying
  4. Melt
  5. Dive
  6. Where Are You
  7. Just A Human
  8. Rainy Stars
  9. Enter The Sky
  10. Lost Place
  11. Rise And Shine
  12. Eyes
  13. Purge
HEAD PHONES PRESIDENT
(へっどふぉんぷれじでんと)

ANZA(Vo)、HIRO(G)、NARUMI(B)、BATCH(Dr)からなるヘヴィロックバンド。ANZAの華やかかつアグレッシブなボーカルと、トライバルなリズムとヘヴィなグルーヴを取り入れたメタルサウンドで人気を博す。2002年にはニューヨークで初の海外ライブを敢行。以後、ロサンゼルスやフランス、スウェーデン、台湾、中国、韓国などでもライブを行っている。国内でもIN THIS MOMENTヤTHE AGONIST、DOMENICAといった海外バンドと共演。2008年には「LOUD PARK 08」「TASTE OF CHAOS」といったフェス、イベントにも出演し好評を博した。2012年4月には10万人の動員を誇るアメリカのカルチャーフェス「MTAC OMEGA」にヘッドライナーとして出演。同年6月に通算3枚目のフルアルバム「Stand In The World」をリリースした。